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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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122/225

寿綾乃という女 第4部 122

 「…感謝している?…」


 伸明が、思いがけない言葉を、口にした…


 私は、意味が、わからなかった…


 なぜ、ナオキが、あのハルカと結婚することが、この伸明が、ナオキに感謝することになるのだろうか?


 意味不明…


 まさに、意味不明だった…


 私は、それを、聞いて、考えた…


 ナオキの言葉を考えた…


 ナオキは、結婚の発表をした…


 でも、まだ、結婚したわけじゃないと、言った…


 私に言った…


 たしかに、それは、そうだろう…


 テレビやネットで、結婚すると、言っても、役所に書類を提出しなければ、結婚したことには、ならない…


 役所に、婚姻届けを出さなければ、正式には、結婚したことには、ならないからだ…


 あるいは、大勢のひとたちを呼んで、豪華な結婚式を挙げれば、結婚したことになるのかも、しれない…


 例えば、この伸明の結婚式をすれば、結婚式に、政界、財界のお偉いさんをズラッと並べるだろう…


そうなれば、その時点で、結婚が成立したことになるかも、しれない…


なぜなら、それは、誰もが、伸明の結婚式を見たから…


日本のお偉いさんたちが、見たからだ…


だから、もしかしたら、結婚式を挙げた時点で、結婚が成立するかも、しれない…


 しかしながら、それは、本当は、裁判所に聞いて、見なければ、ならない…


 あるいは、裁判所の判例を見れば、わかるのかも、しれない…


 話が、若干、長くなったが、つまりは、まだ、ナオキは、結婚していない…


 まだ、結婚すると、公表しただけで、結婚していない…


 あらためて、思った…


 思ったのだ…


 同時に、思った…


 今の伸明の言葉…


 まるで、この伸明が、ナオキに頼んで、あのハルカと結婚すると、言わせたみたいだ…


 私は、考えた…


 考えたのだ…


 だから、私は、


 「…ひょっとして、ナオキの結婚は、ブラフ? ハッタリ?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 私の質問を聞いて、伸明は、笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 「…ハッタリか、どうかは、ともかく、あの会見で、西家のおじさまたちは、驚いたでしょうね…」


 と、笑った…


 「…西家のおじさまたちが、驚いた?…」


 私は、バカみたいに、伸明の言葉を反芻した…


 反芻=繰り返した…


 伸明は、私の質問を受けて、


 「…だって、そうでしょ? あのおじさま夫婦は、ボクとあのハルカさんを結婚させて、ボクの義理の父親代わりとして、本家に食い込むのが、目的です…それが、あのハルカさんの結婚で、ご破算になった…」


 伸明が、実に、楽しそうに、言う…


 「…あのハルカという女性に、罪はありませんが、あの西家夫妻が、ボクの事実上の義父母同然の立場で、本家の運営に口を出されては、堪ったものでは、ありません…」


 伸明の表情が、一瞬で、真顔になった…


 「…それで、ナオキがハルカさんと、結婚を…」

 

 私は、核心を突いた…


 が、


 この伸明は、それには、答えず、


 「…あの西家夫妻…正直、苦手です…」


 と、答えた…


 「…苦手? どうして、苦手なんですか?…」


 「…西家のおじさまに、こう言っては、失礼ですが、エネルギッシュで、アブラギッシュというか…まさに、昭和のオヤジと言った感じです…あのタイプの人間は、率直に、言って、苦手…肌が合わない…」


 伸明が、告白する…


 そして、それは、あえて、言わなくても、伸明を見れば、わかる…


 この伸明は、あの西家当主とは、真逆…


 真逆のタイプだ…


 エネルギッシュとは、真逆のタイプ…


 ハッキリ言って、洗練されている…


 いわゆる、学生時代で言えば、図書館にいるようなタイプ…


 それが、体育会系で、普段から、汗にまみれた生活をしているような、あの西家当主とは、肌が、合わないのは、当然…


 当然だ…


 ハッキリ言えば、あの西家当主は、暑苦しい(苦笑)…


 そんな感じだ…


 傍から見ても、そんな感じだ…


 だから、この伸明が、あの西家当主を嫌うのは、わける…


 実に、わかる…

 

 わかるのだ…


 私が、そう、思っていると、伸明が、


 「…しかし、おじさま夫婦が、落胆した姿を想像すると、胸がすくといっては、言い過ぎだけれども、正直、その気持ちにウソは、ない…」


 と、笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 「…それだけで、藤原さんが、あのハルカさんと、結婚の発表をしてくれた意味が、ある…」


