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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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109/225

寿綾乃という女 第4部 109

 「…綾乃さん、ボクだけれども、元気にしている?…」


私は、慌てて、電話に出た…


 出ざるを得なかった…


 留守電を入れている途中の電話の受話器を取って、


 「…ちょっと、ナオキ…ナオキなの!…」


 と、怒鳴った…


 大きな声で、怒鳴った…


 全力で、怒鳴った…


 当たり前だった…


 数日前まで、私の事実上の夫だと、思っていた男からの電話だ…


 正直、複雑な気分だが、電話に出ざるを得なかった…


 ナオキは、私の問いかけに、すぐには、答えなかった…


 私は、イライラした…


 「…ちょっと…ナオキ、聞いているの!…」


 と、怒鳴った…


 当たり前だった…


 「…聞こえているのだったら、返事をしなさい!…」


 と、またも、怒鳴った…


 これでは、まるで、母親…


 あるいは、鬼嫁か?


 自分でも、自分の厳しい口調に、驚いた…


 まさに、問い詰めるという言葉が、これほど、似合う場面もなかった…


 私の口調に、圧倒されたのか?


 すぐには、ナオキは、答えなかった…


 それで、ようやく、私も少しは、冷静になった…


 私の頭が、火照っている…


 怒りで、火照っている…


 が、


 その怒りを、そのまま、ぶつけては、相手は、なにも、言えない…


 ただ、こちらが、一方的に、怒鳴りまくるだけ…


 それでは、相手が、口を挟めない…


 そんな初歩的なことに、気付いたからだ…


 遅まきながら、気付いたからだ…


 それゆえ、黙った…


 「…」


 と、黙った…


 「…」


 と、黙って、相手の反応を待った…


 ナオキの反応を待った…


 少し待って、ようやく、


 「…綾乃さん、ゴメン…」


 と、謝って来た…


 これは、私には、想定外…


 想定外の言葉だった…


 ゴメンと謝るということは、やはり、ナオキは、あのハルカに一目ぼれして、結婚を、決めたのだろうか?


 すぐに、思った…


 ナオキは、おとなしい…


 だから、強い女に惹かれる…


 それゆえ、私のような気の強い女と、暮らした…


 自分の弱さを知っているがゆえに、本能的に、強い女を、求めるのだろう…


 ナオキの前妻のユリコが、そう…


 ユリコも、当たり前だが、強い女だった…


 だから、ナオキは、ユリコと、結婚した…


 だとすれば、今回も、そう…


 今回も同じだ…


 ナオキは、ハルカと結婚した…


 あの気の強いハルカと結婚した…


 …ブレてない!…


 ナオキの女の好みは、ブレてない!…


 一貫して、強い女が好み…


 まったく、ブレてない!…


 そう、思えると、笑った…


 不謹慎だが、笑った…


 心の中で、笑った…


 正直、ここは、笑うところではない…


 怒るところだ…


 にも、かかわらず、笑った…


 心の底から、笑った…


 そして、同時に、思い出した…


 伸明を思い出した…


 五井の当主を、思い出した…


 あの伸明も、同じ…


 このナオキと、同じ…


 強い女が、好き…


 それは、おそらく、あの伸明が、ナオキと同じく、おとなしいから…


 だから、強い女に憧れる…


 本能的に憧れる…


 きっと、自分を引っ張ってくれる…


 あるいは、自分を守ってくれる…


 と、思うからだろう…


 だから、憧れる…


 それゆえ、私に憧れる…


 そういうことだ(笑)…


 そして、また、伸明もまた、このナオキ同様、ハルカに、憧れた…


 あのハルカに憧れた…


 一目で、好きになった…


 それは、あのハルカとの縁談で、同席した私の目にも、わかった…


 いや、


 私だけでは、ない…


 誰の目にも、わかった…


 それを、思い出した…


 そして、それを、思い出すと、


 …これで、伸明は、あのハルカと、結婚できなくなった…


 と、思った…


 当たり前のことを、思った…


 ナオキと、結婚することで、伸明は、ハルカと結婚できなくなった…


 そんな、当たり前のことを、考えた…


 すると、


 「…綾乃さん、怒ってない?…」


 と、恐る恐る、聞いてきた…


 まるで、小さな子供が、母親に、聞くように、聞いてきた…


 私は、驚いた…


 いまさら、怒っているも、いないもない…


 すでに、ナオキは、ハルカと、結婚したじゃないか?


 それを、いまさら、怒って、どうなると、言うのか?


