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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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147/225

寿綾乃という女 第4部 147

 しかし、


 しかし、だ…


 もし、伸明が、私や、ナオキを騙そうとしているとしたら?


 その証拠は、どこ?


 どこにあるのだろうか?


 考えた…


 考え、続けた…


 が、


 わからない…


 そんなに、簡単に、わかるはずも、なかった…


 が、


 わかることもある…


 それは、あの和子…


 五井の女帝、諏訪野和子の入院だ…


 諏訪野和子は、今、五井記念病院に入院している…


 が、


 それは、本当か、どうか?


 それを、確かめるのが、先だ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 だったら、どうやって、確かめるか?


 考えた…


 五井記念病院に、電話するなり、直接、出向いて、聞くなり、するのが、正攻法だが、それで、教えて、くれるか、どうかは、わからない…


 とりわけ、昨今は、個人情報保護法で、個人情報が、厳しくなっている…


 だから、五井記念病院に電話をかけても、諏訪野和子が、入院しているかどうか、教えてくれる可能性は、低いだろう…


 仮に、電話をかければ、


 「…ご親族の方ですか?…」


 と、聞かれ、


 「…違います…」


 と、でも、正直に答えれば、


 「…でしたら、どのような、ご関係ですか?…」


 と、聞かれるのは、目に見えてる…


 もちろん、ウソをつけば、いいのだろうが、仮に、ウソをついても、電話では、教えてくれないだろう…


 やはり、直接、出向いて、聞かなければ、教えてくれないだろう…


 そして、その際には、必ず、身分証の提示が、必要になる…


 また、私は、以前、五井記念病院に入院していた…


 それゆえ、五井記念病院に出向けば、私の顔が、顔バレしている可能性がある…


 私は、自分で、言うのも、なんだが、美人…


 他人様より目立つ美人だ(苦笑)…


 だから、五井記念病院の関係者の誰かが、私の顔を覚えている可能性が、高い…


 それゆえ、そんなところに、のこのこ顔を出すわけには、いかない…


 だとすれば、どうすれば、いいか?


 内部の人間に、聞くのが、一番だ…


 一番の近道だ…


 では、内部の人間というと?


 知っているのは、私の担当医だった長谷川センセイ…


 長谷川センセイだ…


 あの長谷川センセイに頼めば、簡単に、和子が、五井記念病院に入院しているか、どうか、わかるだろう…


 しかしながら、長谷川センセイに連絡を入れるのも、至難の業…


 なにしろ、私は、長谷川センセイのケータイの電話番号を知らない…


 五井記念病院で、担当医と患者の関係…


 個人的な付き合いは、なにもない…


 それゆえ、電話番号を知っているわけもなかった…


 だったら、どうするか?


 考えた…


 目の前のナオキの顔を見ながら、考えた…


 すると、ふと、思いついた…


 ふと、閃いた…


 ハルカだ…


 このナオキと偽の結婚会見をした、あのハルカだ…


 あのハルカなら、当然、長谷川センセイの電話番号を知っているだろう…


 なにしろ、兄妹…


 実の兄妹だ…


 知らないはずがない…


 だから、このナオキに、訊けば、いい…


 このナオキは、おそらく、あのハルカの電話番号を知っているだろう…


 なにしろ、結婚会見までした間柄だ…

 

 当然、互いの連絡先は、知っているだろう…


 なぜなら、結婚会見の後、マスコミでも、知人でも、誰でも、当人たちに、結婚の話をする可能性が、高い…


 そのとき、どう答えるか?


