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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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157/225

寿綾乃という女 第4部 157

 私は、唖然とした…


 言われてみれば、その通り…


 その通りだった…


 が、


 確かに、その通りだったが、それは、あの伸明との縁談で、見たハルカの姿…


 その後、私と、二人きりで、会ったハルカは、別人だった…


 気が、強いわけでもない、別人だった…


 まったくの、普通のひとだった…


 それゆえ、私は、それを、マミさんに伝えた…


 「…あのハルカさん、あの後、二人きりで、会ったんですが、まったくの別人でした…」


 と、言った…


 「…別人?…」


 「…そうです…」


 「…どうして、別人なの?…」


 「…二度目にあったときは、あの縁談のときのように、高飛車な態度でも、なんでも、ありませんでした…」


 「…ウソ?…」


 「…ホントです…」


 「…」


 「…しいて、言えば、もしかしたら、演じていたのかも?…」


 「…演じていた? どうして、演じていたの?…」


 「…伸明さんが、好みの女性を演じていたのかも…強くて、頼れる女性を、演じていたのかも…」


 「…誰に、言われて、演じていたの?…」


 「…誰に?…」


 そう、言われて、考えた…


 誰に、言われたのか、考えた…


 答えは、ひとりしかいない…


 ハルカの兄の長谷川センセイしか、いない…


 五井記念病院で、私の担当医だった長谷川センセイしか、いない…


 そして、あの長谷川センセイは、以前、ユリコと、いっしょにいた…


 ナオキの前妻のユリコと、いっしょにいた…


 そのユリコは、あの団郁馬とも、繋がっている…


 五井北東家の団郁馬とも、繋がっている…


 つまり、ユリコは、伸明を知っているナオキと、団郁馬と繋がっている…


 それならば、この二人から、伸明のことを、聞くことができる…


 どんな人間か、聞くことができる…


 当然、ユリコも、伸明と面識がある…


 しかしながら、この二人に聞くことで、伸明の女の好みが、わかる…


 男のふたりに、聞くことで、女の好みが、わかる…


 それゆえ、演じさせた…


 あのとき、伸明の気に入る女を、演じさせた…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、そんなことを、考えていると、マミさんが、


 「…寿さん、なにか、わかったみたいね…」


 と、言った…


 私の顔を見て、気付いたのだろう…


 しかしながら、私は、どう言っていいものか、わからなかった…


 確証は、ない…


 でも、確信がある…


 ユリコが、絡んでいる確信がある…


 それを、どう言っていいものか、悩んだ…


 証拠もなにもない…


 当てずっぽうな、推測…


 それを、口にして、いいものか、どうか、悩んだ…


 そして、それとは、関係なく、ふと、さっき、聞いた長谷川センセイの退職を思い出した…


 今、いる、この五井記念病院を退職した、長谷川センセイのことを、思い出した…


 長谷川センセイが、この病院を、退職して、北東病院にいるのか、どうかは、わからない…


 しかしながら、長谷川センセイは、勤務医…


 この五井記念病院に勤める勤務医…


 そして、病院の勤務医が、サラリーマンと、異なるところは、同時に、複数の病院に勤務していること…


 サラリーマンなら、ある特定の企業に勤務しているだけだが、病院の勤務医は、複数の病院に勤務している…


 それゆえ、例えば、この病院には、週二回勤務…


 別の病院にも、週二回勤務…


 そんなことが、できる…


 それが、一般のサラリーマンと、異なるところだ…


 そして、長谷川センセイは、この五井記念病院だけでなく、並行して、北東病院にも、勤務していた…


 おそらくは、団郁馬が、経営する、北東病院に勤務していた…


 五井北東家が、経営する、北東病院に勤務していた…


 果たして、それを、マミさんは、知っているのだろうか?


 目の前のマミさんは、知っているのだろうか?


