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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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128/225

寿綾乃という女 第4部 128

 が、


 当然、そんな思いを、態度を見せることは、なかった…


 伸明の前で、見せることは、なかった…


 私とて、子供ではない…


 すでに、32歳…


 酸いも甘いも嚙み分けた、32歳だ…


 ただ、落胆したのは、確か…


 確かだ…


 だから、そんなに長くは、この場にいたくなかった…


 率直に、言って、伸明に興味がなくなったとまでは、いわないが、興味が半減したというのが、正しい…


 だから、後は、適当に相槌を打って、会話を盛り上げて、帰ることにした…


 そうすれば、伸明に失礼ではないからだ…


 そして、たぶん、それは、伸明も、同様だった…


 伸明も、同じだった…


 伸明が、今日、私を自宅に招いた目的は、私に、あの団郁馬が、接触する可能性が、高いから、気をつけろと、言いたかっただけ…


 それだけだ…


 それゆえ、それが、言い終われば、目的は、終了…


 今日、私を、このお屋敷に招いた目的は、終了だ…


 また、会話も、盛り上がらなかった…


 あるいは、私が、一気に伸明に興味をなくしたことが、伸明にわかったのかも、しれない…


 私は、女優でも、なんでもないのだから、興味がなくなった人物に、興味があるフリは、できないからだ…


 そして、たぶん、それは、伸明も同じ…


 同じだ…


 自分に興味がなくなった女に、興味はないのだろう…


 それが、態度に出ていた…


 私は、互いに、話が、尽きたのを、機に、


 「…今日は、これで…」


 と、言って、席を立った…


 「…今日は、伸明さんと、ごいっしょして、実に、楽しい時間を過ごせました…」


 と、語った…


 もちろん、ウソ…


 ウソに決まっている(爆笑)…


 最初の頃は、そうでもなかったが、途中で、伸明が、ハルカに頼んで、偽の結婚会見を仕組んだことを語ったことで、伸明に、一気に幻滅…


 伸明に興味がなくなった…


 そして、たぶん、それが、態度に出たのだろう…


 それを、境に、会話が、盛り上がらなくなった…


 それゆえ、伸明も、私を引き留めることなく、私同様、座っていたソファから、立ち上がり、


 「…いえ、ボクの方こそ、今日は、楽しかったです…」


 と、私に礼を言った…


 もちろん、社交辞令…


 本音ではない…


 もしかしたら、互いに、互いの興味がなくなったのかも、しれない…


 とにかく、それを最後に、この部屋を出た…


 この屋敷を出た…


 出る途中に、お手伝いさんを、見た…


 数人、見た…


 やはり、いるのかと、思った…


 こんな大きなお屋敷だ…


 当然、一人では、管理できない…


 それゆえ、お手伝いさんが、数人いるのは、わかっていて、伸明に、聞いたときも、それを、肯定したが、実際に、目にするのは、初めて…


 初めてだった…


 そして、それから、外に出て、クルマで、待っていた運転手の男性に、自宅まで、送って、もらった…


 この運転手の男性は、きっと、伸明から、電話で、私が、帰るのを、聞いたのだろう…


 私が、このお屋敷に、何時に来たのかは、忘れたが、まさか、それまで、このクルマの中で、私を待っていたとは、考えられないからだ…


 だから、伸明から、連絡を受けて、クルマで、私を待っていたと、思った…


 そして、そのクルマで、私を自宅まで、送ってくれた…


 そして、最初に、私を、迎えに来てくれたときも、そうだったが、この運転手の男性は、無口だった…


 一言も、口を利かなかった…


 それは、おそらく、むやみやたらに、送迎するひとたちと、口を利かないように、伸明から、言われているのだろう…


 やはり、口を開けば、どうしても、余計なことを、話して、しまう…


 この運転手の男性は、主に、伸明のプライベートの友人や知人を送迎するために、いる可能性が、高い…


 となれば、伸明のプライベートは、丸見え…


 どんな男や女を自宅に、招いたか、丸わかりだからだ…


 それゆえ、


 「…運転手さん、どんな方たちを、今日の私を送り迎えしたように、あのお屋敷まで、招いたんですか?…」


 と、私が、聞いて、ペラペラしゃべるようでは、困る…


 また、当たり障りのない会話を続けることは、できるが、それを、きっかけに、実は、話してはいけない話を漏らしでも、したら、困る…


 そのためには、極力、なにも、話さない方が、いい…


 たわいもない、世間話ひとつも、しない方が、いい…


 そこから、うっかりして、伸明が、知られては、困ることを、漏らされでも、したら、堪らないからだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 結局、自宅まで、ほぼ、無言で、過ごした…


