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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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115/225

寿綾乃という女 第4部 115

 私は、仰天した…


 文字通り、仰天した…


 まさか、さっき、会った、あのオジサンが、団郁馬だったなんて…


 まさか、考えも、しなかった…


 まさか、思いも、しなかった…


 まさに、まさか、だった…


 が、


 考えてみれば、当てはまった…


 事前に、マミさんから、聞いた特徴が、当てはまった…


 とにかく、特徴がない男…


 それが、特徴だと、言っていたからだ…


 特徴がないのが、特徴と言われると、戸惑うが、実際に、あのオジサンと会うと、それが、わかる…


 たしかに、特徴という特徴が、ない…


 驚くほどない…


 だから、マミさんの言うことが、わかる…


 実に、わかる…


 わかるのだ…


 それゆえ、私は、急いで、


 「…さっき、会いました…」


 と、言った…


 私の言葉に、今度は、マミさんが、


 「…」


 と、絶句した…


 言葉もなかった…


 まさか、もう、会ったとは、夢にも、思わなかったに違いない…


 それから、まもなく、


 「…ええー!…もう会った!…」


 と、素っ頓狂な声が、電話の向こう側から、聞こえて来た…


 私は、驚いた…


 マミさんの対応に、驚いた…


 驚くとは、思っていたが、まさか、これほど、驚くとは、予想も、していなかったからだ…


 私は、なにか、言おうと思ったが、止めた…


 ここで、なにか、言うことは、逆効果に、なりかねないからだ…


 だから、止めた…


 なにも、言わなかった…


 黙って、マミさんが、次に言う言葉を待った…


 すると、マミさんが、


 「…どこで?…」


 と、聞いた…


 すぐに、聞いた…


 当たり前だった…


 私は、すかさず、


 「…コンビニで…」


 と、答えた…


 「…コンビニ?…」


 電話の向こう側から、マミさんの怪訝な声が、聞こえて来た…


 「…つい、さっき、会ったところです…」


 「…つい、さっきって?…」


 「…今、ウオーキングをして、外から、戻ってきたばかりなんですが、その途中で、喉が、渇いたから、なにか、飲み物を買おうと、コンビニに、寄ったんです…そこで…」


 私が、言うと、マミさんが、


 「…」


 と、沈黙した…


 またも、沈黙した…


 私は、なにか、言うべきか、考えた…


 私から、なにか、先に言うべきか、悩んだ…


 が、


 先に、マミさんが、話した…


 「…寿さん、読まれている…」


 と、先に、話した…


 「…読まれている? なにを読まれているんですか?…」


 「…寿さんの行動よ…」


 「…私の行動?…」


 「…そう…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…きっと、あの団郁馬のことだから、寿さんの行動範囲を事前に、調べて、偶然を装って、近付いたんだと、思う…」


 「…偶然を装ってって?…」


 「…寿さん、コンビニで、団郁馬と会って、なにをしたの?…」


 「…なにを、したって、言われても…コンビニで、小学校に上がったか、上がらないかの、5、6歳の男のコが、お菓子か、なにかを、買ったんですが、お金が足りなかったんです…それで、レジが、混んで…」


 「…それが、どうかしたの?…」


 「…それで、見知らぬ、オジサンが、足りないお金を出してあげて、それで、私が、その後、飲みものを買って、外で、飲んでいると、そのオジサンが、話しかけてきて…そのオジサンが、今、見た写真の団郁馬だったんです…」


 私が、説明すると、マミさんが、黙った…


 「…」


 と、黙った…


 私は、待った…


 マミさんが、なにを言うか、待った…


 それから、


 「…寿さん、それって、たぶん、寿さんに、近付くための、手段よ…」


 と、きつい口調で、言った…


 「…手段?…」


 「…今の寿さんの話を聞くと、要するに、団郁馬は、寿さんと、話す、きっかけが、欲しかった…」


 「…きっかけ?…」


 「…ほら、寿さんが、今、ウオーキングをしていたと、言ったでしょ?…」


 「…ハイ…言いました…」


 「…ウオーキングをしていて、どこかで、休憩していれば、お疲れですね? ウオーキングですか? とでも、声をかける…たわいもない会話をして、交流する…誰にでも、できることでしょ? …」


