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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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114/225

寿綾乃という女 第4部 114

 このオジサン…


 歳は、五十代に見える…


 身長は、170㎝台…


 おそらく、172㎝か、173㎝…


 この年代のオジサンの平均的な身長だ…


 顔も、平凡…


 取り立てて、特徴がない…


 しいて言えば、特徴がないのが、特徴といってもいい…


 それほど、平凡だ…


 ただ、痩せている…


 この年代の男性にしては、痩せた部類に入る…


 それが、特徴と言えば、特徴か?


 とにかく、平凡な容姿…


 目立たない容姿だ…


 それゆえ、その目立たない容姿のオジサンが、私のことを、面と向かって、


 「…美人…」


 と、呼ぶのは、似合わないというか…


 率直に言って、もっと、イケオジだったり、昔、ヤンキーだったり、する場合は、納得する…


 若い頃に、女にモテたり、女と遊んだりする姿が、想像がつくからだ…


 しかしながら、目の前のただの真面目そうなオジサンの口から、そんな言葉が出るのは、意外というか…


 正直、似合わなかった(苦笑)…


 だから、困惑した…


 どう、対応していいか、困惑した…


 そして、そんな私の困惑が、わかったのかも、しれない…


 目の前のオジサンは、笑いながら、


 「…いかに、美人でも、見ず知らずの人間に、いきなり美人と言われたら、誰だって、戸惑いますものね…」


 と、笑った…


 私は、どう答えて、いいか、わからなかった…


 それゆえ、笑った…


 愛想笑いを浮かべた…


 それが、無難…


 無難だからだ…


 私が、なにも言わないのを、見て、


 「…それでは、これで、失礼します…」


 と、言って、オジサンは、歩き出した…


 きっと、私が、反応しないのを、見て、落胆したのかも、しれない…


 たとえ、少しでも、私が、オジサンの会話に、合わせれば、また、別の展開になっていたのかも、しれない…


 まあ、別の展開といっても、この後、なにか、あるわけでは、ない…


 せいぜいが、5分程度、この場で、立ち話に、興じるだけだ…


 世間話に、興じるだけだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 いずれにしろ、長い時間ではない…


 そんなことを、考えながら、歩き出した…


 なにしろ、ウオーキングだ…


 脳梗塞を、予防するための、ウオーキングだ…


 少しでも、歩かなければ、ならない…


 歩いて、カラダの中の血液の巡りを、良くしなければ、ならない…


 だから、ホントは、命がけ…


 ただ、歩くだけだが、ホントは、命がけ…


 おおげさでなく、命をつなぐために、歩いているのが、真相だからだ…


 しかしながら、私が、歩いているのを見て、誰も、その真相を知るものは、いない…


 なにしろ、32歳だ…


 まだ、結婚もしていない…


 そんな年齢の女が、まさか、脳梗塞の予防のために、歩いているなんて、思いもしないだろう…


 考えも、しないだろう…


 せいぜいが、趣味…


 ウオーキングが、趣味と思うはずだ…


 いや、


 私が、ウオーキングをしているのも、大半が、気付かないだろう…


 なぜなら、私は、普段着…


 ウオーキングをするために、特別な格好は、していない…


 それゆえ、私が、今、ウオーキングをしていることも、気付かないひとたちが、大半だろう…


 私は、そんなことを、考えながら、ウオーキングを続けた…


 実際、ただ、ウオーキングをするのは、難しい…


 ただただ、歩くことに、夢中になることは、難しい…


 だから、どうしても、なにか、考える…


 ぼんやりと、考える…


 もちろん、他人は、どうか、わからない…


 ただ、私の場合は、そう…


 しかしながら、もしかしたら、それは、私が若いから…


 まだ、若いからかも、しれない…


 まだ、32歳と若いからかも、しれない…


 それゆえ、余裕がある…


 ただ、歩くことだけに、集中しない余裕がある…


 これが、私が、今の32歳の倍の64歳になったら、どうだろうか?