 聞きたくなった…


 是が非にも、聞きたくなった…


 それゆえ、私は、マミさんに、


 「…長谷川センセイが、この病院を退職したのを、ご存じですか?…」


 と、聞いた…


 「…長谷川センセイ?…」


 マミさんが、キョトンとした顔をした…


 「…以前、私が、ナオキの息子のジュン君の運転するクルマに、轢かれて、この病院に入院したときの、私の担当のセンセイです…」


 私が、説明すると、マミさんは、思い出した…


 「…ええ…覚えている…たしか、この前、伸明さんと見合いをした、さっき、言ったハルカさんのお兄様だよね…」


 「…ハイ…」


 「…その長谷川センセイが、どうかしたの?…」


 「…この病院を退職したみたいなんです…」


 「…えっ? 退職?…」


 「…実は私は、今日、その長谷川センセイに用事があって、ここへ来たんです…それが、受付で、長谷川センセイが、すでに、この病院を退職したのを、聞いて…」


 「…そうだったんだ…」


 「…それで、受付の女性が、言うには、長谷川センセイは、この病院以外にも、北東病院にも、勤務しているって…」


 「…北東病院?…」


 「…五井北東家が、運営する病院じゃ、ないんですか? 偶然というには、名前が、似過ぎてますね…」


 私が、言うと、マミさんが、黙った…


 どう、返答していいか、わからない様子だった…


 私は、


 「…どうなんですか?…」


 と、マミさんに、言った…


 言い方は、悪いが、マミさんを問い詰めた…


 すると、マミさんは、


 「…詳しくは、わからない…」


 と、戸惑ったように、答えた…


 「…どうして、わからないんですか?…」


 「…寿さんに、以前、説明したことが、あったか、どうかは、わからないけれど…五井は、連合体なの…」


 「…連合体?…」


 「…五井は、五井グループの持ち株会社、五井ホールディングスの株を一族で、所有しているから、五井グループを仕切れる…そして、その五井ホールディングスの株を持つ、割合は、五井十三家で、決まっている…」


 「…」


 「…でも、それ以外に、五井十三家は、それぞれ、各分家が、本家とは、関係なく、事業を行っている…今回の北東家の持つ、東都新聞が、いい例…」


 「…」


 「…つまり、なにを言いたいかと、言えば、同じ五井一族でも、他家のことは、わからないことも、多いってこと…」


 「…わからない?…」


 「…そう、わからない…各分家が、あらたに、事業をするのを、本家が、承認を出すわけでも、なんでもない…」


 「…」


 「…だから、わからない…各分家が、それぞれ、どんな事業を単独で、しているのか、わからない…」


 「…」


 「…これは、ちょうど、戦前の大企業を、例にとれば、わかる…」


 「…どういうことですか?…」


 「…戦前は、三井や三菱だって、会社は、少なかったの…例えば、十とか二十とか…」


 「…ウソ! そんなに少なかったんですか?…」


 「…そう、少なかった…それは、戦前は、本社が、子会社を作るのに、いちいち、承認していたの…だから、子会社といっても、小さな会社はなかった…だから、同じグループ会社といっても、十や二十しかなかった…」


 「…」


 「…ところが、戦後になって、一変したのは、本社が、関わることなく、子会社が、それぞれ、本社の承認を得ることなく、独断で、会社を作れるようになったの…そして、その子会社が、さらに、子会社を作るという具合、つまり、孫会社ね…結果的に、日立グループは、千社、東芝グループは、八百社という膨大な数になった…」


 「…」


 「…つまり、なにを言いたいかと、言えば、五井本家も、それと同じ…」


 「…同じ?…」


 「…十三ある、各分家が、なにをしているのか、詳細は、掴めていない…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…」


 「…だから、さっきの五井北東家に戻ると、北東家が、東都新聞を発行して、テレビ、ラジオを支配しているのは、わかる…でも、北東家が、病院を経営していても、それが、この五井記念病院のように、大きくなければ、わからない…他の一族は、わからない…」


