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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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105/225

寿綾乃という女 第4部 105

 …やはり、そうか!…


 あらためて、思った…


 わかってはいたが、あらためて、思った…


 が、


 それでも、やはり、納得できない…


 いかに、今、五井の内部で、ゴタゴタがあろうと、それが、藤原ナオキの結婚となんの関係があるのだろうか?


 それが、わからない…


 さっぱり、わからない…


 私が、考えていると、


 「…寿さん、聞いてる?…」


 と、マミさんが、聞いてきた…


 「…ハイ…聞いてます…」


 「…要するに、今回の藤原さんの結婚は、寿さんから、藤原さんを、引き離すこと…それが、目的…」


 「…目的? でも、それと、五井のゴタゴタとなんの関係が?…」


 「…今度のことは、藤原さんの前妻のユリコという女性が、一枚噛んでいる…それは、さっきも、寿さんに、言ったでしょ?…」


 「…ハイ…」


 「…それだから、今回の条件として、寿さんから、藤原さんを、引き離すのが、ユリコさんの目的だった…」


 「…条件ですか?…」


 「…そうよ…条件…今回、和子叔母様が、倒れて、五井が、ゴタゴタしたでしょ?…」


 「…ハイ…」


 「…その結果、伸明さんは、見合いせざるを得なくなった…西家の叔父様が、伸明さんに、見合いを強要して、それを、断ることが、できなかった…和子叔母様が、元気だったら、西家の叔父様も、そんなことは、しなかった…伸明さんに、縁談の無理強いは、しなかった…すれば、西家が、本家にちょっかいを出したと思われる…叔母様が、激怒するのが、わかっているから…」


 「…ですが、それが、ユリコさんと、なんの関係が?…」


 「…あのユリコという女…狙ってたのよ…」


 「…狙ってた? なにを、狙っていたんですか?…」


 「…五井に復讐する機会…和子叔母様に、復讐する機会…」


 思い出した…


 たしかに、以前、ユリコは、あの和子に、してやられた…


 五井の分家の株を買い占め、高値で、和子に売ろうとした…


 が、


 和子の方が、一枚上手だった…


 和子は、ユリコが、どうやって、五井の株を買うために、資金を調達したか、それを、事前に調べ上げていた…


 そして、返済期限もまた、調べ上げていた…


 それゆえ、ユリコは、一刻も早く、借りた資金を返済しなければ、ならない…


 その弱点を、ついた…


 その弱点を逆手に取り、和子は、ユリコの言い値を、はるかに、下回る金額で、株を買い戻した…


 その結果、ユリコは、烈火のごとく、激怒した…


 ユリコにとっては、屈辱…


 前代未聞の屈辱だったに違いない…


 それを、思い出した…


 それを、今、思い出した…


 「…それで、今回、和子叔母様が、倒れたと聞いて、動き出した…五井記念病院の長谷川センセイに近付いて、妹のハルカを、西家の叔父様に、紹介しようと仕組んだのも、彼女…」


 「…えっ? ウソ?…」


 思わず、言った…


 が、


 言った直後に、


 …やっぱり!…


 と、思った…


 …やっぱりと、納得した…


 あのユリコのことだ…


 受けた恨みを忘れるわけは、ない…


 受けた屈辱を忘れるわけは、ない…


 きっと、淡々と、復讐する機会を窺っていたに違いない…


 あのユリコだ…

 

 当たり前だった…


 「…そして、西家だけでは、心もとない…だから、北東家にも、接触した…」


 「…えっ?…」


 …ウソ!…


 そこまでは、考えもしなかった…


 まったく、考えなかった…


 でも、一体、なぜ?


 なぜ、ユリコは、北東家を知っているのか?


 北東家の当主、団郁馬を知っているのか?


 それが、わからなかった…


 それが、謎だった…


 それゆえ、私は、勇んで、


 「…ユリコさんは、北東家の当主を知っていたんですか?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…それは、わからない…」


 と、マミさんは、即答した…


 「…でも…」


 「…でも、なんですか?…」


 「…北東家の当主、団郁馬は、用心深い…」


 「…用心深い?…」


 「…滅多に、人前に出ない…」


 「…えっ? 人前に出ない? どうしてですか?…」


 「…たぶん、目立つのが、嫌いなんだと、思う…」


 「…目立つのが、嫌いって…」


 「…北東家は、朝日新聞の社主だった村山家と同じ…」


 「…同じ…」


 「…東都テレビの事実上のオーナー…東都テレビは、東都ラジオの支配下にあり、その東都ラジオは、東都新聞の支配下にある…その東都新聞の株式を握っているのが、団郁馬…五井北東家…だから、あえて、人前に出る必要は、ない…」


 「…人前に出る必要は、ない…」


 「…団郁馬は、株を握っている…その株は、非公開…公開していない…だから、誰も、団家から、株を買うことが、できない…そして、それが、団家の力の源泉…北東家の力の源泉…」


