寿綾乃という女 第4部 145
しかしながら、これは、仮説…
仮説に、過ぎない…
証拠は、ない…
証拠は、なにも、ない…
だが、ありえない話では、ない…
ありえない=荒唐無稽の話でも、ない…
が、
それを、考えれば、伸明だけでなく、マミさんも、怪しい…
なぜなら、マミさんも、伸明同様、五井北東家の脅威を、私に伝えていたからだ…
団郁馬の脅威を私に伝えていたからだ…
なにしろ、マミさんの実父、建造が、団郁馬を目の敵にしていた…
五井家先代当主の建造が、団郁馬を目の敵にしていた…
その建造の娘である、マミさんが、団郁馬を悪く言うのは、当たり前…
当たり前だった…
だから、私は、それを、鵜呑みにした…
伸明の前に立ち塞がる敵だと、認識した…
が、
もし、私の仮説が、本当だとしたら、話が、変わる…
すでに、伸明の先代の建造の時代に、五井北東家に対抗する手段は、できていた…
今回は、それを、実施しただけ…
いつでも、実施することは、できた…
にもかかわらず、今回、実施したのは、条件が、整ったからではないか?
では、その条件とは、なにか?
その条件とは、おそらく、五井一族の了解…
今回の五井北東家に対する処分を、各分家に了承させるためでは、ないのだろうか?
そのために、あの昭子は、上京した…
五井の各分家に話をするために、上京した…
そうも、考えられる…
そして、そう、考えれば、すべてが、納得が、いく…
すべての辻褄が合う…
ただ、わからないのが、マミさん…
マミさんは、しきりに、私に対して、団郁馬の脅威を告げていた…
アレは、演技?
わざと、わかっていて、私を騙した?
伸明の動きに加担した?
そうも、思える…
マミさんとは、仲がいい…
マミさんとは、気が合う…
しかしながら、マミさんが、伸明と私のどっちを取るかと言えば、間違いなく、伸明を取るだろう…
マミさんは、五井一族…
マミさんの父親は、五井の先代当主の建造だ…
それゆえ、私と、伸明さんのどっちを取るかと言えば、間違いなく、伸明を取る…
五井家の当主を取る…
当たり前だった…
が、
それは、置いておいても、仮に、伸明が、私を騙したとしても、それに、マミさんが、加担しているか、どうかは、わからない…
マミさんが、伸明の動きを知らない可能性もあるからだ…
が、
この考えは、マミさん、有利…
マミさんに甘い…
私が、マミさんが、好きだから、マミさんに、甘い…
あるいは、マミさんに、裏切られたと、思いたくないから、マミさんは、別物と考える…
仮に、今回の一件が、伸明主導であっても、その動きを、マミさんは、知らなかった…
私は、そう、思いたい…
そう、思いたいだけかも、しれない…
が、
本当のことは、わからない…
さっぱり、わからない…
これは、あくまで、私の頭の中…
私の妄想に過ぎないかも、しれないからだ…
だから、本当のところは、わからない…
さっぱり、わからない…
証拠が、なにもないからだ…
しかしながら、昨夜のナオキとのセックスをきっかけに、こんなことを、考えるとは、思わなかった…
まったく、思わなかった(苦笑)…
これは、怪我の功名?
いや、
怪我は、していないから、セックスの巧妙かも、しれない…
昨夜のセックスの巧妙かも、しれない…
笑ってしまうが、そうかも、しれない…
そうかも、しれないのだ(爆笑)…
そして、夜になって、動きはあった…
ナオキが、家に戻ってきたのだ…
ナオキが、自分の家ではなく、私のマンションに、戻ってきたのだ…
それで、わかった…
なにが、わかったのか?
それは、ナオキが、開口一番、
「…参ったよ…綾乃さん…」
と、言ったからだ…
「…なにが、参ったの?…」
私が、聞くと、ナオキが、
「…今日、ボクが、会社に出社しただろ?…」
と、言って、話し出す…
「…それが、どうしたの? 連絡もなく、いきなり、出社したから、社員が、驚いた?…」
「…それも、ある…」
ナオキが、同意する。
「…でも、それ以上に、驚いたのは、社内では、完全にFK興産の五井グループ入りが、話されていたんだ…」
「…五井グループ入り? どういうこと?…」
「…ボクが、諏訪野さんに、頼まれて、ハルカさんと、結婚すると、記者会見しただろ?…」
「…」
「…そのときに、ハルカさんは、五井一族の血を引くと、紹介されたんだ…それで…」
私は、驚いたが、納得した…
たしかに、そう、言われれば、わかる…
そう、説明されれば、わかる…
あのハルカは、何度も、言うように、長谷川センセイの妹…
五井西家の血を引く長谷川センセイの妹だ…
今は、なんの関係もないが、長谷川センセイは、五井西家の血を引いている…
なんの関係もないと、言ったのは、五井一族でも、なんでもないということ…
長谷川センセイのおじいさまのおじいさまが、五井西家の出身だったに過ぎない…
あまりにも、遠い祖先なので、今は、まったく、関係ない…
五井一族と関係ない…
が、
それが、狙いだとしたら?
