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<44> 第15隊騎士 ウィン・カークライト

 ーー開港祭当日。11時45分。ポルティガ大通り。


(何かが起こっている……)


 ポルティガ大通りを南に向かって馬を走らせながら、ウィンは視界の先にある大広場で、何かが起こっているのを感じていた。


 空気の流れ、ざわめき、叫び声のような振動。


 そういったものすべてがアルサール海峡からの潮風にのって流れてくる。


 ルカは、ガルシア隊長が北の橋を守ってくれているはずだと言っていた。だから、まっすぐ進めば必ず大広場に入ることができる。


 ウィンは馬の速度を早める。ハリー・アップソン副隊長の馬はすでに限界に近かったが、それでもウィンの想いが通じたのか、さらに力強く駆け出してくれる。


(……見えた!)


 ウィンは視界に北の橋を捉える。橋の中ほどから手前で倒れているたくさんの兵士たちと、一人で橋の中央に立っている男の姿が見える。


 これだけの僧兵が倒され、積み重なるまで、一体どれだけの激戦があったのだろう。


「……ガルシア隊長っ!」


 ウィンは、ガルシア隊長に向かって叫ぶ。段々と近付いていく。


 ウィンの声にゆっくりと顔を上げたガルシア隊長は、疲れ果てた顔でウィンの方を見て、小さく笑う。


 そして、左手を軽く上げた。


「通りますっ!」


 ウィンはそう言って、疾風のように北の橋を渡っていく。


「ああ、行ってこい。今日だけは残業を、しっかりしてもらうからな……」


 ガルシアは振り返り、一瞬の風のように駆け抜けていったウィンの背中を見る。それからもう一度正面に向き直ると、再びやってきていた僧兵たちを見る。右手に持っている両手剣がやけに重く感じられる。


(血を吸いすぎて重くなったか?)


 ガルシアは左手も合わせ、両手剣を再び構える。


「さあ、まだまだこれからだぜ」


 ガルシアは疲労困憊の中、不敵な笑みを見せるのだった。






 --開港祭当日。11時50分。ステージ。


「やめてくださいっ!! 離してっ!!」


 ララ王女が叫び声をあげる。


 最初、刺客が次々とステージに上がろうとやってきて、騎士たちがそれを防いでくれたように見えた。警備を担当している騎士は戦っていたし、近衛隊隊長も王と王妃をいち早く避難させようとしていた。


 一瞬、自分がどう動けばいいのか躊躇してしまった。


 同じ来賓として隣にいた帝国の皇太子と三大将が、動じずにいたから引きずられてしまったのかもしれない。


 ほんの一瞬の後、ララ王女はこれが帝国による襲撃なのだと理解し、すぐにその場から離れなければと動き出そうとした。


 その瞬間、「どこに行くのですか?」と腕を掴まれ、取り込まれる。三大将の炎のイヴァースが、ララ王女の右腕を掴み、どこにも逃げ出せないように押さえつけたのだ。


「……私も本意ではないのだが、皇太子がどうしてもアナタを欲しいというのだ」


 感情のこもらない声でイヴァースが言う。


 ララ王女は突然の言葉に、一瞬意味がわからなくなる。


(皇太子が? 私を?)


 ララ王女は、イヴァースの隣にいる皇太子を見る。皇太子は値踏みをするような細い目で、ララ王女をじっとりと見つめていた。


「ひっ」


 ララ王女はその蛇のような視線に思わず叫ぶ。そして身をよじって逃げようとする。


 けれどもイヴァースが掴む手の力はさらに強くなり、ララ王女は逃げ出すことができない。


(一体、なぜ--)


 ララ王女は、絶望が体の芯まで冷やすのを感じた。帝国の悪い噂はたくさん聞いてきた。自分が、まさにその悪意と向き合うことになろうとは。


(いっそ舌をーー)


 ララ王女は絶望の中、そう思う。


 次の瞬間だった。馬の嘶きが小さく響いた。


「なにぃっーー!?」


 イヴァースが叫び、ララ王女はイヴァースが見ている方向を見た。


 空の高いところにある太陽を背に、一人の影が跳躍していた。馬の上から跳躍し、両手に持った剣を、空の高いところから一気に振り下ろしてくる。


「ぐおぉっーー」


 剣はまったくの躊躇もなくララ王女の腕を掴んでいる、イヴァースの腕を狙っていた。イヴァースは腕を後ろに引いて、その剣の一撃をかわす。剣先だけが触れて、イヴァースの腕に縦の傷がつき、鮮血が噴き上がる。


 その勢いでララ王女は後ろに投げられ、ステージ上を滑って転がっていく。


「きゃあああっ!」


 何回転したかわからないくらい転がり、顔を上げると、イヴァースと、剣を持って対峙している男がいた。


 ララ王女は光のせいでよく見えない目をこすり、自分を助けてくれた男を見る。


 まだ少年のような、大人びているような、不思議な印象を持つ青年だった。


「貴様、何者だっ!」


 イヴァースが剣を抜いて叫ぶ。赤い鎧に黒炎を模した黒い模様が、その熱を一気に高めたように見える。ウィンの剣先で傷ついた腕からは、赤い血が流れている。


「……第15隊騎士、ウィン・カークライトだ」


 ウィンは剣を構えたまま、そう言うのだった。


【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

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