↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
118/225

寿綾乃という女 第4部 118

 伸明に呼ばれて、伸明の自宅に行ったのは、それから、まもなくだった…


 伸明から、自宅に、招待された…


 正直、内心、躊躇した…


 あんなお屋敷には、もう一歩も、足を踏み入れたくなかった…


 それは、なぜか?


 それは、率直に言って、身分差…


 身分差を痛感するからだ…


 江戸時代でも、なんでもないのだから、身分差と言えば、大げさ過ぎると、考えるものも、いるかも、しれないが、まるで、江戸時代の大名屋敷ではないが、あまりにも、大きな家を見ると、自分との身分差を痛感する…


 嫌というほど、痛感する…


 なにしろ、私は、貧乏…


 子供時代は、貧乏だった…


 シングルマザーの母と二人きりだったのだから、当たり前だ…


 シングルマザーで、恵まれた生活をしているものなど、普通は、いないだろう…


 どうしても、年収は、同世代の男より、劣る…


 女だから、劣る…


 それが、一家の大黒柱なんだから、当然、他人様より、収入が少ない…


 それでは、他人様より、良い暮らしが、できるはずが、ないからだ…


 そして、当時は、そんなことは、考えなかった…


 これっぽっちも、考えなかった…


 が、


 大人になって、豪邸を目の前にすると、つくづく考える…


 自分の生まれを考える…


 そして、身分の違いを考える…


 普通、誰もが、そういうものだ…


 もし、こんな大豪邸を見て、なにも、感じなければ、それは、おかしい…


 なにも、感じない人間の方が、おかしい…


 それを、思えば、ずっと、以前、まだ会社が、小さなとき…


 FK興産が、小さかったとき…


 学歴の低いものが、入ってきたことがある…


 まだ、会社が、小さかったから、学歴が、低くても、入れたからだ…


 高卒で、偏差値も低い高校からも、入れたからだ…


 そして、そのひとは、自分より、偏差値が、高いひとたちと、いっしょに仕事をしても、自分が、劣っているとは、考えなかった…


 これっぽっちも、考えなかった…


 それは、当人が口にせずとも、傍から見れば、わかる…


 第三者でも、わかる…


 理由は、単純…


 頭を使う仕事ではなかったからだ(苦笑)…


 だから、自分が、周囲の人間と比べて、劣っていることが、わからない…


 ここで、なにを、言いたいかと言えば、比較…


 例えば、街中で、お金持ちの伸明といっしょにいても、自分は、伸明に比べて、劣っているとは、思わない…


 伸明は、長身のイケメンだが、私も、ルックスに自信があるからだ…


 だから、負けているとは、思わない(爆笑)…


 しかしながら、伸明の実家を見れば、完敗…


 あっけなく完敗する…


 私の育った家と、比較する対象ではないからだ…


 それと、同じで、さっき、例に挙げた高卒のひと…


 いっしょに、仕事をする限り、コンプレックスを感じることは、ないかも、しれない…


 が、


 やがて、歳を取り、周囲の状況が、少しは、見えるようになれば、大抵は、自分から、辞めてしまう…


 周囲が、高学歴ばかりになると、仕事は、ともかく、話についていけない…


 周囲の人間との雑談についていけない…


 話題が、異なるからだ…


 例えば、偏差値65の高校に通った者と、偏差値40の高校に通った者が、仲良くできるかと、言えば、正直、難しい…


 頭が、違うから、話す話題が、違う…


 興味のあることが、違う…


 だから、話が合わない…


 そういうことだからだ…


 現に、さきほど、言った高卒のひとも、いつのまにか、いなくなった…


 会社が、大きくなり、周囲の人間が、偏差著の高い大学出身者ばかりになると、話が、合わなくなる…


 会社が、小さなときは、同じように、偏差値の低い、高卒のひともいたが、会社が大きくなるにつけ、周囲が、偏差値の高い大卒ばかりになる…


 それでは、周囲の人間と話が、合わないし、将来の展望も、開けない…


 結果的に、自分から、辞めてゆく…


 それが、大半だ…


 まあ、自分から、辞めなくても、大抵は、今度は、会社の方から、リストラ宣告される…


 だから、ハッキリ言えば、自分から、辞めるか? 会社から、クビ宣告されるのかの、どちらか?


