寿綾乃という女 第4部 153
労せずして、話が、伸明に、及んだ…
実に、私の望む展開になった(笑)…
が、
しかしながら、こうなるのは、わかっていた…
こういう展開になるのは、わかっていた…
私とマミさんでは、共通の話題は、少ない…
共通の知人は、少ない…
だから、どうしても、数少ない、共通の知人の話になる…
だから、どうしても、話が、伸明に及ぶ…
そういうことだ(笑)…
私は、すかさず、
「…伸明さんも、仕事とプライベートは、分けるタイプなんですか?…」
と、聞いた…
すぐに、マミさんの話に食いついた…
当然、マミさんも、それを、知ってか、知らずか、わからない…
私の思惑に気付いているか、どうか、わからない…
ただ、
「…分けるタイプ…」
と、即答した…
「…もちろん、私も伸明さんと、いっしょに、仕事をしたことは、ないから、わからない…でも、伸明さんは、そう、私に言ったことが、ある…」
「…」
「…まあ、伸明さんは、五井家の当主なんだから、当たり前よね…当主が、私情に溺れては、困る…私情に、流されては、困る…」
そう、言われると、なにも、言えなかった…
文字通り、なにも、言えなかった…
マミさんの言葉には、共感しか、なかったからだ…
だから、なにも、言えなかった…
そして、考えた…
伸明が、私を好きな理由を考えた…
率直に言って、私は、伸明の仕事とは、無関係…
関係がない…
だから、私を好きなんだと、気付いた…
あらためて、気付いた…
仕事での、付き合いではない…
仕事での延長ではない…
まったくのプライベート…
だから、私を好きなんだと、考えた…
仕事で知り合い、その延長線で、付き合い、結婚する…
それは、この世の中に、ごまんとあるが、本人のメリット、デメリットまで、意識して、結婚するものは、案外少ない…
それは、大抵の人間が、平凡だから…
凄いお金持ちだとかでは、ないからだろう…
伸明のように、お金を持てば、どうしても、受け身になる…
自分の財産を守るために、結婚に受け身になる…
変な女と結婚して、財産を失うようなことがあったら、困るからだ…
それゆえ、おのずから、結婚に慎重になる…
相手選びに慎重になる…
私が、伸明の結婚相手として、認知されたのは、一言で、言えば、私には、なにもないから…
名門でも、名家の生まれでも、ない…
金持ちでもない…
いわゆる、持たざる者…
なにも、持っていない者だからだ…
その持っていないことには、名誉欲や物欲も、含まれる…
私には、それがない…
貧乏な家庭に生まれたからだろうか?
シングルマザーの家庭に生まれ、母ひとり、子ひとりの家庭で、育ったせいだろうか?
名誉もお金も、私とは、無縁…
それゆえ、それに執着することもない…
それを、目指すこともないからだ…
いや、
世の中には、貧乏な家庭に生まれたが、ゆえに、真逆に、お金や名声に執着するものも、いる…
その代表例が、豊臣秀吉…
太閤秀吉だ…
農民出身で、天下を取った秀吉だ…
農民出身ゆえに、コンプレックスが、強く、そのコンプレックスをバネにして、天下を取った…
この秀吉が、コンプレックスをバネにして、成功した、実例…
しかしながら、秀吉のような立場に生まれても、コンプレックスを持つか、どうかは、人それぞれ…
人それぞれ、千差万別だ…
私は、貧乏だったが、コンプレックスはない…
それは、もしかしたら、私が、美人に生まれたせいかも、しれない(苦笑)…
家にお金はないが、美人に生まれた…
ひとが、羨む美人に生まれた…
それが、私の誇りになる…
それが、私の自慢になるからだ…
だから、正直、なにも、ないのは、厳しいかも、しれない…
お金もない…
ルックスも平凡…
頭も平凡…
では、厳しいかも、しれない…
それでも、他人を羨むか、否かは、ひとそれぞれ…
ひとそれぞれだ…
どんな状況に陥っていても、性格が、良かったり、悪かったりするものがいる…
それを、突き詰めれば、持って生まれた差だと、思う…
自分が、なにもなくても、他人を羨まない人間もいるし、その真逆もいる…
それは、究極のところ、その人間が、生まれたときに、持って生まれた差だと、思う…
話が、それたが、いつものことだ(笑)…
つまり、私が、言いたいのは、伸明が私を好きなのは、私には、なにもないから…
美人というルックス以外、なにもないからだ…
