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<35> 帝国中隊長の追撃と勝利の確信

 ――11月6日、15時11分。ヴァレンス砦からウェスカ砦までの峠道。


「功に逸りおって」


 帝国軍の中隊長は、無残に惨殺されている20人ほどの先導隊を見て吐き捨てるように言った。一度馬を止めて、罠などが仕掛けられていないか、黒兜越しに、谷道をしっかりと見回す。


「どうされますか?」


 小隊長がそう訊ねる。


「行くに決まっておろう。ここで躊躇なぞしたら、イヴァース様や助祭様に殺されるわ」


「はっ」


 中隊長は再び馬を走らせる。


(思ったよりもポルト軍の逃げ足が速いのう)


 内通者による『サンドウォール』の崩壊による本軍での突入。その圧倒的な物量の暴力で、ヴァレンス砦は大混乱になるはずだった。しかし、いざ砦に入ってみたら、ほとんどもぬけの殻で、ポルト軍は一足先に脱出をしていた。


 普通、奇襲をした後というのはもっと混乱していて、それこそヴァレンス砦の中で多くの民間人も含めて捕縛することになると思っていた。


(まあ、元々少人数で守っていた砦だ。最初から何かあった時には全員で脱出できるよう計画していたのじゃろう)


 中隊長は背後を振り返り、多数の騎士と兵士たちが続いているのを確認する。


(深手を負った虎が一番危険じゃ。焦ることはない。こちらの優位は変わらないのだから、確実に、しっかりと追い詰めればいい)


 功に逸って無駄死にした騎士たちを哀れにも思わず、中隊長は馬を進める。帝国は実力主義の国であり、功を上げればそれだけ恩賞にも与れる。しかし、だからといってポルト王国を舐めてはいけない。


(どんな国だって、簡単には滅亡させることはできん)


 曲がり道を進むと、はるか眼下にポルト兵たちが小さく見えた。ちょうど左右に断崖絶壁がある谷道が、木々が生えている山道に切り替わるあたりだった。いままでぐねぐねと曲がっていた道が、ここにきて一本道になり視界も開けている。


「いましたっ!」


 小隊長が勢いよく叫ぶ。


(わかっておる。若いのう。焦らなくても見えておるんじゃから。さあ、ここでポルト兵たちを皆殺しじゃ)


「帝国兵よっ!! 敗残兵が見えたぞぉっ!! 奴らをウェスカ砦に逃げ込ませるわけにはいかんっ!! 追撃じゃああぁ――――っ!!」


 中隊長はそう叫ぶと、右手を前に突き出す。


 帝国兵たちが声を合わせ、その声が地鳴りのように響く。


 帝国兵たちは、我先にと追撃の速度を増していく。ポルト兵たちとの距離がどんどん縮まっていく。殿は隊長クラスの騎士たちが守っているようだが、個としてどんなに強くても、この数の暴力の前には勝てないだろう。


 中隊長は勝利を確信した、そのとき。


 ドガァアアアアァッッ!!!!


 ふいに、爆発音が鳴り響いた。


 人間よりも先に、危機を感じた馬が足を止める。前足を高く上げ、中隊長は地面に振り落とされる。


「な、なぬっ――――!?」


 地面に尻をついたまま見上げると、左右の崖が爆破され、そこから大きな岩の塊が降って転がってくるのが見えた。


 多くの岩が、ちょうど崖が終わり山道になる辺りに、狭い谷道を塞ぐように積み上がっていく。まるで山奥にいると言われる伝説の巨人が、無造作に岩を投げ捨てているかのようだった。


「な、な、な……」


 ドゴォオオォオオ――――ン!!


