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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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136/225

寿綾乃という女 第4部 136

 まさに、バカ…


 大バカ…


 このハルカの発言は、ある意味、私に冷や水を浴びせるものだった…


 言葉を変えれば、私に冷静になれ!


 現実を見ろ!


 と、教えるものだった…


 それを、思うと、苦笑いしか、出なかった…


 自分自身のことゆえ、苦笑いしか、出なかった…


 そして、ハルカは、私の笑いに、気付いたのだろう…


 「…寿さん、なにが、面白いんですか? 私、今、なにか、面白いことを、言いましたか?…」


 と、聞いた…


 直球で、聞いた…


 これは、


 …しまった!…


 と、思った…


 どう、答えようかと、思った…


 どう、言い訳しようかと、思った…


 すると、ハルカが、


 「…やっぱり、寿さん、私が、バカだと、思いました?…」


 と、言ったから、驚いた…


 「…バカ? どうして、バカなの?…」


 「…だって、私が、五井家の当主と見合いをして、もしかして、私が、結婚できると、本気で、思っていると、思ったでしょ?…」


 ハルカが、言うと、


 …それは、私だ!…


 …それは、私!…


 と、言いたかった…


 が、


 さすがに、言えなかった(苦笑)…


 それゆえ、私は、


 「…いえ、ハルカさんを、見ると、若いなと…」


 と、言った…


 「…若い? なにが、若いんですか?…」


 「…さっき、言った、五井家の当主の方との見合い…」


 「…それのどこが、若いんですか?…」


 「…ハルカさん、簡単に諦めちゃう…」


 「…それが、どうして、若いんですか?…」


 「…私なら、もっと、食いつく…粘る…」


 「…どうして、粘るんですか?…」


 「…チャンスだと、思うから…ハルカさんより、何歳も上のおばさんだから…結婚のチャンスが少ないから…」


 「…」


 「…でも、ハルカさんは、違う…冷静に、物事を見る…それは、自信のある証拠…」


 「…どうして、自信のある証拠なんですか?…」


 「…歳を取って、余裕がなくなれば、たぶん、無理と、思っても、もう少し、粘る…もしかしたらと、粘る…」


 私が、そう言うと、


 「…寿さんのような美人でも、ですか?…」


 と、ハルカが、素っ頓狂な声を上げた…


 私は、冷静に、


 「…美人は、関係ないわ…」


 と、言った…


 「…美人は、関係ない?…」


 「…そう…関係ない…美人でなければ、結婚できなければ、結婚できるひとは、限られるでしょ?…」


 「…それは…」


 「…すべては、運…運よ…」


 「…運?…」


 「…よく、美人でも、歳を取って、結婚していなければ、男を選び過ぎたんだろとか、周囲から、陰口を叩かれるけれども、それは、違う…」


 「…どう違うんですか?…」


 「…単純に縁がないだけ…」


 「…縁?…」


 「…よくあるのが、付き合っていても、男が、結婚しようといっても、女が、仕事に夢中だったり、真逆に、女が、ようやく、その気になっても、交際が、長いから、男にすっかりその気が、なくなったり…」


 「…」


 「…要は、タイミングね…タイミング…」


 「…タイミング?…」


 「…互いにその気がなくなれば、結婚はできない…」


 私は、言った…


 が、


 それが、いけなかった…


 「…それって、もしかして、寿さんのことですか?…」


 と、言われたからだ…


 私は、即座に、


 「…一般論よ…一般論…」


 と、言ったが、ハルカが、納得しているようには、見えなかった…


 とても、見えなかった…


 だから、言った…


 ハッキリと言った…


 「…ハルカさんが、私と藤原さんのことだと、思っても、間違いじゃ、ないわ…」


 と、言った…


 「…私と藤原さんとの出会いは、私が、高校生のとき…」


 「…寿さんが、高校生のときですか?…」


 「…かれこれ、もう、足掛け15年になるかしら…」


 「…」


 「…だから、もう、結婚なんて、無理…」


 「…どうして、無理なんですか?…」


 「…いまさらって、やつ…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…たぶん、紙で書くのが、面倒臭いというか…」


