寿綾乃という女 第4部 132
物事が、動き出した…
と、同時に、来るべきものが、来たとも、思った…
あのハルカから、電話が来た…
私に、電話が来た…
冷静に考えれば、驚くことではない…
なぜなら、あのハルカは、ナオキと結婚会見をした…
ウソの結婚会見をした…
だから、ナオキの事実上の妻である、私に詫びの電話が来ても、おかしくはない…
…実は、こういうことで…
と、いう詫びの電話が来ても、おかしくはない…
ナオキの事実上の妻である、私に詫びても、おかしくはない…
それに、詫びというのは、直接、会って、詫びるのが、筋…
電話で、一言、二言、詫びるだけでは、非礼…
相手に、非礼だからだ…
だから、ハルカが、私に会いたいと言うのは、わかる…
実に、わかるのだ…
が、
同時に、気付いたのは、かつて、マミさんが、言った言葉…
私に対して、警告した言葉だ…
それは、なにか?
それは、マミさんが、あのハルカについて、
「…あのハルカには、謎がある…」
と、言ったことだ…
私に対して、警告したことだ…
その謎が、なんなのか、私には、わからない…
当然、マミさんも、わからない様子だった…
私に対して、警告した時点では、わからない様子だった…
それゆえ、マミさんに、連絡してみるか、どうか、考えた…
あのハルカから、直接、私に会いたいという連絡が、あったと、いうことを、伝えてみるか、考えた…
が、
躊躇った…
なぜ、躊躇ったのか?
それは、今、伸明と距離を置こうとしているから…
これからは、なるべく、伸明とは、会うまいと、思っているから…
だから、伸明の妹のマミさんとも、会うまいとも、思った…
マミさんと、会うということは、伸明と、まだ繋がっていると、いうのと、同じだ…
マミさんに、罪はないが、マミさんと会うことで、伸明と繋がるのは、困る…
どうしても、伸明のことが、忘れられなくなりそうだからだ…
だから、一度、伸明と寝た方が、良かったのでは?
とも、考えた…
ふいに、脳裏に受かんだ…
なぜ、そんなバカなことを、考えたのか?
それは、簡単…
巷で、よく言われるのが、男と女の違い…
どんな美女でも、男は、一度、その美女と、寝れば、目的を遂げたと、考える男が、多いのに、対し、女は、真逆…
その男と、初めて、寝たことで、この男と、これから、始まると、考える女が、多いという事実だ…
つまりは、男は、女と寝ることで、その女とは、もう終わったと考えるのに、対し、女は、この男と、親密になったのだから、これからは、いっしょに、生きてゆこうと、考える…
一方は、終わり…
一方は、始まり…
と、考える…
それゆえ、真逆…
男と女は、真逆だ…
そして、これを、私と伸明に当てはめれば、私が、伸明と、寝れば、伸明は、目的を遂げた…
そう、思って、私に興味がなくなる可能性もある…
だから、伸明と、寝れば、良かったと、思った…
思ったのだ…
まさか、伸明が、私と寝ることを目的で、これまで、私と付き合ってきたとは、思えないが、仮に、私と寝ることが、目的だったとしたら、その目的が、叶ったから、すっぱり、私と縁を切っても、おかしくない…
そう、思ったのだ…
そして、そんなバカなことを、思っていると、以前、伸明の実母の昭子が、私に直接、
「…寿さん、まだ、伸明と寝ていないんでしょ?…」
と、言った言葉を思い出した…
私は、あのとき、あまりにも、あからさまに、言われたので、絶句したが、もしかしたら、あのとき、昭子が、言いたかったのは、
「…だから、まだ、伸明は、私と付き合っている…」
と、言いたかったのかも、しれない…
伸明は、まだ、私と寝るという目的を果たしていないから、付き合っていると、暗に言いたかったのかも、しれない…
それに、私は、気付かなかった…
それだけかも、しれない…
伸明は、誰が、見ても、真面目に見えるが、本当のところは、わからない…
裏の顔と言えば、大げさだが、わからない…
女の好みが、わからないからだ…
これは、女も同じだが、仲の良い女でも、案外、男の好みは、わからないことが、多い…
それは、なぜか?
