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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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101/225

寿綾乃という女 第4部 101

 「…どうして、それが、綾乃さんに、わかるの?…」


 「…今日、伸明さんから、電話があったときに、聞いたの…」


 「…なにを、聞いたの?…」


 「…最初は、自分の結婚を否定していたけれども、いつのまにか、自分が、結婚することと、ナオキが、結婚すると、言い出したの…」


 「…ボクが、結婚する?…」


 「…おかしいでしょ? それで、もしかしたら、誰かに、言わされているか、電話の向こう側に誰か、いると、思ったの?…」


 「…諏訪野さんの近くに?…」


 「…そう…」


 「…それで、伸明さんの近くに誰か、いるか、あるいは、誰かに、言わされているのなら、ハイを二回、続けて、言って下さいと、言ったの…すると、すぐに、ハイ…ハイ…と、続けて、言ったの…」


 ナオキは、私の話を聞いて、考え込んだ…


 深刻な表情で、考え込んだ…


 そして、缶ビールを、飲んだ…


 まるで、憂さを晴らすように、缶ビールをグイッと飲んだ…


 そして、一気に、缶ビールを、最後まで、飲んだ…


 それは、缶ビールを、飲むと言うより、無理やり、喉に流し込むといった感じだった…


 ナオキは、缶ビールを飲み干すと、


 「…そういえば、諏訪野さんは、ボクに、電話をかけてきたときも、元気がなかったよ…なにより、ボクに、電話をかけてきたときは、事務的だった…」


 「…事務的って?…」


 「…事実を淡々と述べる感じ…感情が、あまり、なかった…」


 「…それって、やっぱり、誰かに、言わされている?…」


 「…今となっては、そうかも、しれないと、思う…電話も手短だったしね…」


 「…そう…」


 私は、言って、ナオキを真似て、缶ビールを一気飲しようとした…


 が、


 できない…


 一気に飲み干すことが、できない…


 やはり、これが、男と女の違いだろうか?


