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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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119/225

寿綾乃という女 第4部 119

 それゆえ、私が、戸惑っていると、


 「…寿さん、こんなところで、立ち話もなんだから、家に上がって下さい…」


 と、伸明に、言われた…


 私は、


 「…ハイ…」


 と、答え、手に持った、お土産を伸明に渡した…


 「…つまらないものですが…」


 と、言って、渡した…


 さすがに、なにも、渡さないわけには、いかない…


 もう数えきれないほど、伸明とは、会っているが、それでも、そこまで、親しくは、ない…


 友達と言うほど、親しくはない…


 また、以前、この伸明の実母の、あの昭子が、


 「…寿さん、まだ、伸明と、寝ていないんでしょ?…」


 と、これもまた、率直過ぎる発言に、困惑したが、その通り…


 その通りだった…


 が、


 たとえ、一度や二度、伸明と寝れば、どうなのか?


 それほど、親密になれるのか?


 答えは、否…


 否だ…


 一度や二度、寝ただけで、伸明を手に入れられる…


 あるいは、五井家の当主夫人になれると、考えるほど、私は、子供では、ない…


 子供=お子様ではない…


 だったら、真逆にコレは、作戦…


 わざと、伸明を焦らす作戦?


 と、考えるバカな男や女がいるかも、しれないが、それも、当てはまらない…


 なぜなら、伸明は、お金持ち…


 それに、長身のイケメンだ…


 私など、相手にせずとも、私より、もっと、若く、もっとキレイな女のコが、労せず、手に入るだろう…


 だから、これも、違う…


 なにより、伸明は、私を求めていない…


 性の対象として、見ていない…


 それは、わかる…


 それは、当人である私だけでなく、周囲のものも、わかるに違いない…


 仮に、性の対象として、見られていれば、当人だけでなく、周囲のものも、気付く…


 簡単に気付く…


 気付かないのは、おそらく、その女性を口説いている当人だけ…


 女性と男性が、接していて、男性が、その女性に下心があるか否かは、普通は、当人のみならず、周囲の人間も、気付くものだからだ…


 また、最初の話題に戻るが、一度や二度、寝たから、どうなるのだろうか?


 互いに、なにが、わかるのだろうか?


 せいぜいが、カラダの相性ぐらい…


 それぐらいだ(苦笑)…


 いっしょに、寝れば、互いの性格も、なにもかも、わかるわけはない…


 現に、今は、結婚して、10年以内に、離婚した夫婦が、3割も、いるでは、ないか?


