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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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103/225

寿綾乃という女 第4部 103

 これは、夢?


 もしかしたら、夢?


 そんなバカなことを、考えた…


 そんなバカバカしいことを、考えた…


 我ながら、そんなバカバカしいことを、考えた…


 が、


 そんなバカバカしいことを、真剣に考えるほど、衝撃だった…


 まさに、ありえないほど、衝撃だった…


 そして、それは、記者会見でも、やりとりされた…


 記者が、ナオキに、聞いたのだ…


 直球で、聞いたのだ…


 「…藤原さんは、テレビで、キャスターをなさっていて、それでいて、会社も、経営されている…しかも、独身…ルックスもいい…それが、どうして、これまで、結婚されなかったのか、私たちの間でも、不思議でした…それが、今回、突然の結婚発表…これは、一体、どうしてですか?…」


 ナオキが、苦笑いを浮かべながら、質問に答える…


 「…たまたま、縁がなかっただけですよ…」


 と、言って、質問に答える…


 「…縁? ですか?…」


 「…そうです…」


 「…でも、失礼ですが、藤原さんは、今、ご年齢は、四十歳を、超えてますよね?…」


 「…ハイ…超えてます…」


 「…失礼ですが、その年齢で、縁と言われても、説得力が…」


 記者の質問に、会場の記者が、全員、失笑した…


 が、


 ナオキは、動じることなく、


 「…仕事が、忙し過ぎたんです…」


 と、笑って、答えた…


 「…仕事…ですか?…」


 「…ハイ…そうです…」


 ナオキが、笑う…


 「…皆さんも、ご承知のように、小さいながらも、会社を経営しています…それが、大変で…」


 「…失礼ですが、藤原さんは、若いときに、一度、ご結婚をされてすね…」


 「…ハイ…」


 「…それで、もしや、結婚が、懲りたとか?…」


 「…それは、わかりませんが、なにしろ、仕事が、忙しかったんで…」


 「…これも、失礼ですが、たしか、藤原さんには、美人の秘書の方が、よくいっしょにいると、この業界でも、噂になったことが、ありましたが…」


 「…彼女は、すでに、退社しました…」


 ナオキが、答える…


 私のことを、答える…


 「…いずれにしろ、これは、めでたい席なんで、これ以上、ボクの過去のことを、根掘り葉掘りするのは、ご勘弁願います…」


 ナオキが、大人の余裕の笑みを浮かべて、言った…


 私は、それを、見て、テレビを消した…


 頭に来て、テレビを消した…


 テレビのリモコンを消した…


 ホントなら、テレビのリモコンを床に投げ捨てたいところだ…


 しかし、さすがに、それは、できない…


 それでは、あまりにも、大人げなさすぎる…


 いくら、誰も、見ていなくても、大人げなさすぎる…


 それになにより、リモコンを床に、投げて、壊してしまっては、元も子もない…


 買い替えるのが、大変だ(苦笑)…


 私は、頭に来たが、それを、態度に出すことは、なかった…


 自宅で、一人っきり…


 だから、誰にも、見られない…


 しかしながら、それでも、態度に出すことは、なかった…


 それでは、みっともなさすぎるからだ…


 いかにも、男に捨てられた女ということで、みっともなさすぎるからだ…


 だから、これは、プライド…


 私のなけなしのプライドだった…


 もちろん、なにが、あったか、わからない…


 ナオキに、なにが、あったか、わからない…


 しかしながら、今、見た映像は、事実…


 事実だった…


 私の事実上の夫である、藤原ナオキが、私とは、別の女と、結婚するのは、事実だった…


 まぎれもない、事実だった…


 だから、この事実を、私は、受け入れるしか、ない…


 嫌でも、受け入れるしか、ない…


 それが、大げさに、言えば、私の宿命…


 あるいは、私の運命だった…


 そして、そんな運命などと、おおげさなことを、言ってから、やはりと言うか、この会見で、ナオキではなく、ハルカが、なんと言うか、聞きたくなった…


 無性に、聞きたくなった…


 だから、慌てて、テレビをつけた…


 あのハルカが、この結婚について、なんと言うのか、知りたかった…


 が、


 テレビをつけたが、すでに、会見は、終わっていた…


 私は、慌てて、他のテレビ局に、チャンネルを、回したが、どれも、同じだった…


 藤原ナオキの結婚会見は、どれも、終わっていたのだろう…


 どこの曲も、会見は流していなかった…


 私は、ふと、考えて、それでは、ネットでは、どうだろう?


