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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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140/225

寿綾乃という女 第4部 140

 「…会社を売る決心って、そんな…」


 思いがけない言葉を、このナオキが、発した…


 ありえない言葉を発した…


 私は、仰天すると、同時に、


 …コレか!…


 と、思った…


 …コレが、ナオキが、さっきから、悩んでいたことか!…


 と、わかった…


 たしかに、それならば、わかる…


 それならば、納得する…


 ナオキが、なぜ、あれほど、悩んでいたか、納得する…


 そして、そう思いながら、その一方で、まだ、その場に立ち続けているナオキを見て、


 「…ナオキ、座ったら…」


 と、声をかけた…


 きっと、ナオキもまた、高ぶっている…


 気持ちが、高ぶっているからだろう…


 会社を売るという決断をして、気持ちが高ぶっているからだろう…


 だから、座らない…


 ソファに、座らない…


 つまりは、それほど、気持ちが高ぶっている…


 そういうことだ…


 そして、私も、その気持ちは、わかった…


 なにしろ、会社を、売るという決断をしたのだ…


 半端ない決断をしたのだ…


 それゆえ、気持ちが高ぶるのは、わかる…


 わかるのだ…


 私は、まだ、近くで、立ったままのナオキを見て、


 「…ナオキ…いつまで、立っている気?…」


 と、言った…


 「…さっさと、座りなさい!…」


 私が、命じると、ナオキは、


 「…まったく、綾乃さんは…」


 と、苦笑して、ソファに、座った…


 「…ボクが、FK興産の社長であることを、忘れているよ…」


 「…自宅では、社長もなにも、関係ないわ…」


 私が、強気で、言う…


 それから、


 「…そんな肩書、さっさと、捨てちゃいなさい!…」


 と、続けた…


 「…それって、会社を売れってこと?…」


 ナオキが、真顔になる…


 「…そうじゃないわ…」


 「…じゃ、どういうこと?…」


 「…家に肩書を持ち込まない…」


 「…どうして、肩書を持ち込まないの?…」


 「…だって、息苦しくなっちゃうでしょ?…」


 私が、笑って言うと、ナオキも、また、笑った…


 「…そりゃ、そうだ…」


 と、言って、笑った…


 それから、


 「…もしかして、綾乃さん、家庭に、肩書を持ち込まないのは、家庭では、ボクより、上になりたいわけ?…」


 と、笑って、聞いた…


 私は、そんなことは、考えたこともないから、ビックリした…


 しかしながら、本音は、それかも、しれない…


 たしかに、家庭に入ってまで、肩書を振り回されたりしたら、たまらない…


 会社では、社長…


 家でも、社長…


 では、たまらない…


 しかし、そんなことを、言いながらも、実は、会社でも、家でも、私の方が、威張っていた…


 もちろん、会社では、違う…


 私は、社長秘書…


 社長のナオキの下だ…


 が、


 ナオキと二人きりのときは、私の方が、上だった…


 誰が、見ても、上だった(苦笑)…


 そして、そんなことは、社内では、皆、わかっていた(爆笑)…


 社長のナオキは、秘書の、私に頭が上がらないことが、わかっていた…


 バレないと思っていたのは、当人たちだけ…


 そんなことは、お見通し…


 社内では、皆、お見通しだった(爆笑)…


 そして、そんなバカなことを、考えながら、ナオキを見た…


 そして、言った…


 「…それって、伸明さんから、言われたの?…」


 と、聞いた…


 話の核心だ…


 遠慮せずに、聞いた…


 ナオキは、ゆっくりと、首を横に振った…


 否定した…


 つまり、伸明からでは、ないということだ…


 「…だったら、誰から、聞いたの?…」


 と、聞いた…


 「…ユリコ…」


 と、意外な名前が出た…


 ここで、意外すぎる名前が出た…


 「…ユリコさん?…」


 言いながら、舌が、もつれそうに、なった…


 不覚にも、舌がもつれそうになった…


 自分でも、意外だった…


 それほど、ナオキの口から、今、ユリコの名前が出たのが、意外だった…


 あのユリコは、天敵…


 私の天敵だ…


 同時に、このナオキの前妻でもある…


 要するに、私が、ナオキを、ユリコから、奪った形になったわけだが、私が、彼女を毛嫌いしているのは、それが、理由でもない…


 とにかく、合わないのだ…


 性格が、合わないのだ…


 それゆえ、激突する…


 互いに、相手を忌み嫌う…


 だから、そのユリコの名前が、ここで、出て、意外だった…


 同時に、緊張した…


 ユリコの名雨が出て、緊張した…


 ユリコの名前が出ると、いつも、緊張する…


 それは、天敵だから…


 だから、戦闘態勢を取らなければ、ならないから…


 だから、緊張した…


 そして、なぜ、ユリコが、そんなことを、言ったのか?


