寿綾乃という女 第4部 125
その謎とは、なにか?
それは、ナオキとハルカの結婚…
それを、東都テレビで、流したことだ…
団郁馬の影響力のある、東都テレビで、流したことだ…
普通なら、できない…
それは、なぜか?
それは、団郁馬が、ハルカと、この伸明の結婚を望んでいたからだ…
だから、それを、裏切る結婚を、東都テレビで、流すことは、できない…
だったら、なぜ、流すことが、できたのだろうか?
考えた…
が、
当然、答えは、出ない…
それゆえ、伸明に聞くことにした…
「…伸明さん…」
と、伸明に、呼びかけて、聞くことにした…
「…なんですか?…」
「…さっき、ナオキと、ハルカさんの結婚について、言及しましたよね?…」
「…ハイ…しました…」
「…あの結婚の会見…どうして、東都テレビで、流すことが、できたんですか?…」
「…おっしゃる意味が、わかりませんが?…」
「…いえ、東都テレビは、団郁馬さんの支配下にありますよね? 団郁馬さんは、あのハルカさんと伸明さんの結婚を望んでいた…それが、どうして、ナオキと、ハルカさんの結婚の会見を、東都テレビで、流せたんですか?…」
私が、言うと、伸明は、驚いた…
驚いた顔をした…
質問が、あまりにも、意外だったのかも、しれない…
それから、一呼吸、置いてから、
「…あのハルカという女性を丸め込んだんですよ…」
と、笑った…
「…丸め込んだ?…」
「…そうです…」
「…」
「…藤原さんと、あのハルカさんが、結婚会見をする…ハルカさんの協力がなければ、できませんよ…」
当たり前だった…
「…だから、事前には、ボクとハルカさんの結婚会見だと、東都テレビには、伝えていた…だから、放送できた…」
伸明が、笑う…
つまりは、団郁馬を騙した…
事前には、伸明とハルカの結婚会見のように、言い、周囲に伝える…
が、
当日は、伸明の代わりに、ナオキが、出演する…
しかしながら、それを止めることは、おそらく、できない…
なぜなら、あの放送は、生放送だったから…
だから、止めることは、できない…
現場では、おそらく、事前に聞かされていた、伸明とハルカの結婚会見ではなく、ナオキが、伸明の代わりになったが、それでも、OKを出したのだろう…
なにしろ、ナオキは、有名人…
週一で、キャスターをしている有名人だ…
だから、下手をすれば、伸明と、ハルカの結婚より、話題になる…
なぜなら、伸明は、無名だからだ…
世間的な知名度は、なきに等しい…
それゆえ、伸明より、ナオキの方がいい…
ハルカの結婚相手としていい…
その方が、話題になり、視聴率が、上がるからだ…
だから、現場は受け入れた…
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
そして、そう、見ると、この伸明も策士…
策士だと、気付いた…
あらためて、気付いた…
当然、ただのボンボンではない…
ただの金持ちの息子では、ない…
そう、考えた…
そして、そう、考えると、昔、この伸明が言ったことを、思い出した…
ずっと、以前、この伸明と出会って、まもなく、深夜、伸明とデートをした…
クルマで、デートをした…
そのときに、伸明が言った…
学生時代、学校で、ハンパにされていたことを、私に、告白した…
なぜ、ハンパ=仲間外れにされたのか?