それは、その友人と、一切、男の話は、しないから…
ハッキリ言えば、異性の話題をする、相手ではない…
仕事の話だったり、今度、どこどこに行こうと、遊びの話をすることは、ある…
だが、異性の話をすることはない…
そんな話をする関係ではないからだ…
だから、相手の異性の好みが、わからない…
そういうことだ…
そして、これは、お堅い職場では、ありがちなこと…
大学の研究室だったり、つまりは、高学歴の人間が集まるところでは、ありがちのことだ…
それは、FK興産にも現れていた…
ナオキは、高学歴…
FK興産を、創業した、初期のメンバーも、皆、高学歴だった…
偏差値の高い大学を、皆、卒業していた…
だから、皆、男だったが、あからさまに、女の話は、しなかった…
皆、仕事に夢中だったから、しなかった…
つまりは、若い男たちのエネルギーが、すべて、仕事に注がれていたから、しなかった…
あるいは、その余裕が、なかったというのが、正しいのかも、しれない…
ナオキは、すでに、ユリコと結婚していたが、女好きでは、なかった…
後に、女好きになったのは、成功したから…
成功して、金回りが、よくなって、女に、モテ出した…
それゆえ、女から、チヤホヤされたから、女好きになった…
まあ、これは、男も女も、同じ…
金のあるところには、異性が、寄ってくるものだからだ…
それは、男も女も、同じ…
同じだ…
だから、伸明にも、女たちが、たくさん、言い寄ってくるだろう…
そんな中で、伸明が、私にこだわるのは、ただ、単にまだ私と寝ていないだけ…
それだけの理由かも、しれない(苦笑)…
もちろん、本当のところは、わからない…
伸明と仲のいいナオキに聞いても、わからないかも、しれない…
今、挙げた例ではないが、いかに、伸明とナオキが、仲が良くても、そんな話は、一切しない可能性が、あるからだ…
だから、ナオキに聞いても、わからないかも、しれない…
伸明が、本当は、なにを考えているか、わからないかも、しれない…
伸明が、私にこだわる理由も、わからないかも、しれない…
私は、思った…
私は、考えた…
翌日、ハルカから、電話があり、会う日が、決まった…
と言っても、私にとっては、どうでも、よかった…
どうでもよかったと言うのは、いつでも、良かったと言うこと…
なにしろ、今、私は、無職…
働いていない…
だから、暇…
暇だ…
それゆえ、いつでも、良かったのだが、唯一、困るのが、体調のこと…
それは、当日に、なってみなければ、わからないからだ…
仮にだが、ハルカに会っている最中に、体調を崩して、救急車で、運ばれるようなことが、あったら、困る…
まさか、そんなことはないと、思いたいが、こればかりは、わからない…
なってみなければ、わからない…
この前は、伸明の家に行ったが、あのときは、伸明の家の運転手の方が、送迎をしてくれた…
送り迎えをしてくれた…
また、伸明は、お金持ち…
だから、仮に、伸明と、いっしょにいるときに、なにか、あっても、すぐに、救急車を呼んでくれる…
そんな安心感が、あった…
だから、不安なく、伸明の家に、出かけた…
が、
今回は、違う…
それゆえ、慎重になる…
自分の行動に、慎重になる…
そして、そんなことを、考えながら、
…私も歳を取ったな…
と、思った…
心の底から、思った…
これが、若ければ、違う…
あまり、考えることなく、外に出かける…
今回のように、深く、考えない…
ただ、近所の店で、ハルカに、会うだけだ…
まさか、そこで、なにか、起こるわけは、あるまいと、簡単に考える…
それが、若さ…
若さだ…
若いゆえに、深く考えない…
出たとこ勝負とまでは、言わないが、そこまで、深く考えない…
思慮が浅いと言えば、それまでだが、それが、若さ…
若さに、他ならない…
そして、それを、思えば、考えるのが、私が、上京したとき…
