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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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110/225

寿綾乃という女 第4部 110

 ナオキの結婚は、パフォーマンス…


 パフォーマンスに過ぎないことを、納得した…


 本当に、結婚したんではないことを、納得した…


 なにしろ、ナオキ自身が、まだ、役所に結婚の書類を提出していないことを、明言したのだ…


 これは、ナオキを信じるしかない…


 私は、このナオキと十五年、付き合っている…


 昨日、今日、知り合った人間ではない…


 だから、この藤原ナオキという男の裏も、表も、知っている…


 どんな人間なのか、知っている…


 常に、私の前で、ホントのことを、言うとは、限らないが、さすがに、今度のことのような大事なことは、ウソは、言わない男だ…


 つまりは、私は、このナオキを信じている…


 この藤原ナオキを、信じているということだ…


 そして、私が、そう、考えていると、


 「…じゃ、綾乃さん、これで…」


 と、ナオキが、言って来た…


 「…えっ?…」


 私は、戸惑った…


 まさか、これだけで、電話を切るとは、夢にも、思っていなかったからだ…


 おそらくナオキは、今、急いで、自分は、結婚をしていないことを、私に告げるために、電話をした…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、私が、そう、思っていると、


 …プツン…


 と、電話が、切れた…


 私が、なにかを、言う前に、電話が、切れた…


 私は、恨めしく、電話を見た…


 手で握り締めた固定電話の受話器を見た…


 が、


 いつまでも、見ていても、仕方がない…


 私は、握り締めた受話器を親機に置いた…


 そして、考えた…


 今のナオキの電話の意味を考えた…


 ナオキの結婚の報道は、東都テレビで、流れた…


 私は、まだ、調べていないが、もしかしたら、ナオキの結婚の情報を、流したのは、東都テレビだけでは、ないのではないか?


 他のテレビ局は、流していないのでは、ないか?


 そう、気付いた…


 そして、これは、前回も、同じ…


 同じだった…


 前回も、ナオキと、伸明の結婚のニュースを流したのは、東都テレビだけ…


 五井北東家が、牛耳る、東都テレビだけだった…


 そして、二人の結婚のニュースが、流れたのも、一度だけ…


 たった一度だけだった…


 たった一度、流して、後は、


 「…さっき流したニュースは、まだ、事実の確認が取れてないので…」


 と、言い訳した…


 つまりは、観測気球…


 この報道が、流れて、世間が、どう、対応するか、見ている、観測気球だった…


 すると、やはり、今回も、同じ、観測気球だろうか?


 ナオキと、ハルカの結婚を報道して、世間の反応を見ているのだろうか?


 いや、

 

 相手は、世間ではない…


 たぶん、相手は、五井…


 五井本家…


 その五井本家に、分家の五井北東家が、ケンカを売っている…


 明らかに、本家を挑発している…


 そして、それを、考えれば、あの報道のときは、ナオキは、伊豆に幽閉されていた…


 五井北東家の所有する伊豆の別荘に、幽閉されていた…


 幽閉といっても、監禁されたわけでも、なんでもなく、人里離れた山奥で、ケータイも、クルマのキーも取り上げられて、別荘から、出られなかっただけ…


 ナオキ本人は、若い女のコたちに囲まれて、バーベキューや渓流釣りをして、楽しかったと、語っていた…


 が、


 それでも、伊豆の別荘に幽閉されていた事実に、間違いはない…


 要するに、別荘に幽閉して、外部に連絡を取れないように、していたのは、間違いない…


 そして、その間に、ナオキと、伸明の結婚の報道を流した…


 ナオキに反論されないためだ…


 が、


 だとしたら、伸明は、どうだ?


 まさか、その期間に監禁されては、いないだろう…


 自分の結婚の報道が、出たときに、伸明は、一体、どうしたのだろうか?


 それが、謎だった…


 謎だったのだ…


 が、


 想像は、つく…


 おそらく、五井北東家が、自分に対して、牙を、向いた…


 そう、思ったに違いない…


 明らかに、そう、思ったに、違いなかった…


 私は、そう、思った…


 私は、そう、考えた…


 いずれにしろ、物事は、動き出している…


 五井の反乱の芽は、動き出している…


 その反乱の芽に、なぜ、私が、絡むのか?


