<10> 新人ふたりの入隊式と、ガルシア隊長の愛あるシゴキ
――10月1日、8時。第15隊騎士館、庭。
「皆様はすでに知っていると思いますが、今日から正式に第15隊に配属になる、アレン・ガッシュさんと、フィオナ・アップルさんです」
珍しく晴れ晴れとした表情のヤンが言う。正面に立っている2人の若者を隊員たちに紹介しながら、満面の笑顔である。
「ヤン、本当にうれしそうね」
エヴァがちゃかすように小声で言う。
「待望の新人隊員だからな」
アンナが真面目な表情で言う。
騎士館の庭には、第15隊の48人が全員揃っている。この3年間新人騎士が入隊しなかったが、これできりのいい50人になる。ヤンがずっと願っていた待望の新人騎士である。
「今日からお世話になるアレン・ガッシュですっ。オレは、北の橋でのガルシア隊長の雄姿を見て、第15隊を候補に入れました。そして、体験配属のときに、ウィン先輩の実力を見て、絶対に第15隊に入りたいと強く思いました。目標は、ウィン先輩のようになることですっ!!」
アレンの赤髪は今日は寝ぐせになっていない。後ろ手に胸を張って挨拶をするアレンからは、熱血さが十分すぎるほど伝わってくる。
隊員たちが拍手をする。
「同じく、今日からお世話になるフィオナ・アップルと申します。アレンとは子供の頃からの幼なじみです。私もアレンと同じように、第15隊に入隊を決めた理由はウィン先輩です」
フィオナは落ち着いた口調でまっすぐに言う。同じく拍手をしながら、なんとなく隊員たちがざわざわしはじめる。
「ワタシがいない間に、これはまた、面白いことになってるな」
エヴァがにやりと笑う。
「ウィン、またか……」
アンナが右手で額を押さえて言う。長らく相棒を組んでいるアンナは、ウィンのその自覚がないのに色々な人をたらしこんでいく性質をよくわかっているのだ。
「ウィンは、またたらしこんでるね……聖女様だけでなく、美少女新人まで」
ルカが羨ましそうに小さく呟く。
挨拶が終わった新人2人は列に戻り、今度はガルシア隊長が前に立つ。
この数日、第15隊は忙しくなっている。ポルト王国中で魔物の凶暴化が発生し、様々な部隊が各地に派遣されている。
その影響で、ポルティガの警備の多くを第15隊が担うことになっていたのだ。
自ら現場に出るガルシアも相当忙しいはずだったが、疲れなどは一切見せていない。
(本当にタフだよな……)
ウィンはガルシアを見て、そう思う。
「それでは、ガルシア隊長、新年度の新しくなった第15隊への挨拶をお願いします」
ヤンが言うと、ガルシアはゆっくりと頷く。
「みんな、今日から新年度だ。今年は新人が、しかも2人も入ってくれて嬉しく思っている。頼むぞ、アレン、フィオナ」
「はいっ」と2人が声を合わせる。
「……新年度だが、俺が言うことはいつもと変わらない。『ポルト騎士団は王のための騎士。王は国民のための王。だから騎士団は国民のための騎士』それだけだ」
ガルシアは言う。隊員たちはガルシアの言うその言葉が好きだった。ガルシアは続ける。
「いつも言っているように、『国民のための』の部分は無数にある。この間は『ポルティガ開港祭事変』のような大きな事件があったが、そんな有事に国民を守ることだけじゃなく、何も起こっていない平時に国民の困りごとを解決する、それもれっきとした国民のためだ」
ガルシアはそこまで一息で言うと、隊員たちを見渡す。
50名になった、一癖も二癖もある隊員たち。他の隊では受け入れてもらえなかった者も多い。ガルシアにとっては、愛すべき隊員たち。
「難しいことは言わない。俺はお前たちを信じている。お前たち1人1人が、自分の頭で国民のためを考えて、自ら動いてくれればそれでいい。日々のその積み重ねこそが、俺たちがポルト騎士団である理由になる」
ガルシアの言葉を真剣に聞いている隊員たち。
(……俺も新人だった頃が懐かしいな、もう7年前になるのか)
