寿綾乃という女 第4部 128
が、
当然、そんな思いを、態度を見せることは、なかった…
伸明の前で、見せることは、なかった…
私とて、子供ではない…
すでに、32歳…
酸いも甘いも嚙み分けた、32歳だ…
ただ、落胆したのは、確か…
確かだ…
だから、そんなに長くは、この場にいたくなかった…
率直に、言って、伸明に興味がなくなったとまでは、いわないが、興味が半減したというのが、正しい…
だから、後は、適当に相槌を打って、会話を盛り上げて、帰ることにした…
そうすれば、伸明に失礼ではないからだ…
そして、たぶん、それは、伸明も、同様だった…
伸明も、同じだった…
伸明が、今日、私を自宅に招いた目的は、私に、あの団郁馬が、接触する可能性が、高いから、気をつけろと、言いたかっただけ…
それだけだ…
それゆえ、それが、言い終われば、目的は、終了…
今日、私を、このお屋敷に招いた目的は、終了だ…
また、会話も、盛り上がらなかった…
あるいは、私が、一気に伸明に興味をなくしたことが、伸明にわかったのかも、しれない…
私は、女優でも、なんでもないのだから、興味がなくなった人物に、興味があるフリは、できないからだ…
そして、たぶん、それは、伸明も同じ…
同じだ…
自分に興味がなくなった女に、興味はないのだろう…
それが、態度に出ていた…
私は、互いに、話が、尽きたのを、機に、
「…今日は、これで…」
と、言って、席を立った…
「…今日は、伸明さんと、ごいっしょして、実に、楽しい時間を過ごせました…」
と、語った…
もちろん、ウソ…
ウソに決まっている(爆笑)…
最初の頃は、そうでもなかったが、途中で、伸明が、ハルカに頼んで、偽の結婚会見を仕組んだことを語ったことで、伸明に、一気に幻滅…
伸明に興味がなくなった…
そして、たぶん、それが、態度に出たのだろう…
それを、境に、会話が、盛り上がらなくなった…
それゆえ、伸明も、私を引き留めることなく、私同様、座っていたソファから、立ち上がり、
「…いえ、ボクの方こそ、今日は、楽しかったです…」
と、私に礼を言った…
もちろん、社交辞令…
本音ではない…
もしかしたら、互いに、互いの興味がなくなったのかも、しれない…
とにかく、それを最後に、この部屋を出た…
この屋敷を出た…
出る途中に、お手伝いさんを、見た…
数人、見た…
やはり、いるのかと、思った…
こんな大きなお屋敷だ…
当然、一人では、管理できない…
それゆえ、お手伝いさんが、数人いるのは、わかっていて、伸明に、聞いたときも、それを、肯定したが、実際に、目にするのは、初めて…
初めてだった…
そして、それから、外に出て、クルマで、待っていた運転手の男性に、自宅まで、送って、もらった…
この運転手の男性は、きっと、伸明から、電話で、私が、帰るのを、聞いたのだろう…
私が、このお屋敷に、何時に来たのかは、忘れたが、まさか、それまで、このクルマの中で、私を待っていたとは、考えられないからだ…
だから、伸明から、連絡を受けて、クルマで、私を待っていたと、思った…
そして、そのクルマで、私を自宅まで、送ってくれた…
そして、最初に、私を、迎えに来てくれたときも、そうだったが、この運転手の男性は、無口だった…
一言も、口を利かなかった…
それは、おそらく、むやみやたらに、送迎するひとたちと、口を利かないように、伸明から、言われているのだろう…
やはり、口を開けば、どうしても、余計なことを、話して、しまう…
この運転手の男性は、主に、伸明のプライベートの友人や知人を送迎するために、いる可能性が、高い…
となれば、伸明のプライベートは、丸見え…
どんな男や女を自宅に、招いたか、丸わかりだからだ…
それゆえ、
「…運転手さん、どんな方たちを、今日の私を送り迎えしたように、あのお屋敷まで、招いたんですか?…」
と、私が、聞いて、ペラペラしゃべるようでは、困る…
また、当たり障りのない会話を続けることは、できるが、それを、きっかけに、実は、話してはいけない話を漏らしでも、したら、困る…
そのためには、極力、なにも、話さない方が、いい…
たわいもない、世間話ひとつも、しない方が、いい…
そこから、うっかりして、伸明が、知られては、困ることを、漏らされでも、したら、堪らないからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
結局、自宅まで、ほぼ、無言で、過ごした…
聞いた言葉と、言えば、自宅付近まで、やって来て、
「…お着きしました…」
と、いう言葉ぐらいだ…
私は、
「…ありがとうございました…」
と、礼を言って、クルマから、降りた…
ようやく、自宅に着いた…
