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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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10/225

寿綾乃という女 第4部 10

 が、


 私が、そう、思っていると、伸明が、


 「…西家が、今、ボクに近付いてきます…」


 と、伸明が、告げた…


 「…五井西家が、ボクに、結婚を強要してきています…和子おばさまの不在を狙って…」


 「…」


 「…実にあざといというか…まあ、この歳で、和子おばさまに、守られている自分も歯がゆいというか…情けないというか…」


 「…」


 「…でも、事実です…現実です…」


 「…」


 「…そして、今、その現実が、近付いてくる…その現実に、ボクは、怯えているわけです…四十を過ぎた男が、怯えているわけです…」


 「…」


 「…我ながら、情けない…実に、情けない…」


 「…」


 「…それも、これも、ボクが情けないから…独り立ちできないから…」


 伸明が、苦笑いを浮かべながら、言う…


 「…たぶん、だから、ボクは、寿さんに、憧れる…強い寿さんに、憧れる…」


 仰天の告白をした…


 目の前の五井の当主が、仰天の告白をした…


 が、


 私は、驚いた半面、さもありなんとも、思った…


 どこか、既視感がある光景というか…


 私にとって、よくある光景だった…


 あるあるだった(爆笑)…


 弱い男は、強い女に憧れる…


 これは、おそらく本能…


 本能のせい(爆笑)…


 仮に、見かけは、強く見える男でも、ホントは、弱い…


 きっと、どこか、弱いところがある(笑)

…


 性格が弱いところがある…


 見かけは、誰が見ても、ヤクザのようなこわもてだったり、しっかりして、見えても、中身は違う…


 中身は、小心者…


 だから、惹かれる…


 強い女に、惹かれる…


 弱い自分を、支えてもらいたいからだ…


 強い女に、支えてもらいたいからだ…


 そして、これは、私の実体験でも、ある…


 私の事実上の内縁の夫だった、藤原ナオキは、弱かった(爆笑)…


 私に弱かった…


 私に頭が上がらなかった…


 そして、そんなナオキが、結婚していた女が、ユリコ…


 あのユリコだ…


 私の天敵のユリコだ…


 とんでもなく、気が強いユリコだ(爆笑)…


 つまり、本質的に気の弱いナオキは、強い女を選ぶ…


 自分の妻に強い女を選ぶ…


 その典型だった…


 弱い男の典型だった(爆笑)…


 もちろん、ナオキは、この伸明同様、スマート…


 長身で、イケメン…


 決して、弱くは、見えない…


 なにしろ、従業員千人を抱えるFK興産の操業社長…


 弱ければ、会社など、経営できないからだ…


 だから、見かけは、弱くは、ない…


 見かけは、弱く、見えない…


 しかし、性格に弱いところがある…


 それは、いっしょに暮した経験がある、私には、わかる…


 また、会社でも、社長と社長秘書という関係で、身近に、藤原ナオキという男を見てきた…


 だから、わかる…


 ナオキの性格的な弱さがわかる(苦笑)…


 そして、それは、たぶん、目の前の伸明も。同じ…


 ナオキと同じだ…


 どこか、性格的に弱い部分があるのだろう…


 だから、私に憧れる…


 強い、私に憧れる(苦笑)…


 そして、それは、あの和子が、後ろ盾になっていることを、見ても、明らか…


 この伸明の弱さが明らかだ…


 伸明が、弱いと思ったから、和子が、後見人になった…


 伸明の後見人になった…


 強い和子が、伸明の後見人になった…


 それが、この諏訪野伸明という男の真実…


 真実だ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考えていると、伸明が、


 「…また、来ます…」


 と、突然、言った…


 「…また、今度、来ます…今日は、失礼しました…」


 と、ペコリと、ベッドの上で、寝ている私に挨拶をして、病室を出ようとした…


 私は、思わず、


 「…伸明さん…」


 と、呼んだが、伸明は、軽く、手を上に挙げて、挨拶をするだけで、私に振り向きもせずに、病室を出て行った…


 そんな伸明の後ろ姿を見て、つい、


 「…ちぇ! 伸明のヤツ…」


 と、文句を言った…


 つい、文句を言ったのだ…


 そして、つい、口に出してしまってから、


 …しまった!…


 と、思った…


 なぜ、しまったと、思ったのか?


 それは、自分でも、気付かぬうちに、伸明を、身近に感じてきたというか…


 まるで、伸明と、自分が、親密な関係になったと、自分でも、気付かぬ間に、思ったのでは、ないか?


 図々しくも、そう、思ったのでは、ないか?


 あらためて、そう、思ったのだ…


 たかだか、キスをしたぐらいで、そう、思ったのだ…


 これでは、一体、伸明と、一度でも、セックスをしたら、どうなる?


 きっと、自分でも、驚くほど、伸明の女房面になるのでは、ないか?