それは、この伸明が、金持ちだから…
スーパー金持ちだからだ…
金持ちばかり集まる、有名私立の付属の学校に通って、周囲は、金持ちのお坊ちゃま、お嬢様ばかりでも、突出した、スーパー金持ちだからだ…
だから、嫉妬する…
周囲の人間が、嫉妬する…
人間は、嫉妬の生き物…
男女を問わず、自分より、優れたものには、嫉妬する…
伸明は、金持ちの集まる、学校でも、突出した金持ちだから、周囲から、嫉妬された…
それを、伸明と深夜に、クルマで、デートしたときに、私に語った…
私は、それを、聞いて、当時、金持ちのボンボンでも、そんな苦労をするものなんだと、驚いたことを、思い出した…
まあ、人間だから、ありがちなこと…
金持ちということを、除けば、日本どころか、世界中、どこでも、ありふれたことだろう…
イジメは、ありふれたことだろう…
が、
おそらくは、そんな経験をして、この伸明は、強くなった…
したたかになったに、違いない…
いくら、お金持ちの家庭に生まれたからと言って、蝶よ花よと、育てられれば、後で、困る…
生きてゆくのに、困る…
世界中には、善人しかいない…
ウソをつく人間も、イジメをする人間もいない…
そう、認識されでもしたら、困る…
そう、誤解されでもしたら、困る…
生きてゆく上で、困るのだ…
ただの人のよい、お金持ちでは、ひとに騙されかねないからだ…
いい例が、戦後、日本が、戦争に負けて、日本の体制が変わった…
そのときに、当時、十四の宮家が、皇族から、外れることになった…
平たく言えば、一般人になった…
それゆえ、それまで、生活の苦労のない、旧宮家の人間たちは、多くが、騙され、財産を失った…
それが、いい例…
いかに、頭が、良くても、世間で、もまれたことのない、人間は、容易に、他人に騙される…
その好例だ…
その実例だ…
伸明は、皇族ではないのだから、そこまで、偉くはない…
しかし、生まれながら、周囲の人間が、皆、善人ばかりだと思っていたら、どうなのか?…
百鬼夜行とまでは、いわないが、世間には、そんな人間が、それなりにいる…
ひとを騙す人間が、それなりにいる…
それが、わからないと、生きてゆくのが、難しくなる…
誰もが、生まれてから、死ぬまで、善人だらけのひとたちに、囲まれて、生きてゆくわけでは、ないからだ…
だから、この伸明が、かつて、私に告白したように、他人から、イジメられたり、ハンパにされたりする経験が必要になる…
そういうことだ…
そして、そんな経験がないと、世の中に、悪人がいるのは、わかるが、自分の周りには、善人しかいないと、考えてしまう…
結果、話せば、わかると、思ってしまう…
おおげさに言えば、世の中を甘く見てしまう(苦笑)…
そして、当然、その通りには、いかない…
先に例に挙げた、旧皇族の方たちではないが、騙され、財産を失ってしまう…
そんな体験をすることになる…
しかしながら、この伸明は、そこまで、お人好しではない…
それは、やはり、時代が違うからだろう…
そして、環境も違う…
当然のことながら、この伸明は、旧皇族の方たちほど、偉くはない…
だから、騙されない…
それほど、簡単に騙されない…
そういうことだろう…
もっと、言えば、この伸明は、普通…
普通の感覚を持っている…
戦前の皇族たちほど、世間知らずではないと、言うこと…
その一言だろう…
それゆえ、団郁馬と対抗することが、できる…
この伸明が、まったくの世間知らずのボンボンならば、二人きりで会って、話し合えば、なんとかなる…
二人だけで会って、腹を割って、話せば、わかってくれる…
そう、思うだろう…
そして、伸明が、それを、しないのは、そこまで、世間知らずでは、ないから…
普通に、世間を知っているからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そう、考えて、あらためて、この伸明を見た…
五井家当主、諏訪野伸明を見た…
おそらくは、あの五井の女帝、和子が、思っているより、この伸明は、しっかりしているでは、ないか?
そう、思って、伸明を見た…
伸明の叔母である、和子は、当然のことながら、この伸明を子供の頃から、知っている…
それゆえ、伸明を子供扱いしてしまう…
つい、子供のように、見てしまう…
それと、同じでは、ないか?
私は、思った…
私は、考えた…
が、
しかしながら、それもまた、違うかもしれない…
なぜなら、和子の姉で、伸明の実母の昭子もまた、顔を出した…
五井を追放されたはずの昭子も、姿を見せたからだ…
私の前に現れたからだ…
これも、やはり、和子が倒れたことで、伸明のことが、心配になった?
私は、昭子と会ったときに、真っ先に、そう、思ったが、もしかしたら、違うかも、しれない…
それは、なぜか?
この伸明は、思ったほど、頼りなくない…
それが、答えだからだ…
もしかしたら、和子は、この伸明が、五井家の当主として、まだ若く、頼りないと思ったかも、しれないが、昭子は、わからない…
いかに、身近に、伸明を見ていても、ひとそれぞれ、意見が違うからだ…
一方は、
…十分、成長した…
と、言っても、もう一方は、
…いや、まだまだ…
と、言うことは、世間には、よくあることだからだ…
だから、伸明の評価も、叔母と実母でも、違う…
伸明に対する評価が違う…
が、
これは、当たり前…
当たり前のことだ…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えながら、
…今日は、なぜ、私を、このお屋敷に招いたんだろ?…
と、気付いた…
遅まきながら、気付いた…
気付いたのだ…




