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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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124/225

寿綾乃という女 第4部 124

 「…父が、建造が、ずっと、恐れていた人物…それが、団郁馬です…」


 「…建造さんが、恐れていた…」


 「…そうです…」


 「…どうして、恐れていたんですか?…」


 「…存在感が、薄い…そして、口数も少ない…」


 「…」


 「…だから、なにを考えているか、わからない…」


 「…」


 「…おしゃべりな人間や、行動が、派手な人間はいい…誰が、見ても、なにを考えているのか、わかる…でも、あの団郁馬は、真逆…真逆の人間…」


 「…真逆の人間?…」


 「…行動は、地味、口数も、少ない…おまけに、存在感も薄い…だから、わからない…なにを、考えているのか、わからない…」


 「…」


 「…おまけに、そんな団郁馬が、支配しているのは、メディア…東都新聞、東都ラジオ、そして、東都テレビ…だから、余計にタチが悪い…」


 「…タチが悪い? どうして、ですか?…」


 「…力を持ち過ぎているんです…例えば、五井南家は、海運会社を持っています…」


 「…海運会社?…」


 「…そうです…これは、寿さんも、知っているか、どうかは、忘れましたが、五井は連合体です…」


 「…連合体?…」


 「…基本は、各分家は、それぞれ、独立しています…各分家は、それぞれ、五井の力をバックボーンにして、それぞれの分野で、勢力を拡大しました…例えば、今、言った、南家は、タンカーを所有して、海運会社を所有しています…それは、本家ではなく、あくまで、南家の所有です…」


 「…」


 「…つまりは、昔、本家の支援があったのか、なかったのか、わかりませんが、それぞれ、自分たちの才覚で、事業を拡大した…もちろん、その前提には、五井本家の金がある…子供たちに、それぞれ、金を、与え、それぞれが、それを、元手に、事業を拡大した…」


 「…」


 「…ですが、五井の歴史は、四百年…いつのまにか、そんなふうにして、各分家が出来上がると、今度は、基本、本家が、各分家に口を挟めなくなった…」


 「…どうして、挟めなくなったんですか?…」


 「…それは、今も言ったように、金…本家から、金を借りるでもなく、それぞれが、それぞれの分家の力だけで、事業を拡大する…当然、それでは、本家が口を挟めなくなる…当たり前です…」


 「…」


 「…そして、もっとも、厄介なのは、団郁馬が、所有するのは、メディア…メディアです…もっとも、大衆に影響力がある…」


 「…」


 「…だから、人一倍、調子に乗る…その結果、五井の団結が、崩れかねない…それを、父は、懸念していた…」


 伸明が、激白する…


 私は、それを、聞いて、思い出した…

 