 伸明が、言う…


 またも、言う…


 私は、それを、聞いて、やはり、伸明の結婚は、ガセ…


 ガセだと、確信した…


 おそらくは、この伸明が、ナオキに、頼んで、偽の結婚情報を流したと、確信した…


 つまりは、この伸明は、よほど、あの西家夫妻が、嫌いなのだろう…


 それゆえ、普通は、ただ、断れば、いい…


 ハルカさんと、結婚しないと、断れば、いい…


 が、


 それを、しないのは、あの西家夫妻の面子を潰すため?…


 わざと、自分たちが、紹介した、あのハルカが、ナオキと結婚する…


 そう、発表した時点で、あの西家夫妻の面子は、丸つぶれ…


 丸つぶれだ(爆笑)…


 伸明は、それを、狙った?


 私は、そう、見た…


 私は、そう、睨んだ…


 同時に、気付いた…


 以前、ナオキの結婚情報が、テレビで、流れた…


 東都テレビで、流れた…


 一回だけ、流れた…


 そして、その内容…


 その内容は、ナオキは、五井一族の女性と結婚した…


 それが、その内容だった…


 そして、今、起こったナオキとハルカの結婚…


 それを見れば、間違っていない…


 あのハルカは、私の担当医…


 五井記念病院の私の担当医の長谷川センセイの妹…


 長谷川センセイは、五井西家の末裔…


 すでに、今は、五井家とは、なんの関係もないと公言しているが、数代前の先祖は、間違いなく、五井西家の人間…


 だから、間違っていない…


 あの報道は、間違っていない…


 藤原ナオキが、五井家の人間と結婚したという情報は、間違っていない…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 これは、偶然?…


 偶然なのか?

 

 それとも、違うのか?


 わからない…


 わからないが、気になる…


 実に、気になる…


 そして、もし、それが、事実なら…


 偶然でないなら、あの東都テレビは、知っていたことになる…


 ナオキが、ハルカと結婚することを、知っていたことになる…


 東都テレビ=団郁馬は、知っていたことになる…


 私は、考えた…


 考えたのだ…


 これも、偶然?…


 偶然なのだろうか?


 それとも、この伸明が、わざと、あの団郁馬の言う通りにした?…


 そうも、考えられる…


 わざと、あの団郁馬の言う通りにした?…


 わかっていて、した?


 それとも、まさかとは、思うが、あの団郁馬と繋がっている?


 まさかとは、思うが、この伸明が、あの団郁馬と繋がっている?


 そうも、思った…


 思ったのだ…


 頭の中が、回転する…


 目まぐるしく、回転する…


 いや、


 まさか、それは、あるまい…


 なぜなら、あのマミさん…


 血は繋がってないが、この伸明の妹のマミさんは、言った…


 私に言った…


 あの団郁馬は、父の敵…


 仇敵だと、言った…


 五井家先代当主、諏訪野建造の仇敵だと、言った…


 が、


 この伸明は、正確には、建造の子供ではない…


 建造と血が繋がっていない…


 それゆえ、もしかしたら、マミさんほど、団郁馬を憎んでいない可能性もある…


 可能性として、ある…


 ゼロでは、ない…


 それどころか、もしかしたら、団郁馬と、この伸明が手を結んでいる可能性すら、ある…


 十分にある…


 だから、事前に、流した…


 ナオキが、五井家の女性と結婚する情報を流した…


 そうも、考えられる…


 考えられるのだ…


 そして、そんなふうに、私の頭の中が、目まぐるしく、色々なことを考えているのが、表情に出たのだろう…


 「…寿さん、なにやら、色々、考えていますね?…」


 と、笑った…


 そして、


 「…もう一杯、水割りをどうですか? ボクが、作りましょう…」


 と、言って、テーブルに置かれた、私のグラスを取って、水割りを作り出した…


 私は、慌てて、


 「…ありがとうございます…」


 と、伸明に礼を言った…


 「…どういたしまして…」


 伸明は、笑いながら、返した…


 そして、すぐに、私の手元に、今、作ったばかりの水割りの入ったグラスを置いた…


 それから、自分の分も、作った…


 そして、作り終わると、自分の席に座って、片手でグラスを持ち上げた…


 私も、伸明に合わせて、グラスを、持ち上げた…


 そして、再び、カチッと、互いのグラスを合わせた…


 「…乾杯…」


 伸明が、言う…


 その声を合図に、二人とも、また水割りを飲んだ…


 飲みながら、考えた…


 この伸明という男は、一体、どんな男なんだろうか?


 考えた…


 あらためて、考えた…


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