 たしかに、頭には、来るが、さりとて、怒っても、仕方がない…


 ナオキは、すでに、結婚したのだ!…


 あのハルカと、結婚したのだ!…


 いまさら、怒っても、仕方がない…


 仕方がないのだ…


 それゆえ、


 「…怒ってないわよ!…」

 

 と、答えた…


 ぶっきらぼうに、答えた…


 が、


 それが、いけなかった…


 「…やっぱり、怒っている?…」


 と、電話の向こう側から、ナオキが、小さな声で、返した…


 私は、それを、聞き逃さなかった…


 「…怒ってないと、言ったでしょ!…」


 と、怒鳴った…


 大声で、怒鳴った…


 すると、相手が、黙った…


 当たり前だった…


 が、


 小さな声で、


 「…やっぱ、怒っている…」


 と、いう声が、聞こえてきた…


 私は、それを、聞いて、


 「…怒ってないって、言ったでしょ!…」


 と、またも、怒鳴った…


 全力で、怒鳴った…


 それから、付け加えた…


 「…ナオキ、アナタも、結婚したんだから、少しは、女の気持ちを考えなさい!…」


 と、付け加えた…


 「…女の気持ちって?…」


 と、間の抜けた声…


 「…男に捨てられた女の気持ちよ!…」


 と、これも、怒鳴った…


 が、


 ナオキの返答が、想定外…


 まさに、想定外だった…


 「…綾乃さん…もしかして、ボクが、本当に、結婚したと、思っているの?…」


 と、言ってきたからだ…


 …えっ?…


 …どういうこと?…


 謎だった…


 謎の発言だった…


 それゆえ、


 「…どういうこと?…」


 と、聞いた…


 戸惑って聞いた…


 「…だって、考えてみて、綾乃さん?…」


 「…なにを、考えてみるの?…」


 「…出会って、数日で、結婚なんて、ありえないでしょ? 子供じゃないし…」


 そう、言われると、なにも、言えなかった…


 「…それに、結婚式も、なにも、まだ挙げてない…」


 「…でも、ナオキ、アナタ、テレビで、会見して…」


 「…それは、相手の都合があったから…」


 「…都合って?…」


 「…詳細は、省くけれども、ボクは、まだ、結婚は、していない…」


 「…どういうこと?…」


 「…結婚というのは、役所に、結婚した書類を提出して、初めて、結婚が、成立する…そうでしょ?…」


 「…それは、そうでしょうけれど…」


 「…だから、その書類を、まだ、役所に、提出していない…」


 「…えっ?…」


 「…だから、まだ、結婚していない…」


 「…でも、それって、詭弁…言い訳でしょ?…」


 「…どうして、言い訳なの?…」


 「…だって、あんなに、堂々と、テレビで、あのハルカとの結婚会見をして…」


 そう言うと、


 「…」


 と、黙った…


 「…」


 と、黙って、一言も、言わなかった…


 「…色々、理由があるんだ…」


 と、少し置いて、ナオキが、言った…


 「…理由って?…」


 「…それは…」


 「…それは、なに? さっさと言いなさいよ!…」


 私は、きつめの口調で、言った…


 我慢の限界だった…


 せっかく、ナオキが、電話をかけてきたのは、いいとして、まるで、謎々のように、言う…


 わざと、はぐらかすというか…


 それで、余計に、頭に来た…


 頭に来たのだ…


 だから、我慢の限界だった…


 まさに、限界だった…


 すると、電話の向こう側から、


 「…綾乃さん、ボクの結婚の報道、どこで、流したか、見た…」


 と、聞いてきた…


 「…どういう意味? 私は、テレビで、見たわよ…」


 「…そうじゃなくて、どこの放送局…」


 「…たしか、〇チャンネル…」


 「…〇チャンネルって、どこの放送局…」


 それを、聞いて、ピンときた…


 〇チャンネルは、東都テレビ…


 あの五井北東家の管理する、東都新聞の系列…


 だから、ピンと来た…


 この結婚に、あの五井北東家が、関わっていると、ピンと来た…


 五井北東家の団郁馬が、関わっていると、ピンと来た…


 それゆえ、


 「…そういうこと…」


 と、答えた…


 納得して、答えた…


 本当は、なにが、起こったか、わからない…


 ただ、ナオキの結婚に、あの五井北東家が、一枚絡んでいる…


 あの五井北東家の団郁馬が、一枚絡んでいる…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、そう、考えると、納得した…


 今回の藤原ナオキの結婚を納得した…


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