<20> 扉を開けたガルシア、響き渡る第15隊の<地鳴りの檄>
扉から入ってきたのはガルシアだった。
珍しく苦虫を噛み潰したような厳しい表情をしているガルシアが、会議室の正面の壇上までドシドシと歩いてくる。黒い軽鎧に、背中には大剣を斜めに背負っているいつもの格好である。
ヤンは言いかけた言葉を呑み込み、何かを推測するようにガルシアを見る。
隊員たちは黙ったままガルシアを見つめる。神妙な表情の者もいれば、好奇心旺盛そうな者もいる。
ガルシアは会議室の隊員たちを見回す。一瞬、言おうかどうか躊躇するように、苦渋の表情を見せる。
しばしの間が空く。
「……帝国が攻めてきやがった」
ガルシアは、喉の奥に詰まった塊を押し出すように言う。
「マジか」
「嘘だろ?」
隊員たちが口々に思ったことを声に出す。大会議室は思いがけない発言に混乱の度合いを深めていく。
「で、どこに?」
ウィンが訊く。
ガルシアはウィンを見てから、軽く振り返り、ちょうど後ろの黒板に貼られているブルゴス地方の地図を確認する。
そして、正面を向き直り、左手で地図の一点を穴が開くくらいに強く指さす。
「帝国が攻めてきやがったのはヴァレンス砦だ。1万規模の兵だそうだ」
「1万?」
ホッパーが大きな声を上げる。
「嘘みてえな大軍じゃねえか」
「ああ、そうだ。これは小競り合いじゃねえ。あの帝国が、はじめてポルト王国に本気で攻めてきやがったんだ。いまは、第2隊と国境の兵士たちが必死に戦っている」
ガルシアはジロリと隊員たちを睨みつける。
「いいかよく聞け。ポルトの国民を守るため、俺たち第15隊は、これからヴァレンス砦の援軍に向かう」
ガルシアはそう言い切った。隊員たちはその声の大きさに、その言葉の意味の大きさに、誰も口を開けずに黙っている。
「これがキツイ命令だと言うことは俺もよく分かっている。だがな、俺たちはポルト王国の騎士団だ。ポルト王国を、ポルトの民を、守ることが使命だ。大挙して押し寄せる帝国軍の自由にさせるわけにはいかない。もちろん……命の危険はあるが、俺たちがやるしかねえ」
ガルシアは拳を強く握っていた。血が出るんじゃないかというくらいに強く、強く握っていた。
(……ヴァレンス砦か。一日で逃げ出す、なんて思ってた場所だな)
ウィンは黙ったまま、その場に立ち上がる。皆がウィンを見る。
それが最初だった。
「――行くしかないだろ。俺たちはポルト騎士団だ」
続いて、隊員の一人が立ち上がって声を上げる。
「帝国なんて返り討ちにしてやるぜっ!」
「ポルトの地は決して踏ませんっ」
皆が次々と立ち上がる。
「絶対にポルトを守るっ!」
アレンが勢いよく立ち上がり、フィオナもまっすぐに立ち上がる。
新人たちが決意とともに立ち上がるのを見て、ガルシアがニヤリと笑う。
「俺たちはポルトの騎士だ。ポルトの民のために、命を賭して戦う。いいか、やるぞテメエら!」
ガルシアが右手を高く突き上げる。
「おおっ!」
隊員たちが前屈みになって、大会議室のテーブルを、ドン、ドン、ドドンというリズムに合わせて激しく叩く。
大会議室の中の空気が震える。
ドン、ドン、ドドン
ドン、ドン、ドドン
音は段々大きくなる。その音を聞きながら、隊員たちは心をひとつに合わせていく。
ひときわ大きな音を立てているのは、ホッパーやホッパー隊の丸太のような拳だった。
ドン、ドン、ドドン
ドン、ドン、ドドン
アレンとフィオナは、先輩たちの檄に圧倒されていた。
普段はふざけ合っているどこか頼りない先輩たちが、一瞬にして「ポルトを守る盾」の顔に変わる。
その気迫に呑まれていく。
そして腹に響く地鳴りのような音を全身に浴びながら、気が付くと2人とも必死でテーブルを拳で叩いていた。
ドン、ドン、ドドン
ドン、ドン、ドドン
「やるぞ、テメエらっ!」
音が頂点に達するタイミングで、ガルシアが再度叫ぶ。
「おおっ!!」
ドンッ!!
皆の叫び声に合わせて、最後にひときわ大きく机が叩かれる。
それは、第15隊伝統の<地鳴りの檄>だった。
「――隊長と、そして皆の気持ちはよくわかりました。ここからは、具体的な作戦の話をしましょう」
皆の興奮が落ち着いたのを見計らって、ヤンが静かに口を開く。
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