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<5> 「思ってたのと全然違う!」熱血新人とやる気ゼロの先輩

 ――9月11日、8時。第15隊騎士館。


「はじめまして、騎士学校卒業予定のアレン・ガッシュですっ!」


「同じく、騎士学校卒業予定のフィオナ・アップルです」


 月曜日、第15隊の騎士館の庭で、2人の若者がウィンに挨拶をする。普段は訓練のために使われている場所である。


 赤髪の寝ぐせがついている元気な男がアレン・ガッシュと名乗り、銀髪の肩までのセミロングに、目の大きな女がフィオナ・アップルと名乗る。


「第15隊のウィン・カークライトだ。今日から5日間、お前たちの引率を担当することになった」


「よろしくお願いしますっ!!」


「よろしくお願いします」


 アレンは元気いっぱいに激しくお辞儀をし、フィオナは軽く会釈をする。


「ウィン先輩、今日は何をするんですかっ!」


「そんなに前のめりだと、夕方まで持たないぞ……そういえば、1週目と2週目はどこの隊に行ってきたんだ?」


 ウィンはそう訊ねる。


「1週目は第1隊、2週目は第7隊です」


「君は?」


 ウィンはフィオナを見る。


「私も同じです」


「仲がいいんだな」


「母親同士が仲がよくて、子供の頃から一緒の幼なじみってやつです」


 アレンが元気にそう答える。


「私はこれといった希望がなかったので、アレンと一緒でいいかなぁって思って」


 人によっては主体性がないと言われかねない発言だが、言った当人は全然気にしていなさそうである。


「それぞれ、どんなことをしたんだ?」


「第1隊は、めちゃめちゃ厳しかったっす。朝から夕方まで、ハードな訓練や王家の歴史についての講義や、イレギュラーへの対処方法とか、とにかく毎日ヘトヘトでした」


「さすが近衛隊の第1隊だな。毎年希望が集中するが、超優秀なやつしか入隊できないって聞いたことがあるぞ」


「皆がトト・タムード隊長を崇拝していて、なんだか――すごかったです」


 フィオナが言う。


「1週目ってこともあって、25人の希望者がいたんですけど、金曜日には8人になっていてアレンとヤバいねって言っていました」


(――さすが第1隊だな。ただ、2人は最後まで残ったってことか)


 ウィンは2人を見る。あの厳しいことで有名な第1隊の体験配属をやり遂げただけでも、基本的な素養はあると言えるだろう。


「2週目は?」


「第7隊に行ったっす。この間の開港祭事変の英雄、クリス・ハーグリーブズ様が率いていた隊ですから。ただ、なんか、ちょっと思っていたのとは違いましたね」


「思っていたのと違った?」


 クリス・ハーグリーブズの名前を聞いて、ウィンは少しだけ思いを馳せる。短い期間だったが、濃密に感情を通わせた悲劇の英雄。


「はい、いまちょうど隊長と副隊長が不在で、次の隊長たちを決める時期だからって、オレたちにすごくアピールしてくる隊員が多かったんで」


「騎士学校の学生からの人望があると出世レースに勝てる、みたいな……?」


(家柄がいい騎士が多い第7隊は、相変わらずだということか)


 ウィンはやれやれと思い、小さくため息をつく。


「……わかった。じゃあお前たち、ついてこい」


「はいっ! 何をするんですかっ?」


 アレンが興味津々で聞いてくる。


「……別に特別なことはしないよ。いつも通りの仕事を一緒にするだけさ」







「ったく、なんだよ第15隊っ、思っていたのと違ったじゃなくて、全然っ、違ったぜっ!!」


 初日の夕方、アレン・ガッシュはポルティガの繁華街を怒りながら歩いていた。その隣をフィオナ・アップルが表情を変えずに歩いている。


 2人はまだ新しい軽鎧を着ていて、ぎこちない着こなしが新人感を醸し出している。


「いつも通りの仕事って、あんなのばっかりかよっ!」


 アレンは納得いかないというように言う。


「迷いネコの捜索に、職人同士の喧嘩の仲裁……しまいには、街の警備隊と1時間も話し込んでやがる。あれなんてもうほとんどサボりだろっ!!」


「……でも、街の人にはすごい感謝されてた、よね?」


 フィオナは右手の人差し指を顎に当てて、今日の出来事を思い返す。


「私はアレンみたいに騎士たるものはこうあるべきっていうのはないから。今日は今日で結構楽しかったけどなぁ」


「フィオナは要領よくて、なんでもそこそこにできるからこだわりないだけだろ。オレは騎士にずーっと憧れてたんだよ。体験配属の3隊ともなんか違うって、一体どうすりゃいいんだよっ!」


 アレンはそう言って、両手で髪をガシガシとかきむしる。


「それに、あのウィンって奴、『じゃあ、定時だから』って、オレたちを置いて、ささっと帰りやがったんだぞ。そんな引率の先輩いるか?」


「……いるよ」


「は?」


「だから、ウィン先輩、あそこに、いる」


 フィオナは右手の人差し指を向ける。その先には繁盛している酒場があり、その外の席でウィン・カークライトが飲んでいた。


 街の人たちと同じテーブルで、友人なのか、大分盛り上がっている。主に話しているのはウィン以外の男たちで、彼らは大きな声で色々と話し、ウィンはそれを穏やかに聞いている。


 別の人もやってきて、ウィンに話しかけ、グラスを合わせて乾杯をしている。


「なんだよ、まだ仕事終わって30分も経ってないぞ。すっかり出来上がってんじゃねえか」


「大人って、色々な人がいるね……」


「あーっ、明日もこんなだったら、どうにかなりそうだぜっ」


 アレンは呆れたように大きな声をあげる。


(……アレンは本当にまじめだからなぁ。思い入れが強いんだよね。私は何でもそこそこ、それなりだから、別にどの隊でもいいかなぁ。あ、でも第1隊はちょっと厳しすぎたし、第7隊は貴族だからっていばりちらしてたから、さすがにちょっと嫌かも……どうしようかな)


 フィオナはそんなことを思いながら、1日目を終えたのだった。









【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

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読んでいただきありがとうございます!

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