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<33> ホッパー隊、命懸けの殿

 ――11月6日、13時52分。ヴァレンス砦、扉前。


(よしっ、行ったか。ウィンは優しすぎるところがあるから、へこんでなきゃいいがな)


 扉を閉めた後、ホッパーはそう思いながら振り返る。扉を閉めている間、ホッパー隊の仲間たちが背中を守ってくれた。


「最後まで、悪ぃな」


「いいってことよ」


「帝国の大軍相手に時間稼ぎなんて、俺たちの最後の花道じゃねえか」


「違いねぇ」


 いつもこの5人で、様々な任務をこなしてきた。ポルティガでも悪名高いマフィアのアジトに、ガルシア隊長含めて6人で殴りこんだこともある。


(マフィアを壊滅させたあのときの、隊長の背中は大きかったな……俺も、隊長みたいになりたかったが、少しは、近付けたんだろうか……)


 ホッパーはあのときのガルシアの笑顔を思い出す。たまに「ガルシアの親父」と呼ぶと、「俺はお前の親父じゃねえよ。隊長と呼べ隊長と」そんなふうに、ガハハと笑っていた。


 ホッパーは大斧を振り回し、目の前にいた黒鎧の騎士を3人弾き飛ばす。ホッパーは魔法は使えないが、魔力をオーラのように筋肉に纏わせることで、筋肉の力を増すことができる。それがホッパーの独自の技術だった。


 左右でも、ホッパー隊の4人が、同じように善戦している。


 信じ難いが、帝国軍の精鋭たちは、ホッパーたちの迫力に押されていた。わずか5人が、何百人もいる精鋭たちから、唯一の扉を守っていたのだ。


「ポルト王国騎士団第15隊っ、ホッパー隊とは俺たちのことだぁっ!!」


 押し寄せる波のように繰り返しやってくる帝国軍を、ホッパーたちはかなりの長い時間食い止めていた。


 ただ、実際にはそれほどでもなかったのかもしれない。


 けれども、そこにいる誰もが、なぜこの5人は倒れないんだと、そう思い始めていた。


 そのときだった。


「誇り高き帝国軍が、こんなところで足止めをくらうとは情けない」


 野太い声が響き、海が割れるように騎士や兵士たちが前方を開ける。


 三大将、炎のイヴァースが、巨大な黒馬に乗って、ゆっくりと向かってくる。


「おいおい……三大将のお出ましかよ」


 ホッパーはそう呟く。開港祭のときには大広場にはいなかったから、本物を見たのははじめてだった。ただ、皆の話を聞いていたから、すぐにわかった。


「うぬらの奮闘に敬意を表し、このイヴァースが直接引導を渡してやろう」


「……ありがたくはねえな」


 ホッパーは言う。


 次の瞬間、イヴァースの黒い剣が赤い透明な炎に包まれる。刀身が、2倍ほどの大きさに見える。


 ホッパーを守ろうとしたホッパー隊の4人が、イヴァースの前に立つ。イヴァースの炎の剣が一閃するたび、残像のような赤い炎が、まるで火の鳥のように空気を切り裂き、仲間たちが崩れ落ちていく。


 気が付くと、ホッパー一人になっていた。


「カーン……トレゼゲ……コール……ウェルズ……俺もすぐ行くから、少しだけ待っててくれ。ただ、こいつに一矢報いてからだ」


 ホッパーは、ホッパー隊の仲間たちの名を呼びながら、前を向く。


「大斧の戦士よ、まずはお前から打たせてやる」


 イヴァースは言う。その目に見すくめられると、身動きができないように思える。


「……なめてもらっちゃ困るぜ」


 ホッパーは筋肉に力を込める。魔力がオーラのように筋肉を覆う。


「うぉりやぁあああっぁあ――――っ!!!!」


 ホッパーは大斧を回転させながら反動をつけ、全身の力を両手に集めるようにして、正面から斧を振り下ろす。


 ゴォオオオォン…………


 大きな鐘が街中に響くような音が鳴る。


 イヴァースは右手で赤い炎の剣を横に持ち、ホッパーの最大の攻撃を受け止める。大斧の渾身の一撃を、そのまま横にした剣で受け止めきっていた。大斧の衝撃波で周囲の砂煙が吹き飛ぶ中、その足元は1ミリすら揺らいでいない。


「……いい一撃だ。おぬしのことは、覚えておこう」


 そう呟くと、イヴァースは大斧を弾き飛ばし、炎の剣を一閃する。


 ホッパーの斬られた傷から発火し、透明な赤い陽炎のような炎がホッパーの体を覆っていく。


「……隊長、ウィン、みんな……あとは、たのんだ……ぞ」


 ホッパーはゆっくりと膝をつく。視界がぼんやりと、透明で曖昧になる。そして、そのままゆっくりと、手前に倒れる。左右にはホッパー隊の4人も同じように倒れている。


 上空からこの戦場を見ると、倒されたポルト王国の騎士や兵士の数が被害の割に少ないことに気が付くはずだった。全滅してもおかしくないような攻撃だったが、第15隊が中心となって、多くの騎士や兵士を戦場から離脱させることに成功していたのである。


「砦を制圧しろおっ!!」


「ウェスカ砦に着くまでに逃げた奴らを倒せぇっ!!」


 彼らの横を帝国軍の騎士や兵士たちが駆け抜け、力を込めてヴァレンス砦の扉をこじ開けていく。


 口々に指示が出て、帝国軍が一気にヴァレンス砦に乱入していく。


「……」


 砦の奪取は部下に任せ、ホッパーの前に立ったままでいたイヴァースは、うつぶせに倒れたままのホッパーの背中を静かに見つめている。無言のまま、剣を鞘に納める。


 イヴァース以外の騎士や兵士たちは、すでにホッパー隊の存在を忘れているかのように、ヴァレンス砦に侵入していく。ヴァレンス砦を占領する者、引き続き追手となり脱出したポルト軍を追いかける者、素早く的確な指示により、帝国軍はその動きを早めていく。


 11月6日。14時3分。ヴァレンス砦が、ついに陥落したのである。










【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

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