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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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152/225

寿綾乃という女 第4部 152

 これは、夢?


 もしかしたら、正夢?


 そう、思った…


 まさに、そう、思った…


 なにしろ、都合が良すぎる(笑)…


 ドラマや小説ではないのだから、あまりにも、タイミングが、良すぎる…


 が、


 事実は、小説より奇なり…


 現実の方が、ドラマや小説を圧倒する…


 なぜ、圧倒するのか?


 現実は、人間が考えるドラマや小説よりも、意外な展開をするからだ…


 予想外の展開をするからだ…


 そして、私が、驚いて、いるのと、同様、マミさんも、驚いていた…


 私と、ここで、ぱったり、あったことに、驚いていた…


 「…寿さん!…」


 と、驚いて、私の名前を呼んだ…


 「…どうして、ここへ?…」


 「…そういうマミさんこそ、どうして、ここへ?…」


 「…私は、和子叔母様の見舞いに…」


 マミさんが、告げる…


 「…でしたら、私もぜひ、お会いしたいです…」


 私が、告げると、


 「…ダメ!…」


 と、マミさんが、即答した…


 「…どうして、ダメなんですか?…」


 「…叔母様は、もう退院していたの…」


 「…えっ? 退院?…」


 「…それと、知らずに、やって来ちゃった…」


 マミさんが、苦笑する…


 「…伸明さんは、知っていたかも、しれないけれど、私も伸明さんも、最近、忙しくて、連絡も取ってないし…」


 その言葉で、私は、納得した…


 いや、納得ではない…


 和子の動静が、わかったことに、安堵した…


 なにしろ、今日、この五井記念病院に来たのも、長谷川センセイに会って、ホントに、今も、和子が、入院しているか、否か、確かめたかったからだ…


 長谷川センセイを通じて、確かめたかったからだ…


 長谷川センセイは、すでに、この五井記念病院を、退職したと、今、聞いたばかりだが、これで、手間が省けた…


 和子の退院を聞いて、手間が省けたと思った…


 私が、そう、思っていると、


 「…寿さんこそ、どうして、ここへ?…」


 マミさんが、聞いた…


 当たり前のことを、聞いた…


 「…私は…」


 と、言いかけたときに、不意に、正直に、答えるべきか、悩んだ…


 なにしろ、その和子が、ホントに、入院しているかどうか、知りたいから、長谷川センセイに、会いに来た…


 私のような和子の親族でも、なんでもない、人間が、この五井記念病院に、問い合わせても、教えてくれるわけがない…


 それゆえ、長谷川センセイを通じて、ホントに、和子が、今も入院しているか、確かめるために、やって来た…


 そのために、長谷川センセイに会うべき、やって来た…


 そんな本当のことを、言っていいものか、どうか、悩んだ(苦笑)…


 が、


 その心配は、杞憂だった…


 マミさんが、私が、答える前に、


 「…寿さんも、和子叔母様に会いに、来たの?…」


 と、聞いたからだ…


 私は、それを、聞いて、それに、乗っかることにした…


 「…ええ…」


 と、答えて、乗っかることにした…


 私が、


 「…ええ…」


 と、相槌を打ったからか、マミさんは、


 「…和子叔母様は、寿さんが、好きだから、きっと、寿さんが、見舞いにやって来れば、喜んだと、思う…」


 と、言った…


 私は、それを、聞いて、少々、胸が痛んだ…


 やはり、ウソは、つくのは、嫌…


 ウソは、慣れていないからだ…


 だから、胸が痛んだ…


 同時に、気付いた…


 私は、まだ、子供…


 子供なんだと、気付いた…


 大きなウソは、ともかく、小さなウソをつくだけで、心が、痛む…


 それが、子供の証拠…


 女なんだから…大人なんだから、少々のウソは、つかなくては、ならない…


 時と場合に、よっては、つかなければ、ならない…


 そう、思った…


 しかしながら、ウソをつくのも、相手によりけり…


 やはり、相手が、マミさんでは、ウソをつくのが、心苦しい…


 これは、私が、マミさんを好きだから…


 嫌いな相手では、少々のウソをついたところで、心が、痛むわけはない(笑)…


 例えば、ユリコ相手なら、どんなウソをついたって、全然、心が痛まない(爆笑)…


 そういうことだ…


 私が、そう、考えていると、マミさんが、


 「…寿さん、時間ある?…」


 と、聞いてきた…


 「…時間…ですか?…」


 「…せっかく、ここで、会ったんだから、お茶しない?…」


 「…どこで、お茶するんですか?…」


 「…この病院よ…」


 「…えっ? この病院?…」


 「…この病院にも、レストランがあるのを、寿さん、忘れたの?…」


 マミさんに、そう言われて、思い出した…


 以前、入院したときに、病院内に、レストランがあるのを、見て、驚いたことを、思い出した…


 まあ、それを、言えば、この病院内には、コンビニもあった…


 田舎出身の私にとってみれば、仰天の出来事ばかり…


 なにしろ、病院内に、レストランや、コンビニがあるなんて、想像もしたことが、なかった…


 田舎出身の私には、驚きだった…


 まあ、田舎のときは、私が、若かったせいも、ある…


 私が、子供だったことも、ある…


 若いから、病院には、行かない…


 若いから、カラダが、悪いところは、どこもないからだ…


 若いから…子供だから、行くのは、病院といっても、近くの医院…


 こじんまりとした、医院だ…