 卵が先か、鶏が先かの、議論と、同じだ…


 私は、そんなことを、考えた…


 伸明の住む、豪邸を見ながら、なぜか、そんなことを、考えた…


 理由は、簡単…


 ただのコンプレックスだ…


 伸明といっしょにいるときは、感じないが、伸明の住む、この豪邸を見ると、感じる…


 当たり前のことだ…


 だから、それは、今、例に挙げた、高卒のひとと、大卒のひととの差と同じ…


 同じだ…


 そして、同時に、考えた…


 今日、もしかしたら、伸明が、私を自宅に招いたのは、私と伸明の差を見せつけるため?


 そう、思った…


 まさかとは、思うが、そう、思った…


 …こんな、大豪邸に住む、ボクが、アンタを口説いているのに、少しも、なびかない…


 そう、言いたいのかも、しれない…


 要するに、男が、女を口説くのに、良いクルマや、良い家を見せて、口説く…


 バブル時代のやり口だ(爆笑)…


 非常に、わかりやすい、やり口だ…


 私は、伸明から、送迎用に派遣された、クルマから、降りながら、考えた…


 そんなバカなことを、考えた…


 なにより、今日、伸明から、この大豪邸に、招待されても、当然、自宅には、伸明ひとりではない…


 数人のお手伝いさんが、いる…


 通いか、この豪邸に住んでいるのかは、わからない…


 しかしながら、誰が、考えても、伸明ひとりでは、この大豪邸を、掃除するのも、無理だろう…


 ひとりでは、とても無理…


 だから、数人の家政婦がいる…


 それでも、昔に比べれば、小規模…


 昔のお金持ちに比べれば、規模が、小さい…


 戦前の岩崎家…


 三菱の岩崎家の屋敷をネットで、写真を、見たことがあるが、まるで、今の博物館のような建物に、住んでいた…


 しかも、驚愕するのは、そこに、住んでいるのは、二十名を超える人数…


 しかも、


 しかも、だ…


 肝心の岩崎家の家族は、4人だけ…


 にもかかわらず、総勢、二十名を超える人数が、その博物館のようなお屋敷で、生活している…


 今では、ありえない話…


 ソフトバンクの孫や、楽天の三木谷も、まさか、そんな生活は、していまい…


 まさに、時代…


 時代だ…


 戦前は、そんな金持ちが、それなりにいたのだろう…


 明治、大正、昭和の前期は、そんなお金持ちが、いたのだろう…


 が、


 今は、皆無…


 誰もいない…


 おそらくは、税制…


 戦前の日本と、今の日本では、税制が、異なって、お金持ちといえども、多額の税金が、取られて、戦前のような生活ができないのだろう…


 それが、差…


 戦前と、令和の今との差だ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考えながら、日本庭園を歩き、お屋敷の玄関に着いた…