 一度や二度どころではなく、寝て、さらには、いっしょに過ごす…


 それでも、結婚して、10年以内に、別れる夫婦は、3割も、いるのだ…


 私が、そんなバカなことを、考えていると、

伸明が、


 「…寿さんが、お土産を持ってくるなんて、珍しいですね…」


 と、声を上げた…


 その声を聞いて、恥ずかしかった…


 実に、恥ずかしかった…


 穴があったら、入りたいほど、恥ずかしかった…


 たしかに、これまで、この伸明の住む、豪邸にやって来ても、なにか、持ってきたことは、なかった…


 いつも、手ぶらでやって来た…


 ハッキリ言えば、バカ…


 気遣いのできないバカ…


 いかに、少しばかり、仲良くなっても、普通は、自宅に呼ばれれば、手ぶらでは、いかない…


 それが、わからないのが、バカ…


 あるいは、生まれの違い…


 正直、あまり認めたくないが、私は、セコイ(苦笑)…


 これは、子供時代、貧乏だったから…


 それゆえ、節約が、身についている…


 節約=貧乏が、身についているということかも、しれない…


 それゆえ、この伸明に招かれても、なにか、手土産を持ってゆくことなど、考えたことも、なかった…


 また、仮に、なにか、手土産を持ってゆくとなると、その選択に、頭を悩ませることになる…


 安いものでは、失礼だと、思うし、高過ぎるものも、相手に失礼かなと、思う…


 だから、その選択がわからない…


 なにを、持っていっていいのか、わからない…


 それゆえ、私は、今回は、酒にした…


 ウィスキーにした…


 ウィスキーなら、飲むと、思ったからだ…


 当然ながら、この伸明は、下戸ではない…


 酒を、飲む…


 だから、酒にした…


 ウィスキーにしたのは、ビールだと、運ぶのが、重すぎるからだ…


 当然、ビールは、一本持ってくるわけではない…


 最低でも、一ダースは、持ってくる…


 しかしながら、ウィスキーなら、一本持ってくるだけでいい…


 それが、便利…


 高級なものは、手が届かないから、サントリーにした…


 別に、ニッカでもよかったが、サントリーにしたのは、偶然…


 単純に、目に留まったからだ…


 それゆえ、私は、


 「…伸明さん、後で、いっしょに飲みましょう…」


 と、言おうとしたが、言わなかった…


 これから、話す話題が、どんな話題か、わからないからだ…


 当然、重い話題だろう…


 なぜなら、そうでなければ、伸明が、私を自宅に招くはずはない…


 軽い話なら、どこかの店で、話すことができる…


 それが、あえて、私を自宅に、呼ぶのは、周囲に聞かれては、困る話だからだ…


 だから、私を自宅に、招いた…


 そういうことだからだ…


 私は、伸明に招かれて、目当ての部屋に到着した…


 目当ての部屋というのは、この前、この家にやって来たときに、私と、この伸明と、マミさんが、五井西家当主と、あのハルカと、会った部屋…


 伸明が、見合いをした部屋だ…


 それゆえ、私は、その部屋に入ると、


 「…懐かしいですね…」


 と、言った…


 つい、言ってしまった…


 なにしろ、この伸明が、見合いをした部屋…


 しかも、その場に、私も同席している…


 それゆえ、つい口に出して、しまうのは、当然だった…


 そして、それは、当然、伸明も、受け入れた…


 「…ですよね…」


 と、相槌を打って、受け入れた…


 「…まったく、つい先日のことですが、まさか、あのときは、こんな展開になるとは、夢にも、思わなかった…」


 と、伸明が、言う…


 それは、おそらく、ナオキのこと…


 ナオキとハルカの結婚のことだと、思った…


 が、


 さすがに、それを、口にするわけには、いかない…


 それゆえ、私が、黙っていると、


 「…寿さん、座って下さい…」


 と、伸明が、言った…


 まさか、いつまでも、私を立たせているわけには、いかないからだろう…


 私は、軽く、頭を下げながら、


 「…失礼します…」


 と、言って、席に座った…


 それを、見て、


 「…なにか、飲み物でも、持ってきます…」


 と、言って、伸明が、部屋から出ようとした…


 その背中に、私は、


 「…失礼ですが、伸明さん、この家には、お手伝いさんが、いらっしゃらないんですか?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 なにしろ、お屋敷だ…


 こんな大きなお屋敷だ…


 にもかかわらず、お手伝いの姿を見たことがない…


 だから、聞いた…


 不思議に思って聞いた…


 すると、伸明は、苦笑いを浮かべながら、


 「…当然、いますよ…」


 と、答えた…


 「…そうですよね…」


 と、私は、相槌を打った…


 続けて、


 「…でも、私は、伸明さん以外に、ひとを見たことは…」


 と、言うと、伸明が、笑いながら、


 「…プライベートで、ボクの元に、ひとが来たときは、なるべく、顔を出さないようにと、お願いしているんです…」


 と、答えた…


 種明かしをしたと言ってもいい…


 「…そんなひとは、この家を手伝ってくれる方の中には、いらっしゃらないと、思いますが、ボクの元にプライベートで訪ねてくる友人や知人を見て、どんなひとが、やって来たと、他人に言ったり、今の時代、SNSに挙げられでも、したら、たまりませんから…」


 伸明が、笑って言う…


 「…だから、いつも、一人…寿さんの前に現れるのは、ボク一人です…」


 伸明が、説明する…


 「…ですが、寿さんが、ご心配なら、それには、及びません…ちゃんと、近くに、姿は、見せませんが、ひとは、いますから、なにか、あれば、すぐに、来ますよ…」


 伸明が、笑いながら、説明する…


 私は、思わず、


 「…そういう意味では…」


 と、口走った…


 これでは、まるで、伸明が、私になにか、するみたいだ(苦笑)…


 当然、そんなことは、考えたこともない…


 そんなことは、思ったこともない…


 それは、私が、伸明を信頼しているとか、信頼していないかの問題ではない…


 そもそも、そんなことは、考えたことが、ないのだ…


 それは、おそらく、距離感…


 伸明との距離感だ…


 正直、伸明に、あまり男は、感じない…


 それは、なぜか?


 それは、率直に言って、ほぼ友人に近くなったからだ…


 友人と呼べるほど、仲の良い、距離になったからだ…


 男も女も、相手を、異性として、意識するには、あまり、仲が良くならない方がいい…


 仲が良くなり過ぎると、いかに、相手が、美人だったり、イケメンだったりしても、異性として、意識しなくなるからだ…


 だから、あまり仲良くならない方がいい…


 距離感を保つ方がいい…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、私が、そんなバカなことを、考えていると、伸明が、奥に消えた…


 それから、まもなく、今度は、グラスを二つ持ってきた…


 おそらくは、私に気を使ったのだろう…


 私が、今、持ってきた土産が、ウィスキーだと、すぐに、わかったのだろう…


 なにしろ、水物だ…


 酒やウィスキーは、持てば、わかる…


 持てば、すぐに、わかる…


 私が、そう、思っていると、


 「…せっかく、寿さんが、持ってきたものですから、飲みましょう…」


 と、伸明が、言った…


 私は、それを、聞いて、無言で、頷いた…


 どう、答えて、いいか、わからなかったからだ…


 伸明は、私が、持ってきたウィスキーも、持ってきた…


 そして、グラスのみならず、氷も、持ってきた…


 当たり前だった…


 伸明は、それらを、前にして、席に座った…


 それから、笑いながら、


 「…ホントは、昼間から、酒を飲むのも、どうかと、思いましたが、せっかく、寿さんが、もってきて、くれたのと、それから、これから、する話が、少し重くなりがちなので…」


 と、言った…


 そして、当たり前だが、笑っては、いるが、その顔は、真剣だった…


 真剣だったのだ…


 あくまで、笑いは、作り笑い…


 深刻さを隠すための作り笑いだった…


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