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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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121/225

寿綾乃という女 第4部 121

 ただの金持ちのボンボンではない…


 修羅場をくぐった経験が、あるのか、どうかは、わからない…


 が、


 バカではない…


 当たり前だが、バカではない…


 常に、相手の反応を見ている…


 私が、どんな反応を示すのか、見ている…


 おそらく、今日、私と二人きりで、話すのも、私を試すため?


 私が、どんな人間か、見たいため?


 そうも、思った…


 あらためて、思った…


 男と、女が、二人きりで、酒を飲む…


 このシチュエーションが、一番、相手の本性が、出やすい…


 どういう行動を取るのか、わかりやすいからだ…


 あえて、親密な態度を取る…


 必要以上に、ボディータッチを繰り返す…


 男が、女に、そうすることもあるし、あるいは、女から、男に、そうすることもある…


 要するに、距離感…


 距離感を縮めようとしている…


 目的は、それだからだ(笑)…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そう思うと、動けなくなった…


 なにをしていいか、わからなくなった…


 まるで、格闘技ではないけれども、相手が、どう出るか?


 相手の反応ばかり見ている…


 そうなると、互いに、なにも、できない…


 せいぜいが、にらめっこ…


 相手の顔をにらめっこするぐらいだからだ(爆笑)…


 私が、そう思っていると、伸明が、ふいに、私が手に持った、中身が空のグラスを奪った…


 そして、笑いながら、


 「…今度は、ボクが作りますよ…」


 と、言った…


 伸明は、私が、見ていると、器用に、酒を作った…


 グラスに、氷を入れ、マドラーで、かき回す…


 ただ、それだけのことだが、それを、スマートにやれる人間とやれない人間がいる…


 私は、後者…


 伸明は、前者というところか?


 誰が、見ても、伸明の方が、私より、器用だった…


 器用に、水割りを作った…


 私は、無言で、それを見ていた…


 そして、伸明が、軽く薄笑いを、浮かべながら、


 「…出来上がりました…」


 と、私に差し出した…


 次いで、


 「…味の方は、わかりませんが…」


 と、補足した…


 「…味? 味って、私が作ったものと、伸明さんが、作ったものでは、違うのでしょうか?…」


 と、私。


 伸明は、笑いながら、


 「…それは、わかりません…」


 と、即答…


 「…ただ、有名な店の方なら、ともかく、ボクと寿さんでは、味に違いがあるとは、思いません…あるのは、せいぜい、水割りが、濃いか、薄いかの違いでしょう…」


 伸明が、解説する…


 実に、わかりやすく、解説する…


 「…もっとも、こういう場合は、男より、女…美人が、やった方が、男が、喜びます…

」


 伸明が、笑う…


 私は、それを、聞いて、


 「…でも、お客が、女が、メインなら、イケメンの方が、喜びますよ…」


 と、反論した…


 それを、聞いた伸明が、


 「…だったら、今日は、どうでしょう?…」


 と、返した…


 「…イケメンと美人が、一対一…果たして、イケメンが作る酒がおいしいか、美人が作る酒がおいしいか? どっちでしょう?…」


 伸明が、笑う…


 私は、それを、聞いて、


 「…私は、伸明さんが作ってくれる方が好き…」


 と、すぐに返した…


 「…どうしてですか?…」


 と、伸明。


 「…だって、今も伸明さんが見たように、私は、不器用…料理が苦手です…だから、誰かに作ってもらった方がいい…」


 「…だったら、寿さんは、結婚したら、料理は、旦那さんに作って、もらうつもりですか?…」


 「…できれば…」


 私は、即答した…


 それを、聞いて、伸明は、爆笑した…


 実に、楽しそうに、爆笑した…


 それを見て、私は、どうしたら、いいか、わからなかった…


 ウケを狙ったわけでも、なんでもなかったが、結果は、コレ…


 コレだ…


 ホントは、穴があったら、入りたくなるほど、恥ずかしかったが、まあ、伸明が、喜んでくれるから、良しとするか?