 「…紙が、面倒臭い?…」


 「…要するに、結婚届けね…今さら、結婚届けを出そうが、出すまいが、関係は、変わらない…だから、いまさらって、思ってしまう…」


 そう言うと、このハルカは、なにも、言えなかった…


 ただ、黙った…


 私の言うことが、わかったのだろう…


 なにしろ、このハルカとて、二十八か、そこら…


 決して、若くはない…


 言葉を変えれば、子供ではない…


 立派な大人…


 大人の女だ…


 好きだから、結婚する…


 そんな単純に物事は、考えない…


 好きでも、結婚できない場合は、ある…


 好きでも、結婚という形は、あえて、とらない場合もある…


 皆、それぞれの事情がある…


 相手が、すでに結婚していて、妻子持ちの場合も、ある…


 男と女、どちらかが、既婚の場合もあるし、両方とも、既婚の場合も、ある…


 理由は、人それぞれ…


 まさに、人それぞれだ…


 そして、このハルカは、それが、わかって、いい年齢だ…


 まあ、稀に、わからないひとも、いるが、それは、例外…


 あまり、いない(苦笑)…


 そして、このハルカは、それが、わかったようだった…


 それゆえ、なにも、言わなかった…


 そして、それを、契機に、私もまた、話題が、尽きたと思った…


 このハルカとの話題が、尽きたと思った…


 それゆえ、私は、ハルカに、


 「…もう、コーヒーは、飲み終わった? ケーキは、食べ終えたようね…」


 と、言った…


 つまりは、終了…


 これで、今日の会談は、終了という合図だ…


 見たところ、ハルカのカップに、コーヒーが、残っているだけだった…


 私の方はというと、すでに、飲み終えていた…


 それゆえ、終了だと、思った…


 今日の会談は、終了だと、思った…


 そして、それは、このハルカも、同じだった…


 私の真意が、わかったようだ…


 すでに、残り少なくなった、コーヒーを一気に飲み干した…


 おしゃべりに、夢中になったせいで、コーヒーは、すっかり、冷めきっていた…


 それゆえ、一気に飲み干すことができた…


 私は、それを、見届けて、ハルカに、


 「…出ましょう…」


 と、言って、席から、立ち上がった…


 ハルカも、同じだった…


 私と同じく、席を立った…


 それから、会計をして、二人とも、店の外に出た…


 「…今日は、楽しかったわ…」


 私は、言った…


 もちろん、お世辞だ…


 社交辞令だ…


 私の発言を受けて、ハルカも、


 「…私も楽しかったです…」


 と、返した…


 もちろん、これも、お世辞…


 これもまた、社交辞令だ…


 「…それでは、お気をつけて…」


 と、私は、ハルカに言った…


 「…私は、家が近いので…」


 と、続ける…


 「…それは、わかってます…」


 と、ハルカは、笑顔で返した…


 なにしろ、この会食は、カラダに不安がある、私が、自宅近くの店を指定して、行ったもの…


 それは、このハルカも、知っている…


 なにより、このハルカは、あの長谷川センセイの妹…


 五井記念病院の私の担当医だった、長谷川センセイの妹だ…


 私のカラダの具合を、兄の長谷川センセイから、聞いて、知っている…


 当たり前のことだ…


 私たちは、互いに、笑顔で、別れたが、それは、形だけ…


 私は、それから、すぐに、近くの自宅に戻ると、真っ先に、ベッドに倒れ込んだ…


 正直、疲れた…


 気疲れした…


 自分でも、思った以上に、気疲れした…


 それは、きっと、相手が、長谷川センセイの妹ということも、あるかも、しれない…


 長谷川センセイは、五井記念病院の私の担当医で、医師としては、信頼している…


 あるいは、信用している…


 が、


 抜け目ないというか…


 すでに、妹のハルカが、言ったように、上昇志向が強い…


 私は、最初、それに、気付かなかったが、長谷川センセイが、五井西家の血を継ぐひとで、五井家に認められるのが、夢だと、聞いて、仰天した…


 たしかに、長谷川センセイの立場なら、わからなくもないが、五井西家の血を継ぐといっても、それは、長谷川センセイの祖父どころか、その祖父のそのまた祖父あたりの、はるかに、遠い祖先だからだ…


 だから、普通なら、五井家に認められるも、なにもない…


 あまりにも、血縁が、遠すぎるからだ…


 しかも、すでに、長谷川センセイは、五井一族との関係は、なにもない…


 交流が、なにもない…


 血が薄すぎるからだ…


 しかしながら、それにも、かかわらず、認められたいと、思うのが、上昇志向が、強いと言われる所以だろう…


 普通なら、諦めるどころか、もはや、なんの関係もないと、思うところだからだ…


 それにも、かかわらず、認めてもらいたいというのが、上昇志向が強いといわれる、所以なのかも、しれない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考えていると、ふと、団郁馬のことを、思った…


 五井北東家の団郁馬のことを、考えた…


 あの団郁馬は、ユリコと、関係がある…


 ナオキの妻だったユリコと関係がある…


 ネットで、それを、見つけた…


 つまりは、あの長谷川センセイと、ユリコ、そして、団郁馬が、組んでいる…


 おそらく、三人で、なにかを、やろうとしている…


 なにを、やろうとしているのか?


 それは、復讐…


 ユリコは、今、入院中の五井の女帝、諏訪野和子に、恨みがあるし、団郁馬は、先代の五井家当主、諏訪野建造に、恨みを抱いている…


 長谷川センセイは、おそらく恨みはないが、この二人に乗っかっている…


 五井家に認められるために、二人を利用して、それに、乗っかっている…


 そして、私はというと、部外者にも、かかわらず、そんな五井家の争いに、巻き込まれている…


 そして、それは、同じ…


 私の事実上のパートナーのナオキも同じ…


 FK興産社長の藤原ナオキも、同じだ…


 巻き込まれたゆえに、長谷川センセイの妹のハルカと、結婚会見をした…


 団郁馬の裏をかいたわけだ…


 それ以前に、伸明が五井一族の女性と結婚したという誤報をわざと、流した、団郁馬の裏をかいたわけだ…



 あの誤報は、おそらく、伸明と、ハルカの結婚を意味したわけだ…


 ハルカは、何度も、言うように、長谷川センセイの妹だから、五井西家の血を引いている…


 それゆえ、ハルカも、また、五井一族で、間違いはないからだ…


 そして、そのハルカは、団郁馬の裏をかくべく、ハルカと結婚会見をした…


 が、


 ハルカが、五井一族である以上、それ以前に、ナオキに流れた情報…


 つまり、ナオキも伸明同様、五井一族の女性と結婚したという、東都テレビの情報は、間違ってない…


 つまりは、東都テレビの情報は、半分当たっている…


 伸明は、外れたが、ナオキは、当たっている…


 私が、そんなことを、考えていると、


 …ピンポン…


 という音がして、誰かが、やって来たことが、わかった…


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