<34> ヴァレンス砦からの撤退、先導隊との戦い
――11月6日、14時25分。ヴァレンス砦からウェスカ砦までの峠道。
ヴァレンス砦には約500人がいたが、その内約400人が砦を脱出していた。馬を駆る騎士だけではなく、徒歩の兵士に、医師や看護師、料理人たちなど、多くの一般人もいた。
だからこそ脱出の歩みは遅々として進まず、追いつかれるのは時間の問題だった。
「助けてぇっ!! 助けてぇっ!!」
「もう駄目だぁっ!!」
パニックを起こそうとする人が出るたびに、「大丈夫だっ!!」「安心して走ってくれっ!!」と騎士たちが声をかける。
怪我人たちをまとめて乗せた馬車を守りながら、フィオナは何度も後ろを振り返ってしまう。
(本当に逃げ切れるの? ウェスカ砦までは歩いて半日かかるのに)
平原にあるウェスカ砦から、山道を進みやがて谷の道になり、ヴァレンス砦に行きつく。歩くと半日はかかる距離と聞いていた。行きは馬だったからそこまではかからなかったはずだ。
ただ、いまは一般人も多く抱えている。その中で逃げ切ることができるのかはわからなかった。
前も後ろも、砦のたくさんの人の列が続いている。しんがりは騎士隊が務めている。ガルシア隊長とウィン先輩たちがいるとアレンが言っていた。アレンはヴァレンス砦の陥落前に、治療室の怪我人たちを運ぶのを手伝ってくれた。
そして怪我人たちをなんとか馬車に載せきると、自分は再び後方に戻っていった。
「私も行く」
とフィオナも言ったが、「フィオナは怪我人たちの近くにいてあげてくれ。その方が皆が安心する」と言って駆けていった。
(……アレン、どんどん成長しているのね。頼むわよ)
馬の駆けてくる音が、段々大きくなってくる。蹄の音が遠く近く聞こえるのは、峠道が九十九折になっているからだろう。
(ヤンは、「谷道が山道に変わるところまでなんとか来てください」と話していた。あとどれくらいだ?)
しんがりを務めながら、ウィンは後ろを振り返り、そのあとで正面の先を見る。
両側を断崖絶壁に囲まれた谷の道が、途中で断崖がなくなり、山に囲まれた山道に変わる。ウェスカ砦からヴァレンス砦に向かったときに、その道の光景を覚えていた。
ただ、それがあとどれくらいの距離なのかは覚えてはいなかった。
最後尾を守っていたガルシアに追いついた後、ウィンはガルシアにヴァレンス砦での最後を伝えた。ガルシアもエヴァも、ホッパーの最期を感じ、しばらく黙っていた。
「そうか……ホッパー隊が」
多くを語らない言葉とは裏腹に、ガルシアの体は震えていた。第15隊の長男のような存在だったホッパーの死が、ガルシアの目を赤くする。
「……ホッパーが稼いでくれた時間を、なんとか活かさないとダメね」
エヴァが長い髪で表情を見せないようにして言う。
「でも、このままじゃ追いつかれちゃうわよ」
「俺たちでなんとか時間を稼ぐしかない」
ガルシアが言う。
「……すまない。第15隊には本当に助けてもらっている」
同じくしんがりの位置にいるアッシュが言う。先程内通者の兵士を即斬し、「本当は情報を得るべきだったのだろうが、気付いたら倒してしまっていた」と話していた。
「まあ……あのまま手を打たなかったら、もっとひどいことになっていましたから仕方がないですよ」
馬に乗ったダビドが言う。全員があの場所にいて、内通者の兵士が矢を射るのを見た。そのとき、アッシュの動き出しが誰よりも早かった。ヴァレンス砦は、魔導士が2人欠けただけで陥落したのだ。
「ヴァレンス砦の方向から煙が出ていますね……」
視線を上げ、ダビドが言う。自分たちが長年守ってきた砦が今日陥落した。アッシュもそうだったが、二人は複雑な想いを抱いているはずだった。
上の谷道のカーブの先から、黒鎧を着た騎士たちが駆け下りてくるのが見えた。
「来たぞっ!!」
アッシュが叫ぶ。谷道のカーブの関係で、追いかけてきているのが20人くらいの集団であることがわかった。
「おそらくは先導隊だっ!! そこまでの集団じゃない」
アッシュが馬を反転させて剣を抜く。
ガルシア、アッシュ、ウィン、そしてアレンが前に立ち、その後ろにエヴァとダビドが位置取る。
「いたぞぉ―――っ!!」
「ポルト兵だぁ―――っ!!」
「殲滅戦だぁ―――っ!!」
「うるせえな。いちいち叫ばんとならんのか奴らは」
一歩さらに前に出たガルシアが、背中から両手剣を抜いて前に構える。
「うぉおおおっ!!」
ガルシアが両手剣を一閃すると、最初にやってきていた5人の騎士が一気に崩れ落ちる。その後ろにいた騎士が馬をよけきれずに落馬し、合間をうまく抜けた騎士たちはアッシュとウィン、そしてアレンによって斬られていく。
ダビドは土魔法で騎士の視界を奪い、エヴァは器用に騎乗して、合間から生き残っていた騎士を刺していく。
一瞬の出来事だった。先導隊としてやってきた帝国軍の部隊は、あっという間に全滅させられていた。
「毎回これくらいの集団ならいいんだが」
ガルシアが言う。
「すぐに大軍が来る。急ごう」
ウィンはそう言って皆を急がせる。大軍が押し寄せてくる地響きが聞こえていた。
【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。
お好みのプラットフォームでお楽しみください。
読んでいただきありがとうございます!
少しでも「面白い」「続きが気になる」「ウィンや第15隊を応援したい」と思っていただけましたら、画面下部の【ブックマーク登録】や【ポイント評価】、【感想】などをいただけますと、執筆の大きな励みになります!




