寿綾乃という女 第4部 144
が、
なにが、間違っているか、わからない…
いくら、考えても、わからない…
なにかが、間違っているかと、しても、それが、なんだか、わからない…
今の私には、わからない…
ただ、一つ言えるのは、今回の一件…
五井の内紛の件…
これは、すべて、諏訪野和子の入院から、始まった…
五井の女帝の入院から、始まった…
事実上、五井を仕切っていた、和子が、入院したから、五井の内紛が、始まった…
和子という重しが、取れたから、それまで、我慢していた、分家の不満が、爆発した…
そういうことだ…
まだ、四十ちょっとの若さの伸明では、対抗できない…
五井は、十三家…
つまりは、十三人の当主がいる…
その十三人の当主は、普通に考えて、伸明より、年上だろう…
そうなれば、どうしても、年下の伸明を軽く見る…
会社の社長のように、同じ会社で、縦の関係でいれば、従わざるを得ないが、たまに、会う一族では、違うだろう…
ハッキリ言えば、利害関係がない…
率直に言って、五井の持ち株会社、五井ホールディングスの株を持つ割合が、一族で、違うだけ…
そして、それは、すでに、決められたこと…
今回のように、五井北東家の団郁馬が、なにを、どうしようと、その割合は、変わらないだろう…
ただし、五井の利益…
五井ホールディングスの利益…
それが、おそらく、関係がある…
五井の下位の分家では、得られない利益が、五井本家と東西南北の四つの分家では、得られるのだろう…
そして、それゆえ、あの団郁馬は、勝負に出た…
あの和子が倒れたことで、その合間を縫って、勝負に出た…
五井の順列を変える勝負に出た…
そういうことだろう…
五井北東家は、メディアを支配している…
新聞、ラジオ、テレビと、メディアを支配している…
しかしながら、そのメディアは、昨今、オールドメディアと呼ばれ、その地位が、揺らいでいる…
インターネットの急速な普及で、その地位が揺らいでいる…
平たく、言えば、権威がなくなっている…
権威=力がなくなっている…
それゆえ、和子の不在の隙をついて、動いた…
五井家の序列を崩そうとした…
それは、今しか、それを、するタイミングが、ないからだ…
時間が、経てば、経つほど、五井北東家は、不利になる…
不利=力を失うからだ…
五井北東家の有するオールドメディアの力が、衰えるからだ…
だから、勝負を仕掛けた…
勝負を仕掛けるタイミングは、今しかないからだ…
今、勝負に出なければ、チャンスを逸する…
五井の序列を変えるチャンスを逸する…
それは、何度も言うように、五井北東家の有するオールドメディアの力が、日に日に衰えてゆくのは、火を見るより、明らかだからだ…
だから、仕掛けた…
今、勝負を仕掛けた…
そういうことだ…
しかしながら、その五井北東家の団郁馬に対抗して、すでに、本家は、対抗策を有していた…
それが、五井グループ内での、情報関連会社を合併させて、一つの大きな、情報関連会社を立ち上げる…
つまりは、オールドメディアを支配する、五井北東家に対抗して、ネットを中心とした会社を立ち上げる…
それを、あらかじめ、用意していた…
伸明ではない、先代の当主、建造が、用意していた…
五井北東家に対抗するべく、用意していた…
つまりは、団郁馬の反乱を予見していたわけだ…
そして、伸明は、その延長線上で、ナオキのFK興産を手に入れようとした…
それは、亡き建造の用意した、五井北東家に対抗するべく、五井の情報関連企業を作る、かなめとしようとした…
しかしながら、それは、亡き、建造の用意した、対、五井北東家に対する、仕掛けを延長したに過ぎない…
その根本のアイデアは、すでに、建造が、考えていたからだ…
つまりは、伸明は、いつ、団郁馬が、反旗を翻しても、いいように、準備していた…
いつ、五井北東家が、本家に対して、牙を剥いても、いいように、準備していたとも、言える…
そして、これは、見方を、返れば、どうか?
五井北東家の視点で、見れば、どうか?
本家は、いつでも、臨戦態勢ができている…
戦争で言えば、いつ、攻撃されても、相手の攻撃に対抗する手段が、できている…
そういうことだ…
そして、問題なのは、ここから…
果たして、今回の件は、どちらが、先に仕掛けたか?
それが、問題だ…
これまでは、私は、五井北東家が、本家に仕掛けたと、思っていた…
第郁馬が、本家の当主の伸明に仕掛けたと、思っていた…
が、
それは、本当か?
真逆の可能性もあるのでは、ないか?
伸明が、仕掛けた可能性もあるのでは、ないか?
なぜなら、伸明は、すでに、団郁馬の攻撃に対抗する手段を有している…
ならば、自分から、先に、攻撃を仕掛けても、おかしくはない…
本家が、五井北東家に攻撃を仕掛けても、おかしくはない…
なぜなら、本家は、すでに、先代当主の建造の時代から、分家の北東家に対抗する対策を考えていた…
だから、本家の側から、この抗争を仕掛けても、おかしくはない…
それゆえ、抗争を仕掛けられた、団郁馬は、地下に、潜ったまま…
地下に、潜伏したまま…
滅多に、姿を現さなかった…
そうも、考えられる…
そして、そう、考えれば、辻褄が合う…
そして、それを、もっと、深く考えれば、それは、伸明の代ではなく、建造の代で、すでに、団郁馬に、抗争を仕掛けていたのでは、ないか?