 正直、わからない…


 わけが、わからない…


 ただ、もしかしたら、私を標的に、しているかも、しれない…


 ふと、思った…


 なぜか、思った…


 これは、以前も、思ったことだ…


 なぜなら、私から、ナオキを取り上げたから…


 私から、ナオキを奪ったから…


 今回の藤原ナオキの結婚で、一番を、割を食うのは、私…


 私、寿綾乃だ…


 ナオキが、実際に結婚するか、どうかは、さておき、ナオキが、私から離れる…


 私の事実上の夫であり、パートナーだった藤原ナオキが、私の元から去る…


 それは、つまり、私を、ひとりぼっちにすることに、繋がる…


 私を、孤立無援の状態にすることに、繋がる…


 なにより、私は、無職…


 今、私は、無職だ…


 働いていない…


 だから、事実上、収入は、ゼロ…


 と、言いたいところだが、ナオキの温情で、毎月、給与をもらっている…


 それは、私が、会社の非常勤の取締役になっているから…


 事実上、一度も、会社に、非常勤の取締役として、出社したことが、ないにも、関わらず、毎月、会社から、それなりの給与が、私の口座に振り込まれている…


 が、


 それが、いつまで、続くか、わからない…


 おそらく、社長のナオキに聞いても、わからないだろう…


 一度も、非常勤の取締役として、会社に出社したことのない人間を、いつまでも、非常勤の取締役に、していることは、できない…


 さりとて、誰かに、なにかを、言われない限り、社長のナオキは、今のままにしているだろう…


 私を非常勤の取締役のままに、しているだろう…


 私に毎月、給与を与えるためだ…


 が、


 仮に、ナオキが、私とは、別の女と、結婚すれば、今のままでは、いられないだろう…


 私をなぜ、非常勤の取締役にしたか、事情を知れば、私を解任しろと、言ってくるだろう…


 ナオキの奥さんが、言ってくるだろう…


 いかに、過去には、ずっと、夫婦同然の中で、少し前までは、会社で、社長と社長秘書の関係に、過ぎないと、奥さんに、説明しても、普通は、奥さんは、納得しない…


 仮に、私が、奥さんの立場でも、納得しない(笑)…


 いかに、かつては、男女の関係があっても、今は、なにも、関係がない…


 ただ、会社で、社長と社長秘書の関係だと、説明しても、納得しない…


 それが、当たり前…


 当たり前だ…


 だから、私でなくても、間違いなく、ナオキと結婚した女は、私の存在を知れば、私を切れと、ナオキに迫るだろう…


 当たり前だった…


 当たり前だったのだ…


 そして、その結果、私は、生活が、立ちいかなくなる…


 ずばり、収入が、なくなる…


 だから、困る…


 私は、困る…


 ナオキの突然の結婚は、私にとっては、もらい事故のようなもの…


 私にとって、一見、関係が、ないように、見えても、実は、多いに関係する…


 が、


 それが、真の狙いだとしたら?


 私から、藤原ナオキを、取り上げ、孤立無援の状態にするのが、真の目的だとしたら?


 考えたくは、ないが、ありえない話でも、ない…


 十分、ありえる話だ…


 その証拠に、以前、私は、あのユリコと、長谷川センセイが、いっしょに、歩いているところを、見たことがある…


 あの長谷川センセイは、今回、ナオキと結婚発表を行ったハルカの兄…


 そして、あのハルカが、ナオキと結婚することで、私から、ナオキを奪ったことになる…


 私の事実上の夫を、私から、奪ったことになる…


 そして、もし、あのハルカの背後に、ユリコが、いたとしたら?


 復讐…


 ナオキを、ユリコから、奪った復讐…


 ナオキの妻だったユリコの復讐…


 私に対する復讐…


 そう、考えられなくも、ない…


 いや、


 十分、考えられる…


 十分、可能性がある…


 これは、私の妄想…


 妄想なのだろうか?


 今回の藤原ナオキの結婚の黒幕は、ユリコで、その狙いは、私から、ナオキを取り上げること…


 私から、ナオキを奪って、私を孤立無援の状態にすることなのでは、ないか?


 考えた…


 頭の痛くなるまで、考えた…


 が、


 当然、答えは、出ない…


 それゆえ、いくら、考えても、堂々巡り…


 まるで、遊園地のメリーゴーランドに乗ったかのように、堂々巡りだった…


 永遠に答えの出ないことを、考えている…


 それは、遊園地で、メリーゴーランドに乗るように、ずっと、同じところを、回っているのと、同じだからだ…


 だから、答えは、出ない…


 いくら、考えても、答えは、出ない…


 それが、わかっているにも、関わらず、考えざるを得ない…


 いつまでも、考えざるを得ない…


 実に、バカバカしい…


 思わず、自分で、自分を笑ってしまうぐらい、バカバカしい展開だった(苦笑)…


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