 まさか、日常で、杖のお世話になっているとは、思えないが、おそらくは、歩くだけで、今の年齢のようには、いかないだろう…


 早く、疲れるだろう…


 これは、簡単に、想像がつく…


 また、私の場合は、それほど、疲れないが、他のひとは、わからない…


 同じ年齢でも、わからない…


 それは、なぜか?


 それは、皆、持っているカラダが、違うからだ…


 だから、疲れ方が違う…


 ちょっとの運動で、疲れる人、疲れないひとが、いる…


 これは、個人差…


 あるいは、個体差だ…


 皆、カラダが、同じでは、ない…


 それが、わからないものが、以前は、多かったが、今は、世間で、その違いを、受け入れてきたように、思う…


 多様性というか…


 他人と自分は、違うという当たり前のことが、世の中で、認知されるようになったと、思う…


 私は、そんなことを、考えながら、ウオーキングを続けた…


 常に、なにか、漠然と、考えながら、ウオーキングを続けた…


 これは、たぶん、余裕…


 私の余裕なのかも、しれない…


 ウオーキングをする程度では、まだ、まだ、体力に余裕のある証拠なのかも、しれない…


 

 そして、家に戻った…


私は、家に戻ると、真っ先に、自宅の固定電話に、留守電が、きていないか、どうか、調べた…


 普通は、ケータイに、電話があるが、稀に、家の固定電話に、連絡が来ることがある…


 まあ、イマドキ、女の一人暮らしで、家に固定電話がある家も、少ないかも、しれない(苦笑)…


 これは、ジュン君とナオキと3人で、ここに住んでいた名残…


 ジュン君は、学校…

 

 ナオキは、会社と、どうしても、組織に所属していれば、固定電話が、必要…


 やはり、ケータイだけでは、信用されない…


 事実、これは、今も同じだろう…


 会社を経営している社長の自宅が、いかに、豪華であろうと、自宅に、固定電話がないのは、ありえない…


 それでは、世間から、信用を得られない…


 そういうことだ…


 私が、家の固定電話を、見ると、メッセージが、あることが、わかった…


 私は、指で、ボタンを押して、留守電のメッセージを聞いた…


 「…おはようございます…」


 と、いうメッセージが、流れてきた…


 聞き覚えのある声が流れて来た…


 マミさんの声が、流れて来た…


 私は、それを、聞いて、まずは、ホッとした…


 迷惑電話でないことが、わかったからだ…


 最近は、留守電にメッセージが、入れてあると、大半が、押し売りか、詐欺メッセージ(苦笑)…


 このままでは、電話が止まるから、これから言う番号に電話をかけろという詐欺メッセージ…


 あるいは、押し売り、または押し買い…


 とにかく、強引に家を訪れて、商品を押し付けるか、あるいは、強引に、商品を買おうとするのかのどちらか…


 いずれにしろ、警察のお世話になる案件…


 まともな電話ではない…


 だから、安心した…


 そんな電話では、ないから、安心した…


 が、


 そうでは、なかった…


 電話の内容は、安心とは、ほど遠いものだった…


 「…寿さん、気をつけて…」


 と、メッセージが流れてきたからだ…


 …気をつける?…


 …一体、なにに、気をつけるのだろう?…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 「…団郁馬が、近付いてくる…」


 マミさんが、続けた…


 …団郁馬?…


 …五井北東家当主?…


 とっさに、気付いた…


 とっさに、考えた…


 まさか?

 

 まさか、団郁馬が、私に近付いてくる?