 以前、聞いたことを、思い出した…


 たしか、建造は、以前、自分たちの結婚が、他の分家に強制されたから、それを、きっかけに、本家の力を強めようとしたと、語った…


 建造と、弟の義春は、結婚のときに、すでに両親は、他界していた…


 それゆえ、分家の圧力に、抵抗することが、できなかった…


 だから、有力な分家のひとつである、五井東家から、嫁をもらった…


 昭子と和子の双子の姉妹が、建造、義春の兄弟と結婚した…


 五井の歴史は、四百年…


 一族とは、いえ、血は薄い…


 もはや、他人に近いくらい、薄い…


 それゆえ、結婚相手は、基本、同じ一族…


 そうすることで、少しでも、一族の団結が、高められるからだ…


 そして、当時は、本家の建造、義春兄弟の結婚相手としては、一族内では、東家の昭子、和子の双子の姉妹しかいなかった…


 他に、結婚適齢期の女性がいなかった…


 が、


 当然、建造、義春兄弟は、それが、気に入らなかった…


 半ば、強引に、自分たちの結婚相手が、決まるのが、嫌だったのだ…


 それゆえ、それを、きっかけに、本家の力を強めようとした…


 分家の圧力に負けない本家を作ろうとしたと、聞いた…


 それが、一転、今度は、五井の団結を口にするとは…


 実に、矛盾している(苦笑)…


 だが、どれも、真実…


 真実だろう…


 やはり、本家という立場がある…


 一方では、一族の中で、分家の圧力に屈しない、強い本家を作りたいと願い、もう一方では、五井の団結を願う…


 本家も分家も関係ない…


 外から見れば、同じ五井…


 五井だからだ…


 私は、それを、思い出した…


 思い出したのだ…


 一方で、思い出したのは、五井家内での本家と分家の違い…


 それは、今、伸明が言ったように、南家は海運会社…


 北東家は、新聞、ラジオ、テレビを支配している…


 それは、それ、分家として、所有しているが、もう一方で、本家と分家で、共同で、所有している会社がある…


 いわゆる、持ち株会社が、支配している会社がある…


 持ち株会社=五井ホールディングスだ…


 その五井ホールディングスの株の百%を五井一族が、支配している…


 そして、その百%支配している五井一族の持つ株の配分…


 それこそが、五井の序列…


 五井は、十三家…


 本家が、三十%、東西南北の分家が、それぞれ、十%で、合計、七十%…


 残りの三十%を、残った八家の分家で、分ける…


 それが、決まり…


 そして、五井銀行を筆頭とした五井の看板企業は、皆、五井ホールディングス所有…


 つまりは、本家単独ではなく、どこの分家にも、所属していない…


 五井一族で、持っている…


 そういうことだ…


 私は、今、それを、考えた…


 考えたのだ…


 そして、今、伸明が、言った、団郁馬…


 あの団郁馬は、言葉は、悪いが、建造や、秀樹と似ている…


 共通点は、目立たないこと…


 三人とも、決して、容姿が、優れていない…


 イケメンでも、なんでもない…


 平凡な容姿…


 ただし、建造は、そんなことは、気にしていなかった…


 それは、態度を見れば、わかる…


 建造は、ただ、己の使命に生きた…


 それは、五井家の団結と、本家の強化…


 相矛盾するが、それは、建造の使命だった…


 一方で、建造の息子の秀樹は、建造とは、真逆だった…


 我欲が強く、上昇志向が、強い…


 それを、建造が、嫌った…


 そんな人間が、五井のトップに立てば、おおげさに言えば、五井が、崩壊しかねないからだ…


 だから、自分の後継者に、この伸明を推した…


 自分とは、血が繋がらない、伸明を推した…


 それは、この伸明が、秀樹に比べれば、誠実で、我欲も少ないから…


 それゆえ、自分の後継者に推した…


 血が繋がっていないにも、関わらず、推した…


 そして、それが、思いがけない効果を産んだ…


 それは、なにか?


 それは、建造の妻であった昭子と、昭子の双子の妹の和子を味方につけることになったことだ…


 なにより、建造の妻の昭子は、建造の血が繋がっていない伸明を、自身の後継者に推してくれたことに、感謝した…


 また、それは、和子も同じだった…


 それゆえ、建造亡き後、和子は、五井の女帝として、伸明の後ろ盾になった…


 まだ、四十になったばかりの若い伸明では、外部は、おろか、五井家内部もまとめられないからだ…


 そして、和子が、後ろ盾として、健在なときは、五井家内部でも、なにも、起こらなかった…


 和子が、怖かったからだ…


 その圧倒的な存在感で、五井をまとめていた…


 が、


 その和子が倒れた今は、御覧の通り…


 本来、和子に、不満を持つ、分家が動き出した…


 いや、


 和子ではないかも、しれない…


 本家に、不満を持つ、分家が、動き出しただけかも、しれない…


 若干、話が、横に外れた…


 いつものことだ(苦笑)…


 話を元に戻そう…


 話と言うのは、団郁馬のこと…


 団郁馬は、建造、秀樹の父子と似ていた…


 皆、同じように、目立たない…


 イケメンでも、なんでもない、目立たない風采…


 しかし、建造は、そんなことを、気にした様子は、なかった…


 秀樹も、もしかしたら、そんなコンプレックスが、あったのかも、しれないが、私は、それには、気付かなかった…


 そして、それは、あの団郁馬も、同じ…


 同じだ…


 一度や二度、会っただけで、どんな人間か、わかるのは、そのひとが、よほど、強烈な個性を有している場合のみ…


 大抵は、接している内に、なんとなく、相手の性格がわかってくるものだ…


 そして、それは、あの団郁馬も、そう…


 団郁馬も同じだ…


 私は、団郁馬と接したのは、一度だけ…


 一度だけだ…


 コンビニのセルフレジで、一度会っただけ…


 だから、どんな人間かは、わからない…


 ただ、その人間性は、マミさんから、聞いていた…


 だから、わかった…


 どんな人間か、わかった…


 そして、私の中で、団郁馬の人間性を想像した…


 どんな人間か、想像した…


 それだけだ…


 私の目で、確かめたわけではない…


 しかしながら、誰もが、同じだろう…


 会社でも、学校でも、同じだろう…


 人づてに、どんな人間か、知る…


 そして、なんとなく相手の人間性を知る…


 そして、例えば、事前に、


 …ずるがしこい…


 とか、


 …ウソをつく…


 とか、聞いていたりする…


 それを、事前に聞いた上で、その人物と接して、その人物のずるいところや、ウソをつく場面を見て、


 …やっぱり…


 となる…


 誰もが、皆、そうだろう…


 誰もが、皆、同じだろう…


 あらかじめ、どんな人間か、心に刻み込んでいる…


 それを、元にして、どんな人間か、知る…


 それは、誰もが、同じだからだ…


 それゆえ、私は、団郁馬を、用心深く、気が許せない人間として、心に刻んだ…


 が、


 それは、今も言ったように、ホントか、どうかは、わからない…


 それは、ただ、マミさんや、この伸明が、言っただけ…


 そして、それは、もしかしたら、ウソかも、しれないからだ…


 ただ、マミさんや、この伸明の言葉を信じたに過ぎないからだ…


 が


 しかしながら、それを、信じた上で、あの団郁馬を見ると、手ごわい…


 実に、手ごわい…


 それは、どんな相手か、わからないから、手ごわい…


 なにを、考えているのか、わからないから、手ごわい…


 何度も言うように、見た目や行動が、派手な人間は、一目見ただけで、どんな人間か、わかるが、地味な人間は、わからない…


 なにを、考えているか、さっぱり、わからないからだ…


 だから、強敵…


 強敵なのだ…


 そして、この伸明が、言うように、あの西家夫妻が、あのハルカを、この伸明と結婚させようと、仕組んだのは、団郁馬なのだろう…


 それゆえ、伸明は、それを阻止すべく、ナオキに頼んで、あのハルカとの結婚宣言を、テレビを通じて、させたのだろう…


 それに、よって、あの西家夫妻の野望を砕くことが、できるからだ…


 あの西家夫妻が、ハルカと、この伸明を結婚させて、伸明の後ろ盾となる…


 今、倒れて、不在になった東家出身の和子に代わって、五井を仕切ることが、できるからだ…


 その野望を、伸明は、砕いた…


 ナオキに頼んで、砕いた…


 それが、真相だろう…


 が、


 そこまで、考えると、謎が、残る…


 一つの謎が、残った…


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