寿綾乃という女 第4部 12
そして、考えた…
なにを、考えたか?
このナオキの見合い相手を、考えた…
私の事実上の夫の見合い相手が、誰か、考えた…
一体、五井の誰と、見合いをするのか、考えた…
縁談=見合いだからだ…
だから、このナオキが、誰と、見合いをするのか、考えた…
そして、その相手は…
私の頭の中で、思い浮かぶのは、ただ一人…
一人だ…
あのマミさんしか、いない…
あのマミさんしか、思い浮かばない…
あのマミさんは、諏訪野伸明の腹違いの妹…
世間的には、そうなっている…
が、
実は、違う…
それは、伸明が、父の建造の子供ではないから…
伸明の母の昭子が、建造と結婚する前に、付き合っていた男との間に、できた子供だからだ…
マミさんは、建造が、外で、作った子供…
建造が、愛人との間に、作った子供だ…
それゆえ、世間的には、伸明とマミさんは、腹違いの兄妹だが、実は、血は、繋がっていない…
まったくの他人だ…
それより、なにより、伸明の縁談の話で、真っ先に、マミさんのことを、考えたのは、ずっと、以前、マミさんが、このナオキを好きだと、告白したから…
マミさんは、会社を経営している…
いわゆる、ベンチャー企業を経営している…
五井一族から、金銭的な援助を得て、している…
それは、マミさんが、五井の前当主、諏訪野建造の婚外子であることも、あるが、それ以上に、大きいのは、マミさんの性格…
性格=キャラクターだ…
前当主の婚外子とはいえ、血の繋がった実の娘だから、どこか、五井グループの会社の幹部に押し込むことは、可能だったろうが、それをしなかった…
それは、マミさんの性格…
マミさんは、独立独歩というか…
父の建造の力で、五井グループのどこかの会社で、働くのが、性に合わなかった…
自分の力で、会社を興して、働くのが、好きなタイプ…
それゆえ、五井から、金をマミさんに与えて、マミさんは、会社を興した…
そして、マミさんは、若き経営者として、雑誌の対談で、ナオキと会った…
マミさんが、ナオキに会いたいと、雑誌の編集部に頼んだのだ…
藤原ナオキは、長身のイケメン…
おまけに、週一で、テレビ番組のキャスターをしていて、有名人だった…
それゆえ、ナオキに一目惚したマミさんが、ナオキに会うために、雑誌の対談を利用したわけだ…
マミさんは、小柄…
150㎝前半の身長と小柄…
しかしながら、エネルギッシュ…
ちょうど、芸能人で言えば、元AKBの高橋みなみさんに似た印象…
高橋みなみさんとは、顔立ちは、違うが、小柄で、エネルギッシュな印象は、同じ…
同じだ…
マミさんは、私より数歳年上…
たしか、35歳だが、ミニスカが、似合う…
それほど、若い…
若く、見える…
だが、小柄ゆえに、大柄な男に憧れる…
そう、思った…
それゆえ、ナオキに憧れた…
テレビに出ている、長身で、イケメンの藤原ナオキに憧れた…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
が、
違った…
事実は、違った…
事実は、私に近付くため…
FK興産の社長である、藤原ナオキの傍らにいる、社長秘書である、私、寿綾乃に近付くためだった…
父の建造の命で、マミさんは、ナオキに近付いたわけだ…
それは、建造が、私、寿綾乃が、自分の娘かも、しれないと、疑っていたから…
それゆえ、私に近付くために、ナオキに近付いた…
それが、真相だった…
そして、また、マミさん、以外に、五井家の若い女性は、知らなかった…
いや、
知らなかったでは、ない…
知っていた…
もう一人、知っていた…
それは、菊池リン…
あの和子の孫だ…
伸明の叔母であり、五井の女帝と、いわれる和子の孫だ…
彼女もまた、私に近付いた…
私が、五井家の血を引く、五井の一族に違いないと、思ったからだ…
それゆえ、おそらく和子の命を受けて、私に近付いた…
その幼く、頼りない外見を利用して、私に近付いた…
最初は、警戒していた私も彼女の愛らしさに、すっかり気を許した…
いつのまにか、警戒を解いた…
彼女の武器は、その愛らしさと、頼りなさ…
それを武器に私に近付いてきたのだから、たまらない…
要するに、それを、武器にして、するりと、相手の懐に入る…
私には、決して、できない芸当だった…
彼女、菊池リンにしか、できない芸当だった…
誰もが、そうだが、外見が、頼りないと、警戒をしない…
相手が、こう言っては、なんだが、たいした人間では、ないと、思うからだ…
だから、警戒しない…
そして、相手は、それを武器に、狙った人間の懐に飛び込む…
狙われた人間は、警戒を解いて、相手を信用しているから、つい、油断する…
普段は、あまり他人に話さないようなことでも、話してしまう…
そういうことだ…
私は、菊池リンに騙され、警戒を解いた…
本来、私は、なりすまし…
従姉の、本物の寿綾乃が、死んだことを、利用して、寿綾乃になりすました…
矢代綾子が、寿綾乃になりすました…
そして、私は、なぜ、寿綾乃になりすましたのか?