 再び爆発音が響き、大きな岩が転がってくる。またたく間に、岩の壁が積み上がっていく。


 遠くの方でも違う爆発音が聞こえた。


「ひいっ」


「うわあぁあっ!!」


 味方の騎士の何人かが、その岩の直撃を受けて潰されていく。


 逃げようとしても、前は岩でふさがれ、助かるためには、山の方へ引き返すしかない。


「戻れぇっ!! 引き返せぇっ!!」


 中隊長はそう叫び、降りかかってくる岩や石をよけながら、峠道を駆け上がっていこうとする。自分の馬はすでに岩の直撃を受けて絶命していた。


「あ、あ、あああ……」


 坂道を懸命に上っていた中隊長は、再び声にならない声をあげる。


 これ以上何に驚けばいいのだ。


 今度は、谷道の上から、鉄砲水が一気にこちらに向かって流れてきていた。両側を絶壁に囲まれた細い峠道を、地鳴りのような轟音とともに、白波立つ巨大な水の壁が押し寄せてくる。


 怒りに猛る水の竜のような、荒れ狂う奔流。


 先に引き返して峠道を登ろうとしていた騎士たちが、その水の急流に押し流されて、水と一緒にこちらに向かってくる。


「な、なぜ……これはいったい、何なんじゃ? ここまできて、なぜ……」


 それが中隊長の最期の言葉だった。激しい水流に押し戻された中隊長は、抵抗むなしくそのまま背後にできたばかりの岩の壁にぶち当たり即死する。


 先に出来ていた岩の壁が水をそこで食い止めるダムとなり、そこには急に造られた池ができあがっていく。


 石と砂の隙間から、わずかにちょろちょろと水が流れている。


 追撃に出た多くの帝国兵が、水の中で溺死した。


 ――即席のダムが、完成したのだった。








「ギリギリでしたね……ある意味賭けでしたが、ヴァレンス砦が踏ん張って時間稼ぎをしてくれたおかげです」


 爆発が起こった崖の近くで、眼下を見下ろしながらヤンがそう言った。ヤンを含めた5人は、数日前から谷道が山道に変わる崖のところに、爆破の魔道具を複数仕掛けていた。


 この崖の岩のもろさと、位置関係から、爆発により人工的な土砂崩れを起こし、谷道に蓋をすることを狙っていたのだ。


 そして、それだけで終わらず、ヴァレンス砦へ飲み水などを提供していた川の水を一部堰き止め、ダムを作っていた。そこから水が谷道へ流れるための仕掛けを作っていた。


 崖の爆発に連動させてそのダムを壊すことによって、谷道に流れるように誘導していた鉄砲水を人工的に作っていたのである。


「ヴァレンス砦の『サンドウォール』作戦で少しずつ兵を削って500人、今回の計略では500人……それでもまだ9,000人強の騎士や兵士がいますか」


 ヤンは長く息を吐く。


(これは、ポルティガ薬局製の胃薬でも効果は薄そうですね……ただ、隊長たちがヴァレンス砦を脱出できただけでよしとしましょう)


 ヤンはそう思い、近くにいた隊員たちに声をかける。


「さあ、私たちもウェスカ砦に向かいましょう」


 ヤンは馬に乗る。視線の先には、山道を下りきった先のウェスカ平原の先にある、巨大なウェスカ砦が見えていた。


 左右を険峻な山に囲まれ、文字通り壁のように建てられている平地の要塞。


 ポルト王国を守る、最後の壁。


 ポルト王国と帝国による、ウェスカ砦攻防戦がはじまろうとしていた。








【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

お好みのプラットフォームでお楽しみください。


第15回ネット小説大賞(ネトコン15)にエントリーしました!!

「定時で帰りたい」平騎士と「落ちこぼれ部隊」の第15隊が、いつだって事件に巻き込まれながら、それでもまっすぐに進んでいく物語です。


ぜひ第15隊を箱推しで楽しんでいただければと思います。


まだまだ知られていない【いつまき】ですので、ぜひブックマークや、ページ下の☆での評価で応援していただけると、とても励みになります。読者の皆様に押し上げていただき、多くの人の目に触れるチャンスが増えればとてもありがたく思います。


感想も、一言からでも大歓迎です!!

第二部も、引き続き更新していきます。ここから、さらに熱量を高めていきます。

これからも、ウィンと第15隊をよろしくお願いします!!

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