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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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156/225

寿綾乃という女 第4部 156

 「…条件…ですか?…」


 私が、声をあげる…


 「…うん、条件と言うと、おかしいかも、しれないけれど、交換条件というのかな…なにかをあげるから、代わりに、北東家の持つ、東都新聞の株の20%を譲るとでも、したんじゃないかな…」


 「…」


 「…まあ、あくまで、これは、私の推測…推測よ…」


 マミさんが、慌てて言う…


 それから、


 「…それより、寿さん、早く食べよう…私、お腹すいちゃった…」


 そう、言って、目の前のテーブルに、置いたカレーを食べ始めた…


 私も、それを、見て、


 「…頂きます…」


 と、言って、食べ始めた…


 私が、食べ始めると、マミさんが、


 「…私、今、頂きますって、言うのを、忘れちゃった…」


 と、言って、苦笑した…


 私は、それを、聞いて、


 「…私だって、ひとりでは、言いませんよ…もちろん、家では、言いますよ…でも、外で、ひとりで、食べるときに、頂きますと言っても、まるで、空気に言うみたいじゃないですか?…」


 と、言った…


 「…空気?…」


 「…そう、空気ですよ…外で、ひとりで、食べて、知り合いも、誰も、いないのに、頂きますなんて、言うと、このひと、変なひとと、周囲から、見られかねませんよ…」


 私が、笑いながら、言うと、マミさんが、


 「…寿さん、そんなこと言うと、井之頭五郎に、叱られるわよ…」


 と、言った…


 「…井之頭五郎? 誰ですか? それ?…」


 「…テレ東の孤独のグルメっていう番組の主人公の名前…寿さん、知らない?…」


 「…知りません…テレビは、基本、見ないんで…で、その井之頭なにがしが、どうか、したんですか?…」


 「…その番組が、孤独のグルメというタイトル通り、主人公が、外で、ひとりで、食事をするの…」


 「…ひとりで、食事ですか?…」


 「…それと、今の話と、どういうつながりが?…」


 「…主人公が、ひとりで、食事をするときに、必ず、頂きますと、口にするの…」


 そういうことか?


