寿綾乃という女 第4部 141
しかし、驚いた…
実に、驚いた…
まさか、そんな展開になるとは、思わなかった…
夢にも、思わなかった…
あの伸明が、団郁馬と、対立した結果、FK興産が、完全に、五井の傘下に、入ることになるとは、思わなかった…
まさに、真夏の夜の夢…
今は、真夏ではないが、同じようなものだ(笑)…
まあ、今、現在、FK興産は、五井と、資本提携して、株式は、半分が、五井に、握られている…
だから、それを、考えれば、FK興産が、完全に、五井の傘下に入るのは、時間の問題だったのかも、しれない…
当事者である、私やナオキは、そうは、思って、いなかったが、外野の目は、わからない…
外野=世間の目は、わからない…
ただ、私に言わせれば、早過ぎる…
展開が、早過ぎる…
五井の傘下に、完全に入るにしても、もう少し、時間があってもいい…
FK興産が、経営不振に陥り、五井と資本提携して、半年も経っていない…
だから、早過ぎる
いくらなんでも、五井の傘下に下るのは、早過ぎると、思った…
同時に、考えた…
今、言ったこと…
このナオキが、言ったことの情報源…
それは、伸明ではなく、ユリコ…
ユリコから、聞いた話…
つまり、決定事項ではない…
あくまで、ユリコから、聞いた話だからだ…
が、
信憑性が、ない話ではない…
なにしろ、あのユリコは、団郁馬と接している…
五井北東家の当主と接しているのは、間違いはない…
それは、ネットで、確認できた…
ユリコの主催するファンドの会合に、団郁馬の名前を見つけた…
二人が、知人であることは、間違いはない…
だから、今、ナオキが、言った話は、決して、荒唐無稽の話では、ない…
ありえない話でも、なんでもないのだ…
おそらく、団郁馬が、ユリコに話したのだろう…
団郁馬は、知っているか、否か、わからないが、ユリコは、かつて、五井の女帝、諏訪野和子に、煮え湯を飲まされた…
かつて、五井一族の下位の家から、五井の株を買って、和子に高値で、買い戻させようと、仕組んだのだ…
買った額の、3倍、4倍という高額で、和子に買い取らせようとした…
五井の株は、基本、五井一族のみ、持つ株…
五井一族の持ち株会社、五井ホールディングスの株だからだ…
それが、外部に流出するのは、困る…
五井一族以外の人間の手に渡るのは、困る…
その弱みに、ユリコは、つけ込んだ…
が、
あえなく、完敗した…
ユリコは、和子に完敗した…
それは、なぜか?
和子は、あらかじめ、ユリコが、五井一族から、株を買う際に、誰から、資金を得ていたのか、知っていた…
それは、著名な経済ヤクザからだった…
それを、和子は、突き止めていた…
そして、その返済期限も、また、突き止めていた…
和子は、その事実を、突き止め、
「…2倍で、買い取ります…」
と、ユリコに、宣言した…
「…アナタが、買い取った額の二倍で、買い取ります…」
と、ユリコに、宣言した…
当然、ユリコは、納得しない…
そのユリコに、和子は、追い打ちをかけた…
「…ユリコさんとやら…アナタが、誰から、金を借りて、五井の株を買ったのは、すでに、わかってます…その返済期限も…」
と、語った…
「…アナタが、借りたのは、高雄組…著名な経済ヤクザね…私も、高雄さんを存じ上げているけれども、いかに、経済ヤクザといえども、ヤクザは、ヤクザ…期限までに、お金を返さなければ、どうなるかは、火を見るより、明らかなはず…」
ユリコは、和子の言葉に、
「…」
と、無言だった…
おそらく、事実だったのだろう…
「…二倍で、我慢しなさい…それ以上、欲をかくんじゃない!…」
ユリコは、和子に叱責された…
まさに、完敗…
ユリコは和子に完敗だった…
ユリコよりも、和子の方が、一枚も二枚も上手だった…
そして、それは、情報力の差と、私は、見た…
いかに、頭が、良くても、ユリコは、一人…
基本、一人だ…
対する和子は、五井をバックにしている…
天下の五井をバックにしている…
それゆえ、情報力が、違う…
桁違いに違う…
それゆえ、ユリコの行動など、お見通し…
あらかじめ、お見通しだったのだろう…
誰かが、知らせたのだろう…、
ユリコの行動を、逐一、知らせたのだろう…
それが、和子の耳に入ったのだろう…
しかしながら、それで、ユリコが、屈辱を感じたのは、たしか…
たしかだ…
そして、その屈辱を忘れるユリコではない…
なんらかのきっかけで、団郁馬と知り合った…
五井北東家の当主の団郁馬と知り合った…
そして、お互いの目的が、一致した…
