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<15> 聖女訪問――ソフィアの予知夢と、託された銀のお守り

 聖女訪問。


 そのニュースは、第15隊に駆け巡った。元々、ほぼ全員が騎士館で明日の出発の準備をしていたので、聖女――ソフィアがお付きの護衛を連れて騎士館を訪れたのをしっかりと見ていた。


 ソフィアと知り合いだったルカが目ざとくソフィアを見つけて、「今日はどうされたのですか?」と恭しく尋ねる。


「ああ、ルカ殿。ご無沙汰しております。今日は、ウィン様に会いに来たのです」


 ソフィアはルカに微笑みかけ、まっすぐに言う。ポルティガ開港祭事変のときに、地下の牢屋の鍵を開けてくれたルカのことはよく覚えている。


 ルカは近くにいた隊員に「ウィンはどこにいる?」と尋ねる。


「さっきニアのところに行くって言ってたぞ」という返事をもらうと、すぐに「ウィンを連れてこい……いや、ここじゃなく、第1応接室に連れてこいっ!」と言った。


 そして、ルカはソフィアを第1応接室に案内したのである。


 その様子をほとんどの隊員たちが見ていた。もちろん、新人2人――アレンとフィオナもそれを見ていた。


「聖女様とも知り合いなんだ、さすがウィン先輩っ!」


 アレンは目をキラキラさせて、よりウィンを尊敬していた。


「どうして、聖女様がウィン先輩に会いに来るの……」


 フィオナはジト目で、聖女の後姿を見つめるのだった。


 エヴァとアンナは、そんなフィオナを見て、思わず顔を見合わせる。自分たちも開港祭事変でソフィアと知り合った二人は、ソフィアがウィンに助けられたことをよく知っている。


「前途多難だね、新人ちゃん」


 エヴァが言う。


「まあ、これは色々しょうがないな……ウィンだしな」


 アンナはしみじみとそう言うのだった。






「ソフィアーーいや、聖女様、今日はどうしたんだ?」


 第1応接室に入り、ウィンはそう言う。第1応接室のドアの外には護衛の教会騎士が2人立っていて、無言で廊下を見張っている。厳しい視線は、聖女を護衛する教会騎士として当然のものだった。


「ウィン様、ご無沙汰しております。あと、聖女様ではなく、ソフィアと呼んでください」


 ソフィアは応接室のソファーから立ち上がると、深々とお辞儀をする。


「そう。じゃあ、ソフィア、かしこまらなくていいから、座って」


「はい、ウィン様」


 ソフィアはそう言って笑顔を見せる。


「あ、紅茶で大丈夫だったか?」


「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


 ウィンは魔導コンロでお湯を沸かし、紅茶を用意する。紅茶の甘い匂いが室内に広がる。


 応接室の中には、ウィンとソフィアだけがいる。2人は向かい合ってソファーに座る。


「……あれから、色々と大変みたいだな」


 ウィンは言う。開港祭事変の後、ポルティガの聖心教会は、帝国との関係を絶った。当代の聖女として奇跡の力を見せたソフィアは、「新生ポルト聖心教会」の設立を宣言し、ポルト王カルロスⅤ世からの承認をもらった。


 開港祭事変は一部の過激派の犯行であり、帝国から送り込まれていた僧兵たちは皆投獄された。ソフィアは帝国との絶縁を宣言し、帝国に戻りたい者は帰し、残りたい者だけを「新生ポルト聖心教会」に受け入れた。


 わずか数か月でそこまでになっているのは、ソフィアの聖女としての確かな奇跡の力と、強い決意の表れだった。


 ポルト王国の聖心教信者は、聖女ソフィアの求心力で、帝国本国と袂を分かち、独自の道を歩みはじめている。


「はい、大変ですが、充実しています」


 ソフィアはそう言って笑顔を見せる。亜麻色の髪に色白のソフィアは、はじめて会ったときと同じ白いローブを着ている。胸のところに銀色の刺繍糸で3つ重なった星が縫われている。


 開港祭事変のときには、その白いローブがかなり汚れてしまっていた。監禁され、逃亡し、地下牢にも入れられた。とても長い時間にも感じられたのに、実際にはたった3日間の出来事。


 あれからまだ2か月半くらいしか経っていないことを不思議に思う。


「それはよかった。で、今日はどうしたんだ?」


「ウィン様が、魔物討伐に向かわれるという話を聞きました」


「情報が早いな。さすが聖女様だ」


 ウィンはそう軽口を叩いてみせる。


「――気を付けてください」


 ソフィアはまっすぐにウィンを見て言う。


「ああ、もちろん。気を付けるよ。相手が凶暴化した魔物だから、気を抜くつもりはない」


「――夢を見ました」


 ソフィアは言う。


「夢の中で、ウィン様が向かわれる場所に、黒い影が立ち込めていたのです」


「……黒い影?」


「はい。黒い炎のような影。それが何を示すものなのかはわかりません。ただ、事前に伝えなければならないと思い本日はやってきました。必ず警戒を、注意をすることで避けられるものもあるはずです」


 ソフィアはそう言うと、ローブの中から小さな銀色の生地で作られたお守りを取り出す。


「これはお守りです。ウィン様、どうか……どうかご無事で。私はいつでも、ポルティガでウィン様の無事を祈っております」


「……ありがとう。大切にするよ」


 ウィンはソフィアからお守りを受け取ると、それを自分の上着のポケットの中に入れる。


「忙しいのに、わざわざすまない」


 ウィンはソフィアに向かって言う。


「気になさらないでくださいウィン様。ウィン様はあのときから私の騎士なのです。夢のお告げを、どうしてもお伝えしたかったのです」


 ソフィアはウィンを見つめ、まるでもう二度と会うことができないかのように、潤んだ瞳でまっすぐに見つめるのだった。


(黒い影か……)


 ウィンはそう思うが、心当たりはもちろんない。


 ただ、ソフィアの言葉であり、しっかりと覚えておこうと思う。


 ウィンが黒い影の意味を知ることになるのは、あとひと月と少し後のことである。







【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

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読んでいただきありがとうございます!

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