寿綾乃という女 第4部 116
が、
同時に、思った…
不謹慎だが、楽しめると思った…
トラブルは、生きがいと、言った男が、いたが、なにも、なければ、人生は、退屈だからだ…
だから、なにがしかのトラブルがあった方が、いい…
そして、そのトラブルは、健康に関係ないこと…
そして、命の危険もないことなら、さらにいい…
ただの暇つぶしになるからだ…
不謹慎だが、そう、思った…
それは、今、私が、仕事をしていないことが、大きい…
無職であることが、大きい…
ずばり、暇だからだ…
だから、そんなことを、考えた…
だから、そんなことを、思った…
来るなら、来い! と、思った…
そして、私が、そんな不謹慎なことを、考えていると、
「…ちょっと、寿さん、聞いてる?…」
と、いう声が、電話の向こう側から、聞こえて来た…
私は、即座に、
「…ハイ、聞いています…」
と、答えた…
それから、マミさんが、念を押すように、
「…寿さん、気をつけてね…」
と、繰り返した…
「…気をつけてって?…」
「…団郁馬は、しつこい…寿さんに、狙いを定めた以上、なにをするか、わからない…」
「…なにをするか、わからないって、そんなおおげさな…」
「…いえ、おおげさじゃない…全然、おおげさじゃない!…」
マミさんが、語気を強める…
「…あの団郁馬は、読めない…」
「…読めない?…」
「…行動が、読めない…だから、父も、対処に、困った…」
「…」
「…行動が、読める人間は、いい…対処のしようがある…でも、行動が、読めない人間は、厄介…対処のしようがない…」
「…」
「…あの団郁馬は、そのタイプ…だから、父も、対処に、悩んだ…」
マミさんが、激白する…
そして、マミさんの言葉を聞いて、考えた…
ようやく、答えが出た…
今度の一件…
五井の女帝、諏訪野和子が、倒れたことに始まる、今度の一件…
すべての黒幕は、たぶん、あの団郁馬…
ようやく、そのことに、気付いた…
最初は、あの西家の当主かと、思った…
伸明に縁談を強要した、あの西家の当主かと、思った…
なにより、あの西家当主は、エネルギッシュ…
まるで、昭和時代のモーレツ上司のように、エネルギッシュだからだ(爆笑)…
いわば、誰にも、わかりやすい形で、上昇志向の塊…
少しでも、上に行きたい…
少しでも、偉くなりたい…
そんな、わかりやすい、昭和時代のサラリーマンと、言ったところか?
だから、ある意味、怖くない…
なぜ、怖くないのか?
それは、野心が、丸見えだからだ…
上昇志向が、丸見えだからだ…
五井家の当主である、伸明と、先祖が、自分と血の繋がりがある、あの長谷川センセイの妹のハルカと、結婚させて、自分は、その後ろ盾となる…
わかりやすい話、伸明の義父に近い、立ち位置になる…
そうすれば、五井で、今、以上の地位を得られる…
五井の有力な分家である、五井西家当主としてだけでなく、本家の当主の義理の父親になる…
つまりは、今、以上の権力を得られるのだ…
そして、それは、わかりやすい構図…
実に、誰が見ても、わかりやすい構図だった…
が、
単純すぎる…
それでは、単純すぎる…
なにより、それでは、あの昭子が、出てこなかったのではないのか?
伸明の実母である、諏訪野昭子は、出てこなかったのでは、ないか?
あの昭子は、双子の妹の和子から、引導を渡され、五井を去った身だ…
にも、かかわらず、戻ってきた…
それは、私は、双子の妹の和子が、倒れたから…
五井の女帝の和子が、倒れたからだと、思った…
伸明の後ろ盾である、和子が、倒れたことで、五井のパワーバランスが、崩れる…
それが、わかっているから、戻ってきたと、思った…
が、
たぶん、ことは、そう、単純ではなかったのかも、しれない…
おそらくは、あの西家夫妻程度なら、伸明は、一人で、対応できたはずだ…
が、
その背後に、団郁馬がいる…
それに、気付いたことで、あの昭子は、再び、姿を現したのでは、ないか?