 藤原ナオキの結婚会見を動画で、流していないか、確かめようと、考えた…


 が、


 止めた…


 すぐに、考え直した…


 これでは、惨め…


 いかにも、惨めだった…


 捨てられた女が、捨てた男が、どんな女と、結婚するのか、見る…


 それ以上、惨めな行為は、ない(涙)…


 それに、気付いた…


 それに、気付いた私は、これ以上、ハルカについて、調べるのは、止めた…


 これは、プライド…


 私のなけなしのプライドだった…


 ただ、そんなことを、言いながらも、私のプライドは、傷付いた…


 ズタズタに、傷付いた…


 もしかしたら、これは、夢?


 夢かも、しれない…


 そんなバカなことを、またも、考えた…


 が、


 これは、事実…


 これは、現実…


 それを、受け入れるしか、なかった…


 なかったのだ…


 私は、弱い女では、ない…


 気が強いのは、生まれつき…


 生まれつきだ…


 その自覚がある…


 にも、かかわらず、この現実を受け入れるのは、時間がかかる…


 少々、時間がかかる…


 なにより、立っているのも、辛い…


 急速に、体調が悪化した気がした…


 もちろん、そんなことは、ない…


 病は、気からと言うが、これは、その通り…


 その通りだった…


 自分でも、それが、わかっているが、それでも、立っているのが、しんどかった…


 まるで、いきなり、誰かから、殴られたような衝撃と言ったら、いいのだろうか?


 それほどの、衝撃だった…


 幸い、私は、家にいる…


 自宅にいる…


 それゆえ、寝ることにした…


 ベッドに横になることにした…


 おおげさに言えば、平衡感覚が、失われてゆく…


 そんな感じだった…


 自分でも、こんなことは、初めてだった…


 生まれて、初めてだった…


 母の死のときも、今、以上のショックはなかった…


 きっと、若かったからかも、しれない…


まだ、中学生だったからかも、しれない…


 だから、この後、どうなるか?


 想像力が、欠如していたというか?


 そこまで、深刻に考えなかったのかも、しれない…


 なにより、母の死は、突然では、なかった…


 十分、予見できた…


 それは、母が、病気だったから…


 だから、十分、予見できた…


 予見=覚悟が、できた…


 が、


 今回は、違う…


 いきなりだった…


 予見どころか、いきなりだった…


 まさに、不意打ちだった…


 それが、違う…


 そして、今さらながら、思うことは、私にとって、ナオキは、いかに、大きな存在だったかと、言うこと…


 私にとって、藤原ナオキは、代替の効かない存在だったと言うことだ…


 それゆえ、衝撃が、大きかった…


 自分でも、信じられないくらい、衝撃が、大きかった…


 私は、そんなことを、考えながら、ベッドで、横になった…


 もちろん、寝るつもりはない…


 ただ、ベッドに横になるだけだ…


 それほど、カラダの調子が、悪いわけでも、ないからだ…


 だが、ナオキの結婚の衝撃が、大きかった…


 私が、思ってみないほど、大きかった…


 それゆえ、ベッドで、横になっているだけで、いつのまにか、ウトウトと寝てしまった…


 自分でも、気付かないうちに、寝てしまったのだ…



 目が覚めたのは、電話の音で、だった…


 それも、ケータイではない…


 家の固定電話…


 いわゆる、家電だった…


 ケータイより、音量が、大きい…


 それが、ずっと、鳴っていた…


 それゆえ、目が覚めた…


 嫌でも、目が覚めた…


 私は、苦笑した…


 まさか、寝るとは、思わなかった…


 まさか、ナオキの結婚にショックで、寝込むとは、思わなかった…


 この寿綾乃…


 矢代綾子も、案外、ナイーブ…


 まだまだウブなのかも、しれない…


 我ながら、そう、思った…


 男に捨てられて、寝込むなんて、ウブな証拠…


 まさか、小娘じゃあるまいし…


 自分でも、自分に笑ってしまう…


 そんなことを、考えながら、私は、電話に出ることにした…


 さすがに、電話に出なくては、うるさくてたまらないからだ…


 私は、ベッドから、降りて、電話に出ることにした…


 電話の受話器を取る…


 そこで、流れて来た声は、マミさんだった…


 伸明の妹のマミさんだった…


 「…寿さん、大丈夫?…」


 と、言ったマミさんの声が、電話の向こう側から、流れてきた…


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