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<17> 敵の動きを<視ろ>! 新人ふたりの泥臭い初陣

「ガァアアアッ!」


 モンスターエイプが威嚇の叫びをあげる。本能的に目の前の2人に怯えの色が見えるのを感じ取ってか、上下関係を主張しようとしてくる。


「焦るな、いつも通りの練習だと思え」


 背後からウィンの声がする。ウィンは自分の相手を倒した後で、新人たちの様子を見に来てくれていた。


 そして、かわりに自分が倒すのではなく、新人たちに実戦を積ませようと見守ることにしたようだった。


 アレンはウィンの声を聞くと、少し気持ちが落ち着くのを感じる。


(ウィン先輩、落ち着いてるな……)


 剣を握りながら、アレンはモンスターエイプの動きを注視する。


 ウィンは相手の動きをよく<視ろ>と言った。そして予測しろと。相手の動きを予測して、その動きを利用して最適な一撃を与える。


 それが勝利の道筋だとウィンは言った。


 自分も第15隊の騎士として、先輩たちのように魔物に立ち向かっていかなければならない。新人だからといって、無様に怯えるわけにはいかないのだ。


 アレンは剣を強く握り直し、モンスターエイプの巨体を真っ直ぐに見据える。


 肌にジリジリとざわつく感覚がある。


「ギガァガァッ!」


 仲間をすべて殺され、あとがなくなった最後の1匹が、威嚇も込めた凶暴な声を上げる。2メートルを超える最後の1匹は、4匹のなかで一番大きな個体だった。毛の色の茶色が少し濃く、太い腕はいびつに長い。


 凶暴な魔物の威圧感に足がすくむ。


 ポルティガでのアウルベアとの戦いのとき、アレンはまったく動くことができずに立ち尽くしていた。


 あの日の夜、悔しくてほとんど眠れなかった。


 騎士学校を卒業して、子供の頃から憧れていた騎士になったはずなのに、本当の意味で騎士になれてはいなかった。


 その悔しさを二度と繰り返さないために、ウィンに教えを請うたのだ。


 相手の動きをよく<視ろ>。


 そして予測しろ。


 モンスターエイプが叫び声を上げながら飛びかかってくる。大猿の突進。


(――オレの頭狙いの、右腕からの振り下ろしっ!)


 敵の動きを完全に〈視た〉アレンは、右にステップする。


 大猿の右腕がアレンの鼻先を空しくかすめていく。


 着地するとともに剣を振り下ろし、モンスターエイプの伸び切った右腕を斬る。


「ウガガァァッ!」


 格下だと思っていた相手の反撃に、モンスターエイプが叫び声を上げる。


(一撃を、入れられたっ!)


 動けた。足がすくんだ以前とは違い、一歩を踏み込めた。


 これが騎士としてのアレンの第一歩だった。


「ルガァアアッ!」


 怒りに我を忘れたモンスターエイプが、アレンに向かって左右の腕を力任せに振り回してくる。


 アレンは後方に飛びながら剣で受け止めるが、モンスターエイプの純粋なパワーに、踏ん張りきれず後方に押し飛ばされる。


 アレンは受け身を取って、砂煙を上げながら地面を転がっていく。


 何回転もした後、アレンはすぐに片膝をついて起き上がる。


 剣を構えて大猿を見据える。


(視える……視えるぞ)


 落ち着いてくるとモンスターエイプの動きは速くなかった。


 いや、そうではなかった。厳密に言うと、特訓でのウィンの速さほどではなかった。


 先輩騎士の速度はすごいなと思っていたが、そうではなかった。ウィンが魔物よりもずっと速い特訓をしてくれていたのだ。


「アレン、合わせてっ! 『ウォーターバレット』っ!!」


 フィオナの鋭い声とともに、モンスターエイプの顔面に向かって、ウォーターバレットが放たれる。


 アレンはその魔法に合わせて、前に踏み込む。


 ウォーターバレットがモンスターエイプの顎を直撃し、大猿の顔が強制的に曲げられる。


 その瞬間だった。


「うぉぉおおおっ!」


 アレンはバランスを崩したモンスターエイプに向かって飛び込みながら、体重をかけて剣を打ち込む。大猿の右腕が胴体から切り離される。


「ガアガァァッ!」


 モンスターエイプが叫び声を上げ、腕から血を噴き出す。反射的にアレンを捕まえようと、残った左腕を伸ばしてくる。


「ウガッ!」


「『ウォーターバレット』っ!!」


 その左腕に向かって、フィオナがもう一度ウォーターバレットを放ち、左腕がアレンを捕まえる前に、外側に向かって弾かれる。


 シャッーー


 無防備になったモンスターエイプに向かって、アレンが再度踏み込んで剣を一閃する。


 モンスターエイプの首筋が、深く切られて血が噴き出す。


「ウガガァァッアアアァッーー!」


 断末魔のような絶叫を残し、モンスターエイプが背中から仰向けに倒れる。激しい音とともに、砂煙が舞う。


「ハァ……ハァ……ハァ……倒せた……のか?」


 アレンが肩で息をしながら、両手で剣を構えて警戒を崩さないまま、眼下のモンスターエイプを見る。


(こんな大きな魔物をオレが……オレたちが倒せたのか)


「アレン、やったね」


 顔を上げると、フィオナが横にいて、自分のことのように喜んでくれていた。


「フィオナの『ウォーターバレット』があったからだ」


「でも、とどめはアレンの一撃だよ」


 フィオナが笑顔で言う。


「2人の勝利だ」


 後ろから、ウィンが2人の頭に両手を載せながら言う。2人はウィンの手の感覚に、振り返る。


 あたたかな、大きな先輩の手。


「ウィン先輩……オレ、立ち向かえたっす。前は動けなかったけど……今日は一歩……」


 気が付くと、アレンは泣いていた。今頃になって、身体が震え出していた。


 打ち克つことができたはずの恐怖が、それまでどこかに隠れていて時間差でやってきた。





【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

お好みのプラットフォームでお楽しみください。


読んでいただきありがとうございます!

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