正直、自宅に着いて、ホッとした…
なにしろ、酒を飲んでいるから、酔っぱらっている…
私は、酒は、強くも、弱くもないが、それでも、真っ昼間から、酒を飲んで、クルマで、自宅まで、戻る、経験は、めったに、あるものでは、ないからだ…
私は、自宅に、戻ると、真っ先に、ベッドのところに、行き、そこに、横になった…
正直、気持ちがいい…
率直に、言って、伸明の家にいる間は、緊張した…
ずっと、緊張の連続だった…
だから、酒にも、酔わない…
緊張しているから、酔いにくい…
が、
それが、用意された、クルマで、自宅まで、戻って来ると、その反動からか、一気に、酔いが、回ってきた…
同時に、気持ちが悪くなった…
私は、慌てて、トイレに行き、吐いた…
今日、伸明の自宅で、食べたもの、飲んだものを、全部、胃の中から、吐き出した…
それで、全部、掃き出すと、気分が、良くなったが、トイレの便器の中を見ると、たった今、私が、吐いた汚物が、いっぱいある…
それを、見て、正直、気分は、悪くなったが、同時に、それを、見ることで、なんだか、伸明と縁が切れた気持ちがした…
なにしろ、伸明のお屋敷で、頂いたものを、すべて、吐き出したからだ…
我ながら、バカげた考えかもしれないが、そう、思った…
そう、思いながらも、酔いで、カラダが、ふらついた…
やはり、自宅に戻ると、ダメだ…
一気に、緊張感がなくなる…
外で、他人に、見られているから、いい…
自宅で、誰も、私を見ていないことが、わかると、一気に緊張感がなくなる…
それまで、緊張感からか、多少、酔っていても、少しも、気持ちが悪くなかったのが、ウソのように、酔いが、回ってきた…
そして、吐いた…
当たり前だが、私は、あの伸明といっしょに、いると、実に、緊張する…
それが、わかった…
嫌でも、わかった…
そして、ふいに、ナオキを思い出した…
私の事実上の夫の藤原ナオキのことを、思い出した…
ナオキといるときは、緊張することがない…
おそらく、初めて、会ったときから、緊張しなかったのかも、しれない…
そして、それは、なぜかと、問われれば、若かったから…
それが、答えだろう…
まだ、高校生と若かったから、緊張しなかった…
若さ=無鉄砲だからだ…
それが、今、32歳になり、あの頃と、ほぼ、倍の年齢になった…
大人になった…
それゆえ、怖さが、わかるようになったというか…
凄さが、わかるように、なったと言っていい…
だから、緊張する…
伸明に対して、緊張する…
これと、似た例が、ずっと、以前、FK興産が、まだ小さかった頃に、入社した高卒の男のコ…
ただ、与えられた仕事ができるから、オレは、偉いと、周囲に、豪語していた…
早稲田も、東大も、関係ない…
学歴は、関係ない…
与えられた仕事を完璧に、こなせるから、オレは、凄いと、豪語していた…
それは、それで、間違ってはいないのだが、普通は、周囲の人間を見る…
周囲の頭の良い人間と、自分の違いを考える…
その男のコが、それが、できなかった…
そして、それが、できなかったのは、まだ、会社が、小さかったから…
それが、会社が、急成長をして、頭の良い、人間ばかりになった…
学歴の高い人間ばかりになった…
そして、その男のコも、少しは、歳を取って、自分と周囲の人間の頭の差に気付く…
結果、いなくなった…
会社を、退職した…
そして、それは、また、自分も、同じかも、しれない…
この私も同じかも、しれない…
そう、気付いた…
なにが、同じなのか?
それは、伸明の凄さに、気付かないこと…
ナオキの凄さに、気付かないことだ…
若いから、気付かない…
頭の違いに、気付かない…
生まれの違いに気付かない…
自分と大差ないと、思ってしまう…
今、振り返れば、バカ丸出し…
まさに、バカ丸出した…
だから、女子高生のときに、ナオキと会ったときも、緊張しなかった…
高学歴のナオキに会っても、緊張しなかった…
大した偏差値のない高校にいても、緊張しなかった…
それは、ナオキの凄さがわからないから…
だから、緊張しなかった…
それが、今は、32歳…
少しは、世間がわかるように、なってきた(笑)…
それゆえ、伸明の凄さも、わかるように、なってきた…
だから、緊張した…
伸明を前にして、緊張した…
そういうことだ…
そして、そんなことを、思いながら、またも、寝室に向かった…
ベッドに向かった…
酔いが、カラダに回って、立っているのも、しんどい…
トイレで、吐いたから、スッキリしたが、酔っていることに、変わりはない…
ベッドに勢いよくカラダを、投げ出して、寝た…
実に、気持ちがいい…
実に、爽快だ…
そう、思っていると、いつのまにか、うたた寝した…
深い眠りに入った…




