↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
129/225

寿綾乃という女 第4部 129

 そして、眠りに入った後だ…


 衝撃の出来事があった…


 母が、夢に出て来たのだ…


 亡くなった母が、夢の中に、出て来たのだ…


 私は、夢は、見ない…


 滅多に、見ない…


 これは、ずっと以前、FK興産にいたときに、周囲のひとたちに、聞いたことがあるが、夢というものは、見るひとと、見ない、ひとが、いるらしい…


 要するに、体質の違いとでも、いえば、いいのだろうか?


 私に言わせれば、私は、夢は、滅多に見ない…


 それが、夢の中に、母が、出て来たから、驚いた…


 そして、私自身、夢の中で、これが、夢だと、認識していた…


 強く、認識していた…


 夢の中で、母が、


 「…綾子…大丈夫?…」


 と、優しく、私に尋ねた…


 次いで、


 「…苦労は、していない? いいひと、見つかった?…」


 と、聞いてきた…


 私は、間髪入れず、


 「…大丈夫…」


 と、笑って言った…


 「…大丈夫よ、お母さん…」


 と、笑って、言った…


 しかしながら、全然、大丈夫ではない(涙)…


 癌が見つかり、オーストラリアまで、行き、まだ日本で、承認されていない、最新の癌治療を施したが、癌が、消えることは、なかった…


 癌が、小さくなっただけだ…


 幸い、日常生活には、たいした影響は、ない…


 しかしながら、癌持ち…


 癌持ちの身だ…


 生活に影響がないとはいえ、まったく影響が、ないわけではない…


 いわば、爆弾を抱えているようなもの…


 カラダの中に、爆弾を抱えているようなものだ…


 いつ、爆発するか、わからない爆弾を抱えているようなものだ…


 それゆえ、怖い…


 もしかしたら、爆発するかもと、考えると、怖い…


 私は、今のままでは、癌といっしょに、生きてゆくしかない…


 今の時代、そんな癌患者は、珍しくない…


 それは、医療が、発達したから…


 ずっと以前だったら、治せない癌が、治せるようになったり、あるいは、現状維持に、留めることが、できるようになったからだ…


 だから、私も生きている…


 普通に、生きている…


 が、

 

 怖い…


 本音では、怖い…


 母は、そんな私の状況を察したのだろう…


 「…綾子…相変わらず、ウソが下手ね…」


 と、笑った…


 私は、なにも、言えなかった…


 その通り…


 その通りだからだ…


 母は、私のウソを容易に見抜く…


 母ひとり、子ひとりで、育った…


 誰にも、頼ることなく、育った…


 だから、当たり前かも、しれない…


 母が、私のウソをたやすく見抜くのも、当たり前かも、しれない…


 「…ウソをつくのは、いい…でも、心配されるようなウソをついちゃ、ダメよ…」


 夢の中で、母が、言った…


 実に、しんみりと、言った…


 私は、なにも、言えなかった…


 なにも、言い返せなかった…


 その通り…


 その通りだったからだ…


 そして、夢の中にいながら、私は、どうして、こんな夢を見るんだろ?


 と、思った…


 思ったのだ…


 母は、いつも偉大…


 私の中で、偉大な存在だった…


 おおげさに言えば、神様や、仏様に次いで、偉大な存在だった…


 いや、


 神様や、仏様、以上の存在だった…


 それは、神様や仏様が、現実に、存在するか、どうかは、わからないから…


 それに比べて、母は、存在する…


 いつも、私を溺愛してくれた、唯一の存在だからだ…


 だから、神様以上、仏様以上の存在だった…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…綾子…無理をしちゃ、ダメ!…」


 と、母が、私を諭した…


 「…悲しいときは、泣きなさい…辛いときは、泣きなさい…そして、一刻も早く、綾子を守ってくれる男のひとを探しなさい…たとえ、綾子を守れなくても、いい…誰よりも、綾子を愛してくれるひと…綾子を心配してくれるひとを、探しなさい…」