それは、本物の寿綾乃が、お金持ちの娘であったから…
本物の寿綾乃の母である、叔母は、美しかった…
姪である、私の目から、見ても、美しかった…
そして、その叔母が、若い頃、恋をした…
その相手が、伸明の父の建造だった…
が、
当然、建造は、五井家の当主になる身だから、結婚は、できない…
仮に、叔母と結婚すると、すれば、五井家を出るしかなくなる…
五井家の当主という身分を捨てなければ、ならなくなる…
それゆえ、建造は、苦悩した…
結局、叔母は、身を引き、田舎に帰って、子供を産んだ…
建造の娘を産んだ…
その娘が、寿綾乃…
本物の寿綾乃だった…
そして、私が、なぜ、寿綾乃になりすましたか?
それは、母の死…
母が、亡くなる間際に、死んだ従姉の寿綾乃になりすませと、命じたから…
従姉の綾乃が、お金持ちの娘であることを、知っている母は、それを、利用した…
遺産が、手に入ると思ったのだ…
いや、
遺産とは、限らない…
とにかく、お金が、手に入ると、思ったのだ…
私と母は、ふたりぼっち…
シングルマザーだった母が、死ねば、私は、ひとりぼっち…
頼れる家族は、誰もいない…
それゆえ、母は、死ぬ前に、従姉の寿綾乃になりすませと、私に命じた…
従姉の綾乃になりすますことで、お金が、手に入る可能性が、高かったからだ…
同時に、私に警告した…
なにを、警告したのか?
私を守ってくれる男を探しなさいと、警告したのだ…
それは、従姉の綾乃が、お金持ちの血を引く娘であることが、わかったときに、遺産争いというか…
お金を、巡るトラブルに巻き込まれると、心配したのだ…
そして、そんな事態を想定した母は、男を探しなさいと、私に、命じた…
私を守ってくれる、強い男を探しなさいと、命じた…
そして、この場合の強い男というのは、腕力ではない…
お金を持っていたり、頭がいい男…
そのお金や頭脳で、私を守ってくれると、期待したのだ…
そして、母の言う通り、私は、寿綾乃になりすまし、ひとりで、上京した…
それから、まもなく、ナオキに出会った…
会社を興したばかりの藤原ナオキに出会った…
そして、ナオキこそが、私を守ってくれる男だった…
ナオキは、長身のイケメンで、頭も切れる…
そんなナオキと出会って、すぐに、男女の仲になった…
まだ高校生だったにも、かかわらず、すぐに男女の仲になった(苦笑)…
ナオキと出会ったのは、僥倖…
まさに、僥倖だった…
最初は、ちっぽけな会社を、数人で、始めたばかりだったが、見る見る時代の波に乗り、大きくなった…
ちっぽけなIT会社だったが、時代の波に乗り、大きくなった…
そして、なにより、ナオキは、イケメン…
長身のイケメンだ…
ナオキは、その長身のイケメンゆえに、仕事の幅が、広まった…
具体的には、成功した経営者という企画等で、雑誌等に載ることが、多かった…
どうしても、イケメンは、有利…
有利だった…
これが、ナオキが、平凡なルックスならば、雑誌等に呼ばれることは、なかっただろう…
そして、極め付きは、テレビのキャスターに就任したことだ…
これで、全国的に名前が、売れた…
日本中の人々に、知られることになった…
そして、そんなナオキに社長秘書である、私が、いつも、同行することで、私もまた、目立った…
自分で、言うのも、なんだが、私が美人だったから(苦笑)…
だから、目立った…
そして、おそらく、それが、きっかけで、私の存在が、伸明の父の建造に知れたのだろう…
私は、叔母にそっくり…
叔母の娘である、本物の寿綾乃より、叔母にそっくりだった…
本物の寿綾乃は、こういっては、なんだが、平凡なルックスだった…
おそらく、私の姿を、どこかで、知って、建造は、自分の娘かも、しれないと、思ったのだろう…
なにしろ、私と叔母は、ルックスが似ている…
そして、寿という苗字…
それを、知った建造は、私が、叔母の娘でなかったとしても、なんらかの形で、叔母と、血が繋がっていると、思ったのだろう…
私には、初対面のときから、私に優しくしてくれた…
…なんで、こんなに優しいのだろう?…
と、こちらが、戸惑うほど、優しくしてくれた…
そして、建造は、私と数回会った後、あっけなく亡くなった…
だから、建造が、存命中は、今、言ったことは、わからなかった…
今、言ったもろもろのことがわかったのは、後になってから…
ずっと後になってからだった…
私は、今、それを、思い出した…
このナオキが、五井の一族の娘と縁談するというので、思い出した…
あらためて、思い出した…