 病院と呼べるほど、大きなものではない…


 だから、病院に行ったのは、母の亡くなるときぐらい…


 母は、急に、具合が、悪くなり、呆気なく、亡くなった…


 それゆえ、病院に行っても、病院内の設備を見ている暇も、なかった…


 しかしながら、その病院も、田舎ゆえに、個人病院で、決して、大きな病院でも、なんでもない…


 だから、探しても、レストランや、コンビニなど、皆無だったろう…


 大きな病院だからこそ、病院内に、レストランや、コンビニがあるからだ…


 田舎の小さな個人病院では、そんな施設、あるはずもなかった…


 私が、そんなことを、思っていると、マミさんが、


 「…どう、寿さん?…」


 と、聞いてきた…


 「…どうって、なにが、ですか?…」


 「…今も言った、お茶…この病院のレストランで、お茶しない…」


 「…いいですよ…」


 私は、あっさりと、了承した…


 「…マミさんの申し出ですから、断れませんよ…」


 私が、即座にマミさんの提案を受けると、マミさんが、喜んだ…


 が、


 私にも、下心がある…


 私にも、打算がある…


 和子のこと、


 伸明のこと、


 そして、団郁馬のことなど、知りたいことが、諸々ある…


 だから、マミさんとお茶するのは、打ってつけ…


 まさに、打ってつけだった…


 まさに、渡りに船だった…


 が、


 当然、マミさんは、気付かない…


 私の思惑に気付かない…


 それゆえ、マミさんが、


 「…ありがとう…寿さん…」


 と、私に言ったのを、聞いたときには、胸が、痛んだ…


 少々、痛んだ…


 マミさんを、利用しようとしている、自分自身が、嫌になった…


 やはり、どうしても、自分が、好きな人間には、損得なしに、付き合いたい…


 その気持ちが前面に出た…


 まさに、前面に出たのだ…


 だから、申し訳ないと、思った…


 実に、申し訳ないと、思った…



 それから、私と、マミさんは、この五井記念病院の最上階にあるレストランに、行った…


 正直、窓際に座って、外を見ると、眺めがいい…


 この五井記念病院が、何階建てかは、忘れたが、それでも、高いことに代わりはない…


 たぶん、十階建てぐらいだろう…


 大きな病院だが、病院の建物だから、せいぜいそれくらいだ…


 が、


 当然ながら、私の田舎には、こんな大きな病院は、なかった…


 いや、


 病院だけではない…


 スーパーも百貨店もなかった…


 一言で言えば、田舎…


 なにもない、田舎だった…


 そんな、なにもない田舎で、育った私…


 私、矢代綾子は、外見は、どう見えても、中身は、田舎者…


 世間では、美人だ、なんだと、持ち上げられても、中身は、生粋の田舎者…


 正真正銘の田舎者だ(爆笑)…


 だから、こんな高いところで、ご飯を食べるのは、嬉しい…


 FK興産も、これとは、比較にならないくらい、高いビルに間借りして、入居していたが、アレは、仕事…


 やはり、プライベートで、こんな高い場所で、食事をするのは、気分がいい…


 田舎者ゆえ、気分がいい…


 そういうことだ…


 そして、それが、私の表情に出たのだろう…


 「…寿さん、なんだか、楽しそう…」


 と、テーブルに座ったマミさんが、言った…


 「…楽しそう…ですか?…」


 「…ウン、楽しそう…」


 そう言われて、ウソを言うのも、嫌だと、思った…


 このマミさんに、対して、これ以上、ウソをつくのは、嫌だと、思った…


 それゆえ、


 「…田舎者ですから…」


 と、一言言った…


 「…遊園地の観覧車に乗るんじゃないですけど、高いところが、好きなんです…」


 と、答えた…


 「…高いところが好き?…」


 「…ハイ…田舎には、高い建物がありませんから…」


 私が、答えると、マミさんが、


 「…寿さんに、その言葉は、似合わない…」


 と、即答した…


 「…洗練された印象の寿さんには、似合わない…」


 「…見た目だけですよ…中身は、別…」


 私が、笑うと、マミさんが、怪訝な顔をした…


 「…だって、寿さんだって、FK興産にいるときは、高いビルで、働いていたでしょ?…」


 と、指摘した…


 私は、苦笑した…


 たしかに、その通り…


 その通りだからだ…


 しかし、私は、


 「…それは、仕事…今は、プライベート…」


 と、マミさんに、言った…


 「…寿さん、どういう意味?…」


 「…仕事では、高いところで、働いていても、全然、楽しくないです…」


 「…楽しくない?…」


 「…ハイ…」


 「…どうして、楽しくないの?…」


 「…それは、たぶん、これは、仕事と、私の中で、割り切っているからだと、思います…だから、高いところにいても、楽しくない…」


 「…」


 「…ほら、遊園地に観覧車があるでしょ?

 あれに乗れば、高いですが、FK興産の入っていたオフィスは、もっと高い場所にありました…でも、ワクワクしない…観覧車に乗れば、ワクワクする…それと、同じです…」


 私が、言うと、マミさんは、納得した…


 納得した表情になった…


 「…寿さんの言うことは、わかる…」


 と、事実、私の言葉に、同意した…


 「…要するに、仕事とプライベートは、分けるということよね?…」


 「…ハイ…」


 「…それは、わかる…私も、寿さん同様、仕事とプライベートは、分けるタイプ…」


 「…そうなんですか?…」


 「…そうよ…」


 「…」


 「…そして、たぶん、それは、伸明さんも、同じ…」


 マミさんが、言った…


 労せず、話が、伸明に、及んだ…


 私の期待した展開に、なった(笑)…


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