寿綾乃という女 第4部 135
しかしというか?
やはり、あのユリコが出て来たか!
そんな思いが、脳裏によぎる…
あのユリコは、天敵…
私の天敵だった…
私、寿綾乃の天敵だった…
たしかに、私は、あのユリコから、ナオキを奪った…
まだ、当時、女子高生に過ぎない私が、ユリコの夫のナオキを、奪った…
だから、これが、昼メロのドラマか、なにかで、あれば、私は、敵…
日本中の主婦の敵かも、しれない…
そのドラマを見た視聴者の敵かも、しれない…
しかしながら、それは、現状を知らないものの意見…
私は、ユリコから、ナオキを奪ったわけでも、なんでもなく、なんとなく、ナオキと、そういう関係になった…
それは、なぜかと、問われても、わからない…
ただ、単に気が合った…
ただ、単に、波長が合った…
それが、答えだろう…
が、
世間一般の女性たちが、それを、認めないのも、わかる…
私とて、普通に、ナオキと結婚して、ナオキの妻になれば、ナオキが、私以外の女性と、いい関係になったら、困る…
それゆえ、ユリコの立場が、わかる…
だから、わかる…
世間一般の女性の気持ちがわかる…
要するに、敵…
世間一般の女性たちにとって、自分の夫を奪う女は敵…
敵だからだ…
自分の生活=家庭を壊す敵だからだ…
それゆえ、私が、敵認定をされても、おかしくはない…
そして、それゆえ、ユリコが、私を憎んでも、おかしくはない…
と、言いたいところだが、違う…
なにが、違うのか?
それは、私とユリコ…
初めて、会ったときから、気に入らなかった(爆笑)…
私が、気に入らなかっただけではない…
ユリコも、また、私を気に入らなかった…
いわば、お互い様…
互いが、互いを、気に入らなかった…
もっとも、それゆえ、私が、ユリコの夫だったナオキを、ユリコから、奪ったわけでも、なんでもない…
自分を正当化するわけでも、なんでもないが、私とナオキの場合は、
…流れ…
その一語に尽きる…
なんとなく、そんな関係になった…
だから、
…流れ…
自然の流れだった…
しかし、これは、あくまで、私の言い分…
世間一般の目から、見れば、明らかに、私の分が悪い…
分が悪すぎる(苦笑)…
が、
それが、事実…
私とナオキ、そして、ユリコの三人の真実だ…
そして、これも、幾度となく、説明したが、たとえ、ナオキが、いなくても、私とユリコは、対立した…
私とユリコは、敵対した…
別に、理由はない…
ただ、虫が好かない…
互いに、相手を、好かない…
それだけ…
それだけだ(爆笑)…
そして、私が、そんなことを、考えていると、目の前のハルカから、
「…寿さんと、その藤原さんの元の奥様って、仲が悪いんですか?…」
と、直球の質問を受けた…
あまりにも、露骨な質問を受けた…
それゆえ、驚くよりも、笑ってしまった…
つい、笑って、しまった…
そして、私の笑いは、このハルカには、理解不能…
なにしろ、私と、ナオキの前の奥様の関係を問われて、いきなり、私が、笑い出したのだ…
これには、誰しも、理解不能だろう…
なんで、いきなり、私が、笑ったのか、理解不能だろう…
ゆえに、私は、それを、ハルカに説明すべく、
「…合わないのよ…」
と、だけ、言った…
「…合わない? なにが、合わないんですか?…」
「…人間的に、合わないの…」
「…人間的? どういう意味ですか?…」
「…よくいるでしょ? 会社でも、学校でも、なんとなく、気に入らない相手…別に、その相手が、自分に、なにか、したわけでも、なんでもない…ただ、気に入らない…お互い、相手を気に入らない…虫が好かない相手…」
私が、一気にぶっちゃけると、目の前のハルカの目が、点になった…
さすがに、私が、そこまで、ぶっちゃけるとは、夢にも、思っていなかったのだろう…
なにしろ、このハルカとは、二度目…
わずか、二度だけ、会ったに、過ぎない人間だ…
そのハルカに、対して、まさか、いきなり、ユリコのことを、そこまで、言うとは、夢にも、思っていなかったのだろう…
私が、そう、思っていると、ハルカが、
「…寿さん、美人だから…」
と、いきなり、言った…
「…美人だから、それが、どうしたの?…」
「…いえ、美人だから、その…藤原さんの元の奥様に嫉妬されたんじゃ…」
「…関係ないわ…」
「…関係ない?…」
「…そう、関係ない!…」
私は、強く言い切った…
「…それを、言えば、長谷川さんも、美人でしょ? もちろん、美人だから、長谷川さんを、目の敵にする女性もいるかも、しれないけれど、ひとの好き嫌いって、そんなことだけじゃないでしょ?…」
「…それは…」
「…私の場合は、ユリコさんを、ただ、気に入らない…そして、もちろん、ユリコさんも、私を気に入らない…私が、嫌いだから、ユリコさんも、私を嫌いって、わけでも、なんでもない…ただ、お互いが、お互いを気に入らないの…」