 不思議だった…


 実に、不思議だった…


 それゆえ、


 「…なぜ、ユリコさんが、そんなことを…」


 と、聞いた…


 直球で、聞いた…


 ナオキは、あっさりと、


 「…五井北東家に対する、対策…」


 と、言った…


 「…対策?…どういうこと?…」


 「…五井北東家は、メディアを支配している…その対策…」


 「…どういうこと?…」


 「…今、既存のメディアは、落ち目だ…オールドメディアと揶揄されてね…」


 「…」


 「…ユリコが、言うには、それもあって、五井北東家の団郁馬氏は、焦っているそうだ…」


 「…なにを、焦っているの?…」


 「…五井家内での、序列を上げること…」


 「…それが、どうして、関係があるの?…」


 「…ハッキリ言えば、五井家内での、利権だよ…」


 「…利権?…」


 「…五井内で、序列が、上になれば、その利権に預かれる…それが、団郁馬氏の目的…」


 そんなこと、考えも、しなかった…


 そんなこと、気付きも、しなかった…


 我ながら、甘い…


 大甘…


 たしかに、団郁馬が、五井家内で、序列を上げたいのは、それなりに、理由があるに違いない…


 その理由を考えなかった…


 甘い、甘すぎ…


 自分のバカさ加減に呆れた…


 「…それゆえ、団郁馬氏は、ボクを別荘に監禁した…」


 「…どうして、監禁したの?…」


 「…ボクを閉じ込めて、情報を遮断しようと、したんだ…」


 「…情報を、遮断?…」


 「…つまり、外部から、一切の情報を、ボクに、入れさせない…それは、なぜか、わかる…綾乃さん?…」


 「…わからない…」


 「…FK興産が、かなめになるからだよ…」


 「…かなめ? なんのかなめ?…」


 「…五井北東家の有するメディアに対抗するかなめ…」


 「…どうして、FK興産が、かなめなの?…」


 「…諏訪野さんは、FK興産を五井に完全に取り込んで、五井の情報関連の会社を数社、集めて、合併して、より大きな情報関連企業を作ろうとしているんだ…そのかなめが、FK興産…」


 「…」


 「…つまり、五井グループ内の、ネット関連の企業を集めて、ひとつの大きな会社に合併しようとしているんだ…」


 ナオキが、言った…


 あまりにも、意外なことを、言った…


 まるっきり、想定外のことを、言った…


 が、


 謎がある…


 なぜ、FK興産が、そのかなめなのか?

 

 それが、わからない…


 なにしろ、天下の五井だ…


 その五井グループ内での情報関連企業が、合併するのに、なぜ、FK興産が、そのかなめになるのか、わからない…


 FK興産は、従業員千人足らず…


 五井から、見れば、吹けば、飛ぶようなチンケな企業だからだ…


 だから、わからない…


 なぜ、かなめなのか、わからない…


 それゆえ、私は、ナオキに、


 「…どうして、FK興産が、かなめなの?…」


 と、聞いた…


 「…五井の情報関連企業ならば、もっと、FK興産より、大きな企業があるでしょ?…」


 「…それは、あるよ…」


 ナオキが、あっさりと、言った…


 「…でも、たぶん、社員の質は、ウチの方が、高い…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…」


 「…どうして、FK興産の方が、高いの?…」


 「…それは、ウチが、オタクの集まりだからだよ…」


 「…えっ?…」


 「…ボクを筆頭に、コンピュータが、好きな人間が集まって起業した…パソコンのプログラミングが、好きな人間が集まって、起業した…その雰囲気が、ウチには、ある…だから、今も社員は、オタクが、多い…それゆえ、優秀…天下の五井より、優秀…」


 「…どうして、優秀なの?…」


 「…好きで、仕事をしているからだよ…」


 「…えっ? どういう意味?…」


 「…天下の五井といえども、会社員は、好きで、仕事をしているわけじゃない…仕事だから、やっている…その違い…」


 「…」


 「…それに、なにより、コンピュータは、日進月歩の世界…いかに、優秀な社員を集めようと、好きを仕事にしているものたちには、勝てない…仕事に対する情熱が、違う…それが、ウチの強み…FK興産の強み…」


 そう、言われると、伸明が、なぜ、FK興産を、五井の情報企業が、合併するかなめとしようとしているのか、わかった…


 そして、なぜ、五井北東家の団郁馬が、ナオキを幽閉したのか、わかった…


 それは、ナオキを幽閉して、伸明から離すこと…


 伸明と連絡を取らせないようにすること…


 そうすれば、合併が、難しくなる…


 少なくても、合併は、送れる…


 それが、団郁馬の狙いだろう…


 五井北東家の団郁馬の狙いだろう…


 それが、わかった…


 ようやく、今、わかった…


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