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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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149/225

寿綾乃という女 第4部 149

 朝になって、ナオキより早く、起きて、朝食の用意をした…


 と、いっても、ありきたりのもの…


 昨日、いきなり、ナオキが、やって来るとは、夢にも、思わなかったからだ…


 それゆえ、自宅にストックしてある、数々の冷凍食品の中から、気に入ったものを、解凍して、おかずに出した…


 もちろん、ご飯は、炊いた…


 パックのご飯ではない…


 サトーのご飯ではない…


 一人暮らしの人間は、ごはんを焚かずに、パックご飯で、すませるものも、いるというが、私には、当てはまらない…


 それは、なぜか?


 それは、単純に私が、セコイからだ…


 ケチだからだ(爆笑)…


 どうしても、パックご飯は、お金がかかる…


 それならば、炊飯器で、ご飯を炊いた方が、安上がりだからだ…


 だから、私は、基本、パックご飯は、食べない…


 家に置いてあるが、それは、非常用というか…


滅多に、食べない…


 非常食とまでは、言わないが、それに近い扱いだ(笑)…


 私が、そんなバカなことを、考えて、朝食の用意をしていると、ナオキが、


 「…おはよう…綾乃さん…」


 と、言って、起きて来た…


 昨夜は、自宅に泊まったが、基本的に、ふたりで、いっしょに寝ることはない…


 同じ部屋や同じベッドで、寝ることはない…


 それは、なぜか?


 単純に、その方が、楽だからだ…


 同じ部屋や、同じベッドで、寝れば、どうしても、相手のことが、気になる…


 相手のことを、考慮せざるを得なくなる…


 それが、嫌なのだ…


 昔は、それが、できなかった…


 貧乏だったからだ…


 だから、小さなアパートの一室で、ナオキとジュン君と同じ部屋で寝た…


 その反動だろうか?


 今は、私もナオキも同じ部屋で、寝ない…


 そういうことだ…


 ナオキが、続けて、


 「…昨夜は、どうにも、なかなか、寝つけなかった…」


 と、ぼやいた…


 「…綾乃さんと、あんな話をしたせいかな…」


 と、続けた…


 あえて、伸明の名前は、出さない…


 私と、同じ…


 私も、同じだと、言いたかったが、口から出た言葉は、


 「…そうなの…それは、大変ね…」


 と、いう言葉だった…


 あえて、自分のことは、言わなかった…


 自分も、なかなか寝付けなかったとは、言わなかった…


 その方が、ナオキが、心配すると、思ったからだ…


 だから、あえて、言わなかった…


 代わりに、


 「…ナオキ…昨日、アナタに、ハルカさんの電話番号を聞いたけれど、ハルカさんには、連絡しないわ…」


 と、告げた…


 「…えっ? 連絡しない? どうして?…」


 ナオキが、驚いて、口にする…


 「…昨夜、ふと、気付いたの?…」


 「…なんに、気付いたの?…」


 「…長谷川センセイ…ハルカさんのお兄様…」


 「…長谷川センセイが、どうしたの?…」


 「…いえ、ハルカさんに、頼んで、長谷川センセイから、諏訪野和子さんが、本当に、今も、五井記念病院に入院しているかどうか、聞くなら、私が、直接、五井記念病院に行って、長谷川センセイに聞いた方が、楽だと、思って…」


 「…楽?…」


 「…だって、ハルカさんと会ったのは、まだ二回だけ…それなら、長谷川センセイは、五井記念病院で、私の主治医だったから、話しやすい…」


 私が、説明すると、


 「…なるほどね…」


 と、ナオキも、納得した…


 「…たしかにね…一度や二度会っただけの人間に、電話するのも、やはりしんどい…」


 と、笑った…


 「…綾乃さんの言うことは、わかるよ…」


 ナオキが、納得する…


 「…まあ、ボクは、会社に出社して、FK興産が、正式に五井入りするわけでも、なんでもないってことを、周囲の人間に、説明しなきゃ…」


 と、笑った…


 「…説明?…」


 「…ほら、昨日も言ったように、ボクが、ハルカさんと結婚会見を開いたことで、会社が、正式に五井グループ入りすると、思っている社員が、多い…なんと言っても、すでに、五井に半分、株は、握られているしね…そこへ、五井一族のハルカさんと、ボクが、結婚会見をしたわけだ…これは、いよいよ正式に、FK興産も、五井入りすると、社員が、思っても、不思議じゃない…むしろ、当り前さ…」


