寿綾乃という女 第4部 148
「…だから、ナオキ、ハルカさんの電話番号を教えて…」
私は、ナオキに言った…
「…ハルカさんに、連絡して、長谷川センセイの電話番号を教えてもらうから…」
私は、言った…
ナオキは、渋々、
「…わかった…」
と、言って、私の要望に、応じた…
「…彼女の電話番号は…」
と、言って、ケータイを探して、それから、教えてくれた…
私は、それを、聞いて、
「…後で、電話するわ…」
と、答えた…
同時に、気付いた…
仮に、あのハルカという女性に電話せずとも、私が、直接、五井記念病院に出向いて、長谷川センセイに頼んでも、いいことに、気付いた…
今さらながら、気付いた…
我ながら、トロい…
大トロ…
私は、周囲からはしっかりものに、見られているが、中身は、こんなもの…
こんなものだ…
しかしながら、なぜ、しっかりものと見られているのか?
それは、雰囲気…
雰囲気だ…
私が、美人だとかは、関係ない…
雰囲気…
しっかりした雰囲気を持っている…
だから、周囲の人間が、私をしっかりものだと、思っている…
そして、これは、ある程度、歳をとってから、気付いたが、ハンディ…
ハンディキャップ…
女としての致命的なハンディキャップだ(苦笑)…
なぜ、ハンディキャップなのか?
いくら、美人でも、強い女に男は、寄って来ない…
仮に、強い女を口説けば、
「…アンタ程度の男が、私に声をかけないで!…」
と、激怒されるのが、オチだからだ(爆笑)…
これは、女が、美人でも、そう…
だから、真逆に、そんな強い女に、寄って来るのは、弱い男…
頼りがいが、あると、思って、寄って来るのだ(爆笑)…
だが、まあ、それも、わかる…
それも、わかるし、十分、理解できる…
が、
強い女ほど、強い男が、好きなものだ…
強い女ほど、自分より、強い男に、憧れるものだ…
しかしながら、男女共に、強い男も、強い女も大抵は、自分勝手…
何事も、自分優先で、勧める…
周囲の人間は、それを、止められない…
だから、それが、会社では、まだしも、家庭では、ダメ…
夫婦では、ダメ…
ぶつかる…
互いに、気が強いから、相手に譲ることが、できない…
おまけに、自分勝手…
それゆえ、破局する…
そう、思った…
そう、考えた…
そして、そこから、得た教訓…
自分は、思ったより、男に、モテないことに、気付いた…
もちろん、学生時代は、気付かなかった…
気付いたのは、ある程度、歳を取ってから…
要するに、いくら美人でも、気が強い女に周囲の男は、手を出さないという、当たり前のことに、遅まきながら、気付いた…
だったら、このナオキは、どうか?
今、私の目の前にいる、イケメンの藤原ナオキは、どうか?
それは、やはり、私と男女の関係になったのは、若かったから…
お互い、若かったから…
それに尽きる…
それに、尽きるのだ(笑)…
今だったら、このナオキも、私に手を出すか、どうか、わからない…
だから、まあ、縁…
腐れ縁だ…
私が、そんなバカなことを、考えていると、ナオキが、言った…
突然、言った…
「…綾乃さんにとって、会社って、そんなに大事?…」
と、言った…
私は、意味がわからなかった…
なぜなら、それを、言うなら、ナオキ…
ナオキだからだ…
FK興産の社長の藤原ナオキだからだ…
FK興産の創業社長の藤原ナオキだからだ…
創業社長だから、FK興産に愛着がある…
人一倍居愛着があるのが、自然だからだ…
その社長のナオキが、私に、
「…綾乃さんにとって、会社って、そんなに大事?…」
と、聞くのが、おかしい…
聞くのが、間違っている…
だから、私は、ナオキに、
「…それって、私が、ナオキに聞くのが、ホントじゃない…質問が、逆じゃない?…」
と、言ったら、ナオキが、苦笑した…
「…その通り…」
と、言って、苦笑した…
「…で、そのナオキは、どうなの?…」
「…どうって?…」
「…ナオキにとって、会社は、大事?…」
私の質問に、ナオキは、沈黙した…
「…」
と、答えなかった…
だから、私は、思わず、
「…会社が、大事じゃないの!…」
と、逆ギレした…
思わず、逆ギレした…
私が、逆ギレしたせいか、
「…それは、大事だよ…」
と、ナオキが、小声で、返した…
「…けど…」
「…けど…なに?…」
「…他の生き方も、あると、思って…」
「…どういうこと?…」
「…ぶっちゃけ、半年前に、五井から資本提携を、受けて、やりづらくなった…」
ナオキが、告白する…
「…まあ、会社が経営危機で、五井に助けて、もらったから、それ以前と違って、自分の思い通りにいかなくなったのは、当たり前なんだが…」
ナオキが、苦笑する…
「…だから、別の生き方?…」
私が、言った…