 悔しいが、認めざるを得ない…


 私は、一度、口から、離した…


 それから、もう一度、一気に飲んだ…


 飲まざるを得なかった…


 それほど、ショックだった…


 伸明の結婚が、ショックだった…


 そして、おそらく、この後は、ナオキの結婚が、来る…


 それを、思うと、飲まざるをえなかった…


 そして、当然ながら、ナオキも、そのことに、言及した…


 「…さっきニュースで、流れた、ボクの結婚のニュース…アレって?…」


 と、聞いてきた…


 私は、即座に、


 「…追い込まれるのよ…きっと…」


 と、答えた…


 「…追い込まれる? どんなふうに?…」


 「…今、FK興産は、五井と提携している…きっと、ナオキが、五井家の人間と結婚しなければ、提携を取り消すとでも、言われて結婚せざるを得なくなる…」


 私の言葉に、ナオキは、唖然としたが、すぐに、


 「…なるほど、そういうことか?…」


 と、納得した…


 それから、


 「…これは、もう一本、ビールが必要だな…いや、一本で、すむわけないか?…」


 ナオキが、笑って言った……


 寂しそうに、笑って言った…


 私は、席を立ち、無言で、冷蔵庫から、ナオキのビールを持ってきた…


 が、


 さすがに、自分のビールの分は、持ってこなかった…


 さすがに、これ以上は、カラダに悪いと、思ったのだ…


 だから、飲まなかった…


 自分の分は、飲まなかった…


 ただ、黙って、ナオキのビールをテーブルに、置いた…


 ナオキは、即座に、ビールを手にすると、飲み出した…


 ただ、飲み出すというより、無理やり、喉に流し込むという感じ…


 飲むよりも、酔いたい…


 ただ、酔いたい…


 そんな感じだった…


 そして、そんなナオキを見ながら、


 「…私たち、もしかしたら、これで、お別れかも…」


 と、私は、言った…


 笑いながら、言った…


 が、


 ナオキは、笑わなかった…


 深刻な顔に、なった…


 そして、いきなり、立ち上がった…


 私は、


 「…ナオキ…どうしたの?…」


 と聞く。


 「…ビールを、持ってくる…」


 「…そんなこと、私に頼めば…」


 「…いや、綾乃さんが、いなくなれば、ボクが、自分で、持ってくるしか、なくなるからね…」


 「…私が、いなくなる…どういうこと?…」


 「…綾乃さん、もしかしたら、諏訪野さんと、結婚するかも…」


 私は、ナオキのこの発言に、唖然とした…


 一瞬、唖然として、言葉も出てこなかった…


 しばらく、置いて、


 「…ナオキ…なにをバカなことを、言っているの!…」


 と、ナオキを叱った…


 が、


 ナオキは、ひるまなかった…


 「…バカなことじゃないよ…」


 「…どうして、バカなことじゃないの?…」


 「…だって、ボクも、諏訪野さんも、結婚するっていうニュースが流れたけれども、誰と、結婚するとは、言ってなかったでしょ?…」


 そう言えば、まだ言ってなかったような…


 でも、このナオキは、五井家の人間と結婚すると、前回のニュースで、流れた…


 それに、昼間、伸明から、電話があったときも、ナオキは五井家の人間と結婚すると、言っていた…


 私は、それを、思い出した…


 それゆえ、


 「…でも、昼間、伸明さんは、ナオキは、五井家の人間と結婚すると、言っていたわ…」


 「…ボクが、五井家の人間と?…」


 「…そう…」


 「…でも、今、五井家の人間で、独身で、適齢期の女性って、あの菊池さんしか、いないんじゃ…」


 ナオキが、言った…


 至極、当たり前のことを、言った…


 たしかに、今、五井では、適齢期の独身の女性は、いない…


 あの菊池リンしか、いない…


 あの和子の孫の菊池リンしかいない…


 以前、伸明と、五井の当主の座を争った、伸明の弟の秀樹は、菊池リンと結婚したがった…


 それは、彼女と結婚することで、兄の伸明に対抗できると、思っていたからだ…


 五井は、一族内での結婚を奨励している…


 それは、一族内の団結のため…


 五井は、四百年の歴史があるが、今、五井一族内での、血は、薄い…


 他人並みに、薄い…


 なんといっても、四百年だ…


 創業者から、四百年も経てば、一族内での血縁も薄くなるのも、当然だ…


 それゆえ、五井は、一族内での結婚を奨励した…


 これ以上、血を薄めないためだ…


 これ以上、血を薄めれば、五井の団結心が、薄れると、判断したからだ…


 それゆえ、伸明の弟の秀樹は、和子の孫の菊池リンと結婚しようとした…


 同じ一族の菊池リンと結婚することで、兄の伸明に対抗できると、思ったからだ…


 しかしながら、菊池リンが、嫌がった…


 そして、それは、菊池リン以外に、今、五井一族で、独身の適齢期の女性は、いないことを、思い出した…


 だとしたら、もし、あの伸明が、言うように、ナオキが、五井一族の女性と結婚するとしたら、一体、誰と結婚するんだろう?


 ふと、思った…


 思ったのだ…


 私が、考え込んでいると、プシュと、音が、して、ナオキが、もう一本缶ビールを開けた音がした…


 ふと、見ると、ナオキが、ゴクゴクと、ビールを喉に流し込む…


 私は、それを、見て、


 「…ナオキ…そんな飲み方は、やめなさい!…」


 と、ナオキを、叱った…


 「…もっと、ビールを味わって、飲みなさい…さもないと、ビールが、もったいないわ…」


 ナオキは、私の言うことも、聞かずに、黙々と、ビールを一気飲みした…


 そして、飲み終わると、


 「…酔いたいんだよ…綾乃さん…」


 と、言った…


 「…今夜は、酔って、すべてを忘れたいんだ…」


 そう言われると、なにも、言えなかった…


 なにより、ナオキの気持ちが、わかり過ぎるほど、わかるからだ…


 だから、なにも、言えなかった…


 私は、ただ、ナオキが、缶ビールを飲むのを、見守った…


 無言で、見守った…


 それ以外、できることは、なにも、なかった…


 残念ながら、なにもなかったのだ…


 

 深夜、寝床に入っても、私は、まだ、考えこんでいた…


 今度の件を考え込んでいた…


 やはり、私は、追い込まれるのだろうか?