田舎から、都会に、上京したとき…
私は、ひとりぼっちだった…
蜘蛛の糸ほど、縁の薄い親戚を頼って、上京した…
が、
やはり、うまくいかない…
それが、偶然、バイトの紹介で、ナオキと知り合い、そのうち、ナオキの妻であったユリコが、失踪…
幼いジュン君の面倒をみるものが、誰もいないので、私が、ユリコの代わりに、ナオキの家庭に入り、ジュン君の面倒をみた…
同時に、私は、居場所を確保した…
上京して、初めて、居心地の良い、居場所を確保した…
そして、これは、運…
運に他ならない…
ただ、ただ、運が良かったに他ならない…
若いゆえに、大した考えもなく、ひとりぼっちで、田舎から、上京した…
誰が、考えても、うまく、いくとは、思えない…
この先、うまくいくとは、思えない…
傍から、見れば、思えない…
にも、かかわらず、うまくいった…
ホントなら、風俗か、どこかで、働く羽目になっても、おかしくはない…
それが、うまくいった…
偶然、うまくいった…
これは、運…
運の良さに、他ならない…
よく、成功したひとたちが、言う言葉…
それと、同じだ…
芸能人でも、経営者でも、サラリーマンでも、成功した人間は、皆、運に恵まれたという…
同時に、ひとに、恵まれたと言う…
それは、なぜか?
それは、学歴ならば、自分より、明らかに、頭が、良かったり、ルックスならば、やはり、自分より上の人間が、自分のように、うまくいかなかった事例をたくさん、見ているからに、他ならない…
だから、自分は、うまくいったと考える…
学歴でも、ルックスでも、自分より、上の人間が、うまくいかなかった事例を、たくさん、見ているから、そう、言える…
学歴やルックスは、わかりやすい…
が、
それが、優れていれば、必ずしも、成功した人生が、送れるわけではない…
現に、自分が、知り合った美人の女性が、いい歳をして、独身だったり、頭が、良くても、出世ができない人間は、世間には、ごまんといるからだ…
もちろん、人柄もある…
人柄が、悪い人間が、いくら美人だったり、頭が良かったりしても、人生が、うまくいかないのは、わかるが、大抵は、それはない…
性格も普通…
良くも悪くもない…
だが、うまくいかない…
美人や高学歴でも、結婚が、できなかったり、出世ができなかったり、するものだからだ…
だから、運を考える…
大げさに言えば、運勢を考える…
自分の運命を考える…
私は、これまで、うまくいった…
人生が、うまくいった…
自分で言うのも、なんだが、ひとが、羨む美人に生まれ、今、他人並み以上の生活をしている…
だから、うまくいった…
人生が、うまくいった…
その反面、体調に不安を抱えている…
癌患者…
おまえに、先日は、軽い脳梗塞で、倒れた…
まだ、32歳という若さのわりに、カラダは、満身創痍…
まさに、傷だらけの身だ(苦笑)…
だから、他人は、私を羨むかも、しれないが、内面は、ボロボロ…
ボロボロだ…
が、
私は、これで、いいとも、思う…
それは、なぜか?
それは、バランスが、取れているから…
美人に、生まれ、お金にも、恵まれた…
にもかかわらず、若くして、病に蝕まれている…
それで、バランスが取れている…
だから、安心する…
世の中、そんなにいいことばかりじゃないとわかって、安心するからだ…
そして、それは、突き詰めれば、私が、貧乏だったから…
それゆえ、成功に、慣れてないからだと、思う…
生まれつき、お金持ちの家に生まれ、ルックスも、よく生まれる…
そうなれば、ひとが、チヤホヤするのが、当たり前…
本人も、それが、当たり前に感じるからだ…
だが、私は、違う…
成功に慣れていない…
だから、カラダが、病に侵されていても、納得する…
世の中、そんなに、うまくいかないと、納得するのだ…
これは、貧乏人の僻み…
そうかも、しれない…
ただ、私は、そう、考える…
そう、考えるのだ…