伸明は、ハルカと見合いをした…
五井西家夫妻の立ち合いの元、見合いをした…
今、現在、五井一族に、伸明と釣り合う年齢の女性は、いない…
四十歳の伸明と結婚できる年齢の女性は、いない…
五井は、原則、一族内で、結婚することが、決まり…
それは、五井の歴史が、四百年もあり、その間、一族とはいえ、他人なみに、血が薄れたからだ…
それゆえ、一族間での結婚を奨励する…
そうでなければ、今でも、薄くなった血がさらに、薄まるからだ…
その結果、一族の結束が、損なわれるからだ…
それを、理由に、あの西家夫妻は、伸明に、長谷川センセイの妹を紹介した…
西家の血を引く娘を紹介した…
そして、西家は、あの団郁馬の北東家と、結託している…
それゆえ、いち早く、伸明と、ハルカの結婚を、東都テレビで、流した…
東都テレビは、五井北東家が、有している…
だから、いち早く、流した…
同時に、ナオキもまた、五井一族の娘と結婚したと、報道が流れた…
東都テレビで、だ…
しかしながら、流れたのは、一度だけ…
裏が取れないからと、一度だけ、流して、お蔵入り…
二度と流さなかった…
それを、団郁馬の仕業と、断言した伸明は、それを逆手にとって、ナオキに、ハルカとの結婚会見を開かせた…
ハルカは、五井一族の血を引いている…
だから、ハルカが、ナオキと結婚することは、最初、東都テレビで、流れた通りだ…
東都テレビでは、FK興産の社長の藤原ナオキは、五井一族の娘と結婚したと、報道された…
だから、間違っていない…
最初の報道と間違っていない…
が、
それゆえ、今度は、FK興産が、正式に五井グループすると、社内で、噂になったわけだ…
FK興産は、半年近く前に、経営不振で、五井から、資本提携を受けた…
FK興産の株式の半分を握った…
だから、今は、五井グループ入りこそ、していないが、ほぼ五井グループ入りしている…
それが、社長のナオキが、五井の血を引く娘と、結婚すれば、当然、FK興産は、正式に五井グループ入りすると、世間は、見るだろう…
ナオキとしては、伸明に頼まれただけ…
あの団郁馬を牽制するために、頼まれただけ…
ナオキが、五井一族の娘と結婚すると、いう報道を逆手にとって、ハルカとの結婚会見をしただけ…
本当は、結婚するつもりなど、微塵もない…
伸明から、頼まれたから、結婚会見をしただけだからだ…
しかし、それが、伸明の狙いだとしたら?…
あの会見で、世間に、ナオキは、ハルカと結婚すると、知らせて、その結果、ナオキのFK興産が、五井入りを果たす…
それが、目的だとしたら、どうか?
考えられない話でも、なんでもない…
なんのことはない…
団郁馬を騙すつもりが、私やナオキが、伸明に騙されていた…
その可能性がある…
伸明を疑うわけではないが、その可能性がある…
誰が、考えても、ナオキが、五井一族の血を引く娘と結婚すると、なると、当然、FK興産は、完全に五井の支配下に入ると考える…
なにしろ、すでに、半分、株は、握られているわけだ…
当然、次は、完全に五井に株を握られ、名目ともに、五井の支配下に入る…
それが、伸明の目的だとしたら?
団郁馬の脅威をしきりに、訴えていたが、すでに、勝負は、決していたとしたら?
それを、隠して、団郁馬の脅威を盛んに訴えて、私とナオキを騙していたとしたら?
ありえなくもない…
なにしろ、伸明は、五井家当主…
天下に名の知れた五井家の当主だ…
当主が、ぼんくらのわけはない…
十分にしたたか…
したたかのはずだ…
だから、それぐらいの芸当が、できるはずだ…
つまりは、私もナオキも、伸明に騙された?
もしかしたら、伸明に騙された?
そう、思った…
そう、思ったのだ…