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、伸明が、意図したのか、意図しないのか、わからなかったが、


 「…それじゃ、藤原さんと、いっしょにいたときは、料理は、藤原さんが、担当したんですか?…」


 と、聞いた…


 ふいに、聞いた…


 その言葉を聞いて、すぐに、現実に返ったというか…


 伸明もまた、笑いながらだが、目は、真剣だった…


 明らかに真剣だった…


 それゆえ、私も、また、真剣に、


 「…いえ、家事は私が、担当しました…ナオキは、仕事で忙しいですから…料理も、もちろん、私が、やりました…ただ、大半は、スーパーで買ってきた、できあいの総菜や、刺身を、食卓に並べるだけですから、誰でも、できます…」


 私は、言った…


 ウソ偽りのない事実を言った…


 伸明は、それを、聞いて、どう反応していいか、わからない様子だった…


 反応が、無反応というか…


 明らかに、反応に、困った様子だった…


 が、


 少し、経ってから、


 「…どこの家庭もいっしょですよ…」


 と、言った…


 「…いっしょ? なにが、いっしょなんですか?…」


 「…寿さんが、今、言った、できあいの総菜の件、どこの家庭でも、いっしょです…」


 「…どうして、わかるんですか?…」


 「…だって、誰もが、寿さんのように、スーパーで、できあいの総菜を買わなければ、スーパーにあんなに、総菜を、並べないでしょ?…」


 伸明が、言う…


 私は、その通り…


 その通りと思ったが、その反面、この伸明は、スーパーの総菜売り場に行ったことが、あるのだろうか?


 考えた…


 なにしろ、お坊ちゃまだ…


 金持ちのお坊ちゃまだ…


 そんな金持ちのお坊ちゃまが、スーパーの総菜売り場を訪れたことが、あるのだろうか?


 疑問だった…


 大いに、疑問だった…


 さらに、言えば、伸明は、男…


 しかも、四十代の男だ…


 もっとも、スーパーの総菜売り場に、縁遠い存在に、思えたからだ…


 それゆえ、


 「…失礼ですが、伸明さんは、スーパーの総菜売り場に行ったことは、おありですか?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 私の質問を聞いた伸明は、笑いながら、


 「…それは、ボクだって、スーパーの総菜売り場ぐらい行ったことは、ありますよ…」


 と、言った…


 そして、間髪入れずに、


 「…だって、この日本に住んでいて、スーパーも行ったことない…コンビニも行ったことないって言ったら、どういう生活をしているんですか? って、ひとから、言われますよ…」


 と、伸明が、真顔で言う…


 私は、それを、聞いて、


 「…それは、そうですね…」


 と、相槌を打った…


 たしかに、伸明の言う通り…


 この日本で、スーパーも行ったことない、コンビニも行ったことないと、言ったら、どんな生活をしているんだろ? と、誰もが、思う…


 なにしろ、皇族の方たちだって、コンビニを利用する姿が、ネットで、話題になるぐらいだ…


 当たり前だが、皇族の方たちは、この日本の頂点の方たち…


 その頂点の方たちが、利用しているのだから、もはや利用したことのないものなど、皆無…


 誰も、いないだろう…


 もし、利用したことがないものが、いれば、よほど田舎に住んでいるか、カラダに障害があって、行けない方たちに、違いない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…藤原さんも、あんなことになってしまって…」


 と、いきなり、伸明が言った…


 あんなことと言うのは、結婚…


 ナオキが、あのハルカと結婚したことだ…


 当たり前だが、そのことだ…


 私は、どう答えていいか、わからなかった…


 この伸明に、ナオキとハルカの結婚をどう答えていいか、わからなかった…


 が、


 私が、黙っていると、この伸明が、


 「…藤原さんも、大変だ…」


 と、笑った…


 この笑いは、意外だった…


 なにより、この伸明が、楽しそうに、言っているのが、意外だった…


 意外だったのだ…


 それゆえ、私は、


 「…なにが、大変なんですか?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…だって、あのハルカさんは、寿さんより、若い…それゆえ、寿さんより、我がまま…おまけに、気が強い…藤原さんが、苦労するのが、目に見えてる…」


 と、笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 そして、なにより、伸明が、楽しそうに、あのハルカのことを、語るのを、見て、この伸明が、ハルカを気に入っていたことを、思い出した…


 あの見合いで、ハルカを気に入っていたことを、思い出した…


 それゆえ、ちょっと、意地悪だが、


 「…それって、もしかしたら、嫉妬ですか?…」


 と、伸明に、聞いた…


 わざと、聞いた…


 「…嫉妬?…」


 伸明は、私の言葉に戸惑ったようだった…


 思いもかけない私の言葉だったに違いない…


 私は、コレは、言っては、まずかったと、思った…


 が、


 しかしながら、すでに、言ってしまったものは、仕方がない…


 口に出して、しまったものは、仕方がない…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、そう、私が、そう、思っていると、目の前の伸明が、


 「…藤原さんには、感謝している…」


 と、意味深に呟いた…


 実に、意味深に、呟いた…


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