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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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117/225

寿綾乃という女 第4部 117

 ユリコの行動は、奇怪だった…


 なぜなら、ナオキの結婚の報道に、コメントを、寄せなかったからだ…


 テレビや、ネットで、ナオキの前妻として、ユリコにコメントを求める姿があったが、どれも、無視した…


 理由が、わからなかった…


 なぜなら、ユリコは、目立つのが、好き…


 スポットライトが当たるのが、好きな性格だからだ…


 ユリコは、地味…


 ちょうど、あの団郁馬と、同じく、地味だ…


 が、


 派手なことが、好き…


 自分にスポットライトが、当たるのが、好きだ…


 これは、考えてみれば、あの団郁馬と同じコンプレックスの持ち主だからかも、しれない…


 ユリコは、頭脳明晰…


 頭が抜群にいい…


 ただ勉強ができるのではなく、仕事もできる…


 ずばり、金儲けが、上手い(爆笑)…


 それゆえ、ファンドの代表を務めている…


 要は、出資者を募り、金を集めて、どこそこの会社の株を買い集め、その会社の弱点を突き、経営再建を約束させる…


 その結果、会社の業績は、上がるが、会社は、リストラ等で、ある意味、ボロボロになる…


 そこに、務める従業員は、たまったものではない…


 自分がクビになるからだ…


 が、


 会社は、再建される…


 例えば、従業員千人の企業が、従業員五百人に、減って、会社の規模が、半分になるが、負債が、キレイになくなる…


 そんな感じだ…


 しかしながら、それは、さておき、あのユリコが、インタビューに応じないのは、不気味だった…


 あの目立ちたがりのユリコが、インタビューに、応じないのは、不思議だった…


 が、


 それ以上に、不思議だったのは、ナオキと、ハルカの結婚の情報が、あれ以来、流れなかったことだ…


 あの東都テレビで、一回だけ、流れただけで、あれ以来一度も、流れないことだった…


 やはり、あれは、ブラフ…


 ブラフ=ハッタリだったのだろうか?


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考えている最中に、伸明から、電話がかかって来た…


 「…寿さん、今度、お会いしませんか?…」


 と、言う電話が、かかって来た…


 私としては、願ったり叶ったり…


 伸明の意見も聞きたかったところだ…


 マミさんの意見だけではない、伸明の意見を聞きたかったところだ…


 しかし、だ…


 いつも、考えさせられる…


 この平凡な私が、なぜ、金持ちの争いに、巻き込まれるのか?


 五井の争いに、巻き込まれるのか?


