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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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137/225

寿綾乃という女 第4部 137

 一体、誰がやって来たんだろう?


 考えた…


 ベッドに横になりながら、考えた…


 が、


 考える必要もなかった…


 ここは、億ション…


 一戸建てでも、なんでもない…


 いきなり、玄関のチャイムが、鳴るはずもない…


 そもそも、見知らぬ、他人が、容易に、この部屋まで、やって来れるはずがない…


 やって来れるのは、普通に考えれば、このマンションの関係者…


 あるいは…


 私は、思って、カメラを見た…


 玄関の向こう側に誰がいるのか、見た…


 結果は、私が、思った通り…


 ナオキ…


 藤原ナオキだった…


 私のパートナーの藤原ナオキだった…


 つい、さっきまで、私といっしょにいた、あのハルカと結婚会見をした、ナオキだった…


 私は、ナオキの姿を見て、安心したと、同時に、肩の力が抜けた…


 このナオキの姿を見て、ホッとしたと同時に、肩の力が抜けた…


 それゆえ、玄関のドアを開けると、同時に、

思わず、


 「…ナオキ、あなた、いきなり…」


 と、言った…


 が、


 それを、言い終わらない内に、ナオキが、玄関の中に入って来た…


 ナオキは。私同様、このマンションに、自由に出入りできる…


 なにしろ、このナオキは、元はと言えば、ここで、暮らしていた…


 私とジュン君と三人で、暮らしていた…


 それが、出ていっただけ…


 すでに、名義は、私になったが、ホントは、このマンションは、ナオキのもの…


 ナオキが買ったものだからだ…


 そして、そんなことを、考えていると、


 ナオキが、


 「…疲れた…」


 と、漏らした…


 これは、異例…


 ナオキとしては、異例…


 実に、異例だった…


 なぜなら、私が玄関を完全に開けるまで、待てない人間では、なかったからだ…


 そんな、せっかちな人間では、ないからだ…


 それゆえ、


 「…ナオキ、アナタ…」


 と、言った…


 そんなナオキの行動に、驚いたからだ…


 しかしながら、そんな私の言葉に、反応を示すでもなく、


 「…疲れた…」


 と、繰り返した…


 事実、ナオキの顔は、疲労困憊状態だった…


 誰の目から、見ても、グロッキー寸前というか…


 ボクシングの試合か、なにかで、負けたような表情だった…


 それゆえ、私は、


 「…ナオキ…アナタ、どうしたの?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 が、


 ナオキは、私の質問には、答えず、


 「…綾乃さんの顔を、見たかった…」


 と、だけ、言った…


 「…私の顔?…」


 「…そう、美人の綾乃さんの顔…」


 ナオキが、笑う…


 笑いながら、言う…


 普通なら、


 「…なにを、バカなことを、言っているの!…」


 と、叱るところだが、今日は、違った…


 今は、違った…


 なにしろ、つい、今さっきまで、このナオキと結婚会見をしたハルカと会っていたところだからだ…


 それゆえ、


 「…美人が違うんじゃない?…」


 と、言った…


 わざと、言った…


 「…美人が違う? どういう意味?…」


 「…ナオキ、アナタ、結婚会見までして、白々しい…」


 私が、わざと、怒って言うと、


 「…綾乃さん、また、そんなことを…」


 と、肩を落として言った…


 「…それは、前に説明したでしょ!…」


 ナオキが、少し怒って言う…


 それを、見て、私は、言い過ぎたと、思った…


 同時に、ナオキは、ホントに疲れていると、思った…


 それは、普段ならば、こんなことで、怒ったりしない…


 余裕がないから、怒ると思ったからだ…


 疲れて、余裕がないから、怒るのだ…


 私は、それを、実感した…


 それゆえ、


 「…ナオキ…ごめんなさい…」


 と、詫びた…


 素直に詫びた…


 が、


 これが、意外だったようだ…


 「…綾乃さんが、謝るなんて…」


 と、ナオキが、絶句した…


 私は、これには、頭に来たが、なにも、言わなかった…


 言えば、火に油を注ぐというか…


 再び、言い合いになりかねないからだ…


 だから、なにも、言わなかった…


 「…ナオキ…疲れているのに、わざわざ、私の家に来るなんて…」


 と、だけ、言った…


 すると、即座に、


 「…綾乃さんの顔を見たくて…」


 と、返した…


 「…私の顔?…」


 「…そう…」


 「…顔なら、あのハルカさんでも、良かったんじゃない?…彼女も、美人よ…」