私が、一気に、言うと、ハルカが、唖然とした…
唖然とした表情で、私を見た…
まさか、そこまで、言うとは、思ってもみなかったのだろう…
初対面同様のハルカに対して、私が、そこまで、言うとは、考えてもみなかったのだろう…
これは、当たり前…
当たり前だった…
しかしながら、私は、決して、言い過ぎたとは、思っていない…
なぜなら、これは、事実…
事実だからだ…
だが、初対面同様の、このハルカに、そこまで、言うのは、常識がないとも、思った…
我ながら、常識がないとも、自覚した(苦笑)…
ハルカは、私の告白に、ただ、唖然としていた…
もしかしたら、これで、私を見るハルカの目が、変わったかも、しれない…
ハルカから、見た、私の評価が、変わったかも、しれない(苦笑)…
しかしながら、それでも、構わない…
私は、全然、構わなかった…
そして、私が、思った通り、ハルカが、
「…寿さん、見た目と、違うんだ…」
と、ゆっくりと、言った…
驚いて、言った…
「…見た目が違うって、どう違うの?…」
「…寿さん、こう言っては、なんですけれども、見かけが、大人びていて、ずばり、大人の女性って、言う、イメージだから、そんなこと、言うとは…」
「…見た目が、大人びているから、ひとの悪口は、言わないと、思った?…」
私の質問に、ハルカが、黙った…
私の質問に、答えられなかったのだろう…
なにしろ、質問が、悪すぎる…
答えられない質問だからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、さすがに、そんなひとの悪口を言うのは、嫌だから、私は、話を変えた…
話題を変えた…
「…でもね、ハルカさん?…」
「…なんですか?…」
「…私に言わせれば、私は、アナタが、羨ましい…」
「…羨ましい? どうしてですか?…」
「…アナタは、私とは、タイプが、違う美人…正直、アナタの方が、私と同じ年齢でも、若く、見える…」
私が、そう言うと、ハルカは、黙った…
これは、まさに正鵠を射ていたからだ…
私は、自分で言うのも、なんだが、正統派の美人…
目鼻立ちが、整った正統派の美人…
それに、比べて、このハルカは、可愛らしいが、入った、美人…
私には、可愛さがない…
残念ながら、可愛さが、まったくない(涙)…
このハルカを、芸能人に例えると、女優の常盤貴子さんの若い頃に、似ている…
顔が、そっくりと言うわけではないが、雰囲気が、似ている…
美人で、可愛い…
一方、私はと言えば、フジテレビのアナウンサーだった、近藤サトさんの、若い頃に、似ている…
誰が、見ても、完璧な美人だが、可愛さが、ない…
そして、歳より、老けて見える…
目鼻立ちが、整った美人は、実年齢よりも、老けて見えるのが、多い…
数少ない例外が、ユーチューブで見た、昔のアイドルの河合奈保子さん…
彼女は、例外で、目鼻立ちが整った正統派の美人にも、かかわらず、かわいかった…
愛くるしかった…
もっとも、それゆえ、当時、アイドルになれたのだろう…
悪口を言うつもりは、ないが、先に例に挙げた近藤サトさんでは、無理…
アイドルは、無理…
可愛らしさが、微塵もないからだ…
女優としては、合格だが、アイドルは、無理…
できない…
そして、それは、私も、同じ…
同じだ…
そして、私が、そんなバカなことを、考えていると、ハルカが、
「…私、心配なんです…」
と、いきなり、言った…
いきなり、それまでとは、違う話題を振った…
「…心配? なにが、心配なの?…」
「…兄のことです…」
「…長谷川センセイのこと?…」
「…そうです…」
「…長谷川センセイのなにが、心配なの?…」
「…さっきも、言ったように、兄は、野心家です…野心が、強すぎます…その野心を、利用されないか、心配です…」
「…野心を利用って?…」
「…今度の、私の見合いが、いい例です…兄は、どう思ったか、知りませんが、私のような一般の女が、五井家の当主と、見合いをして、結婚できるはずが、ありません…それが、わかっているのに、私に、五井家の当主と、見合いをさせる…それが、実例です…」
そう言われると、なにも、言えなかった…
なにしろ、その通り…
その通りだからだ…
そして、それを、思えば、私…
私、寿綾乃…
私、矢代綾子は、なんて、バカなんだろ?
なんて、身の程知らずなんだろ?
と、思った…
目の前の、この長谷川センセイの妹が、あっさりと、伸明との縁談を、身分違いと言っている…
身分違いゆえに、たとえ、見合いをしたところで、結婚なんて、できるわけないと、喝破している…
一方、このハルカの数歳上の私は、まだ、伸明との結婚を夢見ている…
実現不可能と、思いながらも、どこかで、夢見ている…
まさに、バカ…
身の程知らずの大バカだと、思った…
大バカだと、思ったのだ…