 ナオキが、苦笑する…


 私は、それを、聞いて、


 「…ナオキ…アナタ、それなら、いっそのこと、ハルカさんと、結婚すれば?…」


 と、私は、言った…


 「…えっ? どういうこと?…」


 「…だって、そうすれば、ナオキも、五井一族になれる…伸明さんと、同じ一族になれるわ…」


 私が、からかうと、ナオキは、


 「…それも、いいかも…」


 と、笑った…


 「…ボクも、五井一族になれば、格がつく…これまでのように、ただの成り上がりものじゃなくなる…」


 「…だったら、一挙両得ね…」


 「…一挙両得って?…」


 「…美人と、名門の一族という格を手に入れられる…」


 「…だったら、ホントに、ハルカさんと、結婚しようか?…」


 「…そうしなさい…」


 私は、笑って言った…


 私は、笑って、ナオキの背中を押した…


 もちろん、本気ではない…


 本気でないから、言える…


 冗談だから、言える…


 だから、


 「…それは、それとして、さっさと、顔を洗ってきて、朝食を食べなさい…そうしないと、お腹が空いて、会社で、社員から、アレコレ、質問されても、答えられないわよ…」


 と、言って、バカな話を打ち切った…


 さもないと、朝っぱらから、バカな話を延々と続けかねないからだ…


 ナオキは、


 「…そうするよ…」


 と、言って、私の前から、消えた…


 私は、なにも、いわず、そんなナオキの姿を目で追った…


 正直、朝っぱらから、こんなバカな話をするのが、いい…


 こんなバカな話をいっしょにする人間が、身近にいるのが、いいと、思った…


 すでに、出会って、十五年…


 普通なら、倦怠期をとっくに、過ぎている…


 それゆえ、こんなバカっ話をする夫婦も、あまりいないだろう…


 「…朝っぱらから、なにをバカなことを、言っているの!…」


 で、終わりだろう…


 が、


 私たちには、それがない…


 私とナオキには、それがない…


 だから、いられるのだろう…


 だから、いっしょに、いられるのだろう…


 腐れ縁…


 この一言に、尽きる…


 尽きるのだ(爆笑)…


 

 朝食が、終わって、まもなく、ナオキが、家を出た…


 会社に出社するためだ…


 私は、家を出るナオキに、


 「…今日は、下に、送迎用のクルマは、来ているの?…」


 と、聞いた…


 当然、来ていると、思ったが、万が一のためだ…


 「…当然、来ているよ…」


 ナオキが、答える…


 「…重役出勤…ここに、極まり!…」


 ナオキが、おどける…


 「…どうして、重役出勤なの? いつものことじゃない?…」


 私が、聞くと、


 「…マンションの下に、迎えのクルマ…家には、美人の妻…贅沢、ここに極まり!…」


 ナオキが、笑う…


 私は、


 「…そんなバカなことを、言ってないで、さっさと、下に行きなさい…運転手さんが、待ちかねているわ…」


 と、言った…


 それを、聞いて、ナオキが、苦笑した…


 「…じゃ、綾乃さん、行ってくる…」


 「…いってらっしゃい…」


 ナオキが、家を出て行った…


 

 私は、ナオキを見送ると、キッチンに戻り、今、食べ終えたばかりの食器を洗った…


 この瞬間、私は、いつも、主婦を実感する…


 すでに、十五年前から、ずっと、やってきたにも、かかわらず、主婦を実感する…


 それは、なぜか?


 それは、私が、歳だからだろう…


 すでに、32歳…


 お世辞にも、若くない…


 それゆえ、昔は、キッチンで、洗い物をしても、そんなことは、考えなかった…


 それが、考えるように、なったのは、最近…


 ごく最近だ…


 これは、やはり、歳…


 歳のせいだろう…


 別に、ただ、キッチンで、洗い物をしているだけなのに、感じる…


 主婦を感じる…


 それは、歳のせい…


 やはり、歳のせいだろう…


 男も女も、三十路を過ぎれば、嫌でも、結婚を意識する…


 たとえ、結婚をしないものも、意識する…


 自分は、結婚をしないと、意識する…


 そうすることで、結婚を意識する…


 そういうことだ…


 そして、そんなバカなことを、考えながら、洗い物を終えた…


 それから、今日の予定を、考えた…


 まずは、五井記念病院に行って、長谷川センセイに会うことを考えた…


 そして、そう、考えると、パソコンで、五井記念病院の外科医のシフト表を見た…


 当たり前だが、長谷川センセイは、いつも出勤するわけではない…


 曜日が、決まっている…


 今日が、出勤日で、なければ、わざわざ、五井記念病院まで、行っても、無駄足になりかねない…


 幸い、今日は、出勤日だった…


 それを、確認して、出かけることにした…


 しかしながら、自分でも、笑ってしまう…


 なにが、笑ってしまうのか?


 スマホを使わないことに、笑ってしまうのだ…


 これは、やはり、ナオキの影響…


 FK興産社長の藤原ナオキの影響だ…


 ナオキは、家でも、会社でも、ずっとパソコンを使っていた…


 その影響だ…


 その影響で、私もパソコンを使うようになった…


 だから、今も、家で、ちょっとした調べごとをするときは、スマホでなく、パソコンを使う…


 その方が、使いやすいからだ…


 その方が、慣れているからだ…


 私は、今日、長谷川センセイが、五井記念病院に出勤するのを、パソコンで調べてから、五井記念病院に向かった…


 狙ったのは、お昼時…


 その時間なら、少しは、話す時間があるからだ…


 だから、お昼少し前に、五井記念病院に行き、カウンターで、外科の長谷川センセイを訪ねた…


 お昼時に、話せないかと、考えたのだ…


 カウンターの受付の女性は、すぐに、パソコンで、調べた…


 そして、驚くべきことを、言った…


 「…長谷川センセイは、退職しました…」


 と、言った…


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