 「…」


 「…それを、あの団郁馬は、狙っている…おそらく、偶然を装って、寿さんに、近付く機会を狙っている…」


 「…どうして、私に近付く機会を狙っているんですか?…」


 「…それは、寿さんが、伸明さんの気になるひとだからよ…」


 「…気になるひと?…」


 「…なにより、伸明さんの縁談に、私といっしょに、五井の本家側の人間として、出席した…どんなひとか、気になるのが、当たり前でしょ?…」


 そう言われれば、なにも、言えなかった…


 たしかに、その通り…


 その通りだからだ…


 今、振り返れば、自分としても、断るべきだった…


 伸明の身内同然の立場で、伸明の見合いの席になど、行くべきでは、なかった…


 今さらながら、自分の行動を、恥じる…


 自分の行動を、深く恥じる…


 誰もが、あの席に、身内同然の立場で、出席すれば、


 …いったい、どういうひとなんだろ?…


 と、なる…


 と、考える…


 当たり前のことだ…


 その結果、私に興味を持つ…


 私、寿綾乃に興味を、持つ…


 当たり前のことだ…


 こんなことなら、断るべきだった…


 あのとき、このマミさんに、熱心に誘われたが、断るべきだった…


 今さらながら、思った…


 実に、思ったのだ…


 そう、考えていると、突然、


 「…団郁馬は、伸明さんの失脚を狙っている…」


 と、マミさんが、言ってきた…


 「…えっ? 失脚? ウソでしょ?…」


 「…ホント…」


 「…失脚とまでは、行かなくても、伸明さんの権限の縮小を狙っている…」


 「…権限の縮小?…」


 「…要するに、五井家当主としての権限の縮小を狙っている…」


 「…どうして、そんなことを…」


 「…団郁馬は、父が、憎いの…」


 「…憎い…」


 「…以前、寿さんにも、言ったように、団郁馬は、父と因縁があった…」


 「…」


 「…東都新聞や東都テレビを、バックに、五井家の序列を崩そうとする団郁馬と、従来の五井家の序列を守ろうとする父と激しく対立した…」


 「…」


 「…でも、もう父はいない…だから、団郁馬は、怒りをぶつける相手がいない…そこで、目をつけたのが、伸明さん…」


 「…伸明さん…」


 「…伸明さんが、五井家当主だから、目をつけた…嫌がらせの相手として、目をつけた…そういうこと…」


 「…そういうこと?…」


 「…そういうことよ…」


 マミさんが、断言する…


 それから、マミさんが、意外なことを、言った…


 団郁馬の意外なことを、言った…


 「…寿さん、団郁馬が、伸明さんを憎むのは、父のせいだけじゃないわ…」


 と、意外なことを、言った…


 「…建造さんのせいだけじゃない? それは、一体どういう…」


 「…それは、言いづらいけれども、コンプレックス…」


 「…コンプレックス? 一体、なんのコンプレックスなんですか?…」


 「…ルックスに対するコンプレックス…伸明さん、いい男でしょ? イケメンだし、背も高い…それに比べ、団郁馬は、平凡…それが、許せない…」


 「…許せないって?…」


 「…そもそも、団郁馬のような人間は、そう…」


 「…そうって?…」


 「…団郁馬は、北東家は、五井の序列の中では、下位…東西南北の分家のはるか下…それが、許せない…」


 「…許せない?…」


 「…そう、許せない…数代前の先祖が、東都新聞を発行して、それが、時代の波に乗り、東都ラジオ、東都テレビと、メディアを拡大した…五井の東西南北の四つの分家に匹敵するほど、力を、つけた…にもかかわらず、北東家の序列は、五井では、下位のまま…それが、気に入らない…」


 「…気に入らないって?…」


 「…要は、上昇志向の塊…」


 「…上昇志向の塊って?…」


 「…とにかく、上に上がりたい…少しでも、上に上がりたい…そんな上昇志向の塊…」


 「…」


 「…でも、一方で、それは、コンプレックスの裏返しでもある…」


 「…どういうことですか?…」


 「…団郁馬…彼は、目立たない風采でしょ? 仮に、東大を、出ても、目立たない…周囲の人間から、見て、一目置かれない…それが、コンプレックス…」


 「…コンプレックス?…」


 「…自分の能力は、さておき、常に、自分が、一番だったり、自分が、目立ちたい人間は、男女を問わず、いるものよ…」


 「…」


 「…もちろん、あの団郁馬は、五井北東家の当主、頭もいいし、いい大学を出ている…でも、目立てない…周囲の人間に一目置かれない…それが、彼のコンプレックス…隠しようのない、コンプレックス……」


 「…」


 「…それで、おそらく、今度は、寿さんを、ターゲットにする確率大…」


 「…私をターゲットに、どうして、私が、ターゲットなんですか?…」


 「…だって、寿さん、美人でしょ?…」


 「…それが、どうかしましたか?…」


 「…だから、気に入らないの…」


 「…えっ?…」


 「…もちろん、寿さんが、なにもなければ、団郁馬も、寿さんをターゲットにしない…でも、寿さんは、伸明さんのお気に入り…二人が、揃うと、絵になる…」


 「…絵になる?…」


 「…つまり、美男美女ね…だから、気に入らない…」


 「…」


 「…別に、寿さんが、悪いわけじゃない…ただ、団郁馬のようなコンプレックスを持つ人間は、勝手に絡んで来る…」


 「…勝手に絡んでくる?…」


 「…まるで、ヤクザが、因縁をつけるように、絡んで来る…だから、厄介…」


 マミさんのこれまでの言葉を聞いて、なぜ、マミさんが、


 「…気をつけて…」


 と、言ったのか、わかった…


 十分過ぎるほど、わかった…


 たしかに、マミさんの言うように、このようなタイプの人間は、私も知っている…


 なにしろ、私も、32歳…


 32歳、生きている…


 それゆえ、そんなタイプの人間も、知っている…


 お目にかかったことがある…


 そして、それは、主に学生時代が、多かった…


 子供の頃が、多かった…


 どうしても、子供の頃の方が、感情を素直に、表しやすい…


 感情=行動を素直に、表しやすいからだ…


 だから、行動に出る…


 気に入らないものを、イジメたり、半端にする…


 その中には、明らかに、勉強ができたり、美人だったり、イケメンだったりする子供がいる…


 つまりは、コンプレックス…


 自分が、勝てないから、気に入らない…


 そういうことだからだ…


 これが、大人になると、悪口や陰口に代わる…


 さすがに、子供のように、行動に出すわけには、いかないからだ…


 が、


 そう、考えると、厄介…


 実に、厄介だ…


 あの団郁馬という男は、実に厄介だ…


 なぜ、厄介なのか?


 それは、コンプレックスの塊ほど、付き合うのに、厄介な人間は。いないからだ…


 付き合うのに疲れる人間は、いないからだ…


 だから、厄介…


 厄介なのだ…


 その人間にターゲットにされる…


 これ以上、厄介なことは、ない…


 思わず、ため息をついた…


 厄介なことが、増える…


 そう、思った…


 実に、そう、思った…

 

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