 それを、聞いて、考えた…


 私も、以前、調べて、今、マミさんが言ったことを、知っていた…


 五井北東家の力の源泉が、東都新聞にあること…


 東都新聞の社主だから、力を持っていることを、知っていた…


 と、同時に、思い出した…


 団郁馬の名前をネットで、検索したときに、ヒットした数少ない情報…


 その情報で、団郁馬が、ユリコのセミナーに参加していたことを、思い出した…


 つまり、二人の接点は、そこ…


 ユリコの主催するセミナーだ…


 ユリコは、かつて、投資ファンドの代表をしていた…


 投資ファンドとは、平たく言えば、誰かから、多額のお金を集めて、その資金で、どこかの企業の株を買い占め、それで、その企業の業務の改善を提案して、その結果、企業の株が上がり、それから、持っていた株を売り、その差額で、儲ける仕事…


 そのためには、まずは、出資者が、必要…


 自分一人のお金では、とても、企業の株を大量に買い占める大金を用意することなど、できないからだ…


 それゆえ、ユリコは、ネットで、自分の主催するファンドの出資者を、募っていた…


 それが、ユリコの主催するセミナー…


 そのセミナーに、五井北東家の当主、団郁馬が、参加していたということだ…


 私は、今、それを、思い出した…


 そして、私が、それを、思い出していると、


 「…団郁馬は、父と因縁があった…」


 と、いきなり、マミさんは、言った…


 「…五井北東家は、東都新聞を牛耳っている…マスコミを牛耳っている…それゆえ、調子に乗っていた…」


 「…調子に乗っていた?…」


 「…五井北東家は、こう言っては、なんだけれども、五井内部の序列では、下…東西南北の五井の四つの分家にも入っていない…でも、マスコミを牛耳っている…それゆえ、調子に乗っていた…調子に乗って、五井の序列を崩そうとしていた…」


 「…序列を崩す?…」


 「…要するに気に入らないのよ…いくら、マスコミを牛耳っていても、五井内部の序列は、下…本家や東西南北の四つの分家のはるか下に位置する…それが、気に入らないの…」


 「…」


 「…それで、父は、建造は、序列を崩そうとする、北東家を、なんとか、抑えようとしていたのだけれども、結果、北東家と揉めて…」


 マミさんが、激白する…


 そして、それを、聞きながらも、以前、この話は、たしか、マミさんから、聞いたと、思った…


 が、


 すっかり、忘れていた(苦笑)…


 それは、やはり、自分に関係がないからだろう…


 自分に関係が、ないから、忘れていた…


 そうだろう…


 しかし、今、自分に関係ができた…


 なにしろ、私の夫同様のナオキを盗られたのだ…


 なんとか、取り返さなければ、ならない…


 なんとか、しなければ、ならない…


 だから、余計に、今のマミさんの話を聞いた…


 耳の穴をかっぽじって、聞いた(笑)…


 そして、それから、考えた…


 肝心のことを、考えた…


 そもそも、その団郁馬という人物…


 どういう人物なのか、考えた…


 考えたのだ…


 だから、私は、躊躇せずに、聞いた…


 「…マミさん、団郁馬というひとは、どういうひとなんですか?…」


 と、聞いた…


 「…どういうひとって?…」


 と、マミさん。


 「…年齢とか、人柄とか、背が高いとか、低いとか、イケメンとか、イケメンじゃないとか…」


 私が、言うと、マミさんは、少し考えてから、


 「…目立たないひとよ…」


 と、告げた…


 「…目立たたないひと?…」


 「…大勢のひとがいれば、目立たない、絶対目立たないひと…藤原さんや伸明さんのように、長身のイケメンでも、なんでもない…私のように、派手でもないし、寿さんのように、美人でもない…」


 「…」


 「…でも、野心が強い…野心が、強烈…」


 「…野心が、強烈…」


 「…だから、父は、警戒した…それゆえ、北東家の力を削ごうとした…その結果、父と、対立して…」


 後は、言葉が続かなかった…


 かすかだが、涙声になっていた…


 あるいは、涙声に聞こえた…


 私の耳には、聞こえた…


 そして、私が、そんなことを、思っていると、マミさんが、電話の向こう側から、


 「…たぶん、寿さんは、団郁馬と会ったことがある…」


 と、いきなり、言った…


 私が、思いもかけないことを、いきなり、言った…


 「…えーっ! 私がですか?…」


 思わず、素っ頓狂な声を上げた…


 自分でも、驚くくらい素っ頓狂な声を上げた…


 「…そう…」


 「…失礼ですが、どうして、マミさんは、それを、知っているんですか?…」


 「…以前、私が、父の指示で、藤原さんと、接触したのは、寿さんも、知っているでしょ?…」


 「…ハイ…知っています…」


 このマミさんは、五井家先代当主、建造の娘…


 建造が、外に作った娘だ…


 つまりは、建造の妻の和子の娘では、ない…


 が、


 それゆえ、動きやすい…


 建造が、外で、愛人と作った子供ゆえ、正式な五井家の人間では、ない…


 だから、動きやすい…


 だから、建造は、私を探るべく、ナオキに近付いた…


 私が、建造の娘だと、疑ったからだ…


 私のルックスは、母よりも、叔母に近い…


 そして、その叔母は、かつて、建造と恋愛をした…


 それゆえ、私を、自分の娘ではないかと、疑ったのだ…


 そして、私は、ナオキの秘書…


 FK興産社長のナオキの秘書…


 公私共に、藤原ナオキのパートナーだった…


 それゆえ、建造は、娘のマミさんに、命じて、まずは、藤原ナオキに近付いた…


 藤原ナオキに近付くことで、私に近付こうとしたのだ…


 私は、今、それを、思い出した…


 思い出したのだ…


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