 そこには、当たり前のように、伸明が、待っていた…


 私を、待っていた…


 これでは、まるで、お姫様…


 私は、お姫様になった気分になった…


 当たり前だが、私は、今日、伸明に招待されただけ…


 にもかかわらず、ふと脳裏に、そんな言葉が、よぎった…


 伸明は、私を迎えながら、


 「…寿さん、今日は、わざわざ、来て頂き、ありがとうございます…」


 と、私に頭を下げた…


 私は、そんな伸明を見て、


 …これが、生まれの差かも…


 と、思った…


 変に、へりくだるわけでもなく、自然と、相手に頭を下げることができる…


 これが、生まれの差なのか、と、思う…


 正直、私なら、


 「…どうだ! オレは、こんな凄い、屋敷に住んでいるんだ! オレって、凄いだろ!…」


 と、言葉にはせずとも、態度に出すところだ…


 が、


 当然、目の前の伸明には、それはない…


 あれば、気付く…


 簡単に、気付く…


 私は、


 「…お久しぶりです…今日は、ご自宅に、招いて頂き、ありがとうございます…」


 と、丁寧に腰を折って、伸明に挨拶をした…


 伸明は、そんな私を見て、


 「…いえ、今日、寿さんを、お呼びしたのは、ボクです。こちらこそ、ありがとうございます…」


 と、私以上に、腰を深く曲げて、私を迎えた…


 おそらくは、これは、生まれ…


 生まれの差なんだろう…


 丁寧に腰を折って、私を迎える姿の、どこにも、嫌味を感じない…


 あくまで、自然…


 行動が、自然なのだ…


 とてもではないが、私では、こうは、いかない…


 行動のどこかに、自慢気な姿が、現れる…


 どうだ!


 オレって、凄いだろ!


 アタシって、凄いだろ!


 という態度が現れる…


 しかし、伸明にそんな態度は、微塵も見られない…


 これが、差…


 生まれの差…


 伸明と、私と絶望的までの差…


 そう、私は、思った…


 私は、考えた…


 私が、そんなふうに、伸明を見ていると、伸明が、不思議そうに、


 「…寿さん、なにを、見ているんですか?…」


 と、穏やかに、聞いてきた…


 私は、一瞬、悩んだが、


 「…こんな、凄い豪邸に、私が、招かれるなんて、まるで、夢のようで…」


 と、言った…


 わざと、言った…


 わざと、おおげさに言った…


 それを、受けた伸明が、笑いながら、


 「…住んでいる家が、大きなだけで、そこに住む人間は、平凡…まったくの凡人です…」


 と、言った…


 それゆえ、私は、


 「…凡人?…」


 と、返した…


 あまりにも、意外な言葉だったからだ…


 「…大きな家に住む凡人です…」


 と、伸明が返した…


 次いで、


 「…ボクの能力とは、なんの関係もありません…」


 と、笑った…


 「…いわば、見かけ倒し…寿さんも、それに、気付いているでしょ?…」


 そう、言われると、なにも、言えなかった…


 文字通り、なにも、言えなかった…


 たしかに、伸明は、長身のイケメン…


 おまけに、お金持ちだ…


 が、


 それを、除けば、どうか?


 取り立てて、優れたところはないと、言えば、言い過ぎだが、これは、優れていると、感じたこともない…


 学歴は、高いのだろうが、普通…


 普通だ…


 おそらく、それを、言えば、ナオキの方が、優れている…


 私の事実上の夫の藤原ナオキの方が、優れている…


 それは、なぜか?


 それは、ナオキは、ゼロから、会社を立ち上げたから…


 目の前の伸明は、ナオキとは、比較にならないほどのお金持ちだが、それは、親から受け継いだもの…


 自分の努力では、ないからだ…


 自分の成功では、ないからだ…


 それゆえ、私が、なんと、言っていいか、悩んでいると、伸明が、笑いながら、


 「…これは、返答に困る質問をして、すいません…」


 と、詫びた…


 同時に、すぐに、お世辞でも、いいから、


 「…そんなことは、ありませんよ…」


 と、言えない自分に、悔いた…


 32歳になっても、そんなお世辞一つ言えない自分に、悔いた…


 が、


 私の思いとは、真逆に、伸明は、

 

 「…寿さんは、お世辞がないからいい…」


 と、笑った…


 「…そんなこと、ありませんよ…」


 と、誰もが、言うお世辞が、ないから、いいと、笑った…


 その言葉を聞いて、


 …見抜かれた!…


 と、思った…


 私の心の内側を見抜かれたと、思った…


 私が、伸明の能力を買っていないことを、見抜かれたと、思った…


 思ったのだ…


 所詮は、お金に惹かれて、ここに来た女だと、見抜かれたと、思った…


 が、


 それも、また、誤りではない…


 だから、率直に、言って、誤解でも、なんでもない…


 しかしながら、誤解でも、なんでもないから、困る…


 困るのだった…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。