 マミさんが、説明する…


 理路整然と説明する…


 「…だけど、寿さんが、今、言ったように、北東病院という名前だったら、やはり、五井北東家と関係があると、考えたほうが、自然ね…」


 マミさんが、言う…


 私は、どう返答していいか、わからなかった…


 たしかに、その通り…


 その通りだろう…


 そして、そんなことを、考えていると、マミさんが、突然、


 「…寿さんが、さっき、言った、あのハルカさん…彼女は、ホントに、長谷川センセイの妹さん、なのかな?…」


 と、言った…


 思いもかけないことを、言った…


 「…えっ? どういうことですか?…」


 私は、強い口調で、聞いた…


 さすがに、この言葉は、聞き捨てならないとまでは、言わないが、まさに、考えたことも、なかったことだからだ…


 マミさんは、私をたしなめるように、


 「…寿さんが、驚くのは、わかる…無理は、ないと、思う…でも…」


 と、慎重に、言う


 「…でも、なんですか?…」


 「…あのハルカさん、伸明さんの見合いのときに、会ったときと、その後、会ったときの態度が、まったく、違ったんでしょ?…」


 「…ハイ…違いました…」


 「…だったら、こんなこと、言っちゃ、悪いけれども、疑いたくなる…」


 「…疑いたくなる?…」


 「…ホントに、あの長谷川センセイの妹なのか、疑いたくなる…」


 「…」


 「…そもそも、寿さんの担当医だった長谷川センセイに、この五井記念病院を訪れた、西家の叔父様が、出会って、長谷川センセイが、自分も、西家の血を引いていると、言って、それが、きっかけで、叔父様は、長谷川センセイの妹の後見人のような立場で、伸明さんの、縁談にやってきたわけでしょ?…」


 「…ハイ…そうです…」


 「…でも、あの場には、その長谷川センセイもやって来なければ、長谷川センセイの両親も、やって来なかった…」


 「…でも、それは、あのとき、ハルカさんの、両親も、来れば、あの西家夫妻委が、ハルカさんの後見人として、目立たない…だから、両親が、やって来なかったんじゃ…」


 「…私も、そう、思った…あのとき、ハルカさんの本当の両親が、やって来ては、西家の叔父様や、叔母様が、目立たない…アレは、伸明さんに、あくまで、西家の血を引く娘として、紹介したかった…それゆえ、ハルカさんの両親は、やって来なかったと、思った…」


 「…ですよね?…」


 「…でも、もし、それも、ウソだとしたら?…」


 「…どうして、ウソだと、思うんですか?…」


 「…寿さんの、今、言った、ハルカさん…次に会ったときは、態度が、別人だったんでしょ?…」


 「…ハイ、別人でした…」


 「…まさかとは、思うけれど、あのハルカさんは、女優さんの卵とか?…」


 「…えーっ! まさか!…」


 私は、素っ頓狂な声を上げた…


 まさか?


 まさか、そんな?


 あまりにも、バカげているからだ…


 「…だって、寿さん、あの縁談のときの態度が、演技だとしたら、普通のひとは、そんなことは、できない…違う?…」


 「…」


 「…それに、西家の叔父様に、ハルカさんを紹介した、長谷川センセイも、この五井記念病院を退職した…なんだか、都合が、良すぎない…なんだか、怪しくない?…」


 「…怪しく…」


 「…そう、怪しく…しかも、その長谷川センセイは、北東病院に、勤務していた…五井北東家と、関係がありそうな…」


 「…」


 「…こうして、見ると、あの伸明さんの縁談…すべてが、怪しく思える…」


 「…すべて…」


 「…あのとき、あのハルカさんは、五井西家の血を引く娘として、西家の叔父様や、叔母様に紹介されたけれど、それも、すべて、怪しく思えてくる…」


 マミさんが、言った…


 これまで、私が、これっぽちも、思っていないことを、言った…


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