 つくづく、わからない…


 つくづく、謎だ…


 いや、


 謎では、ない…


 私、寿綾乃…


 いや、


 矢代綾子が、寿綾乃を名乗るように、なってから、おおげさに、言えば、これが、宿命なのかも、しれない…


 本物の寿綾乃は、建造の娘…


 五井家前当主の娘だ…


 また、本物の寿綾乃は。私の従姉…


 建造と、恋仲になった叔母の娘だからだ…


 亡くなった母は、私に、死ぬ前に、従姉の綾乃になりすませと、命じた…


 従姉の綾乃は、お金持ちの娘…


 綾乃になりすませて、生きることで、私が、大金が、得られると、母は、思ったのだ…


 思えば、それが、母が、私に残すことが、できる、唯一の財産だった…


 シングルマザ―だった母は、お金とは、無縁…


 生活は、お世辞も、楽ではなかった…


 その母が、亡くなったことで、私は、ひとりぼっちになった…


 天涯孤独になった…


 母が、なりすませと、私に遺言で、命じた、本物の寿綾乃も、その母である叔母も、すでに、鬼籍に入っていた…


 それゆえ、私は、綾乃になりすますことが、できた…


 叔母は、美人…


 私に、似た、美人だった…


 それゆえ、若き日の建造と、恋仲になった…


 こういっては、なんだが、叔母の娘である、綾乃は、平凡…


 美人では、なかった…


 私の方が、叔母に似ていた…


 美人の叔母に似ていた…


 それゆえ、母は、生前、私に、従姉の綾乃に、なりすませと、私に言ったのだろう…


 しかしながら、その母は、叔母が、誰と恋愛をして、娘の綾乃を産んだのか、わからなかった…


 それゆえ、私に、具体的な名前は、言わなかった…


 いや、言えなかったのだと、思う…


 叔母が、母に、教えなかったのだろう…


 だから、言えなかった…


 そういうことだろう…


 そして、何度も言うように、その叔母の若き日の恋愛相手が、建造…


 五井家前当主の建造だった…


 つまりは、その時点で、私が、五井家に関わることは、わかっていた…


 わかっていた=決まっていた…


 だから、これは、運命…


 あるいは、宿命かも、しれない…


 私が、五井家と関わるのは、宿命かも、しれない…


 が、


 ホントなら、そんな宿命は、願い下げ…


 そんな運命は、願い下げだった…


 もちろん、私だって、お金持ちになりたい…


 お金持ちと、結婚したい…


 そんな気持ちは、ある…


 そんな夢は、ある…


 しかしながら、ドロドロは、ゴメン…


 人間関係のドロドロは、ゴメン…


 長い下げだ…


 五井は、ドロドロしている…


 十分過ぎるほど、ドロドロしている…


 いくら、お金持ちでも、それでは、嫌…


 嫌だ…


 昔、生前、母が言った…


 私が、子供のときに、母が言った…


 母が、


 「…綾子…仕事は、あるいは、職場は、3つの要素で、できあがっている…」


 と、母が、言った…


 「…三つの要素?…」


 子供の私が、母に聞くと、母は、


 「…お金…仕事の内容…そして、人間関係…この三つで、成り立っている…」


と、言った…


そして、母は、続けた…


「…三つ、良い職場は、ない…二つ、良ければ、それで、我慢しなさい…」


と、私に、言った…


その話を聞いたときは、たしか、まだ小学生だった…


だから、とてもではないが、母の言葉が、実感できなかった…


母の言う言葉が、体験として、わかる年齢では、なかった…


が、


大人になって、わかった…


十分過ぎるほど、わかった(苦笑)…


会社で、さまざまなひとたちと、接して、わかった…


が、


幸か不幸か、私は、居心地が、悪かったことは、一度もない…


ただの一度もない…


それは、たぶん、ナオキといっしょだったから…


社長のナオキといっしょだったからだと、思う…


たぶん、私が社長のナオキの愛人だと、周囲から、見られていた(苦笑)…


それゆえ、誰も私に、なにも、言わなかった…


皮肉も、意地悪も、言わなかった…


そういうことだろう…


考えてみれば、居心地の悪い職場ほど、嫌なものは、ない…


人間関係が、嫌な職場ほど、嫌なものはない…


だから、母が言った、三つのこと…


お金、仕事、人間関係…


これが、二つ、良ければ、それで、我慢しなさいと、言ったが、やはり、人間関係の良くない職場は、嫌…


嫌だ…


しかしながら、いくら人間関係が、良くても、賃金が、低ければ、生活は、難しいし、自分に合わない仕事を続けるのは、誰しも嫌だ…


だから、難しい…


実に、難しい…


職場の選択は、実に、難しい…


そして、私は職場には、恵まれたが、すべてが、順調だったわけではない…


なにしろ、ナオキと出会った当初は、あのユリコがいた…


ナオキと結婚していた…


その後、私が、ナオキといい仲になったのを見て、ユリコは、突然、失踪した…


幼いジュン君を残して、失踪した…


だから、まだユリコがいた当初は、関係が、ギクシャクしていた…


私とユリコ…


初めて、会ったときから、お互いが、虫が好かない相手だと、思ったからだ…


理由は、ない…


ただ、お互い、相手が嫌い…


ただ、それだけだった…


それは、互いに、出会ったときから、わかった…


が、


いっしょに働いた…


思えば、地獄…


今、思えば、まさに、地獄だった…


互いに、嫌っている人間と、いっしょに、仕事をするぐらい、嫌なことは、ないからだ(爆笑)…


が、


それを、除けば、嫌なことは、なかった…


今、思い出しても、人間関係で、嫌なことは、なかった…


だから、私は、恵まれている…


これまで、人間関係で、恵まれてきたと、思った…


考えた…


この世の中には、嫌な人間関係の職場で、いやいや、働いている人間は、ごまんといる…


それを、考えれば、私は、恵まれている…


実に、恵まれている…


私には、そういった経験は、ないからだ…


そして、それを言えば、母には、そういう経験があったのだろう…


職場で、悩んだ経験があったのだろう…


今になって、振り返れば、わかる…


そう言った経験がなければ、そう言った言葉は、いえないからだ…


それが、今となっては、わかる…


そして、そういうことは、ある程度、歳を取ったから、わかることだ…


母が、私に、そんなことを、言ったのは、私が、たしか、小学生のとき…


あるいは、それ以前かも、しれない…


だから、わからない…


まだ、社会に出て、アルバイトでも、なんでも、いいから、働いたことが、ないから、わからない…


そういうことだ…


 そして、それは、大人になっても、同じ…


 同じだ…


 なにが、同じなのかと、言えば、建造…


 五井家前当主、建造のことだ…


 建造は、私と初めて会ったときから、私に優しかった…


 なぜか、優しかった…


 私には、なぜか、わからなかった…


 その理由が、わからなかった…


 ただ、当時は、深く、それを、考えなかった…


 すでに、30歳を超えているにも、かかわらず、考えなかった…


 まさか、私に下心が、あったわけでは、あるまい(苦笑)…


 にもかかわらず、私の父親同然の年齢にも、かかわらず、私に優しかった…


 それを、私は、ある意味、当然のように、受け入れていた…


 が、


 実は、建造は、私を、自分の娘同然の存在として、見ていた…


 それが、後になって、わかった…


 建造が、亡くなってから、わかった…


 建造は、おそらく、私の容姿を一目見て、私を、自分の娘、あるいは、それでなくても、それに、近い存在だと、思ったに、違いない…


 なぜなら、私は、叔母によく似ていた…


 美人の叔母に、よく似ていた…


 若き日の建造が愛した叔母に、私が、似ていた…


 だから、そう、思ったのだろう…


 思えば、それは、後になって、気付いた…


 建造が、亡くなってから、気付いた…


 三十を過ぎても、コレ…


 コレだ…


 少し、勘の働くものならば、なぜ、この建造は、私に優しいのか?


 考えるものだ…


 そして、その場合は、多いのが、下心…


 親子ほど、歳が離れていても、下心がある場合が、多い…


 実に、多い(苦笑)…


 が、


 何度も、言うように、建造に下心は、なかった…


 私に対する下心は、なかった…


 だから、考えるべき…


 なぜ、建造が、私に優しかったのか?


 考えるべきだった…


 にも、関わらず、考えなかった…


 建造が、なぜ、初対面から、私に優しいのか、考えなかった…


 これっぽっちも、考えなかった…


 それを、思えば、私は、トロい…


 実に、トロい…


 三十を過ぎても、実に、トロい…


 そんなトロい私が、五井の争いに巻き込まれる…


 お金持ちの争いに、巻き込まれる…


 無事にすむわけは、なかった…


 なかったのだ…


               

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