それを、伸明は、見抜いている…
伸明だけではない…
伸明の後見人の和子も見抜いている…
だから、安心できる…
仮に、伸明と結婚して、離婚するようなことがあっても、私が、伸明に莫大な慰謝料を請求するようなことは、ないと、見抜いている…
だから、安心できる…
そして、私には、なんのしがらみもないのが、大きい…
しがらみというのは、私が、名家や名門、出身だったり、金持ち出身だったりすること…
そんなひとたちと、結婚すると、一見いいように見えるが、その関係が、こじれたら、困る…
あるいは、相手の実家が、なにかと、口を出してくるのも、困る…
そのいい例が、今回、伸明が、見合いした五井西家夫妻…
どう見ても、エネルギッシュ…
昭和のエネルギッシュなオヤジだ(爆笑)…
あんな夫妻の紹介する娘と結婚すれば、すぐに、口を出してくるに、違いない…
だから、断る…
伸明が、縁談を断るのは、目に見えてる…
冷静に考えれば、目に見えてる…
それゆえ、真逆に、あのとき、伸明が、ハルカに興味を示す態度を、見せたのは、演技…
まぎれもない、演技に違いない…
今になって、考えれば、わかる…
今になって、冷静に考えれば、わかる…
おのずと、わかるのだ…
私が、そんなことを、考えていると、
「…寿さん、なにを考えているの?…」
と、マミさんが、聞いてきた…
私は、どう言おうか、悩んだが、ずばりと、
「…伸明さんの、見合いです…」
と、答えた…
「…伸明さんの見合い…」
マミさんが、私の言葉を繰り返す…
それから、マミさんが、予想外の言葉を言った…
まっすぐに、私を見て、
「…寿さん、心配?…」
と、聞いた…
真剣な表情で、聞いた…
これは、予想外…
まったくの予想外の言葉だった…
それゆえ、どう答えていいか、わからなかった…
どう返答していいいか、わからなかった…
すぐに、答えが、見つからなかった…
そんな私を見て、マミさんが、
「…そりゃ、寿さんの立場からしたら、心配よね…」
と、言った…
私の心情に寄せた言葉を言った…
そう、マミさんは、思ったはずだ…
が、
そうではない…
全然、そうではない(苦笑)…
しかしながら、マミさんが、勝手に誤解してくれた…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
そして、そう、思っていると、
「…でも、寿さん、安心して…」
と、マミさんが、言った…
「…安心…ですか?…」
「…そうよ…安心…」
「…どうして、安心なんですか?…」
「…だって、伸明さんは、さっき、寿さんに、言ったように、仕事とプライベートは、分けるタイプだから…」
「…それは、どういうことですか?…」
「…なにより、伸明さんは、自分の立場を心得ている…」
「…自分の立場?…」
「…五井家当主としての立場…仮に、伸明さんが、あのハルカさんと結婚すれば、あの西家のおじさまや、おばさまが、ハルカさんの後見人として、伸明さんに、色々口を出してくる…それが、わからない伸明さんじゃ、ないわ…」
「…」
「…だから、寿さんは、心配しなくていい…」
マミさんが、断言した…
私を安心すべく、断言した…
正直、その言葉を聞いて、少々、居心地が悪くなった…
それは、なぜか?
それは、私が、マミさんを利用しているからだ…
今も、利用しているからだ…
マミさんは、気付いているか、否かは、わからない…
しかし、結果として、私は、マミさんから、情報を得ている…
このマミさんから、伸明のこと、和子のこと、要するに、五井家のひとたちの情報を得ている…
要するに、マミさんを利用しているわけだ…
これでは、ビジネス友達…
ビジネスだから、付き合っている…
ビジネス=メリットがあるから、付き合っているのと、同じ…
同じだ…
マミさんが、仕事とプライベートは、分けるタイプだと断言していて、それは、私も同じ…
私、寿綾乃も同じだ…
にもかかわらず、マミさんは、私にとって、ビジネス友達になっている…
五井家に関する情報を知らせてくれる、貴重な存在になっている…
五井家に関するビジネス友達になっている…
五井家に対する貴重な情報源になっている…
そう、考えると、辛かった…
私が、意図しようが、しまいが、このマミさんは、私にとって、もはやビジネス友達になっている…
その現実が、辛かった…
実に、辛かった(涙)…




