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<41> 我こそは第15隊隊長

 --開港祭当日。11時50分。大広場、北の橋。


 最初、第7隊の騎士たちは、彼が味方なのか敵なのかうまく理解できなかった。大広場の北の橋を、北側からゆっくりと歩いてくるローブをまとった黒衣の騎士。背中には大剣を斜めに差しており、その角刈りのような短髪の精悍な顔は、歴戦の勇士であることを示している。


 北の橋の守りを任せられていた第7隊の騎士たちは、西と東の橋の守りに比べて、北の橋の人数が少ないことに不満を抱いていた。警備の増員を提案すると、副隊長のエミール・ラ・クロワは、激昂して増員はしないと言い放った。


「北の橋はポルティガ城からまっすぐに続く大通りで、何かが起こるはずもないっ。通りの間には騎士団や警備団も多いだろう。それよりはスラムに近い西の橋や、港に近い王が来られる東の橋の警備の方が重要に決まっているっ!」


 そう主張していた。最近のエミール・ラ・クロワ副隊長の態度には、不満を抱いている騎士たちも多かった。クリス隊長をないがしろにするような発言も目立ち、最近懇意にしているフォンテーヌ外務大臣の威を借りているような発言も多かった。


「おい、あれは……」


「第15隊のガルシア隊長だ」


 第7隊の騎士たちは、ゆっくりと橋を渡ってくる男が、ポルト騎士団の隊長であることを思い出す。


「でも、第15隊は聖心教会爆破の罪で捕まえなければならないんじゃなかったか……」


「このタイミングでなぜ現れたんだ?」


 騎士たちは混乱し、そのままガルシアがゆっくりと橋を渡りきるまで待っていた。橋の上を、一陣の潮風が駆け抜けていく。


「安心しろ。俺は味方だ」


 太く低く、よく響く声でガルシアが言う。


「これから、ポルティガの街に潜伏していた僧兵や帝国兵が大広場を目指してここにやってくる。お前たちだけじゃ橋の守りは不安だろう。助太刀する」


「……帝国兵が?」


 騎士の一人が疑問を抱きながらそう言う。


「なぜ、帝国兵が……」


 ガルシアはその問いには答えず、北の橋の南側の端でポルティガ城の方を向いて立つ。


「ほら、早速向かってきたぞ」


 北の橋の先、ポルティガ城まで続く大通りに、10人以上の僧兵たちが現れた。


「本当だ……僧兵がなぜここに?」


 第7隊の騎士たちは怪訝そうに言いながら、自分たちも腰の剣に手を当てる。


 ガルシアはゆっくりと前に歩いていき、橋の中央で立ち止まった。


 右手でまとっていたローブをとり、放り投げる。橋の上から風に乗って舞い上がったローブは、風を含んで河の上を飛んでいき、河の上に落ちる。そして、流れていく。


 そこには、黒衣の鎧に身を包んだ屈強な大男の姿があった。


 ガルシアは背中の両手剣を抜き、両手で構える。


 そして、周囲に響き渡るような大声で叫んだ。


「我こそは、ポルト騎士団第15隊隊長、ルイス・ガルシアであるっ!! 帝国兵なんぞに、この橋を渡らせるわけにはいかぬっ。どうしても渡りたいと言うのなら、ワシを倒してからにせいっ!!」


 その声の迫力に押し負け、僧兵たちが後ずさる。目的のためには北の橋を渡らなければならないのに、一人の男が立ちはだかっている。計画では、北の橋は警備が少ないから、物量で攻めれば、簡単に渡ることができるという話ではなかったか。


 こんな、猛獣のような男がいるとは、聞いていなかった。


「ええぃ、何をうろたえとるかっ! いくら大男と言えども、たった一人であるぞっ。数で押し切るのじゃ、ほれ、行けぇいっ!」


 薄紫色のローブを着た僧兵が、灰色のローブの僧兵たちにそうまくし立てる。おそらくは高位の僧兵なのだろう。躊躇していた僧兵たちが、意を決して前に進んでくる。


「い、行くぞっ……うおおぉぉっっ!!」


 隣の僧兵たちと合図をして、5人の僧兵が駆けてくる。北の橋の幅はちょうど5人が横に並べるくらいであり、数の優位を使おうとしたのだろう。


「ふんっ!」


 僧兵が近づいてきたタイミングで、ガルシアは両手剣を一閃する。僧兵たちが横に薙ぎ払われ、3人が橋から落ちる。水しぶきが上がり、そのまま僧兵が流されていく。


「うわぁああっ!!」


「さあ、これで終わりかぁっ!!」


 ガルシアは再び叫ぶ。そして目を細め、さらに僧兵と帝国兵が増えてくるのを見る。


 次の5人がやってきて、ガルシアが再び薙ぎ払う。


「た、畳みかけるんじゃあ……」


 高位の僧兵が金切り声で叫び、その命令に従うように再び僧兵たちが向かってくる。ガルシアは再び薙ぎ払い、すり抜けて橋を架けていく僧兵のフードを後ろから手で掴み、元いた方に投げ返す。ガルシアと僧兵たちの間には、僧兵の死体の山が築かれはじめていた。


(爆破などの封じ込めは成功したようだが、どうやらこちらの想定以上の兵士たちが、忍び込んでいたってわけだ……地震で出てくるネズミのように、どんどん増えてきやがるな)


 ガルシアは再び両手剣を構える。


「帝国のネズミどもっ、この橋は通さんぞっ!!」


 ガルシアはそう吠えるのだった。


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