寿綾乃という女 第4部 110
ナオキの結婚は、パフォーマンス…
パフォーマンスに過ぎないことを、納得した…
本当に、結婚したんではないことを、納得した…
なにしろ、ナオキ自身が、まだ、役所に結婚の書類を提出していないことを、明言したのだ…
これは、ナオキを信じるしかない…
私は、このナオキと十五年、付き合っている…
昨日、今日、知り合った人間ではない…
だから、この藤原ナオキという男の裏も、表も、知っている…
どんな人間なのか、知っている…
常に、私の前で、ホントのことを、言うとは、限らないが、さすがに、今度のことのような大事なことは、ウソは、言わない男だ…
つまりは、私は、このナオキを信じている…
この藤原ナオキを、信じているということだ…
そして、私が、そう、考えていると、
「…じゃ、綾乃さん、これで…」
と、ナオキが、言って来た…
「…えっ?…」
私は、戸惑った…
まさか、これだけで、電話を切るとは、夢にも、思っていなかったからだ…
おそらくナオキは、今、急いで、自分は、結婚をしていないことを、私に告げるために、電話をした…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
そして、私が、そう、思っていると、
…プツン…
と、電話が、切れた…
私が、なにかを、言う前に、電話が、切れた…
私は、恨めしく、電話を見た…
手で握り締めた固定電話の受話器を見た…
が、
いつまでも、見ていても、仕方がない…
私は、握り締めた受話器を親機に置いた…
そして、考えた…
今のナオキの電話の意味を考えた…
ナオキの結婚の報道は、東都テレビで、流れた…
私は、まだ、調べていないが、もしかしたら、ナオキの結婚の情報を、流したのは、東都テレビだけでは、ないのではないか?
他のテレビ局は、流していないのでは、ないか?
そう、気付いた…
そして、これは、前回も、同じ…
同じだった…
前回も、ナオキと、伸明の結婚のニュースを流したのは、東都テレビだけ…
五井北東家が、牛耳る、東都テレビだけだった…
そして、二人の結婚のニュースが、流れたのも、一度だけ…
たった一度だけだった…
たった一度、流して、後は、
「…さっき流したニュースは、まだ、事実の確認が取れてないので…」
と、言い訳した…
つまりは、観測気球…
この報道が、流れて、世間が、どう、対応するか、見ている、観測気球だった…
すると、やはり、今回も、同じ、観測気球だろうか?
ナオキと、ハルカの結婚を報道して、世間の反応を見ているのだろうか?
いや、
相手は、世間ではない…
たぶん、相手は、五井…
五井本家…
その五井本家に、分家の五井北東家が、ケンカを売っている…
明らかに、本家を挑発している…
そして、それを、考えれば、あの報道のときは、ナオキは、伊豆に幽閉されていた…
五井北東家の所有する伊豆の別荘に、幽閉されていた…
幽閉といっても、監禁されたわけでも、なんでもなく、人里離れた山奥で、ケータイも、クルマのキーも取り上げられて、別荘から、出られなかっただけ…
ナオキ本人は、若い女のコたちに囲まれて、バーベキューや渓流釣りをして、楽しかったと、語っていた…
が、
それでも、伊豆の別荘に幽閉されていた事実に、間違いはない…
要するに、別荘に幽閉して、外部に連絡を取れないように、していたのは、間違いない…
そして、その間に、ナオキと、伸明の結婚の報道を流した…
ナオキに反論されないためだ…
が、
だとしたら、伸明は、どうだ?
まさか、その期間に監禁されては、いないだろう…
自分の結婚の報道が、出たときに、伸明は、一体、どうしたのだろうか?
それが、謎だった…
謎だったのだ…
が、
想像は、つく…
おそらく、五井北東家が、自分に対して、牙を、向いた…
そう、思ったに違いない…
明らかに、そう、思ったに、違いなかった…
私は、そう、思った…
私は、そう、考えた…
いずれにしろ、物事は、動き出している…
五井の反乱の芽は、動き出している…
その反乱の芽に、なぜ、私が、絡むのか?