「…そう…」
ナオキが、短く答える…
それを、聞いて、私は、即座に、
「…バカね…」
と、返した…
「…バカ? どうして、バカなの?…」
「…それは、食べ物といっしょ…」
私が、言うと、ナオキが、戸惑った…
「…食べ物といっしょって…綾乃さん、なにが、言いたいの?…」
「…ほら、たとえば、いくら、カレーが好きでも、毎日、カレーを食べていれば、飽きるでしょ? たまには、寿司や焼き肉を食べたくなる…それと、いっしょ…」
「…どう、いっしょなの?…」
「…ナオキは、今、FK興産の経営に嫌気がさしたかも、しれないけれども、だったら、別のなにかをしても、いずれは、飽きが来るものよ…」
「…」
「…例えば、ナオキは、イケメンだから、俳優に転身しても、俳優には、俳優の悩みが、あるものでしょ?…」
「…それは、そうだけれど…」
「…要するに、自分の思い通りにならないから、弱気になっているだけ…案外、伸明さんは、それを、見越して、FK興産を、買収しようとしているかも…」
私が、笑って言うと、ナオキが、
「…まさか?…」
と、絶句した…
それから、一転、
「…ありうるかも…」
と、真顔になった…
「…どうして、そう、思うの?…」
「…諏訪野さんは、飲み友達…定期的に会って、飲む…だから、最近、ボクが、落ち込んでいたのは、手に取るようにわかる…」
ナオキが、言った…
それゆえ、
「…そう…」
と、短く返した…
「…伸明さんを疑いたくないけれども、気をつけること…決して、心を許さないこと…」
私は、言った…
私は、忠告した…
その夜は、なかなか、寝つけなかった…
最近は、あまり、ないこと…
ずっと、以前は、あった…
しかしながら、癌、そして、最近では、軽い脳梗塞を発症してからは、なくなった…
理由は、簡単…
体力が、目に見えて、落ちているからだろう…
だから、簡単に眠れる…
すぐに、疲れるから、眠れる…
そういうことだ…
それが、今夜に限って、眠れないのは、どうしてだろうか?
それは。やはり、伸明のこと…
そして、ナオキのこと…
ふたりのことが、気になるからだ…
ナオキは、伸明と、仲がいい…
傍から、見ても、気が合うのが、わかる…
誰でも、わかる…
では、どうして、仲がいいのか?
それは、二人が、同じタイプの人間だから…
それに尽きると、思う…
誰もが、そうだが、基本的に、仲がよくなるのは、自分と同じタイプの人間…
これは、男も女もそう…
男も女も同じだ…
真面目な人間は、真面目な人間と、付き合う…
ヤンキーは、ヤンキーと付き合う…
その方が、気が合うからだ…
これは、結婚も同じ…
男も女も、自分と同じタイプの異性と結婚する…
その方が、気が合うからだ…
稀に、自分と違うタイプの異性と結婚するものが、いるが、率直に言って、将来が、心配…
話が、合わないからだ…
それゆえ、その場合は、離婚する確率が、多いに違いない…
話が、伸明とナオキの話から、少々、外れたが、いつものことだ(苦笑)…
要するに二人は、仲がいい…
二人は、気が合う…
だから、伸明は、ナオキを裏切らない…
そう思うのが、盲点…
盲点だ…
なまじ、気があって、行動を共にすれば、どんな人間か、余計に、よくわかる…
それゆえ、それを、逆手にとって、利用される危険もあるからだ…
ナオキが、伸明と、頻繁に酒を飲めば、どうしても、会社のことだけでなく、プライベートの話もするだろう…
まして、独身の男同士だ…
どんな女が、好きか?
どんな女が、タイプか?
そんな話もするに決まっている…
そんなバカな話をしながら、だんだんと親しくなる…
そして、親しくなることは、相手の個人情報を掴むことと、同じことだ…
これまでの経歴、どんな学校を出て、両親、家族、恋人など、もろもろの話をする…
意識は、していなくても、会話の合間にする…
それを繰り返すことで、丸裸になる…
相手のことが、丸裸になる(笑)…
これは、男と女の場合は、もっと、単純…
男女の関係になり、いっしょに住む…
それで、相手が、どんな人間か、簡単にわかる…
いくら、会社や学校で、仲がよくても、会社や学校では、決して、見せない姿を、そこで、見せるからだ…
つまりは、親しくなることで、相手の素顔が、わかってくる…
どんな人間か、わかってくる…
そして、もし、伸明が、それを、狙って、ナオキと、親しくしているとしたら、どうか?
ナオキと親しくしているのが、ナオキを丸裸にするのが、目的だとしたら、どうか?
そう、思った…
そう、思ったのだ…
そして、そう、思うと、ナオキが、心配になった…
私のパートナーが心配になった…
それゆえ、中々、寝つけなかった…
ちっとも、寝つけなかった…




