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<27> ヤンの疑念 「14回中8回――」

「おかしいってのは?」


 信頼する副隊長の言葉に、ガルシアが怪訝そうに眉を上げる。


「タイミングが、良すぎるんですよ――ああそうだ『サイレントウォール』」


 ヤンが短く詠唱する。指定した範囲の音を、周囲の音と少しずつずらして聞き取りにくいざわめきに変える魔法。秘密の話をすることが多いヤンは、苦労してこの魔法を習得したのだといつか話していた。


「タイミングって、何のだ?」


「帝国の攻撃です」


 ヤンが言うと、ホッパーも目に力を入れる。


(食事くらいのんびり食べさせて欲しいな……)


 ウィンは何の肉かわからないものと野菜を一緒に炒めたものを食べながら、そんなことを思う。でもしっかりと集中して聞いている。


「私たちがヴァレンス砦に来てから、昼夜を問わず計14回の攻撃を受けています」


「さすがヤン。数えてるのアンタくらいじゃないの?」


 エヴァが呆れたように言う。


(確かこの二人は騎士学校の同期だったな)


 ウィンは二人の気の置けないやりとりに、誰かがそう言っていたことを思い出す。


「その14回の内、8回の攻撃が前線の兵士たちの交代30分前から交代時間までに起こっています」


「ん? それがどうかしたのか?」


 ホッパーが訊く。


「それは疲れるな、残業確定だ」


 ウィンが言うと、ヤンが「そうです。疲れるんです」と続ける。


「交代前ということは、もちろん緊張を強いられる時間が長くなるということです。具体的には、6時間警戒して、ようやく内勤と交代できると思ったら帝国が攻撃してくる」


「撃退するとしたら、まあ順調にいってもそこから2時間くらいかかるか?」


 ホッパーが、自分の当番のことを思い返しながら言う。


「はい、2時間はかかります。だから、兵士たちは自分たちで思っている以上に疲弊するのです」


「……ひどい話だ」


 ウィンは素直に賛同を示す。


「14回中8回か……おい、まさか」


 ガルシアが小さく呟く。


「はい、私はこの砦に帝国への内通者がいると考えています」


 ヤンは冷静にそう言い放つ。


「14回中8回は毎回ではありませんが、偶然では起こり得ません。多いなと思う者はいるでしょうが、ほぼ毎回でもないから気が付く者もいません。対象の隊も違いますしね」


「確かに、毎回自分じゃなかったから気がつかないかもしれないわね」


 エヴァが言う。


「これを地道に繰り返されると、砦の全員が無意識のうちに、徐々に体力と精神力を削られます」


「現に、疲弊している兵士は増えてきてるしな」


 自分は疲労とは関係ないというようにホッパーが言う。


「皆さん、この件はここだけの話にしてください。そして、怪しい動きをしている者がいないか目を光らせていてください。もし、この疲労を誘うやり口が意図的なものなら、きっと帝国はどこかでリズムを変えてきます」


 フィオナは先程から、一口も食べずに聞き入っている。


「第2隊が油断するとは思えませんが、こちらが疲弊しているのに、帝国は常に元気な兵士を出してきます。冷静に考えると、これは詰んでいます」


 ヤンはそこまで説明すると、一度長い息を吐く。


「あと、これはあまり言いたくはないのですが、今攻めてきている帝国騎士は騎士じゃありません」


「ん? どういうことだ?」


 ホッパーが怪訝な表情を見せながら訊ね、その横ではフィオナが驚きに目を見開いている。


「倒した帝国騎士を何人も調べましたが、あれはただの兵士です。ただの兵士に高い騎士の装備を着けさせているのです。だから馬の扱いも騎士にしては微妙なのです」


「何のためにそんなことをするのよ?」


 エヴァがヤンに向かって非難するように言う。


「消耗させ、油断させるためでしょうね」


 ヤンは天井を見上げながら言う。


「私だってこんなことを言いたくないのですが、帝国側にいる軍師か将軍は、相当根性がねじ曲がっています」


(……)


 ウィンはヤンの話を聞きながら、自分が抱いていた違和感が繋がっていくのを感じていた。確かに、あの手応えのなさはただの兵士に騎士を扮させていたとしたら辻褄が合う。


 実際、ここまでのヴァレンス砦の戦いは、ポルト王国側が連戦連勝だ。疲弊しているが感情は昂ぶって疲れを忘れているようなところがある。


 このタイミングで本物の強者の帝国騎士が一挙に来たとしたら、パニックになってしまうかもしれない。


(それに、ヤンが言うようにこちら側に帝国への内通者がいるとしたら……)


 ますます盤面のコントロールの主導権を帝国側に渡していることになる。


「エヴァ、食事の後ちょっと付き合ってもらいます。最悪の展開を想定して、準備をしておきたいのです」


 エヴァはガルシアを見る。ガルシアはうむと頷く。


「わかったわよ……当たらないことを祈ってるけど、アンタのろくでもない予想は当たることが多いのよね……で、私は何をすればいいわけ?」


 エヴァは面倒そうに言うと、右手で長い髪をかき上げるのだった。







【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

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