それゆえ、痕跡がない…
いくら、ネットで、探しても、痕跡が、ない…
それは、隠れていたから…
本家の攻撃に対して、身を隠すために、身を隠していたからとも、考えられる…
そうも、考えられる…
つまりは、すでに、団郁馬は、建造の代から、本家に攻撃されていた…
それゆえ、身を隠していた…
そうとも、考えられるのだ…
私は、思った…
私は、考えた…
つまりは、これまで、私が、思っていたこととは、真逆の可能性がある…
攻守が、真逆の可能性がある…
そういうことだ…
これまでは、あくまで、伸明の視点で、物事を考えていた…
伸明の立場で、物事を、考えていた…
しかしながら、団郁馬の視点で見れば、物事は、変わる…
物事は、変わって見える…
そういうことだ…
そして、もし、団郁馬の視点で、見れば、キーパーソンは、昭子では、ないだろうか?
伸明の実母の昭子では、ないだろうか?
昭子は、五井の女帝、和子に追放された…
双子の妹の和子に追放された…
が、
これは、形だけ…
形だけの可能性がある…
なぜなら、昭子は、和子の勝るとも劣らない女傑…
女傑だからだ…
昭子は、奔放…
異性関係で、奔放だった…
父親の違う子供を何人も産んだ…
それゆえ、それを、世間に知られるのを恐れた両親が、昭子に世間に顔を出すのを禁じた…
五井の当主夫人にも、かかわらず、禁じた…
そして、昭子の代わりに、双子の妹の和子が、世間に出た…
なにしろ、二人は、双子…
外見は、そっくり…
いかにも、双子という感じだった…
だから、昭子の代わりに、和子は。表舞台に出ても、おかしくはない…
違和感が、ない…
仮に、昭子を知っているものでも、見かけが、そっくりな和子を見ても、よほど、親しくなければ、違いが、わからないからだ…
それゆえ、和子は、昭子に代わって、表舞台に出た…
しかしながら、それは、表向きの言葉…
昭子は、裏で、暗躍していたのではないか?
裏と言うのは、五井一族の調停…
一族間の調停=根回しだ…
なぜ、そう、思うのか?
それは、何度も言うように、昭子は、和子に勝るとも劣らない女傑だからだ…
それゆえ、他人を束ねることが、できる…
一族を束ねることが、できる…
その才能が、わからない、昭子の両親では、ないはずだ…
それゆえ、昭子の才能を生かさないのは、もったいない…
その才能は、昭子の妹の和子も、持っている…
他人を束ねる才能を持っている…
だから、スキャンダルのない和子は、表舞台に立ち、世間で、五井を代表する存在と見られた…
先代当主の建造と共に、表舞台に立ったからだ…
真逆に、男関係のスキャンダルにまみれた昭子は、表舞台に立てないゆえに、裏で、活躍する…
裏で、一族の調停で、暗躍する…
そういうことだ…
そして、追放されたはずの昭子が、私の前に姿を見せた…
それは、もしかしたら、あの時点で、勝負が決していた?…
団郁馬の敗北が、決まっていた?…
そういうことかも、しれない…
だから、終戦処理にやってきた…
そういうことかも、しれない…
私は、思った…
私は、考えた…
この私の考えは、うがち過ぎか?
考え過ぎか?
そうも、思った…
そうも、考えた…
が、
ありえない話では、ない…
まったくの、想像の産物でもない…
十分、ありえる話だ…
が、
そうだとしたら、あのハルカと、西家夫妻…
彼らの役割は、なんだ?
考える…
利用された?
伸明に、利用された?
伸明が、団郁馬を葬るのに、利用された?
そうも、思える…
なにより、今度の一件は、すべて、和子の入院から、始まった…
それまで、五井を仕切っていた、和子の入院から、始まった…
和子が、入院したことで、本家に、不満がある、分家の動きが、活発になった…
それが、あの五井西家…
五井西家の血を引く、長谷川センセイの妹のハルカを、伸明と、見合いをさせた…
仮に、ハルカが、伸明と結婚するようなことになれば、あの西家夫妻は、ハルカの両親気取りで、伸明にアレコレ、注文をつけるだろう…
つまりは、五井西家は、本家に入るということだ…
伸明の後ろ盾になると、いうことだ…
そして、仮に、そうなれば、東家は、地位を低下させることになる…
なぜならば、伸明の実母の昭子は、東家出身…
その双子の妹の和子も、当然、東家出身だからだ…
それが、当主の伸明が、西家の女と、結婚すれば、どうしても、西家が、表に出て来る…
東家に代わって、西家が、表に出て来る…
当たり前のことだ…
が、
それが、目的だと、したら、どうだ?
西家が、東家に代わって、本家に近付こうとしているのを、見つけるのが、目的だとしたら、どうだ?
つまりは、反乱者を見つけるのが、目的だとしたら、どうだ?
そして、それを、考えれば、そもそも、和子は、本当に、五井記念病院に入院しているのか?
和子が、倒れたのは、本当なのか?
それが、疑問だ…
まさに、疑問だった…