 そう、言って、母は、私の前から、去った…


 夢が、終わった…


 あるいは、まだ、なにかが、あったかも、しれないが、覚えていない…


 深夜に、なって、目覚めたときに、思い出した…


 母の言葉を思い出した…


 そして、なぜ、私は、そんな母の夢を見たのか、考えた…


 すぐに、わかった…


 それは、私が、自分に言いたかった言葉だったからだ…


 他でもない、自分自身に言いたかった言葉だったからだ…


 それを、母が、言ってくれた…


 夢の中で、私の代わりに、言ってくれた…


 そう、思った…


 そう、気付いた…


 おそらく、今日、昼間、会った伸明が、平然と、あのハルカに、金を握らせて、ウソの結婚会見を依頼したということに、ショックを受けたのだろう…


 考えてみれば、当たり前のことだが、それを、実際に伸明の口から聞いて、ショックを受けた…


 それゆえ、それを心配した、もうひとりの私が、夢の中で、母の姿になって、


 「…綾子…大丈夫?…」


 と、自分自身を、慰めた…


 それが、真相だろう…


 そう、気付いた…


 そして、それに、気付くと、


 …そんなに、ショックだったのか?…


 と、自分自身に、驚いた…


 伸明のやったことは、当たり前…


 世間では、当たり前の出来事だ…


 誰もが、やることだ…


 しかしながら、それを、伸明が、したとなると、ショックだった…


 それは、やはり、伸明を神聖視していると、言うと、大げさだが、五井家当主がすることではないと、思ってしまう…


 大げさに言えば、当主は、手を汚さない…


 周囲の人間が、当主が、指示しなくても、自分の意思で、当主の手を汚すことなく、やれば、いいだろうと、思ってしまう…


 要するに、当主は、世間ずれしていない…


 当主は、無垢な存在で、あって、もらいたい…


 そう、思ってしまう…


 我ながら、子供じみた考えだが、そう、考えてしまう…


 そういうことだ…


 そして、夜中に、目が覚めて、そんなことを、考えた…


 そんなことに、気付いた…


 相変わらず、バカな女…


 夜中に、目が覚めて、そんなことを、考えてしまう…


 そんなバカなことを、考えてしまう…


 まさに、バカ…


 大バカ…


 私は、自分自身を思った…


 自分自身を思ったのだ…


 

 朝になって、目が覚めると、やはりというか、昨夜、起きたときに、考えたことを、再び、考えた…


 伸明と、縁が切れた…


 それを、思った…


 昨日の一件で、縁が切れた…


 そう、思った…


 少々、残念な気がするが、そう、思った…


 が、


 これでいいとも、思った…


 所詮は、身分違いの恋…


 付き合いを続けていても、どうにか、なるものではない…


 なまじ、付き合いが、長くなれば、自分が、惨めになるだけ…


 もしかしたら、伸明と、結婚できるかも、しれない…


 しかしながら、当然のことながら、それは、無理…


 それは、できない…


 そして、それを、考えると、以前も言ったFK興産が、まだ小さかった頃に入社した高卒の男のコ…


 周囲には、偏差値の高い、大学を出た高学歴の社員が、いるにも、かかわらず、自分は、出世できると、豪語した男のコ…


 それと、同じだ…


 今の私は、同じだ…


 その男のコは、与えられた仕事が、忠実に、できるから、将来、出世できると、考えていた…


 周囲の人間たちと、自分の差が、わからない…


 頭の差がわからない…


 それゆえ、与えられた仕事を、うまく、こなせれば、次のステージに行ける…


 出世できると、考えていた…


 が、


 しかし、その男のコと同じ頭の持ち主で、偉くなったものは、いない…


 まだ、会社は、小さかったが、それでも、いなかった…


 にも、かかわらず、その男のコは、自分が、出世できると、思っていた…


 すでに、ポジションを与えられた周囲の人間たちと、自分の頭の差に、気付かなかった…


 これは、ある意味、笑えるし、同時に、惨でもある…


 誰も、その男のコが、将来、出世できるなんて、周囲のものは、誰一人、考えても、みないからだ…


 そして、それは、同じ…


 今の私も、同じだ…


 おそらく、私を見て、あの伸明と結婚できるなんて、誰も、思っていないだろう…


 今、倒れて、入院中の、伸明の叔母の諏訪野和子…


 そして、和子の双子の姉であり、伸明の母である昭子も、私を嫌っていない…


 私を伸明の妻として、認めてくれる…


 演技ではなく、私を認めてくれている…

 

 私は、そう、思っている…


 が、


 それは、彼女らだけ…


 当事者の伸明も、私を嫌いではないかも、しれないが、それでも、たぶん、結婚は、できない…


 なぜなら、身分違いも、甚だしいから…


 それゆえ、周囲が、反対する…


 五井一族が、反対する…


 当たり前のことだ…


 下手をすれば、一族全員を敵にまわしかねない…


 それが、わかっていて、私と結婚することなど、伸明には、できない…


 今までも、何度も、伸明との結婚を考えたが、そこまで、考えることは、なかった…


 それは、なぜか?


 それは、おそらく、私自身、無意識に、そこまで、考えなかったのかも、しれない…


 私自身、意識は、していないが、無意識に、避けていたのかも、しれない…


 自分に都合の悪いことは、考えないように、していたのかも、しれない…


 だから、同じ…


 ずっと以前、FK興産にいた、高卒の男のコと、同じだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 要するに、バカ…


 救いようのないバカだった(涙)…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。