って、意味が、わからなかった…


 それより、なにより、私は、団郁馬の顔を知らない…


 どんな顔をしているのか、知らない…


 だから、気をつけるも、なにもない…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 だから、留守電のメッセージが、終わる前に、電話を、かけた…


 マミさんのケータイに、電話をかけた…


 「…もし、もし、寿です…」


 と、言って、慌てて、電話をかけた…


 幸い、電話は、すぐに、繋がった…


 思ったより、簡単に、電話が繋がった…


 「…寿さん?…」


 と、言って、マミさんは、電話を出た…


 私は、ホッとした…


 実に、ホッとした…


 やはり、今の時間、電話が繋がることは、難しい…


 それは、マミさんが仕事をしているから…


 マミさんは、会社を、経営している…


 だから、当然、仕事中…


 それゆえ、電話をかけても、繋がらないと思ったのだ…


 だから、マミさんが、電話に、出て、ホッとした…


 マミさんが、電話に出て、


 「…寿さん?…」


 と、言ってくれて、ホッとした…


 私は、マミさんの言葉を聞いて、すぐに、


 「…あの…マミさん…団郁馬が近付いてくるっていうメッセージをもらったんで、私、電話をしたんですけど…」


 と、言った…


 どうして、今、電話をしたのか?


 まずは、その説明をしたかった…


 まずは、その説明をするのが、先だと、思ったのだ…


 それは、なぜか?


 やはり、それは、社会人のマナー…


 朝っぱらから、仕事の用事でも、なんでもないのに、電話をかけるのが、マナーに反すると、思ったからだ…


 だから、説明した…


 こんな朝っぱらから、マミさんに、電話を入れた理由を説明した…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…情報が、入ったのよ…」


 と、マミさんが、言った…


 素早く、言った…


 「…情報?…」


 「…団郁馬が、寿さんに、接触しようとしている情報…」


 「…そう、言われても、私、その団郁馬さんのことが、まったく、わかりません…ネットで、調べても、顔の写真一枚、ありませんでした…どんな顔をしているのかも、しりません…」


 私が、言うと、マミさんが、黙った…


 「…」


 と、沈黙した…


 そして、


 「…そうよね…」


 と、しばし、時間を置いて、言った…


 「…寿さん、団郁馬の顔を、知らないものね…」


 「…ええ…知りません…」


 私が、言うと、少しの沈黙後、


 「…だったら、送る…」


 と、いきなり、マミさんが、言った…


 「…送る? 送るって、なにを送るんですか?…」


 「…団郁馬の写真…」


 「…写真? そんなものが、あるんですか?…」


 「…普通は、ない…団郁馬は、用心深いから、滅多に、写真を撮られない…自分の顔が世間に知られるのを、防ぐために、注意して、写真を撮らせない…」


 「…」


 「…でも、一族の集まりは、別…五井一族の集まりには、顔を出すし、そこでは、普通に写真を撮る…さすがに、一族の集まりに、顔を出さないわけには、いかないから…」


 マミさんが、説明する…


 「…寿さん、ケータイで、いい?…」


 と、いきなり、言った…


 「…えっ? なにが、いいんですか?…」


 「…これから、団郁馬の写真を送る…送り先、ケータイでいい?…」


 「…ハイ、いいです…」


 答えてから、ケータイを探した…


 たしか、さっきは、ウオーキングをしたときは、持ち歩かなかった…


 誰からも、連絡がないと、思っていたからだ…


 真逆に、持ち歩くことで、もし、どこかで、落としたら、困ると、思ったからだ…


 だから、考えた…


 どこに、置いたか、考えた…


 すると、すぐに、思いついた…


 机の近くだ…


 パソコンの置いてある、机の近くだ…


 私は、受話器を持ったまま、机に向かった…


 そして、机に置いてあるケータイを持ち、すぐに、スイッチを入れた…


 すぐに、マミさんから、メールが届いた…


 私は、そのメールをすぐに開けた…


 すると、出てきたのは、オジサンの顔…


 とりたてて、特徴のない、オジサンの顔だった…


 五十代と思しき、オジサンの顔だった…


 つい、さっき、コンビニで、会った、オジサンの顔だった…


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