五井に復讐する目的が、一致した…
そういうことだろう…
そして、その内容を、ユリコは、ナオキに告げた…
ユリコは、かつて、夫婦だったナオキに告げた…
もちろん、ユリコの狙いは、わからない…
ただ、五井北東家の団郁馬は、落ち目…
落ち目だということは、わかる…
五井北東家は、東都新聞を有し、東都ラジオ、東都テレビを有している…
しかしながら、それらは、今、皆、オールドメディアと総称されている…
ネットが、格段に発達した今、明らかに、オールドメディアの地位は、不利…
時間が経つごとに、不利になる…
だから、五井本家に、復讐するとすれば、一刻も、早く、しなければならない…
時間が経つごとに、オールドメディアを有する五井北東家の力が、失われるからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えていると、ナオキが、
「…諏訪野さんの立場だったら、そう考えるのが、わかる…」
と、漏らした…
「…五井北東家は、落ち目…だが、まだ力は、ある…だから、それに対抗するため、五井グループの情報関連会社を集めて、一つの会社にして、巨大なネットメディアを作る…それで、五井北東家に対抗できる…」
ナオキが、漏らす…
たしかに、そう、言われれば、わかる…
実に、よくわかる…
しかしながら、それに、巻き込まれるのは、納得できない…
FK興産が、巻き込まれるのは、納得できない…
私とナオキが、巻き込まれるのは、納得できない…
当たり前だった…
伸明の都合は、わかるが、当たり前だった…
私や、ナオキは、伸明の道具でも、なんでもない…
五井の騒動に、巻き込まれるのは、ごめんだった…
伸明の立場は、わかるが、ごめんだった…
しかしながら、やはり、ユリコの目的が、わからない…
それを、ナオキに話した目的が、わからない…
団郁馬の行動を、ナオキに話した目的が、わからない…
なぜなら、ナオキが、伸明と、仲がいいのは、ユリコも、知っているはず…
それなのに、団郁馬の行動をナオキに告げることは、同時に、伸明に告げることになる…
つまりは、団郁馬の行動が、伸明に筒抜け…
なにを考えているか、丸見えになるからだ…
だから、わからない…
ユリコが、なにを考えているか、わからない…
それゆえ、私は、ナオキに、
「…ユリコさん、なにを考えているのかしら?…」
と、聞いた…
率直に、聞いた…
「…なにを考えているって、どういうこと?…」
「…だって、そんなこと、ナオキに話すなんて…団郁馬氏を裏切ることになるでしょ?…」
私が、言うと、ナオキが、笑った…
ナオキが、ニヤッと笑った…
それから、
「…ユリコが、大切なのは、ジュンだけだよ…」
と、笑って言った…
「…ジュン君だけ?…」
「…そう…なにしろ、血を分けた自分の息子だ…ユリコのただ一人の子供だ…だから、ユリコは、ジュンのためなら、動く…ジュンのためなら、なんでもする…」
それは、わかっている…
なぜなら、かつて、ユリコは、私に頭を下げた…
天敵の私に頭を下げた…
それは、ジュン君を助けたいから…
私をクルマで、引き殺そうとしたジュン君を助けたいから…
裁判で、私が、ジュン君を宥恕すると、一言言って、もらいたいから…
宥恕=許すと言ってもらいたいから…
だから、私に頭を下げた…
私が、ジュン君を宥恕=許すと、一言言っただけで、ジュン君の刑が軽くなるからだ…
裁判官の心証が、変わるからだ…
裁判官の心証が、良くなるからだ…
それが、わかっているから、ユリコは、私に頭を下げた…
天敵の私に頭を下げた…
そういうことだ…
だから、今、ナオキが、言ったことは、わかる…
十分にわかる…
そして、私が、そんなことを、考えていると、ナオキが、
「…それと、イケメンかな…」
と、続けた…
笑って、続けた…
「…ユリコは、イケメン好き…病的なまでに、イケメン好き…」
と、笑う…
「…だから、もしかしたら、ユリコが、団郁馬氏を裏切るとしたら、その団氏は、イケメンじゃないんじゃないかな?…」
ナオキが、言う…
笑いながら、言う…
笑いながら、冗談を言う…
しかしながら、それは、的を得ていた…
その冗談は、的を得ていた…
たしかに、あの団郁馬氏は、イケメンではない…
だから、ユリコが、団郁馬氏を裏切っても、おかしくはない…
イケメンではないのだから、裏切っても、おかしくはない…
だから、当てはまる…
この冗談が、当てはまるのだ…
私は、思った…
私は、考えた…