 いや、


 私ではない…


 私たちだ…


 私と、ナオキは、追い込まれるのだろうか?


 そんなことを、考えた…


 考え続けた…


 そして、考え続けた結果、


 …今回の一番の敗因…


 に、ついて、考えた…


 それは、おそらく、五井に関わったこと…


 そう、思った…


 とんでもない、お金持ちと、関わったことではないか?


 そう、思った…


 私やナオキのような庶民が、関わるべきでは、なかったのだ…


 が、


 そこまで、考えて、いや、最初から、五井に関わったのも、また、運命と考え直した…


 なぜなら、叔母が、五井の前当主、建造と恋愛をした…


 その縁で、今、私は、五井と関わった…


 五井の当主、伸明や、その他、五井の一族と関わった…


 そう、思ったからだ…


 そう、考えると、これは、運命としか、言えなかった…


 ナオキは、ともかく、私の運命としか、言えなかった…


 母は、亡くなるときに、


 …従姉の綾乃になりすましなさい…


 と、私に、遺言した…


 従姉の綾乃は、お金持ちの血を引く、娘…


 綾乃になりすませて、生きなさい…

 

 そうすれば、いずれ、綾子にも、大金が入る…


 でも、そのためには、まず、綾子を守ってくれる男のひとを探しなさい…


 綾子を守ってくれる男というのは、腕力では、なく、知力…


 綾子が、従姉の綾乃に成りすまして、生きれば、いずれ、綾乃の父の出身である、お金持ちの一族と知り合う…


 でも、その結果、そのお金持ちと、相続の件で、争うことになる…


 だから、腕力ではなく、知力…


 知力で、綾子を守って、くれる男を探しなさい…


 それが、母の遺言だった…


 唯一の遺言だった…


 貧乏だった母が、唯一、私に残せることだった…


 そして、私は、母の遺言の通りにした…


 上京し、すぐに、母の言った頼れる男を見つけた…


 それがナオキだった…


 藤原ナオキだった…


 ナオキは、いわゆる優男で、腕っぷしは、強くないが、頭脳は、一流…


 まさに、母が、言った知力のある男だった(笑)…


 その知力で、私を守ってくれた…


 私を事実上の妻として、守ってくれた…


 が、


 その私に関わったゆえに、今度は、ナオキもまた災難に見舞われる…


 それを、考えると、ナオキに申し訳なかった…


 実に、申し訳なかった…


 


 朝になり、私が、朝食の準備をしていると、ナオキが、起きて来た…


 「…綾乃さん、おはよう…」


 と、言って、起きてきた…


 私は、ナオキの顔を一目見て、


 「…昨夜、飲みすぎよ…」


 と、言った…


 事実、ナオキの顔は、見るからに、二日酔いだった…


 ナオキは、私の言葉に苦笑して、


 「…顔を洗ってくる…」


 と、言って、その場から、去った…


 私は、朝食の準備が、終わったから、暇つぶしに、テレビをかけた…


 テレビのニュース番組が、やっていた…


 私は、なんということはなく、そのニュースを見ていた…


 すると、思いがけず、ニュースが、五井に触れた…


 五井というのは、伸明ではなく、ナオキのことだった…


 ナオキが、五井一族の娘と結婚する…


 その相手の女性の顔が、テレビに出た…


 それは、私にとって、見覚えのある顔だった…


 それは、以前、伸明の見合いで、私が、同席した女性…


 ハルカという女性だった…


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