正直、わからない…
わけが、わからない…
ただ、もしかしたら、私を標的に、しているかも、しれない…
ふと、思った…
なぜか、思った…
これは、以前も、思ったことだ…
なぜなら、私から、ナオキを取り上げたから…
私から、ナオキを奪ったから…
今回の藤原ナオキの結婚で、一番を、割を食うのは、私…
私、寿綾乃だ…
ナオキが、実際に結婚するか、どうかは、さておき、ナオキが、私から離れる…
私の事実上の夫であり、パートナーだった藤原ナオキが、私の元から去る…
それは、つまり、私を、ひとりぼっちにすることに、繋がる…
私を、孤立無援の状態にすることに、繋がる…
なにより、私は、無職…
今、私は、無職だ…
働いていない…
だから、事実上、収入は、ゼロ…
と、言いたいところだが、ナオキの温情で、毎月、給与をもらっている…
それは、私が、会社の非常勤の取締役になっているから…
事実上、一度も、会社に、非常勤の取締役として、出社したことが、ないにも、関わらず、毎月、会社から、それなりの給与が、私の口座に振り込まれている…
が、
それが、いつまで、続くか、わからない…
おそらく、社長のナオキに聞いても、わからないだろう…
一度も、非常勤の取締役として、会社に出社したことのない人間を、いつまでも、非常勤の取締役に、していることは、できない…
さりとて、誰かに、なにかを、言われない限り、社長のナオキは、今のままにしているだろう…
私を非常勤の取締役のままに、しているだろう…
私に毎月、給与を与えるためだ…
が、
仮に、ナオキが、私とは、別の女と、結婚すれば、今のままでは、いられないだろう…
私をなぜ、非常勤の取締役にしたか、事情を知れば、私を解任しろと、言ってくるだろう…
ナオキの奥さんが、言ってくるだろう…
いかに、過去には、ずっと、夫婦同然の中で、少し前までは、会社で、社長と社長秘書の関係に、過ぎないと、奥さんに、説明しても、普通は、奥さんは、納得しない…
仮に、私が、奥さんの立場でも、納得しない(笑)…
いかに、かつては、男女の関係があっても、今は、なにも、関係がない…
ただ、会社で、社長と社長秘書の関係だと、説明しても、納得しない…
それが、当たり前…
当たり前だ…
だから、私でなくても、間違いなく、ナオキと結婚した女は、私の存在を知れば、私を切れと、ナオキに迫るだろう…
当たり前だった…
当たり前だったのだ…
そして、その結果、私は、生活が、立ちいかなくなる…
ずばり、収入が、なくなる…
だから、困る…
私は、困る…
ナオキの突然の結婚は、私にとっては、もらい事故のようなもの…
私にとって、一見、関係が、ないように、見えても、実は、多いに関係する…
が、
それが、真の狙いだとしたら?
私から、藤原ナオキを、取り上げ、孤立無援の状態にするのが、真の目的だとしたら?
考えたくは、ないが、ありえない話でも、ない…
十分、ありえる話だ…
その証拠に、以前、私は、あのユリコと、長谷川センセイが、いっしょに、歩いているところを、見たことがある…
あの長谷川センセイは、今回、ナオキと結婚発表を行ったハルカの兄…
そして、あのハルカが、ナオキと結婚することで、私から、ナオキを奪ったことになる…
私の事実上の夫を、私から、奪ったことになる…
そして、もし、あのハルカの背後に、ユリコが、いたとしたら?
復讐…
ナオキを、ユリコから、奪った復讐…
ナオキの妻だったユリコの復讐…
私に対する復讐…
そう、考えられなくも、ない…
いや、
十分、考えられる…
十分、可能性がある…
これは、私の妄想…
妄想なのだろうか?
今回の藤原ナオキの結婚の黒幕は、ユリコで、その狙いは、私から、ナオキを取り上げること…
私から、ナオキを奪って、私を孤立無援の状態にすることなのでは、ないか?
考えた…
頭の痛くなるまで、考えた…
が、
当然、答えは、出ない…
それゆえ、いくら、考えても、堂々巡り…
まるで、遊園地のメリーゴーランドに乗ったかのように、堂々巡りだった…
永遠に答えの出ないことを、考えている…
それは、遊園地で、メリーゴーランドに乗るように、ずっと、同じところを、回っているのと、同じだからだ…
だから、答えは、出ない…
いくら、考えても、答えは、出ない…
それが、わかっているにも、関わらず、考えざるを得ない…
いつまでも、考えざるを得ない…
実に、バカバカしい…
思わず、自分で、自分を笑ってしまうぐらい、バカバカしい展開だった(苦笑)…