ウィンは、ぼんやりとそんなことを思っていた。
――7年前。第15隊、騎士館。
「ウィン、ちょっと来い」
ウィンが訓練をしていると、ガルシア隊長に呼び止められた。そこには先輩たちが揃っていた。
「どうしたんですか?」
ウィンが尋ねると、「いまからスラムの子供たちの集団誘拐事件のアジトに乗り込む」と当たり前のことのようにガルシアが言った。
「集団誘拐事件……?」
確かに、最近スラムで子供たちが行方不明になっているという話は聞いていた。けれども、当時のウィンにとって、それはどこか遠い世界での話だった。
15歳まで<魔の森>で生きてきたウィンは、どこか人の世の常識に疎い面があった。
だから、当時他の騎士隊がこの事件にまったく関心を抱いていないことも知らなかった。「スラムのガキなんて、死んでも代わりはいくらでもいる」そう言い放つ者すらいた。
そんな中で、第15隊は地道な調査を続け、ついにヤン副隊長がマフィアと悪徳貴族が絡んでいるアジトをつきとめたのだ。
アジトに乗り込み、ガルシアはその豪快な剣技でマフィアの用心棒たちを一網打尽にした。ウィンも、先輩たちも、ガルシアが普段見せない怒りを出しているのをはじめて見た。
「スラムのガキなんて、お前たち騎士団には関係ねえだろうがっ!」
マフィアの幹部が悔し紛れにそう言ったとき、ガルシアは「スラムの子供だろうが何だろうが、親にとっては世界の終わりと同じなんだよっ! 他の隊のことは知らねえが、俺たち第15隊はポルト国民全員を守るんだよっ!」と叫んだ。
ウィンはいまでもガルシアのその言葉を覚えている。
ガルシアはマフィアの返り血を拭いもせず、傷だらけになりながらも子供たちを全員救い出し、親たちに引き渡した。泣きじゃくる子供に、子供を抱きしめながら笑い泣きになる親たち。
スラムに住んでいる自分たちの子供のことなんて、誰も助けてくれない。だから自分たちだけで探すしかない。スラムの親たちはそう諦めていた。
手を尽くしても子供は見つからず、絶望の底にいた親たち。そんな親たちが子供を助けてくれたガルシアに向けた歓喜の表情。
助けた子供を肩車して、豪快に笑っていたガルシアの泥臭い姿。
それこそが、ウィンにとっての「本物の騎士」の姿だった。
熊のように大きく、父親のように温かい。
そんなガルシア隊長のことをウィンは心の底から尊敬していた。楽ができそうと思って入隊した第15隊だったが、そのときにウィンは、すべての国民のための騎士として働こうと、強く決意したのだった。
また、そのときのスラムの子供たちの中に、親がいない子供も何人かいた。その中で、自分も子供なのに、より小さな子供を必死に守っていた少年がいた。
それがハックだった。
ウィンはその小さな少年を自らの従者にし、学校に通わせ、いまはともに住んで様々な仕事を手伝ってもらっている。
「……ウィン? どうした?」
アンナが心配そうにそう尋ねてくる。
「ああ、いや、何でもない」
ウィンは言う。ガルシアの挨拶はまだ続いている。
「なあ……挨拶、ちょっと長くないか?」
ウィンはアンナに尋ねる。
「ああ、いつものように、感情がのって、長くなっているな……」
「よし、今日は特別に、俺が新人2人を鍛えてやるぞっ!」
興に乗ったガルシアがそう叫ぶ。
「出た、特別訓練……新人ちゃんかわいそう」
ニアが言う。
「初日から辞めるはめにならなきゃいいけど……」
エヴァが気怠そうに言う。
「……では、ガルシア隊長が直接指導をしてくれるとのことなので、隊長挨拶はこれくらいにしましょうか。夜は新人の歓迎会をやりますので、なんとか歓迎会に出られるくらいの体力は、残しておいてあげてくださいね」
ヤンがそう言って朝礼を終わりにする。
アレンとフィオナだけは、特別訓練の内容をわかっておらず、きょとんとしているのだった。
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