 二人で、答え合わせしていなければ、マズいからだ…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 だから、私は、


 「…ナオキ…あのハルカさんのケータイの電話番号を知っている?…」


 と、聞いた…


 私の質問に、ナオキは、唖然とした…


 明らかに、当惑した…


 「…綾乃さん、なんで、ここで、いきなり、ハルカさんの名前が出るの?…」


 と、戸惑って言った…


 私は、


 「…簡単よ…」


 と、答えた…


 「…簡単? なにが、簡単なの?…」


 「…今度の話は、五井の女帝、諏訪野和子さんが、五井記念病院に入院したことから、始まった…それを、きっかけに、五井の内紛が、起こった…」


 「…それは、知っている…」


 「…でも、ホントに、あの和子さんは、五井記念病院に入院しているのかしら?…」


 「…えっ? どういう意味?…」


 「…いえ、今回の騒動のきっかけは、あの和子さんの入院が、きっかけ…それは、ナオキも、わかっているでしょ?…」


 「…うん、わかっている…」


 「…でも、もし、それが、ウソだとしたら?…」


 「…えっ? ウソ?…」


 「…あるいは、ウソでなくても、疲労かなにかで、倒れて、軽い入院に過ぎなかったら、どうかしら?…」


 「…つまり、わざと、大げさに、騒いだと…」


 「…そう、わざと、大げさに、騒いで、五井の反乱分子をあぶり出した可能性も、ある…」


 「…まさか、いくらなんでも…綾乃さん、それは、考え過ぎ…」


 「…たしかにね…でも…」


 「…でも、なに?…」


 「…若い伸明さんでは、今の五井家は、治められないわ…和子さんの後ろ盾が、なくちゃ、治められない…まとめられない」


 「…」


 「…それを、伸明さんも、和子さんも、熟知している…」


 「…だから、一芝居打ったってこと?…」


 「…その可能性も、十分あると、思っている…」


 「…それと、さっき、言った、あのハルカさんと、どう、関係があるの?…」


 「…あのハルカさん、お兄様が、五井記念病院で、医師をしていて、私が、入院したときの担当医なの…」


 「…それは、知っているし、ボクも、会ったことがある…」


 「…だったら、話が、早いわ…要するに、ハルカさんに、頼んで、長谷川センセイから、ホントに、和子さんが、五井記念病院に入院しているか、どうか、調べて、もらいたいのよ…」


 「…えっ! なんだって!…」


 「…私やナオキのような外部の人間が、五井記念病院に、問い合わせてみたところで、教えてくれるわけないでしょ? ずっと、以前なら、簡単に、教えてくれたかも、しれないけれど、今は、個人情報が、なにかと、うるさい時代…外部の人間に教えてくれるわけはないわ…」


