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<25> 第15隊の初陣! ガルシアの大剣と、ウィンの拭えない違和感

 ――10月31日、8時5分。ヴァレンス砦。


 ウィンの目の前で、軋んだ音を立てて扉が外側に向かって左右に開く。


 少しずつ開けていく眼前の視界の先に、砂煙が舞い、そのさらに遠くで巨大な土の壁がせり上がっていくのが見える。細かな砂が下に向かって滝のように流れ落ちるのを、魔法の力で上方に逆流させている。


 時間を巻き戻しているような、不思議な光景だった。


 壁の手前には、退路を断たれ、決死の覚悟を決めてこちらに向かってくる銀色の鎧を着込んだ騎兵と歩兵たちの姿が見える。


(あれが『サンドウォール』か)


 実際には数秒のことだったのだろう。だが、扉が開くまでの時間が、妙に長く感じられた。


(俺としたことが、珍しく緊張しているらしい)


 ウィンはそう思い、小さく長く息を吐く。


「よしっテメエら、第15隊のこの戦での初陣だ。ポルトの民のために、必ず勝利をあげるぞ!!」


 一番先頭にいるガルシア隊長がそう檄を発し、後方の隊員たちが後に続いて叫ぶ。


 第15隊の39人は騎兵として馬に乗り、その後ろをヴァレンス砦の兵士たちが歩兵として続いていく。


 黒鎧を着込んだガルシアの巨体と大きな声は、後方の兵士たちの士気をも高めている。ガルシアのよく響く声が聞こえるだけで、安心できるような気がする。


(さすが隊長だな)


 斜め前にいるガルシアを眩しく見つめながら、このガルシアが率いる第15隊が負けるはずがないと思う。


「全軍、突撃!」


 そう叫ぶやいなや、ガルシアが勢いよく戦場に飛び出していく。


 ガルシアはそのまま馬を走らせ、中央にいた銀色の鎧を着込んだ隊長風の騎士に向かっていく。


 ガルシアが大剣を一閃すると、なすすべもなく隊長風の騎士が馬から弾き飛ばされる。


「ウォララァあぁ――――っ!」


 ガルシアはそのまま敵陣深くまで突入し、左右の敵を切り裂いていく。


(……強力過ぎるな)


 ウィンはガルシアの突撃を視界の端に入れながら、自分も剣を構える。


 目の前の騎士が切りかかってくるのを剣でいなし、そのまま鎧の間に剣を突き出す。


 次に向かってきた騎士を圧倒的な速度の一撃で斬り捨てると、さらに前進して左右の歩兵を倒していく。


『サンドウォール』の近くまで来た時には、ウィンの通った後には誰一人動いてはいなかった。


 馬と人が激しく動き回り、何度も繰り返し砂煙が舞い上がる。視界の悪い戦場に響くのは、激しい剣戟の音と人々の叫び声。


 数瞬の内に、砦と『サンドウォール』の間の空間は、凄惨な戦場へと姿を変える。


「うぉりゃあぁぁ――――っ!」


 鉄の大斧を振り回しているホッパーが、大斧の一振りで3人の兵士を薙ぎ払う。鍛え抜かれた太い筋肉に包まれた二の腕が、軽鎧の間から見えている。


 巻き添えを喰らって馬から落ちた敵兵を、歩兵たちが取り囲んで確実に仕留めていく。


 圧倒的であり、ほぼ一方的な戦闘だった。ガルシアとホッパー、そしてウィンが帝国軍を倒していく。


 他の隊員たちも的確な動きで攻撃を進めていく。


「くっ」


 相手の激しい抵抗を前に手こずっていたアレンも、隙を見て相手の騎士を倒す。


 その横では、フィオナが器用に馬を扱いながら、複数の騎士を斬り倒していく。はじめての人間相手の戦闘だったが、二人とも強い意志で戦いに参加していた。


 エヴァは普段好んで使うダガーを封印し、器用に剣を使って帝国軍を沈めていく。


 ヤンも普段はあまり着ない軽鎧を着込み、主に後方で戦っていた。


 ただ、ヤンは周囲をよく見回していた。この『サンドウォール』戦術の中身を、現場で確認しようとでもするかのように。


「よぉーし、俺たちの勝利だ! 倒した帝国軍を集めるんだ」


 ガルシアが馬上で周囲を見回しながら叫ぶ。帝国兵たちはすでに息をしていなかった。


(……帝国兵はこんなものなのか?)


 自分が倒した相手の手応えのなさを感じながら、ウィンはそう思う。いくら物量で押すと言っても、このレベルなら何度でも撃退されるだろう。


(なんなんだ、この違和感は……)


 ウィンは首振りの動きで周囲を見渡しながら、そんなふうに思うのだった。






「さすがガルシアだね。実戦に強い部隊だよ」


 砦の防壁の上で、エルヴィラが眼下の第15隊の初陣を見つめながら言う。


「ポルト騎士団の援軍なのですから、これくらいはやってもらわないと困りますよ」


 ダビドが右手で左の手の甲を掻きながら言う。


「ああ、でもこれくらいやってもらえると、ウチの兵の交代間隔が長くなるから助かるな」


 アッシュ・バーレットが表面上はさわやかな笑顔で言う。ただ目までは笑っていない。


 ダビドはアッシュをじとっと睨むように見る。


「アナタは3交代から4交代になるからいいですよね。魔導士隊の3交代は変わりません」


「細かいことを気にするな」


「細かいことではありません。大事なことです」


 ダビドはそう声高に主張するが、アッシュは取り合わない。


(……隊長が強いのはもちろんだが、あの斧を振り回している大柄な騎士と、やる気がなさそうなのにやたら高速の騎士か、第15隊は侮れんな)


 アッシュは眼下で帝国兵たちを運んでいる第15隊を見下ろしながら、そんなふうに思うのだった。







【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

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