そう、気付いた…
あの昭子は、双子の妹の和子と同じ…
周囲をまとめられる力量を持つ…
これは、才能…
生まれつきの才能だ…
仮に、東大を出ていても、ひとをまとめられない人間は、まとめられない…
ひとをまとめる才能と、勉強ができる才能は、才能が、違うからだ…
つまりは、持っている才能が、違う…
これは、子供では、わからない人間が、大半だが、稀に、大人でも、わからないものが、いる…
要するに、接したことが、ないからだ…
それゆえ、極端な話、東大を出れば、なんでも、できると、勘違いする…
勘違いするのは、いわゆる、学歴が、ない人間が、多い…
学歴が、ないから、普段から、学歴の高い人間と、接したことが、ないからだ…
だから、わからない…
頭の良さと、集団の中で、ひとを束ねる能力が、別物だと、いうことが、わからない…
が、
そんなひとを束ねる能力を持つ、人間ですら、稀に、束ねられない人間が、いる…
大抵は、周囲から、自分が、どう見られるか、わからない、おバカさんだが、それが、能力がある人間だと、厄介だ…
なにをするか、わからないからだ…
だから、厄介だ…
そして、それが、あの団郁馬なのだろう…
五井家の中では、あの団郁馬なのだろう…
それゆえ、昭子が、現れた…
五井を追放された、昭子が現れた…
おそらくは、伸明を守るために、現れた…
あの団郁馬から、実の子供である伸明を守るために、現れた…
それが、真相だろう…
それが、真実だろう…
私は、思った…
私は、考えた…
それは、なにより、このマミさんが、あの団郁馬を恐れているから、わかった…
マミさんは、気の弱い女ではない…
気の強い女だ…
にも、かかわらず、あの団郁馬を恐れている…
それは、マミさんから、見ても、強敵…
あの団郁馬は、強敵に他ならないからだ…
私は、思った…
そして、あの団郁馬には、あのユリコがいる…
私の天敵のユリコがいる…
まさに、豪華絢爛というか…
まさに、ゴールデンコンビ…
二度と、会いたくない、コンビだ…
なにより、あのユリコといっしょにいる人間だ…
どんな人間か、想像がつく…
まともな人間なら、ユリコとは、つるまない…
そういうことだからだ(爆笑)…
そして、ハルカ…
あの長谷川センセイの妹のハルカだ…
あのハルカと、ナオキが、結婚会見をした…
が、
その一方で、ナオキは、アレは、結婚会見だけだと、私に言った…
つまりは、結婚はしないような、言い方だった…
そして、ナオキとあのハルカの結婚報道を流したのは、東都テレビ…
東都テレビ一社だけ…
その東都テレビは、あの団郁馬の支配下にある…
東都テレビの親会社は、東都ラジオ…
その東都ラジオの株は、東都新聞が、持ち、その東都新聞の株は、団郁馬が、握っている…
団郁馬は、東都新聞の社主だからだ…
ただひとりの東都新聞の社主だからだ…
だから、それを、考えると、面白くなってきた…
不謹慎ながら、面白くなってきた…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えていると、
「…とにかく、寿さん、気をつけて…」
と、マミさんが、電話の向こう側から、言ってきた…
私は、即座に、
「…わかりました…」
と、答えた…
「…気をつけます…」
と、続けた…
私が、勢いよく、言うものだから、マミさんは、戸惑ったようだ…
「…わかったなら、いいわ…」
と、トーンを落として言った…
「…じゃ、寿さん、これで…」
「…マミさん、ありがとうございます…」
と、私は、言った…
それで、電話が、切れた…
マミさんからの電話が、切れた…
私は、正直、ホッとした…
このマミさんから、電話があって、ホッとした…
ようやく、謎が、解けた…
そんな気がしたからだ…
私の中で、そんな気がしたからだ…
実は、最初から、違和感があった…
なにが、違和感があったのかと、言えば、伸明の敵…
五井家内での伸明の敵だ…
それは、最初、あの西家当主だと、思った…
あの西家当主は、誰が見ても、エネルギッシュ…
誰が、見ても、昭和のオヤジ…
昭和の暑苦しい、会社の上司の典型だったからだ…
が、
あのエネルギッシュなオヤジと、対峙しても、伸明は、ひるまなかった…
ビックリするほど、ひるまなかった…
それゆえ、これは、違うと、思った…
伸明が、恐れている相手ではないと、悟った…
そして、あの昭子の登場…
一度は、五井家を追放された昭子が、わざわざ顔を見せた…
私の前に現れた…
それゆえ、なにか、ある…
きっと、なにか、大変なことが、起こっていると、気付いた…
そして、その正体が、あの北東家当主なら、納得する…
実に、納得するのだ…
いわば、わかりやすい敵ではない…
わかりづらい敵…
一見すると、誰もが、見逃すような相手…
変な話、透明人間のような目立たない相手…
それは、ある意味、危険…
これ以上、怖い相手は、いない…
なにしろ、相手は、透明人間だ…
姿が、見えない…
それと、同じように、存在感が希薄な人間ほど、怖いものは、ない…
こちらが、油断してしまうからだ…
だから、容易に揚げ足を取られる…
それが、怖いのだ…
が、
相手の正体が、わかった以上、気をつければ、揚げ足を取られることは、ない…
そう、信じたい…
そう、信じたいのだ…




