<プロローグ> 崩れる砂の壁
――11月6日、13時。ヴァレンス砦、屋上。
「隊列を乱してはいけませんっ!!」
ダビドが叫ぶが、魔導士たちは混乱していた。正面を向いている者、振り返る者、その場から離れようとする者――
「ダメですっ、『サンドウォール』がっ――」
ダビドが言い終わらないうちに、帝国軍とヴァレンス砦の間にできていた『サンドウォール』の魔法の砂の壁が、ゆっくりと崩れていくのが見えていた。
シュウゥゥ――――ッ
強度を持っていた砂の壁が、魔力を失いさらさらとした細かな砂に戻っていく。
「下に行くぞっ、外にいる兵士を助けなければっ!」
ガルシアが叫び、ホッパーとウィンたちが後に続こうとする。
「ダビド副隊長っ! 下の兵を助けたら皆でヴァレンス砦から脱出するっ、急いでくれっ!」
ウィンが走りながら、呆然としているダビドにそう声をかける。
「あれが……帝国軍……」
ダビドは、『サンドウォール』の向こう側に現れた光景に言葉を失っていた。
「まるで……黒い……影」
ダビドの言葉に、ウィンは足を止めて眼下の谷の道を見る。
そこには、黒い鎧を着て、黒い馬にまたがった、重量級の騎士団が横一列に並んでいた。その背後には黒い鎧を着た歩兵が続き、一糸乱れぬ隊列が、今まで相手にしていた銀鎧や銅鎧の騎士や兵士たちとはまったく違うことがわかる。
異質なオーラが、日蝕の日に太陽がかき消されるように、周囲を急速に覆い始めているように見えた。
「ダビド副隊長っ!」
ウィンはダビドの両肩を掴むと、激しく揺らす。ダビドはその振動で我に返ったように、早口で叫ぶ。
「『サンドウォール』作戦失敗っ! ヴァレンス砦を放棄しますっ! 魔導士隊は魔法で下の兵士たちを援護しながら、皆で脱出しますっ!」
(これは時間との戦いになるな)
屋上からの階段を駆け下りながら、ウィンは思考を巡らせていた。
「何かが起こるとしたら、今日の可能性がとても高いです」
ヤンはそう言った。
エヴァがよく言うように、「ヤンのろくでもない予想は大体当たる」。
(こんな予想は、当てないで欲しかったが……)
ウィンは走りながら軽兜をかぶり、地上階まで降りると、待機させていた馬にまたがり、扉の向こうの戦場に飛び出していく。




