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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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102/225

寿綾乃という女 第4部 102

 私は、唖然として、ニュースを見た…


 言葉もなかった…


 なにしろ、今、近くで、顔を洗っている藤原ナオキの結婚相手が、ニュースに出ているのだ…


 しかも、それは、私の知っている相手…


 私が、同席した伸明の見合い相手だ…


 そして、考えた…


 このハルカという女性…


 たしかに、五井一族だ…


 血が薄いとはいえ、五井一族だ…


 このハルカは、あの長谷川センセイの妹…


 五井記念病院の私の担当医だった長谷川センセイの妹だ…


 そして、長谷川センセイは、五井西家の血を引いている…


 今は、五井とは、長谷川センセイは、なんの関係もないと、言っているが、五井の血を引いているのは、明らか…


 それゆえ、このハルカという女も、厳密には、五井一族で、間違いは、ない…


 私は、そう、考えて、納得した…


 実に、納得した…


 そして、納得してから、


 「…ナオキ…ちょっと、来て!…」


 と、大声で、怒鳴った…


 ナオキは、顔を洗っているから、大声を出さないと、聞こえないと、思ったのだ…


 「…なに、綾乃さん?…」


 ナオキの声が、聞こえて来た…


 「…早く来て! ナオキ、アナタの結婚相手が、テレビに出ているわ!…」


 私が、言うと、


 「…なに? なんだって?…」


 と、ナオキが、返した…


 「…ナオキ!…アナタの結婚相手が、今、テレビに、出ている!…」


 私が、大声で、告げると、ナオキが、慌てて、走ってきた…


 部屋に走って来て、テレビの前に立った…


 私は、それを、見て、なにも、言わなかった…


 テレビは、すぐに、違うニュースに変わった…


 ナオキは、画面が、変わっても、すぐには、動かなかった…


 ジッと、テレビの画面を見つめていた…


 そして、ようやく、私を振り返った…


 唖然とした顔で、私を振り返った…


 私は、苦笑いを浮かべながら、


 「…どう、美人でしょ?…」


 と、ナオキに、言った…


 「…気に入った? ナオキ?…」


 私が、からかうと、ナオキが、やはり、苦笑しながら、


 「…美人だけれども、気が強そう…」


 と、感想を述べる…


 それから、続けて、


 「…綾乃さんとは、タイプが、違う美人だけれども、気が、強そうなのは、いっしょ…」


 と、言って笑った…


 私は、それを、聞いて、なんと言っていいか、わからなかった…


 怒っていいのか、笑っていいのか、わからなかった…


 ただ、


 「…私は、彼女を知っている…」


 と、だけ、告げた…


 「…知っている? 綾乃さんが?…」


 「…以前、伸明さんの見合いで、会ったの…」


 「…えっ? 諏訪野さんの見合い?…」


 「…彼女が、伸明さんの見合い相手だったの…」


 私が、告げると、ナオキは、絶句した…


 当たり前だった…


 なにより、その事実を告げた、私自身が、絶句するほど、驚いた…


 まさか、伸明の見合い相手が、ナオキの結婚相手として、テレビのニュース番組で、流れるとは、思わかった…


 夢にも、思わなかった…


 私が、そう、思っていると、


 「…じゃ、ボクは、諏訪野さんの見合い相手を横取りしたわけだ…」


 と、ナオキが、苦笑した…


 もちろん、冗談だ…


 が、


 その冗談が、緊張を和らげたというか…


 冗談を言うことで、自分の置かれた立場を笑い飛ばすことが、できた…


 自分自身を笑い飛ばすことが、できた…


 私は、それを、悟ると、


 「…そうよ…ナオキ、嬉しい?…」


 と、聞いた…


 わざと、聞いた…


 「…なにが、嬉しいの? 綾乃さん?…」


 「…だって、ナオキの結婚相手は、私とは、違うタイプの美人で、私より、若いわ…」


 「…たしかに…」


 「…女房と畳は、新しい方が、いいと、昔から、言うでしょ? だから…」


 「…でも、たぶん、気の強さは、変わらない…」


 ナオキが、笑って言う…


 私は、それを、聞いて、すぐに、


 「…きっと、これが、ナオキの運命よ…」


 と、告げた…


 「…運命? どんな、運命?…」


 「…気の強い女と結婚して、振り回される人生…」


 私が、言うと、ナオキが、絶句した…


 絶句して、私を見た…


 私は、追い打ちをかけるように、


 「…どう、違う?…」


 と、聞いた…