 聞いた言葉と、言えば、自宅付近まで、やって来て、


 「…お着きしました…」


 と、いう言葉ぐらいだ…


 私は、


 「…ありがとうございました…」


 と、礼を言って、クルマから、降りた…


 ようやく、自宅に着いた…


 正直、自宅に着いて、ホッとした…


 なにしろ、酒を飲んでいるから、酔っぱらっている…


 私は、酒は、強くも、弱くもないが、それでも、真っ昼間から、酒を飲んで、クルマで、自宅まで、戻る、経験は、めったに、あるものでは、ないからだ…


 私は、自宅に、戻ると、真っ先に、ベッドのところに、行き、そこに、横になった…


 正直、気持ちがいい…


 率直に、言って、伸明の家にいる間は、緊張した…


 ずっと、緊張の連続だった…


 だから、酒にも、酔わない…


 緊張しているから、酔いにくい…


 が、


 それが、用意された、クルマで、自宅まで、戻って来ると、その反動からか、一気に、酔いが、回ってきた…


 同時に、気持ちが悪くなった…


 私は、慌てて、トイレに行き、吐いた…


 今日、伸明の自宅で、食べたもの、飲んだものを、全部、胃の中から、吐き出した…


 それで、全部、掃き出すと、気分が、良くなったが、トイレの便器の中を見ると、たった今、私が、吐いた汚物が、いっぱいある…


 それを、見て、正直、気分は、悪くなったが、同時に、それを、見ることで、なんだか、伸明と縁が切れた気持ちがした…


 なにしろ、伸明のお屋敷で、頂いたものを、すべて、吐き出したからだ…


 我ながら、バカげた考えかもしれないが、そう、思った…


 そう、思いながらも、酔いで、カラダが、ふらついた…


 やはり、自宅に戻ると、ダメだ…


 一気に、緊張感がなくなる…


 外で、他人に、見られているから、いい…


 自宅で、誰も、私を見ていないことが、わかると、一気に緊張感がなくなる…


 それまで、緊張感からか、多少、酔っていても、少しも、気持ちが悪くなかったのが、ウソのように、酔いが、回ってきた…


 そして、吐いた…


 当たり前だが、私は、あの伸明といっしょに、いると、実に、緊張する…


 それが、わかった…


 嫌でも、わかった…


 そして、ふいに、ナオキを思い出した…


 私の事実上の夫の藤原ナオキのことを、思い出した…


 ナオキといるときは、緊張することがない…


 おそらく、初めて、会ったときから、緊張しなかったのかも、しれない…


 そして、それは、なぜかと、問われれば、若かったから…


 それが、答えだろう…


 まだ、高校生と若かったから、緊張しなかった…


 若さ=無鉄砲だからだ…


 それが、今、32歳になり、あの頃と、ほぼ、倍の年齢になった…


 大人になった…


 それゆえ、怖さが、わかるようになったというか…


 凄さが、わかるように、なったと言っていい…


 だから、緊張する…


 伸明に対して、緊張する…


 これと、似た例が、ずっと、以前、FK興産が、まだ小さかった頃に、入社した高卒の男のコ…


 ただ、与えられた仕事ができるから、オレは、偉いと、周囲に、豪語していた…


 早稲田も、東大も、関係ない…


 学歴は、関係ない…


 与えられた仕事を完璧に、こなせるから、オレは、凄いと、豪語していた…


 それは、それで、間違ってはいないのだが、普通は、周囲の人間を見る…


 周囲の頭の良い人間と、自分の違いを考える…


 その男のコが、それが、できなかった…


そして、それが、できなかったのは、まだ、会社が、小さかったから…


 それが、会社が、急成長をして、頭の良い、人間ばかりになった…


 学歴の高い人間ばかりになった…


 そして、その男のコも、少しは、歳を取って、自分と周囲の人間の頭の差に気付く…


 結果、いなくなった…


 会社を、退職した…


 そして、それは、また、自分も、同じかも、しれない…


 この私も同じかも、しれない…


 そう、気付いた…


 なにが、同じなのか?


 それは、伸明の凄さに、気付かないこと…


 ナオキの凄さに、気付かないことだ…


 若いから、気付かない…


 頭の違いに、気付かない…


 生まれの違いに気付かない…


 自分と大差ないと、思ってしまう…


 今、振り返れば、バカ丸出し…


 まさに、バカ丸出した…


 だから、女子高生のときに、ナオキと会ったときも、緊張しなかった…


 高学歴のナオキに会っても、緊張しなかった…


 大した偏差値のない高校にいても、緊張しなかった…


 それは、ナオキの凄さがわからないから…


 だから、緊張しなかった…


 それが、今は、32歳…


 少しは、世間がわかるように、なってきた(笑)…


 それゆえ、伸明の凄さも、わかるように、なってきた…


 だから、緊張した…


 伸明を前にして、緊張した…


 そういうことだ…


 そして、そんなことを、思いながら、またも、寝室に向かった…


 ベッドに向かった…


 酔いが、カラダに回って、立っているのも、しんどい…


 トイレで、吐いたから、スッキリしたが、酔っていることに、変わりはない…


 ベッドに勢いよくカラダを、投げ出して、寝た…


 実に、気持ちがいい…


 実に、爽快だ…


 そう、思っていると、いつのまにか、うたた寝した…


 深い眠りに入った…


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