寿綾乃という女 第4部 111
が、
気分は、よくなった…
ナオキから、電話があったから、気分は、良くなった…
ウソか、ホントか、現時点では、わからないが、ナオキの結婚が、ただのパフォーマンスだと、わかったことで、気分が、よくなった…
まさか、このまま、ナオキは、あのハルカとは、結婚はしないだろう…
私は、思った…
私は、考えた…
まさか、あのナオキが、本気で、ハルカと、結婚は、しないだろう…
あの結婚会見は、パフォーマンス…
パフォーマンスに過ぎない…
誰に向かってのパフォーマンスなのか、わからなかったが、それでも、パフォーマンスに過ぎない…
私は、そう、信じることにした…
固く、そう信じることにした(笑)…
すると、どうだ?
病は、気からの言葉通り、私の体調も、若干、良くなった気がした…
あくまで、私の感覚だが、少しは、良くなった気がした…
我ながら、現金…
実に、現金なものだ(笑)…
こんなことで、体調が、良くなるなんて…
自分でも、自分に笑ってしまう…
が、
そういうものかも、しれない…
誰もが、そういうものかも、しれない…
それまで、どん底に、いた気分であっても、今回のように、簡単なことで、気分が、良くなる…
気分が、一新する…
そんなことが、ある…
稀にある…
一番、わかりやすい例が、やはり、友達や、恋人など、身近な人間…
身近な友人や、恋人が、
「…アンタ、大変だったものね…」
と、一言、言ってくれれば、嬉しくなる…
そんなときが、ある…
自分の苦境を間近に、見ていて、気付いてくれたんだなと、知って、嬉しくなるときが、ある…
だから、今で、言えば、マミさんにでも、
「…寿さん、良かったね…」
と、言われれば、嬉しくなる…
私の苦境をわかってくれたと、思って、嬉しくなる…
正直、私は、友達が少ない…
田舎から、都会に出てきた時点で、過去を捨てた…
過去を捨てたと、言うと、まるで、ドラマの主人公のようで、カッコイイが、それは、要するに、田舎時代の友人や知人と、交流しないだけ…
ただ、それだけだ…
そして、FK興産の同僚…
これも、ナオキと出会ってから、十五年だから、会社歴も、同じくらい…
にもかかわらず、親しい同僚は、一人も、いない…
もちろん、会社にいたときは、いた…
誰もが、同じだが、会社でも、学校でも、親しい同僚や友人は、数人は、いた…
が、
それは、会社や学校でのこと…
会社や学校では、昼休みとか、仕事の休憩中に仲良く話す、同僚や、友人は、いるが、それが、プライベートまでは、及ばない…
ハッキリ言えば、プライベートでは、交流が、一切ない…
あくまで、会社や、学校という場所で、仲良く話すだけの間柄だからだ…
もっとも、これが、十代や、二十代前半の若いコならば、違うだろう…
会社や、学校だけでなく、プライベートでも、どこかに、いっしょに、遊びに行ったに違いない…
が、
私には、それがなかった…
なぜ、なかったのか?
それは、ジュン君の面倒を見ていたから…
会社や、学校を終えれば、家で、幼いジュン君の面倒を見ていたからだ…
ジュン君の母親のユリコは、突然、失踪した…
残されたジュン君の面倒を見る人間は、私しか、いなかったからだ…
父親のナオキは、仕事で、忙しい…
だから、言わば、私は、家政婦代わりで、忙しかった…
それゆえ、学校が、終われば、いっしょに、どこかに、行くような友達は、できなかった…
あくまで、友達でいるのは、学校だけ…
プライベートでは、一切の交流がない…
そういうことだった…
そして、それは、会社でも、同じ…
同じだった…
仕事帰りに、いっしょに、居酒屋で、飲んだり、カラオケをする同僚は、いたが、それだけ…
やはり、学校のときと同様、プライベートで、交流することは、なかった…
これは、やはり、家にジュン君が、いたことが、大きい…
ジュン君が、中学生にでもなれば、なにも、私が家に帰ってからも、ジュン君の面倒を見る必要は、なかったのだが、ジュン君は、頼りない…
おまけに、すぐに、私を頼る(苦笑)…
だから、基本、いくら、会社で、親しい同僚でも、プライベートで、仲良くなることは、なかった…
私のプライベートは、常にジュン君を優先していからだ…
が、
私は、今、32歳…
さすがに、この歳になると、かつては、親しかった学校の友人や、会社の同僚と、プライベートで、仲良く、どこかに行く、人間は、いない…
滅多にいない…
そして、それは、歳を取れば、取るほど、そう…
歳を取れば、取るほど、交流がなくなる…
それが、普通…
普通だ…
例えば、同じ会社に勤めていても、二十代の独身同士なら、男同士でも、女同士でも、休みに、どこかに、遊びに行こうか、という話になるが、これが、四十代や、五十代になれば、まずは、ならない…
例え、独身同士でも、ならない…
まずは、体力的にキツイ…
貴重な休みを潰して、どこかに、遊びにいくくらいなら、家で、ダラダラしていた方が、いい…
その方が、疲れないからだ…
そして、もう一つは、金銭的な理由…
誰もが、高給取りでは、決してないので、お金を使いたくない…
無駄にお金を、使いたくない…
それゆえ、誰もが、歳を取れば、取るほど、付き合いが、悪くなる…
遊んで使ったお金を貯金するか、結婚していれば、子供たちのために、使った方が、有意義だからだ…
まあ、そんな理由で、歳を取れば、取るほど、友人や、知人の数は、誰もが、少なくなる…
会社なんて、辞めてしまえば、一瞬で、それまでの同僚とは、縁が、切れる…
仮に、会社を辞めた後は、何度か、いっしょに飲んでも、それが、続かないのが、大半…
一年も経たないで、なんの関係もなくなる(爆笑)…
長々と書いたが、つまりは、誰もが、歳を取れば、取るほど、プライベートで、仲良くする友人、知人は、いないということだ…
もちろん、この寿綾乃も、例外ではない…
当然、当てはまる…
そして、私の気性…
それは、群れるのが、嫌だということだ…
女は、学校でも、会社でも、群れるのが、好きだが、私は、苦手…
基本、相手に会わせるのが、苦手だからだ…
独立独歩というか…
基本、ひとりで、動く…
そして、それは、あのマミさんも、同じ…
同じだ…
二人とも、群れるのが、嫌い…
無理に相手に合わせてまで、付き合うのが、苦手だからだ…
それゆえ、私とマミさんは、気が合う…
が、
それは、裏を返せば、我がまま…
単なる我がままなのかも、しれない…
しかし、そう考えると、少し、おかしい…
なにが、おかしいか?
