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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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134/225

寿綾乃という女 第4部 134

 が、


 さすがに、単刀直入に聞くわけには、いかない…


 それゆえ、私は、目の前に置かれた、ショートケーキと、ホットコーヒーを前にして、


 「…頂きましょう…」


 と、言った…


 それから、


 「…ハルカさんも、遠慮せずに、どうぞ…」


 と、言って、私は、ハルカより、先に、ショートケーキを食べ出した…


 そんな私を見て、ハルカも、また、ショートケーキを食べ出した…


 私は、無言で、ショートケーキを食べた…


 食べながら、話すことは、できないからだ(苦笑)…


 それを、見て、ハルカも、同じように、無言で、ショートケーキを食べた…


 ハッキリ言って、お互いに、会話はない…


 おそらく、共通の話題もない…


 だから、夢中に、ショートケーキを食べた…


 ショートケーキを食べていれば、会話をする必要が、ないからだ…


 私は、無言で、ショートケーキを食べ続けた…


 それゆえ、すぐに、食べ終わった…


 食べ終わると、ホットコーヒーを口に運んだ…


 砂糖は、少量…


 ミルクは、入れない…


 ホントなら、甘いショートケーキを食べた後だから、苦いブラックコーヒーが良いのだが、さすがに、砂糖を入れないブラックコーヒーは、飲めない…


 だから、少量、砂糖を入れた…


 が、


 ハルカは、入れなかった…


 砂糖も、ミルクも入れなかった…


 完全なブラックコーヒー…


 ショートケーキを食べ終わると、それを、口に運んだ…


 私は、それを、見て、


 「…苦くないの?…」


 と、言った…


 思わず、口にした…


 ハルカは、


 「…苦いです…」


 と、即答した…


 「…だったら、少しでも、砂糖を入れれば、いいのに…」


 私が、言うと、


 「…太ります…」


 と、これも、即答した…


 私は、驚いたが、これは、納得した…


 たしかに、砂糖を入れれば、太るだろう…


 まして、このハルカは、美人…


 私より、若くて、美人だ…


 私とは、タイプの違う美人だ…


 それゆえ、太るのが、困るのだろう…


 いくら、美人でも、太れば、目鼻立ちが、崩れる…


 どんな美人でも、四十を過ぎて、子持ちのオバサンになれば、体重も増えるものが、大半…


 それゆえ、かつては、美人だった女性も、昔の面影が、まったくなくなるものもいる…


 それが、怖いのだろう…


 まして、まだ、結婚もしていなければ、余計だ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…寿さんは、いいですよね…」


 と、いきなり、言った…


 私は、なにが、いいのか、わからなかった…


 それゆえ、


 「…私のなにが、いいの?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…寿さんは、太らないでしょ? カラダが…」