 そして、なにより、そんな女は、バカな女の典型…


 これまで、散々、自分が、バカにしてきたバカな女の典型だった…


 にもかかわらず、まさか、今、自分が、そんなバカな女の典型になるなんて…


 ビックリした…


 自分でも、自分にビックリした…


 同時に、


 呆れた…


 自分自身に呆れた…


 自分自身に、ほとほと、呆れた…


 まさか、自分が?…


 こんなことは、世の中には、よくあることだが、まさに、まさか、だ…


 まさに、自分が、これほど、バカな女だとは、思わなかった…


 まさか、自分が、ここまで、バカな女だとは、気付かなかった…


 これでは、笑えない…


 世間に、ごまんといるバカな女を笑えない…


 私は、思った…


 思ったのだ…



 退院は、思ったより、遅かった…


 なかなか、退院の許可が、下りなかった…


 やはり、それは、私が、癌患者だから…


 今回の軽い脳梗塞とは、別に、癌患者だから…


 今回の脳梗塞とは、別に、病気を抱えているから、かも、しれない…


 しかし、実は、それでも、良かった…


 なぜ、良かったのか?


 実は、今、私は、無職…


 無職だ…


 だから、今、働いていない…


 正確には、以前、勤めていたFK興産の、非常勤取締役…


 要するに、いつも会社に出社しなくても、会社から、一定の報酬を得られる立場(笑)…


 社長のナオキが、以前、私を、その地位に、してくれた…


 私とナオキは、FK興産が、創業した当時からの仲間…


 わずか、数人で、始めた、小さな会社だった頃からの仲間…


 いわば、仕事仲間だった…


 会社が、大きくなり、ナオキは、社長…


 私は、社長秘書となっても、関係は、変わらなかった…


 仕事仲間という意識は、変わらなかった…


 プライベートでは、最初は、男女の関係だったが、仕事が、軌道に乗り、会社が、見る見る大きくなっていく過程で、ナオキの女遊びが盛んになり、ナオキは、私と、ナオキの息子のジュン君と住む、マンションを出た…


 その方が、女を自宅に誘いやすかったからだ…


 だから、ナオキは、家を出た…


 が、


 会社での関係は、変わらなかった…


 社長と社長秘書という関係は、変わらなかった…


 しかしながら、私が、会社を、退職して、生活に困ると思ったのだろう…


 ナオキが、私を、FK興産の非常勤の取締役にしてくれた…


 非常勤の取締役ならば、出社の必要がないからだ…


 要するに、私にお金を、与える名目が、欲しかった…


 そのために、非常勤の取締役に私を就任させた…


 そういうことだ…


 そして、ナオキが、そう仕向けた原因の一つは、私だけではない…


 私だけではない、五井に原因があった…


 今、病室を出て行った諏訪野伸明率いる五井に、原因があった…


 五井が、FK興産に出資したのだ…


 FK興産の株主になったのだ…


 それは、一体、どういうことか?


 FK興産に出資することで、FK興産は、正式に五井グループの仲間に入ったことになる…


 そして、それは、FK興産が、今まで以上に、世間で、認められ、会社の規模を拡大するチャンスに恵まれることを、意味したが、同時に、創業社長のナオキの権限は、大幅に、縮小される…


 それより、なにより、それを契機に、FK興産は、五井グループに組み込まれる危険が、大きくなった…


 それは、なぜか?


 それは、伸明が、実績を欲しているから…


 五井家の当主就任の実績を必要としているからだ…


 FK興産は、たかだか、従業員が、千人程度の会社…


 天下の五井からすれば、吹けば飛ぶようなチンケな会社だが、それでも、そんなチンケな会社でも、ないよりは、マシ…


 伸明の力で、五井グループに組み込んだ実績となる…


 だから、ナオキは、FK興産が、五井の資本を、受け入れる前に、私を、FK興産の非常勤の取締役にしてくれた…


 さもないと、五井の資本を受け入れてからでは、社長のナオキの権限が、大幅に縮小される危険があるからだ…


 だから、その前にした…


 その前に、私を取締役にした…


 私は、今、それを、思い出した…


 思い出したのだ…


 そして、


 そして、だ…


 いまさらながら、ナオキを思った…


 私の事実上の夫であった、藤原ナオキを思った…


 なぜ、私の見舞いにやって来ないのかを、思った…


 これは、不思議…


 実に、不思議だった…


 おそらく、私の身の上を、この世の中で、誰よりも、一番、思ってくれるのは、ナオキ…


 藤原ナオキ以外に、いない…


 いまさらだが、伸明では、ない…


 今、この病室を出ていったばかりの、五井の総帥の諏訪野伸明ではない…


 藤原ナオキだ…


 FK興産の藤原ナオキだ…


 私のナオキのつながりが、強固なのは、会社の社名に現れている…


 FK興産という社名に現れている…


 Fは、藤原ナオキのF…


 Kは、私、寿綾乃のK…


 最初は、違う社名だったが、会社が、大きくなって、社名を変えた…


 私と、ナオキのイニシャルを、つける社名に変えた…


 もちろん、周囲の者は、知らない…


 中には、知るものも、いたかも、しれないが、知らないフリをしたからだ…


 社長のナオキに逆らって、クビにでも、なったら、たまらないからだ…


 だから、知らないフリをした…


 実に、賢明な判断だ(笑)…


 それに、なにより、ナオキ自身も、まさか、FK興産という社名が、私とナオキの頭文字をとって、決めたなんて、公の場では、決して、口にしない…


 なにか、適当なことを、言って、ごまかした…


 つまりは、それほど、私とナオキは、深い仲…


 切っても切れない仲だった…


 が、


 そのナオキが、私の見舞いに来ない…


 どうして、見舞いに来ないのか?


 不安が、高まった…


 実に、高まった…


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