 ようやく、わかった(苦笑)…


 だから、今、私が、ひとりでは、頂きますなんて、言わないって、言ったから、そう、言ったんだ…


 たしかに、そう、言われれば、わかる…


 ホントは、外で、ひとりで、食事をしていても、頂きますと、言わなければ、おかしいのかも、しれない…


 でも、私は、やはり、恥ずかしい…


 ひとりで、外で、食事を取るのに、


 「…頂きます…」


 と、言うのは、恥ずかしい…


 勇気がいる…


 それゆえ、


 「…私は、ちょっと…」


 と、言った…


 「…どうして、ちょっとなの?…」


 「…やっぱり、外で、一人で、食べるのに、頂きますって、言うのは、恥ずかしいですよ…」


 私が、笑いながら、言うと、


 「…それは、わかる…」


 と、マミさんも、納得した…


 「…今のように、誰かといっしょにいるのなら、頂きますって言うけれど、私も一人では、恥ずかしい…」


 「…ですよね…」


 二人は、そう、言って、笑った…


 それから、マミさんが、


 「…おしゃべりは、これぐらいにして、さっさと、食べよう…」


 と、言って、再び、カレーを食べ始めた…


 私も同じく、カレーを食べるのを、再開した…


 そして、二人とも、無言で、カレーを食べた…


 カレーを食べ終わると、今度は、アイスコーヒーを片手に、たわいもない話をした…


 女同士、たわいもない話をした…


 結婚の話をした…


 「…寿さんは、藤原さんと、結婚しないの?…」


 と、マミさんが、あっさりと、私に聞いた…


 私は、笑いながら、


 「…なに、言ってるんですか?…」


 と、マミさんに、返した…


 「…ナオキは、この前、ハルカさんと結婚発表したばかりですよ…」


 私が、笑いながら、言うと、マミさんの顔が、真剣になった…


 真剣な表情で、


 「…それって、もしかしたら、さっき、言った北東家の団郁馬が、伸明さんに、屈したことと、なにか、関係があるのかしら?…」


 と、聞いた…


 あるいは、呟いた…


 まるで、独り言のように、呟いた…


 私は、思わず、


 「…えっ?…」


 と、言って、しまった…


 まさか、そんなことは、考えなかった…


 夢にも、考えなかった…


 私は、ただ、ナオキが、ハルカと決婚会見をした…


 偽りの結婚会見をした…


 それを、このマミさんは、知っているか、どうか、わからない…


 だから、言葉は悪いが、マミさんをからかうというか…


 わざと、ナオキが、結婚会見をしたことを、言った…


 それを、聞いて、マミさんが、どういう反応をするか、知りたかったからだ…


 それが、まさか、こんな反応をするとは、思わなかった…


 まったく、思わなかった…


 だから、驚いた…


 だから、仰天した…


 私が、驚いたのを、見て、マミさんが、不思議そうに、私を見た…


 それゆえ、私は、マミさんに、


 「…ナオキが…藤原ナオキが、あのハルカさんと、結婚会見をしたのを、マミさんは、知らないんですか?…」


 と、聞いた…


 マミさんは、


 「…それは、知っているわよ…」


 と、こともなげに、聞いた…


 「…どうせ、ウソ…お芝居でしょ?…」


 と、これも、こともなげに、言った…


 「…お芝居? どうして、お芝居だと、わかるんですか?…」


 「…藤原さんは、寿さんを裏切らない…」


 「…えっ? 私を裏切らない?…どうして、わかるんですか?…」


 「…そりゃ、男だから、別の女に、手を出すことは、あると、思う…女遊びは、あると、思う…でも、それは、遊び…本気じゃない…」


 「…本気じゃない?…」


 「…私の見るところ、藤原さんは、寿さんを頼りにしている…だから、藤原さんは、寿さんから、離れられない…」


 「…」


 「…もし、寿さんから、離れるとしたら…」


 「…したら?…」


 「…寿さんに、代わる…誰か、頼れるひとを、見つけた時だと、思う…」


 マミさんが、喝破した…


 これまで、私が、薄々、気付いていたことを、喝破した…


 ナオキが、私を必要とするのは、私が、頼れるから…


 頼りがいがあるから…


 それに、尽きる…


 究極のところ、それに尽きる…


 しかし、それを、ハッキリと、指摘されるとは、思わなかった…


 マミさんに、ハッキリと指摘されるとは、思わなかった…


 私は、それを、指摘され、なにも、言えなかった…


 文字通り、なにも、言えなかった…


 そして、そんな私の反応を見て、マミさんが、


 「…誤解しないで、寿さん…」


 と、声をかけた…


 「…誤解?…」


 「…なにも、藤原さんが、男として、頼りないから、寿さんを頼っているわけじゃないと、思う…」


 「…じゃ、どうして?…」


 「…経営者だから…」


 「…経営者?…」


 「…私も会社を経営しているから、わかるけど、経営者って、孤独なのよ…」


 「…孤独?…」


 「…会社の経営って、なにが、正しいのか、わからないじゃない…どうすれば、売り上げを上げられるか、わからないじゃない…だから、悩む…悶々と悩む…」


 「…」


 「…そんなときに、身近に頼れる人間が、いるのは、心強い…まして、藤原さんは、男だから、女の方が、心強い…できれば、若い女の方が、もっといい…恋人になれる…夫婦になれる…それで、相談できる…」


 マミさんが、激白した…


 強い口調で、激白した…


 私は、それを、聞いて、


 …そういうものか!…


 と、思った…


 あらためて、思った…


 経営者の孤独をあらためて、思った…


 マミさんも、経営者…


 だから、ナオキの気持ちが、わかるのだろう…


 痛いほど、わかるのだろう…


 そして、それを、聞いて、思い出したのは、昔、聞いた、プロ野球の選手の妻…


 年上が、多いと、聞いた…


 それは、なぜか?


 それは、年上の方が、頼れるから…


 だから、若い選手は、姉さん女房を得る…


 それと、同じだ…


 そして、それは、おそらく、あの伸明も、同じ…


 ナオキと、同じだろう…


 伸明は、五井家当主…


 ナオキとは、比べ物にならないくらい責任ある立場だ…


 それゆえ、ナオキと同じように、頼れる女性を求める…


 無意識に求める…


 あるいは、自分が、安心できる女性を求める…


 癒し…


 その一言だろう…


 仕事で、どうしていいか、散々、悩んだ男が、求めるのは、美女ではない…


 若い女でもない…


 自分を癒してくれる女…


 自分を優しく、見守ってくれる女だからだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、マミさんが、


 「…だから、ちょっと、怖い…」


 と、漏らした…


 「…怖い? なにが、怖いんですか?…」


 「…あのハルカさん…彼女は、頼れる…だから、怖い…ウソが、ホントになったら、怖い…」


 マミさんが、言った…


 真剣な表情で、言った…


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