 我ながら、しつこいと、思った…


 が、


 言ってしまったものは、仕方がない…


 口に出してしまったものは、仕方がない…


 私は、マズいと思ったが、ナオキが、


 「…いや、頼りがいのある美人の方がいい…」


 と、言ってくれたから、良かった……


 救われた…


 そして、そんな漫才のようなやりとりを、玄関で繰り返した後、ようやく、


 「…さっさと、中に入ったら…」


 と、言った…


 我ながら、どんくさいというか…


 気遣いができない…


 32歳にもなって、これだから、ダメなんだ!…


 これだから、結婚できないんだ!…


 と、思った…


 思ったのだ…


 ナオキは、苦笑いを浮かべて、部屋に上がった…


 なんと言っても、二人とも、玄関で、ずっと、話し込んでいたからだ…


 ナオキは、苦笑いを浮かべながら、


 「…では、お邪魔します…」


 と、言って、部屋に入った…


 靴を脱いで、スリッパに履き替えて、部屋に上がった…


 私は、それを、見て、さっき、このナオキが、言ったこと、


 「…綾乃さんの顔を見たかった…」


 という言葉は、本当だろうか?


 と、考えた…


 が、


 私は、おそらく本当だろうと、思った…


 本音だろうと、思った…


 それは、なぜか?


 このナオキは、一人暮らし…


 今、暮らしているマンションに、同居人は、いない…


 同居人=女は、いない…


 少なくとも、私は、そう、思っている…


 それゆえ、私の顔を見たくなった…


 疲れて、私の顔を見たくなった…


 これが、真相だろう…


 これが、真実だろう…


 ナオキは、ひとりぼっち…


 私と同じく、ひとりぼっちだ…


 もちろん、田舎に、両親は、いるかも、しれないが、この都会では、ひとりぼっち…


 それゆえ、今回のように、疲れたとき、ずっと、いっしょにいた、私の顔を見れば、ホッとする…


 なにしろ、十五年だ…


 このナオキと知り合って、十五年だ…


 男女の関係になって、十五年だ…


 ナオキが、成功して、同居は、解消したが、会社では、ずっと、いっしょ…


 社長と秘書という関係で、ずっと、傍にいた…


 ずっと近くにいた…


 だから、今は、ほとんど、男女の関係はないが、同士…


 同士と、言える…


 FK興産が、小さなときから、いっしょに働いてきた同士だからだ…


 だから、お互いが、信頼がある…


 信用がある…


 それゆえ、疲れたカラダで、私に会いに来たのだろう…


 私の顔を見ると、ホッとする…


 それを、狙ったのだろう…


 まるで、私が、癒し効果…


 可愛げのない、美人の私が、癒し効果なんて、笑ってしまうが、それが、事実…


 事実なのだろう…


 ホントは、あのハルカ…


 あのハルカの方が、癒し効果がある…


 それは、なぜか?


 それは、ハルカは、可愛げのある、美人だからだ…


 可愛げのある美人の方が、可愛げのない美人といっしょにいるより、よっぽど、いい…


 まして、疲れたときには、よっぽど、いい…


 そう、思いながら、我ながら、


 …しつこい!…


 と、思った…


 と、同時に、私は、自分が思ったよりも、あのハルカを気にしていると、思った…


 あのハルカの存在が、大きいと、思った…


 そして、そう、思いながら、ナオキに続いて、リビングに、向かった…


 背の高い、ナオキに従って、リビングに行った…


 ナオキは、リビングに入ると、真っ先に、ソファに、身を投げ出した…


 いかにも、疲れたという感じだった…


 私は、そんなナオキを見て、


 「…少し経ったら、お風呂に入って、ベッドで、寝たら…」


 と、言った…


 それほど、ナオキは、疲れて、見えた…


 ナオキは、私の提案を聞いて、素直に、


 「…わかった…」


 と、言った…


 「…綾乃さんの言う通りにしよう…」


 そう、言って、ナオキは、目を閉じた…


 それから、まもなく、ウトウトとして、やがて、いびきをかいて、眠り出した…


 私は、その姿を見て、


 …ここにいても、仕方がないな…


 と、思った…


 私もナオキ同様、疲れている…


 それゆえ、寝室に戻って、ベッドの上で、横になった…


 すると、どうだ?


 私も、ナオキ同様、すぐに、眠くなった…


 それゆえ、いつのまにか、眠りに落ちた…


 二人が、久しぶりに、再会しても、別々の場所で、寝る…


 いや、


 それ以上に、抱き合いもしない…


 キスもしない…


 もちろん、セックスもしない…


 すでに、そんな関係ではない…


 まさに、熟年夫婦…


 互いに、四十代前半と、32歳の私と若いが、その関係は、熟年夫婦そのもの…


 そのものだった(爆笑)…


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