 ナオキは、苦笑しながら、


 「…そんな人生は、嫌だな…」


 と、言った…


 が、


 私は、それを、否定した…


 「…でも、ナオキ…その方が、いいのよ…」


 と、言って、否定した…


 「…どうして、いいの? 綾乃さん?…」


 「…だって、世の中は、厳しいでしょ? 生きるのって、大変でしょ?…」


 「…それが、気の強い女と、一体、なにが、関係あるの?…」


 「…大ありよ…」


 「…なにが、大ありなの?…」


 「…だって、おとなしい男が、おとなしい女と結婚したら、この厳しい世の中、生きるのが、大変でしょ?…」


 「…それは、そうかも、しれないけれど…」


 「…おとなしい男には、強い女…おとなしい男を引っ張ってくれる強い女が、一番…」


 「…じゃ、強い男には?…」


 「…それは、おとなしい女が、一番…」


 「…どうして、一番なの?…」


 「…互いに気が強ければ、ぶつかってしまう…だから、気の強い男は、気の強い女と、結婚しては、ダメ!…」


 「…でも、誰もが、気が強い男女は、同じように、気が、強い男女を望むものだよ…その方が、気が合うし…」


 「…若いときは、ね…」


 「…若いとき?…」


 「…ナオキの言うことは、わかるけれども、それでは、ぶつかってしまう…」


 「…だったら、気の弱い男と、気の弱い女は、どう?…」


 「…それだったら、生きるのが、厳しいでしょ? この厳しい世の中…」


 「…たしかに…」


 ナオキは、納得した…


 「…それよりも、いつまでも、ここに突っ立てないで、もう一度、顔を洗うなり、なんなりして、来なさい…」


 私は言った…


 すると、それを、聞いた、ナオキが、


 「…でも、この世の中に、綾乃さんより、強い女っているかな…」


 と、言った…


 もちろん、冗談だろうが、愕然とした…


 正直、愕然とした…


 だから、


 「…ナオキ…そんなことを、言うなら、さっさと、あのハルカという女と結婚しなさい!…」


 と、怒鳴った…


 「…どうして?…」


 「…あのハルカは、私より、若い…だから、きっと結婚すれば、私以上に、ナオキの上に立つわ…」


 私が、言うと、今度は、ナオキが、愕然とした…


 「…そんな綾乃さん以上に、気の強い女は、無理…」


 と、愕然として、言った…


 まるで、この世の中に、私以上、気の強い女は、いないように、言った…


 これには、私も、カチンときた…


 すぐに、


 「…私をまるで、恐竜か、なにかのように、言わないで!…」


 と、ナオキに、怒った…


 「…だったら、あのハルカは、怪獣?…」


 ナオキが、笑って、返す…


 これには、言葉も、なかった…


 むしろ、うまく返したと、思った…


 それゆえ、


 「…恐竜と怪獣、どっちがいい?…」


 と、ナオキに、聞いた…


 笑いながら、聞いた…


 「…どっちも嫌…」


 と、これもナオキが、笑いながら、言う…


 まるで、漫才だ…


 が、


 朝っぱらから、漫才ができる、この藤原ナオキと、過ごせたことが、私にとって、僥倖…


 僥倖だと、思った…


 金もあり、長身のイケメンで、ユーモアもある…


 そんな男と、十五年も、過ごせたことが、私の僥倖…


 神様が、私にくれた、僥倖だと、思った…



 朝食を終え、ナオキが、


 「…じゃ、綾乃さん、会社に行ってくる…」


 と、言って、家を出た…


 私は、


 「…行って来なさい…」


 と、ナオキの背中に、言った…


 ナオキは、振り返らずに、軽く、右手を挙げて、私の言葉に、応えた…


 そして、それが、私とナオキの別れになった…


 まさかとは、思うが、別れになった…


 もちろん、ナオキが、死んだわけでも、なんでもない…


 ただ、家に帰って、来なかったのだ…


 私は、悶々として、仕方がなかった…


 が、


 その一方で、さもありなんと、思った…


 さもありなん、つまり、ナオキが、帰って来なくても、仕方がないと、思ったのだ…


 …なにか、あった!…


 …五井に、なにか、あった!…


 それに、私も、ナオキも、また、巻き込まれたと、思ったのだ…


 だから、慌てなかった…


 悶々と日々を過ごしたが、慌てなかった…


 ただ、そう言いながらも、不安で、仕方が、なかった…


 一体、この先、どうなるんだろ?


 そう、考えると、仕方がなかった…


 そして、そんな日々が、続いた…


 三日、続いた…


 そして、三日後にテレビをつけて、仰天した…


 ナオキが、あのハルカと、結婚会見を開いていたのだ…


 まさに、まさか…


 まさか、だった…


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