 私が、息せき切って、説明すると、ナオキは、


 「…なるほど…」


 と、納得した…


 「…だから、ハルカさんの名前が、出たんだ…」


 「…そうよ…ナオキ、ハルカさんのケータイの電話番号を知っているでしょ?…」


 「…それは、知っているよ…」


 「…もちろんよね…あのハルカさんは、若くて、キレイ…しかも、ウソとはいえ、結婚会見までしている…女好きのナオキが、連絡先を聞かないわけは、ないわね…」


 私が、言うと、ナオキが、苦笑した…


 「…綾乃さん、ボクの行動は、お見通しって、わけね…」


 「…いえ、ナオキに限らず、大抵の男のひとは、そう…」


 「…だったら、女は?…」


 「…やはり、同じね…大抵は、誰もが、ルックスで、相手を判断するから…まあ、当たり前ね…」


 「…同感…言葉も出ないね…」


 「…真逆に、ルックスに、まったく、惑わされない人間が、いたら、その方が、厄介…」


 「…どうして、厄介なの?…」


 「…だって、誰もが、惑わされるのに、惑わされないなんて、珍しい…かえって、どんな人間か、わからない…」


 「…たしかに…」


 「…まあ、私もナオキも、他人様より、少しは、ルックスが、いいから言えるけれど、これは、世間では、言えない…」


 「…どうして、言えないの?…」


 「…嫉妬…それに、決まっているでしょ?…」


 「…たしかに…」


 「…今は個人の尊厳だなんだと、うるさい…うるさすぎる…きれいなものは、きれいだし、カッコイイものは、カッコイイ…」


 私が、勇んで言うと、ナオキが、


 「…綾乃さん、ツイッターとか、ユーチューブとか、やっていないよね…」


 と、いきなり、言った…


 「…ちょっと、ナオキ、なんで、いきなり、そんな話になるわけ?…」


 「…それって、炎上案件だよ…確実に、炎上する…」


 ナオキが、茶目っ気たっぷりに、言う…


 私は、驚いたが、同時に、納得した…


 ナオキの言葉に、納得した…


 たしかに、これは、炎上確実…


 炎上案件だ…


 今の時代、思っていても、言っては、いけないことが、多い…


 口にしては、いけないことが、多いからだ…


 だから、納得した…


 実に、納得した…


 そして、私が、そう、思っていると、ナオキが、


 「…でも、綾乃さんなら、炎上しないかも…」


 と、今度は、言い出した…


 「…どうして、炎上しないの?…」


 「…美人だから…」


 「…バカね…美人だから、余計に、炎上するわ…美人だから、調子に乗っていると、余計に、炎上するわ…」


 「…でも、綾乃さんなら、大丈夫…」


 「…どうして、私なら、大丈夫なの?…」


 「…気が強いから、誰になにを言われても、へっちゃら…ゴーイングマイウエイ…我が道をいくタイプだから…」


 ナオキが、あっさりと、言う…


 「…ちょっと、ナオキ、言葉に気をつけなさい…私のどこが、なにを言われても、へっちゃらなの…私は、ナイーブだし、協調性だって、ある!…」


 私が、力説すると、ナオキが、笑いながら、


 「…綾乃さん、FK興産で、綾乃さんのこと、社員が、陰で、なんて、言ってたか、知っている?…」


 と、聞いた…


 私は、即座に、


 「…知らない…」


 と、答えた…


 事実、知らなかった…


 知っているとすれば、


 「…美人秘書…」


 とか、


 「…社長の愛人…」


 とか、呼ばれていそうだったが、それを、自分の口から、言うのは、はばかれた…


 だから、あえて、


 「…知らない…」


 と、答えた…


 私の返答を聞いた、ナオキは、笑いながら、


 「…FK興産の女帝…影の社長…」


 と、暴露した…


 「…えっ! ウソ?…」


 思わず、大声を出した…


 「…ウソでしょ!…」


 「…ホント、作り話じゃないよ…」


 ナオキが、爆笑する…


 「…そんな…」


 「…陰口って、案外、本人の耳には、届かないものだよ…」


 それから、一転、真顔で、


 「…だから、大丈夫…」


 と、ナオキが、言った…


 「…大丈夫って、なにが、大丈夫なの?…」


 「…綾乃さんが、取締役として、会社に出社しても、大丈夫…」


 と、いきなり、言った…


 私は、内心、そこかと、思った…


 私を取締役として、出社させるために、わざと、言ったと、思った…


 そして、そんな私の気持ちを、ナオキも、わかったようだ…


 「…綾乃さんも、非常勤の取締役だから、一度ぐらい、取締役として、出社したら?…」


 と、言って来た…


 「…綾乃さんも、知らない会社じゃない…」


 と、念を押した…


 「…それに、たまには、出社すれば、綾乃さんの気分転換になると、思う…いくら、体調が悪くても、たまには、外に出て、気分転換したほうが、いい…」


 ナオキが、勧める…


 私は、ナオキの言うことは、わかるが、気が乗らなかった…


 だから、


 「…それは、今度ね…」


 と、答えた…


 当たり障りのない言葉で、拒否した…


 「…そんなことより、今は、五井…伸明さん…もしかしたら、伸明さんに、会社を取られるかも、しれないわよ…」


 私が、言うと、ナオキは、なにも、言えなかった…


 文字通り、なにも、言えなかった…


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