 と、言った…


 それ以上は、言わなかった…


 私は、カラダが、弱い…


 すでに、癌持ちのカラダだ…


 だから、太らない…


 だから、太れない…


 それを、言いたかったのだろう…


 しかしながら、さすがに、それを、口にすることは、できない…


 それゆえ、このハルカは、それを、言ってから、


 …しまった!…


 と、いう表情になった…


 話が、私のカラダの具合に触れたのが、マズいと、思ったのだろう…


 当たり前だった…


 が、


 私は、それを、気にしなかった…


 隠しているつもりはないが、このハルカは、あの長谷川センセイの妹…


 私の五井記念病院の担当医だった長谷川センセイの妹だ…


 当然、私の病状は、知っている…


 長谷川センセイは、知っている…


 それを、妹の、このハルカに話したのだろう…


 兄妹だから、当たり前だった…


 それゆえ、


 「…別にいいのよ…」


 と、言った…


 「…隠す話でも、ないし…」


 と、続けた…


 「…現に、私は、小食…多くは、食べれない…だから、太れない…まあ、病気は、究極のダイエットだから…」


 私は、わざと、言った…


 ハルカを笑わせるためだ…


 「…究極のダイエット?…」


 「…だって、そうでしょ? 嫌でも、食事の量が、細くなる…痩せるのは、当然…」


 私の言葉に、ハルカが、戸惑った…


 きっと、笑っていいのか、どうか、わからなかったのだろう…


 だから、私は、


 「…ここは、笑うところよ…」


 と、口を出した…


 「…笑うところ?…」


 「…だって、そうでしょ? 病気になったことで、ダイエットもなにも、考えることが、なくなった…禍を転じて福と為す…」


 私が、言うと、ハルカが、さらに、困った顔をした…


 きっと、どういう対応をしていいか、わからなかったのだろう…


 まさか、私の言う通りに、笑うわけにも、いかない…


 だから、困った顔を、した…


 私は、そんなハルカの顔を見て、またも、


 …しまった!…


 と、思った…


 このハルカに、意地悪をするつもりも、なかったが、結果として、困らせることになった…


 だから、詫びようとも、思ったが、それも、どうかと、思った…


 わざわざ、自分から、詫びることでも、ないと、思った…


 それゆえ、沈黙した…


 しゃべらなかった…


 だから、互いに、沈黙…


 お互い、会話が続かなかった…


 正直、気まずい…


 二人きりでいて、会話が、なにも、ないのが、気まずい…


 それゆえ、私は、このコーヒーを飲み終えたら、さっさと、このカフェを出ようと考えた…


 それは、きっと、このハルカも、同じ…


 同じだと、思った…


 が、


 違った…


 ハルカが、突然、


 「…兄は、野心家なんです…」


 と、口にしたからだ…


 私は、思わず、


 「…それは、わかっている…」


 と、言いたいところだが、まさか、言えなかった…


 たかだか、まだ二度しか、会ったことのない、このハルカには、言えなかった…


 まして、相手は、長谷川センセイの妹…


 その妹が、兄の批判をする…


 その批判に相槌を打てるはずも、なかったからだ…


 だから、私は、沈黙した…


 沈黙するしかなかった…


 そして、ハルカは、続けた…


 「…兄は、見栄っ張りで、野心家です…私を、五井家の当主と見合いをさせたのも、その一環です…」


 …一環って?…


 …他にも、あるのだろうか?…


 私が、そう、思いながら、黙って聞いていると、ハルカが、


 「…兄は、とにかく、上昇志向が、強い…」


 と、続けた…


 「…上昇志向?…」


 「…ハイ…今回の見合いの件が、いい例です…私が、五井家の当主の方と、見合いをするのは、別に構いません…ですが、私が、当主の方と、見合いをしたところで、結婚できるとは、とても、思えません…身分が違いすぎます…」


 「…」


 「…でも、兄は、もしかしたらと、考える…私は、もしかしたらも、なにも、見合いをしただけ…結果は、出ない…そう、考える…兄は、野心家過ぎるのです…」


 「…」


 「…それを、見抜かれて、利用された…」


 「…利用された?…」


 聞き捨てならない言葉だ…


 思わず、声に出して、聞いた…


 「…誰に?…」


 「…五井西家の方に…」


 それは、わかっている…


 そう、言いたかった…


 それゆえ、思わず、肩の力が抜けた…


 拍子抜けした…


 これは、期待し過ぎた…


 このハルカが、なにを言うのか、期待し過ぎた…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 が、


 このハルカは、さらに、続けて、


 「…それと、藤原さん…」


 と、言った…


 「…藤原さん? 藤原ナオキさんのこと? アナタと、結婚会見をした?…」


 「…いえ、別の藤原さんです…女性です…」


 「…女性?…」


 「…ハイ…」


 「…どんな女性?…」


 「…詳しくは知りません…ですけれど、昔、私が、ウソの結婚会見をした、藤原ナオキさんと、付き合っていたか、結婚していたか、どっちか…」


 仰天した…


 ユリコのことだ…


 このハルカが、言わんとすることは、ユリコのことだ…


 まさか、ここで、ユリコの名前が出るとは、思わなかった…


 夢にも、思わなかった…


 いや、


 前兆はあった…


 それは、以前、このハルカの兄の長谷川センセイが、ユリコといっしょに、スーパーにいるところを、見たことがあった…


 あのときは、なぜ、長谷川センセイが、ユリコといっしょにいるのか、わからなかった…


 二人が、接点があるとは、思わなかったからだ…


 しかしながら、冷静になって、考えると、接点はあった…


 それは、私の入院…


 長谷川センセイは、外科医…


 五井記念病院の私の担当医…


 私が、ジュン君の運転するクルマに、はねられて。五井記念病院に入院したときに、あのユリコは、私を見舞った…


 ジュン君は、ユリコの息子だからだ…


 私が、ジュン君の運転するクルマに轢かれたことで、当然、ジュン君は、罪を負う…


 そのときに、私に、ジュン君の罪を軽減してもらいたいと、考え、私を見舞ったのだ…


 私が、ジュン君を子供の頃から、母親代わりに面倒を見ていたから、裁判で、私が、ジュン君を宥恕(ゆうじょ)すると、言ってもらいたかったのだ…


 宥恕(ゆうじょ)=許すと言ってもらいたかったのだ…


 そうすれば、刑が軽くなる…


 ユリコは、それを、狙ったのだ…


 それゆえ、私を見舞った…


 ユリコは、天敵の私を見舞った…


 息子のジュン君のために、私を見舞った…


 私は、今、それを、思い出した…


 思い出したのだ…


 そして、まだ、このハルカが、口にしていないこと…


 ハルカが、口にした人物の名前を、口にした…


 「…それって、ユリコさん? 藤原ナオキさんの元の奥様?…」


 私が、言うと、当然のことながら、目の前のハルカが、無言で、コクンと、首を縦に振った…


 これで、確定だった…


 ユリコで、確定だった…


 私の天敵のユリコで、確定だった…


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