それは、マミさんが、我がままなのは、いい…
マミさんが、我がままなのは、わかる…
それは、マミさんが、愛人の子では、あるが、五井家前当主、建造の娘だからだ…
それゆえ、お金には、困っていなかっただろう…
人並み以上に、裕福だったろう…
だから、基本、性格が、我がままになる…
どうしても、お金があれば、自分勝手になる確率が、高いからだ…
だから、我がままになる…
が、
私に、これは、当てはまらない…
なぜなら、私の子供時代は、裕福とは、真逆…
真逆に、お金に、縁がなかった(苦笑)…
母子家庭だから、当たり前だった…
にもかかわらず、私は、我がまま…
わざわざ、他人と合わせるのが、嫌い…
これは、一体、どういうことだろう…
これは、私が、美人だから…
美人に生まれたから、調子に乗っている?
それも、あるかも、しれない…
が、
その可能性を除けば、やはり、それは、血…
生まれついての、血=性格なのかも、しれない…
私も、マミさんも、ただ、生まれつき、他人と、無理に、合わせて生きるのが、嫌なのかも、しれない…
そして、幸いなことに、私も、マミさんも、無理に、他人に、合わせて生きる生き方を、しないで、生きて来た…
これは、幸運…
まさに、幸運だった…
誰もが、他人に合わせなければ、生きていけない…
この世の中に、いるのは、自分だけでは、ないからだ…
だから、当然、私も、マミさんも、他人に合わせて生きてきた部分もある…
が、
無理に他人に合わせてまで、生きてきた部分が、少ない…
それが、真実だろう…
だから、幸運…
これまで、幸運だったのだ…
私は、思った…
私は、考えた…
が、
その幸運が、いつまで、続くか、わからない…
私もマミさんも、わからない…
まあ、もっとも、私は、癌患者…
だから、もう少しは、この幸運が、続くかも、しれない…
ふと、そう、思った…
なぜ、そう、思ったのか?
それは、ひとが、ひとりで、一生、持てる幸運の量は、決まっている…
誰かが、そう、言ったからだ…
そして、それを、私に当てはめれば、美人に生まれたのは、プラスだが、癌で、苦しんでいるのは、マイナス…
ゆえに、トータルで、それほど、幸運では、ないと、いうこと…
だったら、今の幸運が、まだ、続くのでは、ないか?
そう、考えた…
そう、自分勝手に、考えた…
が、
果たして、そうだろうか?
これは、もう少し、生きてみなければ、わからない…
少なくとも、もう数年は、生きてみなければ、わからない…
また、それとは、真逆…
相反する思いだが、私は、正直、自分が、長生きできるなんて、これっぽっちも思ったことがない…
なにしろ、今、32歳で、癌に苦しんでいる…
症状は、軽いが、苦しんでいる…
そんな女が、七十や、八十まで、生きて、孫の顔を見れるかと、問われれば、大きな疑問…
疑問だ…
後、何年、生きるか、わからないのが、正直な気持ち…
偽らざる正直な、気持ちだ…
その一方で、伸明との結婚を、夢見ている…
自分でも、無理だと、思っていても、どこかで、夢見ている…
そして、相手が伸明ではなくても、子供を産みたい…
女に生まれたのだから、子供を、産みたい…
そんな思いが、ある…
実に、矛盾している…
しかしながら、矛盾極まりないが、事実…
正直な、気持ちだ…
そして、これは、誰もが、同じ…
同じなのかも、しれない…
一方では、無理と、考え、もう一方では、もしかして、と、考える…
それは、ちょうど、宝くじを、買うのと、同じ…
一千万円や、一億円は、当たることは、ないと、思っていても、もしかしたら、当たるかも、しれない…
そう、思うから、誰もが、宝くじを買う…
それと、似ている…
無理と、思ったことも、もう一方では、もしかしたら、できるかも、しれないと、考える…
そんな感じだ…
相変わらず、バカバカしい…
実に、バカバカしいことを、考える女…
そう、思った…
自分自身を、そう、思った…




